うさぎの楽器やさん

銀色月

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<やまねこのふえ>のお話

46 音楽堂

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「ねえ、オルガンの音がする。
 誰が弾いてるんだろう?」

うさぎの楽器やさんの後ろで、オークがいいました。

木の幹につかまって、片方の手を下にのばしていたうさぎの楽器やさんは、
体勢を戻して、
オークと北の森のカラスのところに戻りました。


ニノくんは、うさぎの楽器やさんの手をとらず、岩をおりて、オルガンの音のする方へ、
斜面を滑るように下っていってしまったのです。


でも…、
不思議と伝わった気がするのです。


今のニノくんは、魔物ではなかった。

きっと、なんらかの意思を持って、手を取らなかったんだ。きっと…!



うさぎの楽器やさんにも、オルガンの音は聴こえていました。

森に溶けこむような、やわらかい音運びに、
ゆるぎない意志を感じる芯の強さ。

この、旋律のないオルガンの音を聴いただけで、なんとなく誰かわかりました。


「リンだ…。
 リンが弾いてる。」

リンは、ランを呼んで戻ってきて、
この森の楽器やとして動いていたはずです。

リンが勝負をかけるつもりだとしたら、そこにランも向かっていることでしょう。

うさぎの楽器やさんは、
「オークも、バイオリン持って来て、
 手伝って!」と言うと、
もときた道を戻って、大まわりしながら、
銀色トウヒの音楽堂に向かいました。



レノさんは、やっと少し動けるようになって、
青い湖のある森のカラスに助けられながら、ゆっくり斜面を降りていました。

少し離れた所を、ニノくんが滑るように降りていくのがわかりましたが、
ニノくんは、こちらをチラリとも見ることはありませんでした。

レノさんがニノくんをいつまでも目で追っているのを見て、
青い湖のある森のカラスは、いいました。

「あいつに、任せましょう。大丈夫。」

ただ、そう言ってから、すぐに付け足しました。「あ、いや、

…なぜだか、あの楽天的なうさぎをみていると、大丈夫な気がするんです。」
 


銀色トウヒの森の、オルガン広場は、
しばらく見ないうちに、立派な音楽堂になっていました。
 
背の低い木を使って作った森のオルガンが、
背の高い銀色トウヒにかこまれているため、もともとホールのように響くところなのですが、
今や、また一段と成長した銀色トウヒが葉を繁らせて、
みごとな空間をつくりだしています。


銀色トウヒの下葉が木漏れ日を反射して、その名のとおり銀色に輝くので、
キラキラと幻想的な照明の効果があります。

高い木に囲まれているというのに、暗く感じないのは、このせいです。


湿気もあまり感じません。この場所に、ちょうどいい風のとおり道があるからです。

その風を利用してオルガンを演奏するように、うさぎの楽器やさんがつくったのです。


低い位置を吹き抜ける風は、一点に集められて、オルガンに送られます。

そこで鍵盤を押すと、バルブが開放されて、風がそれぞれの音程のパイプを通り、
ふえのように音が鳴るしくみです。


風が足りないときは、もちろん、アレをするのですがね!





木漏れ日が、

まるでスポットライトのように、
演奏者を照らして見えます。

うさぎの楽器やさんみたいな、

白いうさぎ。


あれは、

うさぎの楽器やさんの息子のリンか、
ランか、
レンか…。

最後に会ったのは、彼らが子うさぎの頃だったから、
だれなのか、今はっきりわかりませんが、

「たしか、楽器の演奏がうまかったのは、
 真ん中の子だったかな…」

などと、ニノくんは思い出していました。
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