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河童の薬
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しおりを挟む黒猫?
その姿は大人よりも大きく、後ろ足で立ち上がって上半身の肩の筋肉が広がる。
しっぽが二股に裂けうねり、地面を叩く音が異様に響く。
何が起きているのか理解出来ない。
黒猫の口が耳元まで裂け、覗く牙の間から零れ落ちた長く赤い舌。
「「河童よ。治す事が出来るのはお前が作る薬のみ……」」
話している内に黒猫の顔が―――左側の耳から首元までがどろりと溶け落ちた!
「うわあぁあ!!」
理解出来ない!!
何が起こっているのか解らない!
肩を掴まれその伸びた爪が食い込み肉を破る。
痛いよ!
「「河童よ。薬を寄越せ!」」
河童様?
「彼ならまだ学校にっ……!」
長い舌で頬を舐められて。「ひゃあっ」なさけない声が出る。
「「時間が……ないんだ。早く治せ!」」
「僕には治せません!
すみません」
肩を掴む左手が溶けて体に掛かる。
「「助けて欲しいんだ!
死にたくないんだ」」
黒猫の黄色い右目から涙が流れる。
“死にたくない”
その思いは解る。
死にたくない。
僕もあの時、“最期”の時そう思った。
「僕は河童様じゃないけど……河童様なら知ってる。だから、落ち着いて」
出来るだけ静かに脅かさない様に話しかける。
「「河童じゃない? いや。お前からは真水の匂いがする。
河童意外にありえない!」」
肩を掴んだ手に力が入り、痛みが増す。
「あぅっ!」
「「早く……出せ! 薬を!」」
痛みで声も出せなくなる。
助けてやりたいのに、助けられない。
熱を持った左目から涙が零れる。
留まる事のない涙が黒猫の手に落ちて。すると、深い溜め息を吐いた黒猫が、
「「ありがたい」」と、目を細めた。
何が起きたのか解らない。
河童様。
―――河童様!
朗!
「ろ……う!」
思わず呼んでいた。
朗。と。
「何をしている?」
背後から聞こえて来た声。河童様の声。
「朗……」
声のする方を涙が流れ続ける左目で見る。
「私の許可なく私のものに触れるなど……許せないな」
力強いその声色が頼もしくて。心が落ち着いた。
助けてくれる。その確信で安心出来て、涙が止まった。
「「河童よぉ! まだだ。まだ足りない」」
「あぁっ!」
黒猫の爪がさらに深く肉をえぐった。
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