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<やまねこのふえ>のお話
63 リペア
しおりを挟むふえのリペア方法として、うさぎの楽器やさんは、1stのふえの、指穴のあいた胴筒の部分を残し、
吹き口は2ndのものを使うことにしました。
ジョイント式にするのです。
継ぎ目のない一本のときのような、冴えた響きにはなりませんが、
ジョイント のシステムを作るのは、そう難しくありません。
でも、少々時間がかかるのは、どんな楽器をつくるときも同じですね!
オリーブの木の2階にあるお店で、うさぎの楽器やさんは、作業机に向かっています。
楽器やのお店は、普段はリンがやっていますが、
今日は街に用事があって、出かけているので、留守番を兼ねているのです。
リンがいないのを知っているのか、
今日は、いつものかわいいお客さんたちは、やってきません。
まったく…、静かです。
「やまねこのふえ」と言われた魔笛は、
いま、うさぎの楽器やさんの手の中で、
仕上げのやすりをかけられています。
仕上げの工程が終われば、あとは、オイルを染み込ませて、完成をむかえます。
アイアンの小さな飾り窓がついた、少し重めのドアが、
重さに似合わず、キィ、と、軽く開きました。
朝、蝶つがいにあぶらをさしたばかりです。
うさぎの楽器やさんは、おお、いい具合だと、音を聴いて、ドアの方を見ました。
顔をのぞかせたのは、
右目の上に傷あとのある、美しい毛なみのやまねこです。
「ニノくん!」
うさぎの楽器やさんは、ぱぁっと明るい顔になって、いいました。
なんとなく、来てくれるんじゃないかと、思っていたのです。
「うさぎの楽器やさん、こんにちは!
下のレストランから、サンドイッチをテイクアウトしてきたよ。」
ニノくんは、もう、すっかり傷も治って、
気持ちも元気になっていました。
南の外れの家にお母さんと暮らしていて、たまに、うさぎの楽器やさんのお店にも、顔を見せてくれます。
レノさんは、もう、すでに旅立っていったらしいですよ!
「リンがいないって聞いたから、
うさぎの楽器やさんがお店にいるんじゃないかと思って。」
後ろ手でドアを閉めながら、ニノくんがいいました。
やっぱり、女の子たちは知っていたんだなぁ、と、
うさぎの楽器やさんは、ふたたび手を動かしながら、笑っています。
すぐには手が離せないんだな、と思ったニノくんは、
先に、お茶を入れることにしました。
お湯がなかったら、またレストランに行かなきゃ…とポットを見ると、
ふたり分くらいは、ありそうです。
戸棚には、オークのお店の新作ブレンド茶葉がありました。
人気のお茶です。
本人が持ってきたに、違いありません。
即完売のお茶を、うさぎの楽器やさんが手に入れられるわけがないんですから。
お茶をいれながら、うさぎの楽器やさんの方を見ると、
何か大事な工程をしているようで、
真剣な眼差しでふえを眺めては、やすりで削って、調整していました。
なんて美しい手の動きだろう。
と、ニノくんは、いつも思うのです。
すこし削っては、つぅーっとやわらかい指先でなでて、
削ったこなを払うというよりも、
どう?と話かけているようでした。
うさぎの楽器やさんの手から、特別なオイルでも、出ているんじゃないかな?
…なんて、
ニノくんがみとれていると、
うさぎの楽器やさんが気がついて、
こっちにおいで、と手招きしました。
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