鬼を継ぐ者

なぁ恋

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鬼の事情

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羅刹のココロに触れられた事に少し驚いた。
そんな事を考えてて、体から抜けた力が戻りかけた時、いきなり頭に直接響いて来た声。

―――憎イ
―――ナゼ
―――ドウシテ
―――ガ居ナケレバ

驚いた。

元気おじさんの、羅刹の“後悔”の“恨み”の、そんな思いの欠片が俺のココロに触れて来た。

それは二人の思いが重なって隠しても隠しきれずに蓋から溢れ出てしまったのかも知れない。
二人の強い思いが俺にココロの欠片を感じさせた。

こんな複雑な気持ちは誰にも見せられない。

人のココロは難しい。
人の“思い”も“想い”も難しい。
だから“蓋”をするのか。

そして不意に解った。
双子は静かに佇んで、互いに手を固く繋いでいた。
彼らは、父親と姉の声を何度も聞いているのかも知れない。

強すぎる双子の鬼気は、ココロの蓋さえ本人達に気付かれる事なく
開けてしまえるんじゃないだろうか?
二人の想いをずっと感じて育って来たんじゃないだろうか??

あの双子の謎めいた歌と言葉。

二人だから大丈夫。なんて、十歳の子どもに耐えられる筈ないじゃないか!

結歌と結愛に視線を向けた。
そして驚いた。
二人して唇に人差し指を立てていた。

話すな。って事なのか?

『本当の事でもあるから』
『皆母さんを愛していただけ』

直接頭に響いて来た声。
それはストレートな二人の思い。

そうか。そうだ。
元気おじさんも羅刹もだけ。
 
 
誰が悪い訳でもない。
切ないね。

ココロで双子に応えた。

にっこりと微笑んだ双子が「桃太郎復活したぁ」と、羅刹の後を追って台所に駆けて行った。

「はぁー……。良かったよぉ。どうなるかと思ったぜ」
「俺もだ」不二丸の言葉に頷いた。
本当に。どうなるかと思った。
立ち上がった所に、不二丸がいつもの様に肩を組んで来た。

「はーい! 用意も出来たし、食べにおいでぇ」
元気な羅刹の呼び声に、俺達も部屋を移動した。

広めの木造りの食卓に並べられたご馳走に、不二丸は狂喜乱舞だ。
不二丸は兎に角食べるのが好きだ。
初めて犬飼家でご馳走になった時の衝撃は忘れられない。
量が半端なく多くて、更に言えば、両親に小六、五、四年の弟達、家族全員細い体型で美形なのに、その見た目とは違って、人の倍の倍は食べるんだ。

もしかして、それ(大食い)が能力だったりして?
そんな事考えて一人笑ってしまった。
「不二丸、落ち着いて食べろよ。喉つまる」って言った矢先に喉を詰まらせた。

羅刹が飲み物を差し出したが、その表情から嫌な予感がした。
けど、不二丸は即座にそれを口に運んで、吹き出した。
「んう。わぁーーー……」

「それ、お酒だよん」と、満面の笑みの羅刹。

不二丸は立ち上がり、喉元を押さえて地団駄踏む。

「ほら! 水」
俺の飲みかけを手渡すも、それを口に運ぶ事も出来ない。
いよいよ心配になって背中を叩き擦った。
 
 
「おい! 不二丸、大丈夫か??」
強く背中を叩いた時、嘔吐するように塊が口内から飛び出した。
それは、燃える火の塊。
丁度向かいに座っていた羅刹目掛けて飛んだ炎を羅刹が避けた。

“炎”は、岩の床でジュッ と 音を立てて消えた。
確かに炎だったと判る煙が一筋立ち上って消えた。

「何だ??」不二丸が驚いて口許を拭う。
「それが不二丸くんの能力なんだね。偶然とは言えお酒に反応して目覚めたんだろう。昔、お酒で“熱”を操った者が居た」
元気おじさんが黙々と食事を続けながら言った。

「俺の、超能力?」
嬉し気な不二丸の声。それに重なる様な“ベチッ”て音。羅刹が不敵に笑う。不二丸にコンニャクを投げ付けたんだ。
「私を攻撃する事ないでしょ」
「ははっ」
「感謝しなさい。能力開花は私のお陰様でしょ!」
仁王立ちの羅刹がふんぞり返る。

「名付けるなら“酒呑童子”だな!」不二丸は笑いが止まらない様子で叫び、その吐いた息が、ボゥっと、小さな火珠を揺らした。

不二丸は嬉しそうだけど、それが良い事なのか少し不安になった。
彼は大事な親友なんだ。
なのに“鬼退治”に巻き込むなんて……、人の気も知らないで笑ってる親友に無性に腹が立ち、後ろ頭を叩いてやった。
それでも笑いの止まらない不二丸に呆れて、途中だった食事を再開した。
 
 
満腹感を抱えて、ベットに寝転ぶ。
そこには空が見える天窓があった。
隣のベットにはすでに眠ってしまった不二丸が大イビキをかいている。
それは幸せそうな寝顔。

目を閉じる。
一日の内に起こった出来事が目まぐるしく頭を駆け巡る。

兄弟が出来て、鬼に遇い、鬼に成り、鬼を葬り、親友に告白され、従姉妹に気持ちが乱され、親友は力を手に入れた。

長い、長い一日だった。

額に手を触れる。
硬く尖った角に触れる。
それは骨の一部の様で不思議な手触りだ。

“角”が手に入った事に喜んで居る自分と、不安に押し潰されそうな自分とがココロの中でせめぎ合って居る。
苦しくなった胸の辺りを鷲掴む。

見えないものでココロが左右され、苦しくも嬉しくもなる。

それが人間なんだと改めて思う。

大事な誰かを亡くした時、その絶望と闇とが本人に作用するものが何であるか。
それが鬼に成った狐男の末路であったり、元気おじさんと羅刹の押し殺した悲しみであったり……。
堂々巡りの考えの中で、また、何故おばさんは鬼に成らなかったのかって疑問に行き着いた。

「それを考えるのは“蓋”をしてからにしてくれないかな?」
突然聞こえてきた声に驚く。
「元気おじさん」
「疑問を抱えたまんまじゃ眠れない?」

静かに戸口に佇むおじさんは、天窓から射し込む月光に照らされて仄かに光って見えた。
 
 
誘い出されて夜道を歩く。
優しい風が体にまとわりつき、満天の星空に小さい真ん丸のお月様が輝いている。

散歩には良い夜だ。

着いた先は、小高い丘の上にある岩場。
段違いに重なった岩がまず目に留まる。その横には、大きな木が聳え立ち、その木の根元に小さな石。
これは覚えてる。おばさんの墓石だ。

「そうだよ。空羅寿そりすのお墓」
元気おじさんは無表情に言った。

「桃太郎は幼かったから事情を伝えてなかったね」

おばさんは亡くなって、双子が産まれた。
その事実のみ。

「空羅寿とは五年、穏やかに幸せに暮らした。五年目に、妊娠。最初は飛び上がって喜んだよ」

墓石の前に膝まづいた元気おじさんの表情は見えない。
話は続く。

「だけど、俺は鬼で空羅寿は人間だった。それが問題になるなんて思いもしなかった。樹利亜は約二年の妊娠期間だった。それで気付かなかったなんて自分に腹が立ったよ」
両腿に置かれた握る拳が震えていた。

「樹利亜は“鬼”だから大丈夫だったんだ。空羅寿は能力者だが、ただの人間。何度諭しても、彼女は鬼に成ろうとしなかった。無理にでも変化させておけば結果は違っただろう」
握る拳から血が滴った。
「彼女の妊娠期間は、おおよそ五年。それでも、双子が人間だったならまだ……」

声は震えて苦しそうだ。

「二つの鬼気を宿した空羅寿は、五年の間に痩せ細り、命をかけて産み落とした」

産声を上げずに誕生した双子。
「双子が言ってた。産声を上げなかったのは母親の最期の言葉を聞いていたからって」
 





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