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<やまねこのふえ>のお話
40 うさぎたちの会談
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銀色の森の丘の上に、
小さなお店があります。
きつねのオークの、おちゃのお店です。
お店には、どっしりとした大きなテーブル席がひとつだけ。
おちゃ好きだけが訪れる静かなお店です。
お客さんは少ないですが、
わざわざ他の森からも、オークのおちゃを求めて、お客さんがやってくる、
おちゃの名店なのです。
ニノくんのふえを聴いてやってほしいと、
うさぎの楽器やさんから頼まれたのは、
ニノくんのお披露目コンサートの前のことでした。
オークは、コンサートまで、
ニノくんの練習場所として、
お店の一角を貸していました。
おちゃを飲みに、オークのお店を訪れたお客さんは、
これからコンサートをしようという腕前のふえ吹きの演奏を、
喜んで聴いてくれました。
ニノくんのお披露目コンサートは、
それから間もなく、
うさぎの楽器やさんが作り上げた森のオルガンのお披露目と兼ねて開催され、
そして、
その日が、ことの始まりとなったのです。
うさぎの楽器やさんは、これまで見知ってきたことを、オークに、ざっと伝えました。
そして、ここにいるレノさんがニノくんのお父さんだということも。
オークは、他の森からやってくるお客さんから、やまねこのふえのウワサを聞いていたので、
いくつかの情報は知っていました。
うさぎの楽器やさんの話をきいて、
しばらく何か考えこむと、
ようやく口をひらきました。
「たった一度のことだったんだけどね。
ほら、あんなことになる前…、
ぼくの店で、ニノくんが練習していた時に、たった一度だけ、
森がざわめいたことがあったんだ。
ぞわぞわって、ね。
森の木も草も花も、みんな。ぼくもだけど。
その時は、恐怖に震えたのだと思ったんだけど…、
今考えると、聞き耳を立てたっていうか…。
森が、ニノくんのふえの音を聴きたがったというのかな…?」
「聞き耳…。」
うさぎの楽器やさんは、考えをめぐらせながら、レノさんの方を見て、あ、と気がついて補足しました。
「オークは、バイオリンを弾くんですよ。
今はおちゃの店主をやっていますが、
森のオーケストラにも入っていたんだ。
ぼくは、彼の演奏が好きだったけど…。」
レノさんは、何も言わず、うなづきました。
オークは、そんなレノさんを、魅力的なやまねこだなぁ…と、まじまじと見つめました。
この父親にして、ニノくんあり。
ニノくんにも、みんなを引きつける魅力がある。
ニノくんのふえを聴きたくなるのは、
音色のすばらしさだけではないのかもしれないな…などと、密かに思っていると、
うさぎの楽器やさんが、ぽつりぽつりと核心に迫る話を始めました。
「ふえの音を聴いた森は、
ひとたび壊滅するけど、再生する。
じゃあ、動物たちはどうなるかっていうと、
…浄化されてるんじゃないかって、思うんだ。」
「浄化だって?
みんな、大変な思いをして逃げているんだよ?」
オークは、あのコンサートの時、
ニノくんのふえに影響を受けた動物たちを救護しました。
影響を受けなかったからというわけではありません。
オークは、あの時、笑いがこみ上げてきて、何を見ても可笑しくて、
こらえるのがやっとでした。
こんな時に不謹慎だと、後から、ものすごく反省して落ち込んだのを思い出します。
「あんな思いは、もう、したくない。」
オークがきっぱりそう言うのをきいて、
うさぎの楽器やさんは、静かに続けました。
「でもね、それこそ…
それが浄化だと思うんだ。
自分の心にある、嫌なところが、出てきて、見えてしまう。
わかってしまうから、
嫌なんじゃないかな。」
うさぎの楽器やさんは、北の森のきつねの若者のことを話して、
自分の経験も話しはじめました。
「ぼくは、ね、自尊心が強く出るんだ。
おれさまのおかげだって…。
そんなの、自分じゃないって思うけど、
きっと心の奥に持っているんだ。
ふさがって、出口のない膿みたいに…。
それが、あのふえを聴くと、
外に暴かれる。
辛いけど、出せば楽になるんだと思う。
だから、きつねの若者は、芯がしっかりしたように、何かが変わった。
ぼくも…、そうだ。」
オークは、黙ってききながら、
自分はどうかと考えてみました。
スッキリしたかどうかは、わかりません。
抵抗して、耳をふさいだようなものでしたから。
うさぎの楽器やさんが言うことが本当なら、
一部の動物にとっては、ふえの影響は悪いものではないかもしれません。
でも、中には死にたくなってしまったり、
誰かを傷つけてしまう者もいるかもしれないのです。
「そうか…。
でも、聴いたことで、危険に晒されてしまう者も、いるかもしれない。
でも…、
…怖がりすぎる必要も、ないってことか。」
オークは、自分を、納得させるように言いました。
うさぎの楽器やさんが、今まで「やまねこのふえ」を聴いて、
追いかけてきたからこそ、
相手がどんなものかわかってきたのです。
「そうなんだ!その上で、やってみたいことがある。」
うさぎの楽器やさんは、
まるで、いたずらでも思いついたように、
キラキラ目を輝かせていました。
小さなお店があります。
きつねのオークの、おちゃのお店です。
お店には、どっしりとした大きなテーブル席がひとつだけ。
おちゃ好きだけが訪れる静かなお店です。
お客さんは少ないですが、
わざわざ他の森からも、オークのおちゃを求めて、お客さんがやってくる、
おちゃの名店なのです。
ニノくんのふえを聴いてやってほしいと、
うさぎの楽器やさんから頼まれたのは、
ニノくんのお披露目コンサートの前のことでした。
オークは、コンサートまで、
ニノくんの練習場所として、
お店の一角を貸していました。
おちゃを飲みに、オークのお店を訪れたお客さんは、
これからコンサートをしようという腕前のふえ吹きの演奏を、
喜んで聴いてくれました。
ニノくんのお披露目コンサートは、
それから間もなく、
うさぎの楽器やさんが作り上げた森のオルガンのお披露目と兼ねて開催され、
そして、
その日が、ことの始まりとなったのです。
うさぎの楽器やさんは、これまで見知ってきたことを、オークに、ざっと伝えました。
そして、ここにいるレノさんがニノくんのお父さんだということも。
オークは、他の森からやってくるお客さんから、やまねこのふえのウワサを聞いていたので、
いくつかの情報は知っていました。
うさぎの楽器やさんの話をきいて、
しばらく何か考えこむと、
ようやく口をひらきました。
「たった一度のことだったんだけどね。
ほら、あんなことになる前…、
ぼくの店で、ニノくんが練習していた時に、たった一度だけ、
森がざわめいたことがあったんだ。
ぞわぞわって、ね。
森の木も草も花も、みんな。ぼくもだけど。
その時は、恐怖に震えたのだと思ったんだけど…、
今考えると、聞き耳を立てたっていうか…。
森が、ニノくんのふえの音を聴きたがったというのかな…?」
「聞き耳…。」
うさぎの楽器やさんは、考えをめぐらせながら、レノさんの方を見て、あ、と気がついて補足しました。
「オークは、バイオリンを弾くんですよ。
今はおちゃの店主をやっていますが、
森のオーケストラにも入っていたんだ。
ぼくは、彼の演奏が好きだったけど…。」
レノさんは、何も言わず、うなづきました。
オークは、そんなレノさんを、魅力的なやまねこだなぁ…と、まじまじと見つめました。
この父親にして、ニノくんあり。
ニノくんにも、みんなを引きつける魅力がある。
ニノくんのふえを聴きたくなるのは、
音色のすばらしさだけではないのかもしれないな…などと、密かに思っていると、
うさぎの楽器やさんが、ぽつりぽつりと核心に迫る話を始めました。
「ふえの音を聴いた森は、
ひとたび壊滅するけど、再生する。
じゃあ、動物たちはどうなるかっていうと、
…浄化されてるんじゃないかって、思うんだ。」
「浄化だって?
みんな、大変な思いをして逃げているんだよ?」
オークは、あのコンサートの時、
ニノくんのふえに影響を受けた動物たちを救護しました。
影響を受けなかったからというわけではありません。
オークは、あの時、笑いがこみ上げてきて、何を見ても可笑しくて、
こらえるのがやっとでした。
こんな時に不謹慎だと、後から、ものすごく反省して落ち込んだのを思い出します。
「あんな思いは、もう、したくない。」
オークがきっぱりそう言うのをきいて、
うさぎの楽器やさんは、静かに続けました。
「でもね、それこそ…
それが浄化だと思うんだ。
自分の心にある、嫌なところが、出てきて、見えてしまう。
わかってしまうから、
嫌なんじゃないかな。」
うさぎの楽器やさんは、北の森のきつねの若者のことを話して、
自分の経験も話しはじめました。
「ぼくは、ね、自尊心が強く出るんだ。
おれさまのおかげだって…。
そんなの、自分じゃないって思うけど、
きっと心の奥に持っているんだ。
ふさがって、出口のない膿みたいに…。
それが、あのふえを聴くと、
外に暴かれる。
辛いけど、出せば楽になるんだと思う。
だから、きつねの若者は、芯がしっかりしたように、何かが変わった。
ぼくも…、そうだ。」
オークは、黙ってききながら、
自分はどうかと考えてみました。
スッキリしたかどうかは、わかりません。
抵抗して、耳をふさいだようなものでしたから。
うさぎの楽器やさんが言うことが本当なら、
一部の動物にとっては、ふえの影響は悪いものではないかもしれません。
でも、中には死にたくなってしまったり、
誰かを傷つけてしまう者もいるかもしれないのです。
「そうか…。
でも、聴いたことで、危険に晒されてしまう者も、いるかもしれない。
でも…、
…怖がりすぎる必要も、ないってことか。」
オークは、自分を、納得させるように言いました。
うさぎの楽器やさんが、今まで「やまねこのふえ」を聴いて、
追いかけてきたからこそ、
相手がどんなものかわかってきたのです。
「そうなんだ!その上で、やってみたいことがある。」
うさぎの楽器やさんは、
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