河童様

なぁ恋

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河童の存在価値

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黒猫は動かなくなって地面に倒れた。
どうにか出来ないかと黒猫に駆け寄る。

「朗……」

朗を見遣ると、彼は冷たい声色で、
「それは優月を苦しめた」
助ける気はないと目が語ってる。

「この子は、生きたかっただけだよ! 助けて上げるべきだ」

黒猫の顔を覆った水玉に触れるとグニュッと歪んで中の水が揺れる。ゼリーみたいな感触。
助けたい! そう思ったと同時に左目が熱くなった。その熱は水玉に触れていた指先まで伝って、パンッ! と弾けて蒸発し消えた。

安堵するも解放された筈の黒猫は、ぴくりとも動かなくて揺すってみる。
その手の平にぬるっとした感覚を感じて、見ると赤い血が着いていた。
僕の肩の傷口から腕を伝って指先まで流れて落ちて来ていた。
無意識にその血の着いた手で黒猫の骨の見える顔に触れた。

僕の頭のイメージにある黒猫の姿。それを思い浮べながら、助けたい! その一心から熱い左目とその熱を感じて熱く発熱した手の平を黒猫に押しあてる。

「生きたいなら……頑張れ」

熱く熱い手の平から何かが流れて黒猫に注がれている。もしかしたら僕の血かもしれない。
確実に、見る間に黒猫の身体は小さくなって、黒い毛並みが綺麗な、痩せっぽっちの痛々しい小さな黒猫に変化した。

その姿に安堵し、力の抜けた体が倒れそうになるのが判って痛みに身構えて目を瞑った。

ふわりと柔らかく抱き留められて後ろを見上げると、朗が微笑んでいた。

「この子は大丈夫?」
「あぁ。大丈夫」

まるで夢を見てたみたいな出来事。

「何が起こったの?」
「“河童の存在価値”について話しておかなければならないな」

朗の声色は優しくて……まるで子守歌を聴いているみたいに心地好くて……瞼が閉じて行くのを止められなかった。
 
 

*優星side* 


「響夜くん!」

前を行く黒い後ろ姿を追い掛ける。
夏だと言うのに詰襟をきちっと着た響夜くんは汗一つかかない。
一年中詰襟を着ている彼は学校で浮いた存在だった。

でも、何だか気品ある彼の雰囲気や静かな佇まいに、私には無いものを持っている彼に、徐々に惹かれて行った。

それで彼を目で追って判った事は、かなり詳しく“妖怪”について調べている事。

チャンスだと思った。

私には“河童”に会った事があるゆづがいるんだから。

それを響夜くんに言ったら食い付きがスゴく良くて、それまでつれなかった彼の同好会仲間に昇進出来た。

響夜くんが帰ると言うから私も一緒に学校を出たんだけど。

さっきの保健室の出来事。
新しい先生と嬉しそうに話す響夜くんの、その話の内容。

河童と龍とその妖怪達の混血の話。

まるで本当の話みたいだった。

先生が河童で、響夜くんが龍? みたいな?

それに先生の水宝 朗って言ったかしら?
ゆづに対する反応。怪しかったな。

「水先」

不意に声を掛けられて驚く。滅多に名前なんて呼んで貰えないから。

「なあに?」

嬉しくて小走りに響夜くんの横に並ぶ。

「お前の弟は人間か?」

突拍子もない事を言われて驚く。
 
 
「どう言う意味?」
本当に訊かれた意味が判らない。

「いや……」

少し考えてた響夜くんが「送ろう」って言った。

うそっ?!
聞き間違いじゃない?

いつも私が響夜くんを送って帰る。(勝手に着いて行ってるとも言う)

現に彼の家に続く長い階段が目の前に見えて来ていた。
この階段を上がると響夜くんの家である神社がある。龍を祀る【龍羽神社】響夜くんの名前の神社。

もうすぐ家なのに……うちまで送るって??

言うが早いか踵を反した響夜くんが足早に歩き出す。
私は彼の後ろに着いて歩く。嬉しくて。

私は響夜くんが本当に大好きなんだ!
 
 
*響夜side* 


人間か?

と訊いて優星の表情に知るわけがない。と考え直す。

水先 優月。そして河童。

水先 優星。
この娘は俺にしつこく付きまとう。

境内で出逢った13年前も―――あの日の記憶は封じた―――俺の事は忘れた筈なのに、学校で再会した時、真っ直ぐに俺を見た。

記憶事態は戻っていなくとも、何かしら感覚で残っていたのかもしれない。
   ..
だが、女性は俺に近付いてはいけない。

俺は女性を不幸にする。
.....
そうする為に生まれて来たのだから。

妖怪である半身を呪う。
自分自身を呪う。


―――!?


程近い場所から漂って来た血の匂い。
水の動く気配。

これは……思い浮かぶのは水先 優月の事。

「送ろう」

優星に危険を感じて申し出る。
         .
……不幸になるのは母一人でいい。
 
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