84 / 88
<やまねこのふえ>のお話
62 再生
しおりを挟むこの先、ふえを、どうするつもりなのか
と、ランは聞いたのです。
「ふえにどうなりたいか、きくのさ。」
うさぎの楽器やさんは、あたりまえのように答えました。
いつも、そうしてきたのです。
ふえばかりでなく、どんな楽器も、
そうやって生み出してきました。
うさぎの楽器やさんが、感慨深くそういうと、
リンが、不思議そうな顔をしていいました。
「オレは、もうきいたよ。」
「ええっ?」
ニノくんたちを見送っているあいだ、リンがふえをあずかっていたのは確かですが…、
まさか!とうさぎの楽器やさんが思っていると、
「2ndのふえを使っていいってさ。
もともとひとつの木なんだし。」
と、リンが続けました。
リペアするなら、2ndのふえを、使わなければならないと思っていたのですが…、
1stは、あんなに2ndの性格を否定していましたから、
うさぎの楽器やさんは、なんと話を切りだそうかと悩んでいたのです。
それなのに、リンは、
簡単に壁を越えていってしまったなんて…。
「えー…、そうなの?
すごいな。」
若干うわべのほめ言葉を言いながら、
うさぎの楽器やさんは、特許をとられたようで、なんだか、複雑でした。
でも、
このリンの性格だからこそ、うまくいったんだな…と、
頼もしいあととりに感服もしましたよ!
それを見ていたランは、
吹っ切れたような顔をして、
「それじゃあ、
オレは仕事もあるし、もう行くよ。」
と、早々に、街に帰ることにしました。
リンは、自分にないものを持っていて、
それは、ランにとって、ちょっとうらやましいものでした。
「あっ、待って、ラン。
聞きたいことがあるんだ、待ってよ。」
リンは、この先のスケジュールを聞いておこうと、
ランを追いかけていきました。
リンとランが音楽堂を去ってから、
青い湖のある森のカラスが、うさぎの楽器やさんにききました。
「リペアってことは、あの魔笛をまたつくるってことか?」
うさぎの楽器やさんは、
うーん…と考えて、いいました。
「リペアしても、もう、あの音は出せないと思う。
ほんとうに、稀な条件で成り立っていたんだ。
でも、最大限に魅力を戻すには、同じ木が必要なんだ。
2ndと融合することを、本人が許したんなら、きっと大丈夫さ。」
…自分は、まだ、きいてないが。
青い湖のある森のカラスは、今まで一緒に行動していたからこそ、
その意味がわかりました。
「それなら、カラスの自警団は、通常任務に戻る。
やまねこを追う必要はなくなったが、
まだ自警団を必要とする森が、あるからな。
その森の再生を見届けてから、解散とする。」
青い湖のある森のカラスは、自警団のメンバーにそう伝えてから、
あ、銀色トウヒの音楽堂にもカラスの守りが必要か?
と、うさぎの楽器やさんにききました。
「大丈夫。でも、ときどき見にきてくれよ。
もともと、ここは、銀色トウヒが育ちやすいところなんだ。
きっと、再生する。
青い湖も、再生するといいな。」
うさぎの楽器やさんが言うと、
青い湖のある森のカラスは、ニヤリと笑っていいました。
「ああ、あれは、自然にできたものじゃないからな。
森の動物たちが、地の利を生かして、
丁寧に育てて、つくりあげた湖なんだ。
一度つくったものだ。
時間がかかっても、またつくれるさ。」
「そうだったの⁈」
目を丸くするうさぎの楽器やさんを見て、
青い湖のある森のカラスは、
おまえこそ、見に来いと言いました。
次は、
もっといいものをつくってみせるから。
0
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説


ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる