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<やまねこのふえ>のお話
35 同化
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うさぎの楽器やさんたちは、りんごのお酒が美味しいお店で食事を済ませると、
リンがとっている宿に向かうことにして、
店の外にでました。
すると、あのふえの音が、
聴こえてきたのです。
「父さん、この音!」
「ああ、ニノくんだ。
なんか…これは、すごいな。」
これまでに、何度か、やまねこのふえとしてのニノくんのふえの音を聴いてきたうさぎの楽器やさんですが、
この音は、今までとは、
表現力といい、技巧といい、
遠耳にもレベルが違うのがわかります。
それに、なにより気になるのは、攻撃的なことです。
「北の森のカラスたちも、そこにいるはずだ。
私は、先に行く!」
と言って、青い湖のある森のカラスは、
音のする方角へ飛び立ちました。
うさぎの楽器やさんは、青い湖のある森のカラスの向かった方角を確認して、
ピンときました。
「月の丘だ。行こう、リン!」
2ndのふえを使う時が、来たのです。
うさぎの楽器やさんは、リンを連れて、
はりきって月の丘に向かいました。
きつねたちは、やまねこのふえの影響を強く受けていました。
もう、やまねこを捕まえることよりも、
自分のことでそれぞれが精一杯でした。
うさぎの女の子は、怒り出し、
くまは悲しくなって泣き出し、
きつねは、不安感に押しつぶされそうで、
冷や汗がとまらない状態になっていました。
うさぎの楽器やさんとリンも、
月の丘に入った頃から、自分の変化に気づきました。
うさぎの楽器やさんは、以前、ニノくんのお披露目コンサートで感じた、あの自尊心が首をもたげてきました。
「ああ、やっぱり。
ふえの音が及ぼす影響は、動物それぞれだが、
それぞれ毎回、同じ種類のものが現れるようだな。
リンは、どうだ?」
リンは、頭が痛くなったようです。
「父さん、オレこれ以上、近づけないよ。
ここで吹いてみてもいい?」
「そうだな。やってみてくれ。」
2ndのふえをリンに渡すと、
リンは、少しニノくんのふえのメロディーを聴いてから、
意を決して、吹きはじめました。
リンの演奏は、メインのニノくんの音の邪魔をすることなく、
1オクターブの音程差で響きあい、
その響きの先端で溶け合うようでした。
寄り添い、ときには包みこむように。
リンという青年が、どんなに紳士的で優しいかが露呈します。
メインの、心を鷲づかみにできる演奏とは、また違った才能が、
2ndには必要なのです。
「いける、リン!」
うさぎの楽器やさんは、手応えを感じて嬉しくなりました。
2ndの効果があり、症状が軽くなったので、
うさぎの楽器やさんとリンは先に進み、
カラスたちと合流しました。
カラスたちも、きつねたちも、
2ndのふえのおかげで、ラクになったようでしたが、
疲労と底知れぬ恐怖で、これ以上なにもできません。
やまねこは、依然として破滅的な演奏を続け、
どこかへ歩いていこうとしています。
「まずいな。」
ひと目、ニノくんをみて、
うさぎの楽器やさんは異変に気づきました。
自分を失っている。
まるで、ふえと同化してしまっているようだ。
リンは、しばらく2ndのふえを吹き続けていて、ハッとしました。
そして、おもむろにふえを父に預けると、
「オレ、行かなきゃならない。
あとは、父さんが、
何とかして!」と言って、走り出しました。
「え、おい、ちょっと、リン!」
「ニノくんは、銀色の森に向かうつもりだ!」
リンは、そう言い残して去っていきました。
銀色の森のためにと考えて、
ここへ来ていたのですから仕方がないですが、
「なんで、今行くのよ~。」
と、うさぎの楽器やさんは情けない声をあげました。
「こうなったら、仕方ない。
も~、
オレが、吹くしかないか!」
うさぎの楽器やさんだって、
吹けないわけではありません。
楽器を作っているのですから、
ひと通り演奏することはできます。
でも、誰かの心を動かすほどの演奏能力がないことは、
自分で分かっているのです。
その世界の難しさを知ったものほど、
うかつに手を出せなくなってしまうことがあります。
うさぎの楽器やさんはコンプレックスを少し長く引きずっていたのかもしれませんね。
なにせ、息子たちに追いぬかれるのが、
早かったもんですから!
それにしても、
なんで銀色の森に行くなんて?
と思う答えは、
すぐにわかることになります。
仕方なく、うさぎの楽器やさんが
2ndのふえを吹いたときに。
リンがとっている宿に向かうことにして、
店の外にでました。
すると、あのふえの音が、
聴こえてきたのです。
「父さん、この音!」
「ああ、ニノくんだ。
なんか…これは、すごいな。」
これまでに、何度か、やまねこのふえとしてのニノくんのふえの音を聴いてきたうさぎの楽器やさんですが、
この音は、今までとは、
表現力といい、技巧といい、
遠耳にもレベルが違うのがわかります。
それに、なにより気になるのは、攻撃的なことです。
「北の森のカラスたちも、そこにいるはずだ。
私は、先に行く!」
と言って、青い湖のある森のカラスは、
音のする方角へ飛び立ちました。
うさぎの楽器やさんは、青い湖のある森のカラスの向かった方角を確認して、
ピンときました。
「月の丘だ。行こう、リン!」
2ndのふえを使う時が、来たのです。
うさぎの楽器やさんは、リンを連れて、
はりきって月の丘に向かいました。
きつねたちは、やまねこのふえの影響を強く受けていました。
もう、やまねこを捕まえることよりも、
自分のことでそれぞれが精一杯でした。
うさぎの女の子は、怒り出し、
くまは悲しくなって泣き出し、
きつねは、不安感に押しつぶされそうで、
冷や汗がとまらない状態になっていました。
うさぎの楽器やさんとリンも、
月の丘に入った頃から、自分の変化に気づきました。
うさぎの楽器やさんは、以前、ニノくんのお披露目コンサートで感じた、あの自尊心が首をもたげてきました。
「ああ、やっぱり。
ふえの音が及ぼす影響は、動物それぞれだが、
それぞれ毎回、同じ種類のものが現れるようだな。
リンは、どうだ?」
リンは、頭が痛くなったようです。
「父さん、オレこれ以上、近づけないよ。
ここで吹いてみてもいい?」
「そうだな。やってみてくれ。」
2ndのふえをリンに渡すと、
リンは、少しニノくんのふえのメロディーを聴いてから、
意を決して、吹きはじめました。
リンの演奏は、メインのニノくんの音の邪魔をすることなく、
1オクターブの音程差で響きあい、
その響きの先端で溶け合うようでした。
寄り添い、ときには包みこむように。
リンという青年が、どんなに紳士的で優しいかが露呈します。
メインの、心を鷲づかみにできる演奏とは、また違った才能が、
2ndには必要なのです。
「いける、リン!」
うさぎの楽器やさんは、手応えを感じて嬉しくなりました。
2ndの効果があり、症状が軽くなったので、
うさぎの楽器やさんとリンは先に進み、
カラスたちと合流しました。
カラスたちも、きつねたちも、
2ndのふえのおかげで、ラクになったようでしたが、
疲労と底知れぬ恐怖で、これ以上なにもできません。
やまねこは、依然として破滅的な演奏を続け、
どこかへ歩いていこうとしています。
「まずいな。」
ひと目、ニノくんをみて、
うさぎの楽器やさんは異変に気づきました。
自分を失っている。
まるで、ふえと同化してしまっているようだ。
リンは、しばらく2ndのふえを吹き続けていて、ハッとしました。
そして、おもむろにふえを父に預けると、
「オレ、行かなきゃならない。
あとは、父さんが、
何とかして!」と言って、走り出しました。
「え、おい、ちょっと、リン!」
「ニノくんは、銀色の森に向かうつもりだ!」
リンは、そう言い残して去っていきました。
銀色の森のためにと考えて、
ここへ来ていたのですから仕方がないですが、
「なんで、今行くのよ~。」
と、うさぎの楽器やさんは情けない声をあげました。
「こうなったら、仕方ない。
も~、
オレが、吹くしかないか!」
うさぎの楽器やさんだって、
吹けないわけではありません。
楽器を作っているのですから、
ひと通り演奏することはできます。
でも、誰かの心を動かすほどの演奏能力がないことは、
自分で分かっているのです。
その世界の難しさを知ったものほど、
うかつに手を出せなくなってしまうことがあります。
うさぎの楽器やさんはコンプレックスを少し長く引きずっていたのかもしれませんね。
なにせ、息子たちに追いぬかれるのが、
早かったもんですから!
それにしても、
なんで銀色の森に行くなんて?
と思う答えは、
すぐにわかることになります。
仕方なく、うさぎの楽器やさんが
2ndのふえを吹いたときに。
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