うさぎの楽器やさん

銀色月

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<やまねこのふえ>のお話

48 デュオ

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2つのふえの音は、
絡み合ったと思ったら、ほどけて、
また絡み合い、
じゃれあって、遊んでいるようでした。

透明感のあるニノくんの音に、
さわやかで存在感のあるランの音が重なります。

心地よい重音のひびきは、大きく横に広がってゆき、
銀色トウヒの音楽堂が、
どこまでもどこまでも広い空間のように感じるのでした。
 

リンのオルガンの音は、今は聴こえません。
ランとニノくんのデュオを、静かに見守っているようです。

音楽堂にたどり着いたうさぎの楽器やさんは、
そっとオルガンの裏手にまわりました。

どうやったら、姿を見せずに行けるかなんて、よくわかっている場所ですからね!
木の幹に沿って、そろり、リンに近づきます。

かすかな声で、リンを呼びました。
「リン、」

「ああ、父さん、来てくれて良かった。
風が弱くなってきて、困っていたんだ。
その時がきたら、ペダルを踏んでくれるかい?」
うさぎの楽器やさんに気がついて、リンがいいました。
来るのがわかっていたようないい方でした。

「その時って…、」
とまどううさぎの楽器やさんを尻目に、
リンはにっこり笑いました。楽器やさんにやってくる女の子たちが、ときめいちゃう笑顔です。
「今に、わかるよ。」
 


ランの音に導かれながら、ニノくんは音の波に気持ちよく漂っていました。
ゆらゆらと。
音が溶けあうのを楽しんで、心が満ち足りていました。

 こんな演奏は、初めてだ。
 
ふえも、ニノくんの今の気持ちに同調していたので、何もじゃますることなく、演奏が進んでいたのです。



2ndのふえの声は、ランによって抑えられていました。

 まだ、だよ。

ランは、2ndのふえと、すでに会話ができていました。
ランにとっては、大してむずかしいことではありません。

音楽堂の中で、オルガンと、ニノくんと、ランのいる位置は、3点の大きな三角形を作っています。

ランは、演奏しながら、少しずつニノくんに近づき始めました。

自然に、こわがらせないように。

三角形が、ゆっくり、
2等辺三角になっていきます。

おたがいの目と目が合わせられるところまで近づくと、そこでとどまりました。



ランは、ニノくんをまっすぐ見つめています。

そして、ふと、目をあげたニノくんの視線を、のがさずとらえました。
 
きっかけをつかむと、ランはぐいっと音を飛躍させました。

ニノくんの手をしっかりつかんだ状態で、
宙に飛び立つような演奏が始まったのです。


うさぎの楽器やさんは、「ああ、ここだ。」とわかって、
オルガンの裏側にあるペダルをふみ始めました。
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