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鬼の子ども
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しおりを挟む何だかんだと戯れながら、バス停に着いた。
タイミング良く、街に行くバスが来るのが近くに見えた。
「桃ちゃん。羅刹お金持って来てないよ?」
それくらいならあるかな?
「それで映画なんて言ってたのかよ」
不二丸が呆れた様に肩を竦めた。
「もう良いから、さぁ乗るぞ」
目の前で開かれたドアに二人を引っ張って乗り込んだ。
プシュウ……って音を鳴らしてドアが閉まった。
そのまま二人を連れて後ろの座席に座る。
俺が真ん中。
静かに流れる外の風景は昔から不思議だった。
それは自宅の車でも同じで、違う世界へ連れて行かれてるみたいな錯覚を起こした。
何も考えなくて良かった幼かったあの頃が懐かしい。
そう言えば。と不二丸を見る。
「ごめんな。いきなり連れが出来てさ」
不二丸が目を丸くして、次には微笑んだ。
「良いよ。お前と二人きりは、何時でもなれるし」
「なんかいやらしい言い方」
不二丸に羅刹が噛み付く。
「お前はなぁ―――」
って、説教を始め様とした時、キキキッ と、急ブレーキでバスが止まった。
「―――びっくりしたぁ」
両脇で二人が支えてくれて真ん中だった俺は倒れなくてすんだ。
「桃ちゃん。何か来たよ」
羅刹が前を見据えて囁いた。
「何かって―――あっ?!」
思い当たって拳を握る。
俺んちの裏家業。
鬼退治。
今まで出遭った事等なかったし、父さん達の仕事を見た事もなかった。
知って居たけれど、ただそれだけの事。
羅刹は違う。
俺とは最初から、環境から違った育ち方をしてる。
鬼に慣れていた。
変な言い方だけど。
「何だぁ?」
不二丸が頭を傾げる。
不二丸だけじゃなくて、乗車客数人が騒つく。
運転手が前のドアを開けて座席を立った。
けど、その場から動かず、引きつった顔をした。
ドアから入って来たのは、昔懐かしい狐のお面を着けた一人の男。
その手には銃が握られていた。
女性が悲鳴を上げる。
カップルが抱き合い、老人が杖を床に転がせた。
「「バスを出せ」」
男は不自然な声色で命令した。
「何が目的だ!?」
運転手が果敢に訊いた。
次の瞬間、音もなく窓ガラスが割れた。
男の手に有る銃から放たれたもので、それは弾じゃなかった。
「ヒィっ!!」
運転手の頬に横に細長い切れ目が出来た。
不思議な事にそこから血は流れて来ない。
ぱっくりと傷が開いた状態。
「「出せ」」
狐のお面の男は再度静かに命令した。
バスが走り出す。
車内は静まり返り、狐のお面の男は異様な雰囲気を醸し出し、入り口からこちらを見ていた。
狐のお面は、今どきのプラスチック製とは違って木製で、時代錯誤な感じで何か怖い。
その時、男に近い前の方の席で、母親の膝で眠っていた三歳くらいの幼児が目覚め、おもむろに男へ目を向けた。そしてすぐ泣き始めた。
幼児は異様な雰囲気に目覚め、その存在に恐怖を感じて視線を送ったのだろう。泣き方も幼児のそれとは違い、体全身を震わせて静かに泣いていた。
それを母親が抱き締め宥める。
車内を見渡す。
乗客の数は?
母子と、その後ろに座る同年代くらいのカップル、斜め横に杖を落としたお爺さん、俺達の前に座るおばさん。
それに俺達三人。運転手を合わせると、計九人。
「バスジャックかよ」
不二丸が呟いた。
「そんな可愛いもんならいいけどさ」
羅刹が唇に人差し指を当てる。
「しっ」
得体の知れない恐怖を感じる。
男を刺激しない様に静かにしておかないと。
男は運転手に囁く様に行き先を続けていた。
バスはどこへ向かっているんだ?
スムーズに走っていた。それが徐々にガタガタと音を立て始め、車体が揺れだした。
窓から見える風景も山が近くに木々が多く見える様になって来る。
思い当たったのは、父さんから聞いた事がある場所。
“地獄の入り口”
「桃ちゃん。ちょっと違うみたい。あの狐男、神社の名前言ってたから“天狐神社”って」
羅刹が俺の心を読んで答えた。
「あの神社はもう廃れてる筈だぞ」
不二丸が反応した。
天狐神社。
文字通り狐を祀った神社だった。
そこの宮司さんが変死して祟られた神社と噂が立ち、潰れたって聞いた事がある。
山の麓の人里離れた場所にその神社はあった。
こじんまりとした古い時代背景が色々ありそうな神社。
元々の名は違っていたとも聞いた事がある。
「“鬼神伝説”でしょう?」
また羅刹が俺の考えてる事に反応する。
「羅刹!」
思ったよりも大きな声が出て、手で口を塞いで視線を男に向けた。
狐のお面の鼻先がこちらを向いていた。
こちらを凝視して居る様にも見えた。けど、よくよく見ると、そのお面には覗き穴がない事に気付いて鳥肌が立った。
俺は視力が馬鹿みたいに良い。
お面だと思ってた。疑わなかった。
あれは男の顔、顔そのもの。顔表面は木で造られたお面にしか見えない。
それに続く首、髪の生え際を見るとお面からそれらが生えているみたいに見えた。
「嘘だろ?」
声に出していた。
男はこちらを見ていて、首を傾げた。
その時、バスが停止し運転手が目的地に着いたと言った。
男はニヤリと笑った。
そう表現するしか出来ない笑顔。
狐の目元が上がり、耳元まで裂けたみたいに薄ら開いた口から長い舌が垂れた。
嫌な予感がした。
男は舌なめずりをして、大きく口を開いた。
運転手の肩に両手を置き、その長い舌を頬に作った傷にめり込ませた。
「あ゛ぁあ゛ああ―――……」
運転手は、体をガクガクと震わせてやがて動かなくなった。
あまりの出来事に周りの皆は身動きも、声さえ出せない状態だった。
「厄介だよ。あの狐脳ミソ喰った」
「……嘘、だろう?」
羅刹の言った事は本当だろう。
不二丸の呻きに俺も同じ事を思って、そして、何も出来ないで死なせてしまった事に怒りを覚えた。
自分に対する怒り。
何か出来た筈なんだ。
俺は、それを生業にして来た家系の一人なんだから。
男は着物の袖口で口端を拭い、獲物を探すみたいに車内を見渡した。
これ以上誰かが犠牲になるなんて、耐えられない!
「俺にしろよ」
そう言って前に出たのは不二丸だった。
不二丸の行動は予想出来るものだった。
昔から正義感の強い男で、それ以上に優しい。
親友の俺を、女である羅刹を守りたい気持ちが恐怖に勝って前に出たんだとすぐに解った。
「俺が一番元気だから、俺にしろ!」
そう男に言い放ち、「捕まえて居る内に逃げろ」俺達に小さく呟いた。
こちらに向けられた大きな背中は震えてた。
正義感に、恐怖に、そんな諸々の色んな思いに震える背中。
男は身動ぎもせず腕を伸ばした。
手に光る銃口。
それは音もなく何かを発射した。
何もかもがスローに見えた。
俺には力が有る。
誰かを守る為の力。
今守りたいのは、不二丸。
「うわあぁあああ―――……!!」
護る為。
それが俺の鬼に成る理由。
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