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<やまねこのふえ>のお話
51 こがね色の道 その2
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この気持ちをなんと言っていいか分からない。
だから、嫌としか言えないのです。
『嫌だ、嫌だ、嫌だ、いやだ!』
1stのふえの感情が、高ぶりました。
大きく空間が歪みます。
「やっべ…、」
自信満々のランでしたが、
予想以上の空間の歪みに、少々焦りました。
立て直せるかな…?
復帰できないと、音楽がとまってしまう。
「止まったら、アウトだ。」
文字どおり、この音楽の世界から出てしまうことになるでしょう。
「ちくしょう、こんなピンチは、初めてだぞ。」
冷や汗が出てきます。
そこに、バイオリンの音が、2つ…。
「なんだ?助っ人?」
レースのニットのように美しく編んだ、
ペアのバイオリンの音です。
ランのメロディーに、職人のような合いの手をいれて、
救いあげてくれました。
ランは、一呼吸の間に立て直し、
違う角度から入りなおすことができました。
「たすかったぜ、おっさんたち!」
2つのバイオリンは、オークとテンくんです。
かつての演奏仲間どうしのペアが、
息の合ったアシストをして、
そのまま、ランたちの演奏に加わりました。
うさぎの楽器やさんは、涙が出そうでした。
「オークとテンくんのペアを、
また聴くことができるなんて…、
こんなことでもなければ、ありえないな。」
この状況がつくりだした副産物を、ありがたくいただいたのでした。
オークとテンくんのおかげで、
こがね色の道を見失うことなく、ランとニノくんは、あるところにたどり着きました。
そこは、見覚えのある小さな部屋でした。
正面に、背よりも高い棚がつくりつけられた仕事机。
こちらに背をむけて、仕事している、白いうさぎ。
「うさぎの楽器やさん…。」
こがね色につつまれた、オリーブの木の2階にある、小さなお店。
西日が入ると、こんなふうにお店が輝く時があるのです。
ニノくんが、ふえと出会ったのも、そんな日でした。
いつもの仕事机で、うさぎの楽器やさんが楽器をつくっています。
現在、本人はオルガンの裏で一生懸命ペダルを踏んでいますがね!
ニノくんが見ているうさぎの楽器やさんは、ニノくんの心の中に居続けた、うさぎの楽器やさんなのです。
ニノくんは、仕事机に近づいて、きいてみました。
「こんどは…、何をつくっているの、うさぎの楽器やさん?」
うさぎの楽器やさんは、いつものように、軽く答えました。
「ん?ふえだよ。」
「…ふえ?」
ニノくんは、ちょっとおどろいて、
おずおずといいました。
「ぼくが、こんなことしてしまったから…、
もう、ふえは、つくるのが嫌になってしまったんじゃないかと、思ってた。」
「また、つくるよ。」
「ほんとに?」
「ふえになりたいって言ってるから。」
「…よかった。」
それは、ずっと聞いてみたかったことでした。
ずっと、気にかかっていたことでした。
ニノくんは、こがね色につつまれて、
うさぎの楽器やさんの仕事を、長いこと見ていました。
だから、嫌としか言えないのです。
『嫌だ、嫌だ、嫌だ、いやだ!』
1stのふえの感情が、高ぶりました。
大きく空間が歪みます。
「やっべ…、」
自信満々のランでしたが、
予想以上の空間の歪みに、少々焦りました。
立て直せるかな…?
復帰できないと、音楽がとまってしまう。
「止まったら、アウトだ。」
文字どおり、この音楽の世界から出てしまうことになるでしょう。
「ちくしょう、こんなピンチは、初めてだぞ。」
冷や汗が出てきます。
そこに、バイオリンの音が、2つ…。
「なんだ?助っ人?」
レースのニットのように美しく編んだ、
ペアのバイオリンの音です。
ランのメロディーに、職人のような合いの手をいれて、
救いあげてくれました。
ランは、一呼吸の間に立て直し、
違う角度から入りなおすことができました。
「たすかったぜ、おっさんたち!」
2つのバイオリンは、オークとテンくんです。
かつての演奏仲間どうしのペアが、
息の合ったアシストをして、
そのまま、ランたちの演奏に加わりました。
うさぎの楽器やさんは、涙が出そうでした。
「オークとテンくんのペアを、
また聴くことができるなんて…、
こんなことでもなければ、ありえないな。」
この状況がつくりだした副産物を、ありがたくいただいたのでした。
オークとテンくんのおかげで、
こがね色の道を見失うことなく、ランとニノくんは、あるところにたどり着きました。
そこは、見覚えのある小さな部屋でした。
正面に、背よりも高い棚がつくりつけられた仕事机。
こちらに背をむけて、仕事している、白いうさぎ。
「うさぎの楽器やさん…。」
こがね色につつまれた、オリーブの木の2階にある、小さなお店。
西日が入ると、こんなふうにお店が輝く時があるのです。
ニノくんが、ふえと出会ったのも、そんな日でした。
いつもの仕事机で、うさぎの楽器やさんが楽器をつくっています。
現在、本人はオルガンの裏で一生懸命ペダルを踏んでいますがね!
ニノくんが見ているうさぎの楽器やさんは、ニノくんの心の中に居続けた、うさぎの楽器やさんなのです。
ニノくんは、仕事机に近づいて、きいてみました。
「こんどは…、何をつくっているの、うさぎの楽器やさん?」
うさぎの楽器やさんは、いつものように、軽く答えました。
「ん?ふえだよ。」
「…ふえ?」
ニノくんは、ちょっとおどろいて、
おずおずといいました。
「ぼくが、こんなことしてしまったから…、
もう、ふえは、つくるのが嫌になってしまったんじゃないかと、思ってた。」
「また、つくるよ。」
「ほんとに?」
「ふえになりたいって言ってるから。」
「…よかった。」
それは、ずっと聞いてみたかったことでした。
ずっと、気にかかっていたことでした。
ニノくんは、こがね色につつまれて、
うさぎの楽器やさんの仕事を、長いこと見ていました。
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