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<やまねこのふえ>のお話
43 ラン
しおりを挟む「ラン!なんで?
なんで、ここにいるの⁉︎」
外国の森に行っているはずの2番目の息子が、今、うさぎの楽器やさんの目の前にいるのです。
昔から、楽器は何をやらせても得意で、
お店にある楽器をひと通り演奏できた、ラン。
今はバイオリンの演奏家になり、外国の森の交響楽団で活動をしています。
一番上のリンが母親似なら、ランはうさぎの楽器やさんに似ていると、子うさぎの頃から言われていましたが、
今や、すらりと背が高く、
うさぎの楽器やさんよりもっとたくましくしなやかな白うさぎです。
「休みがとれてね、街まで帰ってきていたんだ。
銀色の森まで戻ってくるつもりじゃなかったんだけど、
リンが来て、さ。」
「リンが…。」
リンはあの後、ランを呼びに行ったのです。
ランが、きっと街まで来ているはずだと、
分かっていたのかもしれません。
外国の森の交響楽団のスケジュールを把握していたということです。
「リンは、優秀な楽器やだな。」
うさぎの楽器やさんは、参ったとばかりに、頭を掻きました。
「まあ、話はまた後で。
リンから聞いてるから。
ここは、任せて。」
ランはそう言うと、うさぎの楽器やさんの手から2ndの小さなふえをそっと取り上げて、
ピュルリと軽く音階を吹きました。
ランの音は、ほんの短い試し吹きでも、
信じられないほどよく響きました。
「大丈夫。これくらいのふえなら、
なんて事ない。任せて。
さあ、父さんは、行って。」
ランに背中を押されて、うさぎの楽器やさんは、2~3歩進みましたが、
振り返ってもう一度ランの姿を見ました。
手に持っているのは、バイオリンではなくふえですが、
立ちふるまいは、たくさんの聴衆の前で演奏し慣れた演奏家です。
ランはふえを構えて、一息吸うと、
ふえに語りけるように吹き始めました。
ああ、すばらしい。
ランとニノくんの二重奏を聴けるなんて…。
思いがけず、ふたりの演奏を聴けることになり、うさぎの楽器やさんの心は沸き立ちました。
少し吹き続けると、ランはこの2ndのふえの意味をすぐに理解しました。
はやくも2ndの声をきいたのです。
そういうことか。
父さんは、相変わらずすごいふえをつくるなぁ。
それにしても、ニノくんの演奏は…、
まあ、いい。
まずは2ndに話をさせてやろう。
ランは、2ndが話しやすいように1stの響きに寄せていきました。
『そのやまねこを離してあげて。彼は、僕じゃない。』
2ndが話しかけると、1stはすぐに答えました。
『おまえは、嫌いだ。』
『なんで?君は僕で、僕は君だろ?やまねこじゃない。』
『ちがうよ。やまねこは、僕になった。
やまねこには、僕が必要なんだ。
もう、離れられない。』
『都合のいい相手を見つけただけだ。
本当の相手は、僕だろう?
君が僕から離れていったんだ。』
『ちがう。』
『僕を認めるのが、怖いんだね?』
『ちがう。』
『僕を認めたら、君は…』
『ちがう…、だまれ!』
1stの演奏は、また一段と複雑になりました。
即興にしては、出来がいい。
こんな音は、楽譜にできるだろうか?
新しい楽語が必要なのでは?
ランは、思わず書き留めたくなるほど感心しました。
レンがいたら、聴いただけで、後から楽譜にしてもらえたんだけどな!
レンは、リンとランの弟で、街で作曲の仕事をしています。
子どもの頃は、おとなしく、
体の小さな末っ子のレンでしたが、
今は、おっとりした性格はそのままに、
一番体格が良く、骨太でひとまわり大きな白うさぎです。
「レンに聴かせたいなっ…と。」
ランは、ペロっと舌をだして、ふえを持ち直すと、
複雑になった1stの演奏にみごとに対応します。
逃がすつもりはないようです。
うさぎの楽器やさんは、ふたりの演奏を聴きのがさないように、
うさぎの耳を最大限に使いながら、
オークのお店のある丘を目指して走っていました。
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