鬼を継ぐ者

なぁ恋

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鬼のゆくえ

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† 桃太郎side
 
明け方に部屋に戻った。
無性に腹が立ち、元気おじさんを置いてきぼりにした。
おじさんは、完全に元に戻った筈だ。
何でか判らないけど、自信があった。
根拠はある。
それが俺の力なんだと、俺の、“宗寿”の。
不思議な感覚に戸惑う。
俺は、“桃太郎”だけど、“宗寿”でもあった。

突然、ゴリ。と手の中の珠が音を立てた。考えている内に指を動かしていたらしい。
あの時、おじさんから抜き出した“朱色の血珠”を持ち帰って居た。

珠は十粒あった。
 
これを体内に取り込むと鬼に成るんだとおじさんは言っていた。
蛇達が食べた時に……。
 
ガーガーと、残念なイビキをかいて眠る不二丸を見る。
これを不二丸が食べたら、鬼に成るのか?
ふと過った考えに眉を潜める。
 
―――……誰かを愛したい。
 
宗寿はそう考えていた。
それはずっと、まるで恋するみたいに焦がれていた。
 
不二丸は、俺を好きだと言った……。
 
そこで、端と気付く。
俺は、羅刹が無理なら不二丸を。と考えた?
違う。“俺”じゃない。
俺だけど、俺じゃない。“宗寿”の考えだ。
 
それは違うと俺の中の宗寿を諭す。
好かれてるから好きになるのか?
自問自答する。 
解らない。
だって、今の今まで……。俺は、恋をした事がなかったんだと気付いた。
 
 
恋をする。

興味がなかった訳でなく、そう言った相手が今まで居なかっただけ。
 
宗寿も同じだった。
それは閉鎖的な時代に更に閉鎖的な場所で生きて居たから。
 
俺は、自由に生きて居る。
だけど、気持ちなんて思う程自分の自由に出来ないって知ってる。

“恋”なんて、しようと思って出来るもんじゃない。って。

不二丸だって、

恋をする=俺を好きになる。

なんて、考えもしてなかった筈だ。
俺だって、羅刹はただの従姉妹で、女として意識なんてしてなかった。
 
手の中の血珠を握り直す。
知らなかった新たな真実。

これはただの人間には意味はないけど、超能力者には鬼に成る薬みたいなもの。
それを知る者には“特効薬”になる。

能力に目覚めてなくても、鬼の血を持つ者のココロが、悲しみなり、憎しみなりに押し潰されると鬼の血が変化し凶暴化する。
変化した血液はガン細胞の様に増殖し、侵された人間は“悪鬼”と成る。
 
角の無い悪鬼。
朱色の鬼。
 
それらを退治しているのが、俺の家族……市松組。

鬼の血を受け継ぐ者たち。
 
鬼を受け入れた人間の子孫。
そもそも、何故人間は鬼を受け入れたんだ?
 

 
鬼と人間は人種の違いなんて括りとは別次元の生き物だ。
昔話の鬼の物語は、それは本当も交えた伝え語りなのかもしれない。
探せば、鬼の子を産んだ人間の話もあるかもしれない。
 
そもそも、なんで鬼が人間と交わる様になったんだろう。
鬼の血を継いでる人間。鬼と子を為した人間は何を思ってそんな事をしたのか?……それは恋愛だったのか、宗寿も鬼と巫女、寿の……元気おじさんの間に生まれた。
元気おじさん……否、寿に訊きたい。

恋をしたの?
鬼と、恋に堕ちたの?
何故鬼の子を産んだのか……。
俺を、宗寿を。

そして、宗寿を置いて愛する鬼の元に戻って、幸せだったの?
そんなに“恋”って、良いものなの?
 
焦がれても訪れない恋人を、宗寿は待ち続けた。
それだけが生き甲斐。
それだけが生きる糧。
 
だけど、その想いは儚く消えた。
 
自分は、宗寿は……死んだ。
自分を執拗に求めた者たちの手にかかって。
殺す事で自分のものに出来ると錯覚して―――……。
 
それを記憶している。
魂に刻まれた記憶。
 
宗寿は、自分自身を求める者が居たなら、その者に着いて行く覚悟があった。
けれど、宗寿を求める者は、彼じゃなく、彼の持つ力を求めていた。
 
それは、虚しい死に方。
“無念の想い”は、桃太郎に受け継がれている。
 
恋をしたい。

想いは強く。だからこそ苦しく、今まで無意識に目を反らせて来たんだ。恋をする事を。
 
 
「桃ちゃあーん!!」
扉が放たれたと同時に飛び込んで来た塊に押し倒される。

「羅……!」
俺の揺れる男心など気付きもしないで、羅刹の態度は変わらない。
「ん―――……。やっぱり、ココロの蓋が閉まってる」
「ふん。もう開く事ないからな!」
って、自慢気にふんぞり返ると、突然塞がれた唇。
 
そう、いつもの羅刹の“あいさつ”それを何にも考えずに受け入れていた。
羅刹の両耳をグイッ と引っ張って顔を離す。
 
「キスはっ! これからは本当に好きな奴とするんだ」
「え?」
きょとんとした羅刹は、俺の上に跨がったまま首を傾げる。
「私、桃ちゃんの事大好きだよ」
それは本当なんだろうけど、の魂に近い俺だからだ。

ズキリ。と胸が痛んだ。
身代りだ。
 
「そ―――……。だな。だけど、やっぱりもう子どもじゃない羅刹は軽々しくするもんじゃないよ」
身を起こして羅刹を横に下ろす。
 
「え―――! ん? 子どもじゃないって事は大人なの? 私、大人?」
……変な所に妙に反応する羅刹は、嬉しそうに何度も頷いて、反対側に居る不二丸を見遣る。
ロックオンの音が聞こえた気がした。
 
「黒の白の! 行けっ!」
二匹の蛇が羅刹の影から飛び出した。
可愛そうな不二丸の悲鳴が室内を木霊する。それを満足顔で羅刹は高らかと笑っていた。
もう、俺への関心は無い。
羅刹にとって、俺はその程度の関係。
 
 

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