鬼を継ぐ者

なぁ恋

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鬼の事情

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「そう。そして選んだんだ。“鬼退治”をする事を、不二丸くんは、この事全てを忘れる事も出来るんだよ。穏やかに人間として過ごす、当たり前の生活に戻る事も」
「それは、桃太郎を忘れるって事だろう? 嫌だよ!」
桃への“想い”を。

「鬼退治は危険だよ。もしかしたら命を落とすかもしれない」
「それでも、桃の傍に居たいんだ!」
「桃太郎が好きだから?」

言葉に詰まった。

「う。そうだよ。俺は、異性を想うみたいに桃の事が好きなんだ」
どうせバレてるんだろうから、ぶっちゃけた。

「魂に惹かれてるんだ。」
元気さんが苦笑した。

「―――……魂?」
「肉体を飛び越えて“魂”に惹かれてるんだ。悪い事じゃないよ。参考までに、俺の周りにも同性のカップルが二組居る」
「それは、希望が持てる」
「想いが叶えば、ね。俺は娘も応援したい。どちらを選ぶかは桃太郎の気持ち次第だ。もしかしたらどちらも選ばれないかもしれない」

「それは、どんな恋愛だって結果なんて判らない。努力する。」
「だけど、“恋愛”と“鬼退治”は別物だ」

元気さんが言わんとする事は理解出来る。
       
恋愛で死ぬ事はにないけど、鬼退治はもしかしたら死ぬかもしれない。

「正直、怖い。怖いけど、実際に目の前で見た光景は、震える程格好いいって思ったんだ」
 

 
“格好いい”。無意識に出た言葉は俺の本心だ。
桃太郎の鬼退治をした時のあの姿を見て鳥肌が立った。
桃太郎の、鬼退治の格好よさ。

「格好いい。か……ふふ。そんな事言ったのは君が初めてだ」

元気さんが苦笑する。

「すみません。不謹慎ですよね」
「いや、“男の子”だね」

男の子。
だな。俺は、まだまだ子どもだ。

「何があっても揺るがない?」
「桃への想いも、桃に着いて行くって気持ちも、変わらない。それに羅刹が言ってた、俺は“超能力者”だって。だったら足手まといにはならない……筈、だ」
自信はないけど。

「うん。まだ目覚めてはいないけどね、確かに不二丸くんは能力者だ。さて、と」

パンッ と、股を叩いて元気さんが立ち上がった。

「暗くなって来たね。もうそろそろお腹も空いて来た」

言われて空腹感を自覚する。
くう と、小さく腹も鳴って、妙に気恥ずかしくなった。

「家に案内するよ。今日は桃太郎と一緒に泊まって行くといい」

それを聞いて心臓が跳ねた。

「言っておくけど、無理強いしたらすぐ判るからね」

の、意味が解って頬が熱くなる。
「しませんよ!」
ブルブルと首を振って目が回った。

ははははは。と高らかに笑う元気さんに、からかわれたと気付いた。

「さあ、羅刹が夕飯を作って待ってる。行こう」

羅刹。と聞いて心配になる。大丈夫なのか?
あの生意気で、泣いた姿は子どもみたいな年上の女。
 

 
元気さんの家は洞窟が原型で、ちゃんと電気も通っていて、とても居心地が良かった。
         
通された部屋には、桃が待っていた。
「桃太郎! 大丈夫だったか?」
「うん。母さんも父さんも元気だったよ」
苦笑いを浮かべた桃。それは照れ笑いも含まれていた。
「兄ちゃんになる覚悟が出来たって事か」
「だな。大分年の離れた兄弟だけどな」
今度は吹っ切れた笑顔。
それに「“角隠し”も判ったんだな」父さんに訊けって言われてた。
「けど、隠すの、勿体ないな。綺麗なのに……」
無意識に手を伸ばし、角の有った箇所を撫でる。と、指先に硬い感覚が触れた。
「あっ……」てぇ?! 桃が悩ましい声を出して前のめりに俺に倒れて来た。

「なななな何事???」
俺に持たれて来た桃の頭上に、また角が現れていた。

「エッチだぁ。」
「犯罪だぁ。」
って、何処からか現れた同じ顔の子どもらが口々に言う。
元気さんと同じ鮮やかなオレンジ色の髪の……双子?


「こらこら、結歌。結愛。からかうんじゃないよ。まぁ、半分はそうかも知れないが」
「ちょ! 元気さん! 人聞きの悪い。まぁ、あんな声聞けて何だか得した気分ですけど」と、にやけたところで頭にげんこつが降って来た。
 
 
「ワンちゃん。私の桃ちゃん離して。」
羅刹が俺を睨んで、腕の中の桃を取り上げられた。
「何だよっ」
って反抗しようとしたら、両肩から顔を覗かせた蛇どもに睨まれた。
「くそ!」
俺は誰にも言ってないけど爬虫類に弱い。それを見透かされた様に羅刹が口端を上げるだけの笑みを寄越した。

何かムカつく。

「生えたばかりの角は感覚が鋭いんだろうな。敏感って言った方がいいかな」
元気さんの言葉に納得。

桃は耳まで赤くして地べたへ座り込んでしまった。

マジで可愛いんですけど??

「その内慣れるとは思う。だけど、角は触らない方が良い。本人の許可があれば別だけどね。鬼には大切なものだ。うん。でも確かに良い反応するね」
苦笑しながらも同意した元気さんが、いきなり現れた子どもらを紹介してくれた。
元気さんと同じ髪を持つ子ども。

男の子を結歌。
女の子を結愛。
思った通り双子だった。

「妻の忘れ形見なんだ」
優しい笑顔を見せた。



 
桃が落ち着いたところで部屋を移動する。
そこには大きな木造りのテーブルがあって、沢山ならべられたご馳走に驚く。
「本当に、お前が作ったの?」
目が丸くなった。

「そうだよぉ。」
のほほんと羅刹が言った。

そして、意外や意外。
「うまい!」
驚いた。羅刹の手料理、マジで旨くて箸が止まらない。

「ワンちゃんも味解るんだね」
何てイヤミも今なら笑って許せる。
「美味しいものは世界を救う!」
これは俺の持論だ。
さすがの羅刹も笑顔をくれた。

「不二丸、落ち着いて食べろよ。喉つまる」桃の呆れた顔。

「ケホッ……んぐ!」
言われた傍から喉につまって涙目のまま差し出されたコップを掴み、一気に飲み干す。
「んう。わぁーーー……」喉がカアーッと熱くなる。

「それ、お酒だよん」
と、満面の笑みの羅刹。

やっぱりこいつには気を許せない。
洒落にならない程、口内の熱さが強まる。
立ち上がり地団駄踏む。

「ほら! 水」
桃が差し出したコップを掴む。
が、飲む事が出来ない。
喉の奥から込み上げる嗚咽感。
熱を帯びた何か塊が食道をかけ上がる。
 
 
「か、カァッ!」
苦し……
「おい! 不二丸、大丈夫か??」
桃が背中を叩いてくれた。
途端に、引っ掛かっていた塊が口内から飛び出した。

それは一直線に羅刹に向かって飛んだ。「アブな!」羅刹が慌てて避けた。

飛び出た塊。
それは“火の塊”それが岩の床でジュッ と音を立てて消えた。

「何だ??」それしか言葉が出てこない。
俺の口から炎が飛び出た。

「それが不二丸くんの能力なんだね」
元気さんが淡々と食事を続けながら言った。
「偶然とは言えお酒に反応して目覚めたんだろう。昔、お酒で“熱”を操った者が居た」

能力。
「俺の、超能力?」

ベチッ て、顔に投げ付けられたのはコンニャク。どこから?!
「私を攻撃する事ないでしょ」って膨れっ面の羅刹が睨んで来た。

「ははっ」そんな顔されても、自覚はなかったしね。
「感謝しなさい。能力開花は私のお陰様でしょ!」今度はどや顔で仁王立ち。

能力開花。
全く意識もしてなかった事で……。
喉を擦る。確かに俺の体内から火の塊が出て来た。

お酒の力で、火を吹いたって事か。
「名付けるなら“酒呑童子”だな!」

ワクワクする気持ちが喉元を擽る。
ふうって、息を吐き出すと、ボゥっと、小さな残り火が口許で揺らいだ。

俺は笑みが溢れるのを押さえられなかった。
自分の能力に満足したんだ。
 





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