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<やまねこのふえ>のお話
32 リン
しおりを挟む「父さん!」
リンという白いうさぎは、うさぎの楽器やさんの一番上の息子です。
今は、リンが銀色の森の"うさぎの楽器やさん"のお店を任されています。
「なんで、リンが北の森に?」
うさぎの楽器やさんは、驚きながらも、
嬉しい再会に笑みがこぼれました。
「北の森にやまねこが出たって、聞いたんだ。
北の森は、銀色の森からそう遠くない。
もし、銀色の森に来るようなことがあったら、
備えておかなければならないからね。」
楽器やとして、出来る限りのことはしておくつもりで、
偵察に来たというわけです。
いちにんまえの楽器やになったんだなぁ、リン。
うさぎの楽器やさんは、イケメン白うさぎの息子をまぶしく見つめました。
とは言え、今は、ほんわかしている状況ではありません。
「親子水いらずのところ悪いが、
これ、何があったんだ?」
青い湖のある森のカラスが広場の状況をリンに問うと、
うさぎの楽器やさんは、どこかで見た光景に、まさかと察しました。
「やまねこのふえか?」
うさぎの楽器やさんが、リンに聞くと、
「たぶん。離れた店でかすかにふえの音を聴いて、すぐにかけつけたんだけど、
見たらもうこの有り様で…。」
と、リンは、救助を続けながら言いました。
重症の者はいないようなので、
救助をひととおり済ませて、
リンとうさぎの楽器やさんたちは、りんごのお酒が美味しいレストランに入りました。
「北の森に来れば、父さんにも会えるかと思ってさ。
父さん、ニノくんを追っていったきり、ずっと帰ってこないから。」
「ごめん。」
うさぎの楽器やさんだって、こんなに長い旅になるとは思っていなかったのです。
作者の私もですけれどね!
ニノくんを、たのむよ。と、リンに言われたのが、遠い昔のことのようです。
未だに何もできていない自分が情けなくなってきました。
…何も?
「あっ、そうだ!まって。
飲み食いする前に、これ、見てくれ!」
りんごのお酒と美味しそうな料理が運ばれてきたところですが、
うさぎの楽器やさんは、バッグから小さなふえを出しました。
「ちょっと、吹いてみてよ。」
上のふたりの息子、リンとランは、昔から楽器の演奏はなんでも得意でした。
管も弦も鍵盤も。
特に、2番目のランは、才能を伸ばし、
今はバイオリンで演奏活動をしています。
リンだって、ランほどではなかったけれど、どれも上手だったのです。
際立つ才能の近くに居る者は、
いつの世も損な役回りです。
それをしっかり受けとめて生きてきたリンは、
大人になるのが少し早かったかもしれません。
でも、そのおかげで、今や誰もが見惚れるステキな青年に成長しています。
リンは、小さなふえを手に取ると、
難なくヒュルリと吹きました。
小さなふえは、ソプラノの音を気持ちよく響かせます。
先ほど聴いた、やまねこのふえの音と似た音色を出すこのふえは、
もちろん父がつくったであろうもので…、
「父さん、これ…。」
「うん。ニノくんのふえと枝を分けた、
兄弟なんだ。
特に悪い気は感じないだろ?」
「まあね、
さすが父さんの楽器だと思う。
いい出来だよ。素直だし。
でも兄弟って…」
すると、リンは察したらしく、
「ハモれって、こと⁈」
「やってみる価値は、あると思うんだ。
思うだろ?」
「えー、オレかよ…?」
青い湖のある森のカラスは、自分は関係なさそうだと先に料理をつつき、
お酒を飲みながら、
白うさぎの親子のやりとりを聞いていました。
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