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<やまねこのふえ>のお話
41 森のざわめき
しおりを挟むほんの一瞬。
まるで、高いところから落ちるような浮遊感があり、
森の木や草花は驚きました。
近くにいた鳥たちも、それを感じて、
恐れおののき、
一斉に飛びたって行きました。
1匹のやまねこが、森に足を踏み入れた時。
その時から、森は、
ざわめき始めたのです。
やまねこは、重い足どりで、
一歩一歩、銀色の森に入りこんでいきます。
背中に、ふさがったばかりの大きな切り傷があり、傷口は、まだ赤く腫れています。
疲れた様子ですが、表情は柔らかく、
手には、ふえだけを大切そうに握っています。
偶然すれちがったタヌキのおじいさんが、
やまねこの様子を見て、心配して声をかけました。
「きみ、大丈夫かい?どうしたの?」
やまねこは、タヌキのおじいさんに気がつきましたが、
その声が聞こえていないみたいに、
にこ、と笑うだけでした。
うさぎの楽器やさんのお店では、さらに、
カラスのリーダーと森のオーケストラのコンサートマスターが加わって
話が進んでいました。
カラスのリーダーは青い湖のある森のカラスで、
森のオーケストラのコンサートマスターはテンくんです。
うさぎの楽器やさんから、2ndのふえのことをきいて、理解を示したのは、
テンくんでした。
「なるほど。それは、一理ある。
やってみる価値はあるね。」
他でもないテンくんがそう言ってくれたので、
うさぎの楽器やさんは、さらに、とっておきのアイデアを出しました。
「森のオーケストラは、協力してくれないだろうか。
きっと、うまくいくと思うんだ。」
森のオーケストラは、音楽好きな銀色の森の動物たちの中でも、
もっとも頼りになる音楽家たちの集まりです。
ハーモニーに関しては、何も言わなくとも、いい仕事をしてくれるに違いありません。
しかし、テンくんはあまりいい顔はしませんでした。
「森のオーケストラは巻き込めないよ。
ニノくんにどんな事情があったとしても…
たとえ森を救うことになるとしても、
音楽をそんなふうに使うことはできないという考えの者は、いるんだ。」
うさぎの楽器やさんは、がっかりしました。
オーケストラのメンバーには、笛ふきがいるはずですから、
自分のかわりに大役をやってくれる者がいると思ったのです。
そんなうさぎの楽器やさんの顔をみて、
テンくんはあわてて、
「ぼくは、協力するよ!」と言ってから、
「君たちも、そうなんだろ?」と、青い湖のある森のカラスに話を振りました。
「我々は…、音楽については何もできないが、
その他のことなら、もちろん協力するつもりだ。」
青い湖のある森のカラスが率いる、カラスの自警団は、
うさぎの楽器やさんとレノさんよりもずいぶん早く銀色の森に到着しており、
銀色の森の地形や、
風の吹き方や、
木や草花などを調べて、
大体のことを把握していました。
元々の仕事は、やまねこのふえの被害を受けた森を、外敵から守ることなので、
現在、銀色の森に来ているのは、メンバーの半数以下の10羽程度です。
「やまねこがふえを吹くとしたら、お茶のお店がある丘だと思う。」と、青い湖のある森のカラスが、今までの経験から推測しました。
「えっ!」と、オーク。
そのお店は、ほかならぬオークのお店です。
「なるほど、充分、考えられる。」
と、今度はうさぎの楽器やさんが言いました。
ニノくんにとって、よく知っている場所だからです。
オークのお店の場所なら、レノさんも知っていました。
昔、ほんの一時期でしたが、この銀色の森にいたのですから。
お茶を飲みに行ったことは、ありませんでしたけどね!
うさぎの楽器やさんは、今のニノくんがあの丘でふえを吹いたら、どんな風に響くだろうかと考えました。
怖い思いはありますが、
ちょっと聴いてみたい気持ちが、どうしても湧いてきてしまいます。
そして、そのニノくんの音に、いちばん効果的な場所で、2ndを吹くのです。
自分の頼りない演奏の分まで計算してみると、1stに近いところでなければならないでしょう。
うさぎの楽器やさんは、考えをめぐらして、
場所のめぼしをつけていました。
その時、
風にのって、
聴こえたのです。
やまねこのふえの音が、
かすかに。
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