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<やまねこのふえ>のお話
22 北の森再び
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もう霧の中にいることはできなくなり、
忘れられた森から出て行かざるを得なくなった者たちは、
それぞれ近隣の森に移っていきました。
クモのマダムは、思うところあって
街に戻っていきました。
ニノくんは、というと、
ふえと共に、
ふえの故郷の北の森に来ています。
クモのマダムにもらった曲のおかげで、
もう、だれも惑わすことはないと思うと、
気持ちも軽くなり、表情も柔らかくなっていました。
瞳には潤いが戻り、
美しい毛艶を取り戻しつつあります。
北の森の動物たちは、やまねこのふえのことを知っていましたが、
今のニノくんを見て、まさかこれが、
あのやまねことは、思いませんでした。
それくらい、ニノくんの雰囲気は、
変わっているのです。
夜になると、ニノくんは、クモのマダムの曲を吹きました。
りんごのお酒のおいしい、あのレストランで、ふえを吹き、
その場のみんなを楽しませると、
「にいちゃん、上手いね!
さあさあ、こっちに来て、
一緒に飲もう。」
と、いろんな動物たちに誘われて、
りんごのお酒やおいしい料理をごちそうになりました。
たっぷり栄養をとったニノくんは、
ますます艶めき、美しさを取り戻していきました。
「どうしてかしら?」
ふえは、ニノくんの傍らで、
なんとも言えない物足りなさを感じ始めていました。
これまでと違う。
何かフィルターをかけられたように、思う存分表現できないのです。
…ニノくんだって、わかっているんでしょう?
そんな曲ばかり吹いていたって、つまらないって。
その日も、ニノくんは何軒かの料理店を回った後、りんごのお酒のおいしいレストランを訪れていました。
クモのマダムの曲を吹いた後、
やはり、「こっちに来なよ!」とイタチとタヌキの気のいいコンビに誘われました。
そのとき、
「それ、
この森の冬桜の枝でできているだろ?」と、白いキツネが声をかけてきました。
白いキツネは、古物商をしているから、
眼は確かなのだといいました。
そうは言っても、開襟の派手な模様のシャツを着て、サングラスを引っかけた姿と、
声も表情も仕草も、
なにもかも、なんだか信用できないように感じます。
ニノくんは、この白キツネがごちそうしてくれるというので、
一緒に座ってはなしをききました。
「昔、ヤバイ枝を扱ったことがあってね。
キミのそれは…まあ、そうでもないけど。」
白キツネは、ニノくんのふえを一べつしてから、続けました。
「持ってるだけで、だんだん気分が悪くなるようなヤツだったんだけど、
どこかの森で、それを触っても全然平気な奴がいてさ、
楽器を作ってるって言うから、くれてやったのさ。」
白キツネは、ニノくんを見て、ちょっとニヤっとしました。
「まさか、
キミがあの魔物のふえを吹くやまねこってこと、ないよね?」
ニノくんは、「まさか!」とかわして、
それ以上はなにも言わないようにしました。
白キツネは、それから、自分がいろんな森に行って珍しいものや頼まれたものを売る仕事をしていることを、
自慢げに話し続けました。
話の途中で、ニノくんは白キツネに、ちょっと、ふえを見せて欲しいと言われましたが、
ふえが嫌がりそうだったので、見せませんでした。
白キツネと別れてレストランを出てから、
ニノくんは、月明かりの下、
最近寝所にしている月の丘にむかいました。
忘れられた森から出て行かざるを得なくなった者たちは、
それぞれ近隣の森に移っていきました。
クモのマダムは、思うところあって
街に戻っていきました。
ニノくんは、というと、
ふえと共に、
ふえの故郷の北の森に来ています。
クモのマダムにもらった曲のおかげで、
もう、だれも惑わすことはないと思うと、
気持ちも軽くなり、表情も柔らかくなっていました。
瞳には潤いが戻り、
美しい毛艶を取り戻しつつあります。
北の森の動物たちは、やまねこのふえのことを知っていましたが、
今のニノくんを見て、まさかこれが、
あのやまねことは、思いませんでした。
それくらい、ニノくんの雰囲気は、
変わっているのです。
夜になると、ニノくんは、クモのマダムの曲を吹きました。
りんごのお酒のおいしい、あのレストランで、ふえを吹き、
その場のみんなを楽しませると、
「にいちゃん、上手いね!
さあさあ、こっちに来て、
一緒に飲もう。」
と、いろんな動物たちに誘われて、
りんごのお酒やおいしい料理をごちそうになりました。
たっぷり栄養をとったニノくんは、
ますます艶めき、美しさを取り戻していきました。
「どうしてかしら?」
ふえは、ニノくんの傍らで、
なんとも言えない物足りなさを感じ始めていました。
これまでと違う。
何かフィルターをかけられたように、思う存分表現できないのです。
…ニノくんだって、わかっているんでしょう?
そんな曲ばかり吹いていたって、つまらないって。
その日も、ニノくんは何軒かの料理店を回った後、りんごのお酒のおいしいレストランを訪れていました。
クモのマダムの曲を吹いた後、
やはり、「こっちに来なよ!」とイタチとタヌキの気のいいコンビに誘われました。
そのとき、
「それ、
この森の冬桜の枝でできているだろ?」と、白いキツネが声をかけてきました。
白いキツネは、古物商をしているから、
眼は確かなのだといいました。
そうは言っても、開襟の派手な模様のシャツを着て、サングラスを引っかけた姿と、
声も表情も仕草も、
なにもかも、なんだか信用できないように感じます。
ニノくんは、この白キツネがごちそうしてくれるというので、
一緒に座ってはなしをききました。
「昔、ヤバイ枝を扱ったことがあってね。
キミのそれは…まあ、そうでもないけど。」
白キツネは、ニノくんのふえを一べつしてから、続けました。
「持ってるだけで、だんだん気分が悪くなるようなヤツだったんだけど、
どこかの森で、それを触っても全然平気な奴がいてさ、
楽器を作ってるって言うから、くれてやったのさ。」
白キツネは、ニノくんを見て、ちょっとニヤっとしました。
「まさか、
キミがあの魔物のふえを吹くやまねこってこと、ないよね?」
ニノくんは、「まさか!」とかわして、
それ以上はなにも言わないようにしました。
白キツネは、それから、自分がいろんな森に行って珍しいものや頼まれたものを売る仕事をしていることを、
自慢げに話し続けました。
話の途中で、ニノくんは白キツネに、ちょっと、ふえを見せて欲しいと言われましたが、
ふえが嫌がりそうだったので、見せませんでした。
白キツネと別れてレストランを出てから、
ニノくんは、月明かりの下、
最近寝所にしている月の丘にむかいました。
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