43 / 88
<やまねこのふえ>のお話
21 さらなる迷い
しおりを挟む
うさぎの楽器やさんは、
走って追いかけて、
うさぎ足のバネで思いきりジャンプして
手を伸ばして、
カーキ色のコートの端をつかみました。
はずみで転がったので、
いてて…と見上げると、
それはもう、ニノくんとそっくりな、
いや、
ニノくんが何事もなく順調に育っていたら、こうであっただろうという、
大人のやまねこが、見下ろしていました。
「あっあなたは、もしや、」
そう。ここまで読んでくださっているみなさんは、だいたい見当がつきますよね!
この、魅力的な雄のやまねこは、
ニノくんのお父さんです。
それにしても、
なんとステキなやまねこでしょう。
定住せず、方々に旅をして暮らしているこのやまねこは、
どこでも生きていける知恵と力を持っていることが見て分かります。
「はぁ~、大人の魅力。」
うさぎの楽器やさんは、まだ話もしていない相手を見て、うなりました。
うさぎの楽器やさんとニノくんのお父さんは、川の近くに移動して、
ゆっくり話をすることになりました。
川の近くに、ニノくんのお父さんが今日の陣をとっていたからです。
向こう岸に石づたいに歩いて渡れそうな、小さな川ですが、
ところどころ深水があり、
美味しそうな魚も泳いでいます。
うさぎの楽器やさんは、そんなに好んで魚を食べませんが、
今日はたきぎを囲んで、ニノくんのお父さんにごちそうになっています。
たきぎを囲むと、特別な気もちになりますよね!
食事のおいしさも、格別なのです。
ニノくんのお父さんの名前はレノさんといいました。
手際よく、使い込んだ小さな鍋やナイフを使って、
かんたんな料理をこしらえる姿は、アウトドアの達人。
うさぎの楽器やさんも憧れます。
手伝ったら、余計な手間をかけることになりそうです。
仕込み終わって、鍋を火にかけたタイミングで、
うさぎの楽器やさんは、話しかけました。
「ニノくんには、会いましたか?」
レノさんは、火の向こう側で、
あまり表情を動かさずにいいました。
「会いませんよ。彼が生まれた後、一度も。」
「でも、息子だと、わかったんですね。」
「そりゃあ、まあ、そっくりですし。」
ここで初めて、口角が上がった表情を見て、
うさぎの楽器やさんは、ドキッとしました。
同時に、
こりゃあ大変と、
覚悟を決めました。
ホーロウ先生や、きつねの長老を相手にしてきたのですから、自信はありますがね!
「北の森でも、お見かけしました。
ニノくんを追いかけていらっしゃるんですか?」
うさぎの楽器やさんは、的確に欲しい答えを引き出そうと、
言葉を選びました。
「…生み出した責任は、ありますから。
どうにかするつもりです。」
そのとき、うさぎの楽器やさんは、感じとったのです。
自分も父親ですから、
もし、リン、ラン、レンが、同じ状況だとしたら、
きっと、こう考えると。
さし違えても…。
まさか!
「待ってください!」
うさぎの楽器やさんは、あわてて、続けました。
「私が、銀色の森で、ニノくんにふえを与えてしまった。
私にも、責任があるんです。
私にも、なんとかする権利は、ありますよね?」
レノさんは、初めて聞いた事実に、
一瞬、言葉を失いましたが、
うさぎの楽器やさんをまじまじと見つめ、
静かにこう言いました。
「そういうことなら、そうなりますね。」
ここで、火にかけておいた魚の鍋が、
ふきこぼれそうになったので、
レノさんとうさぎの楽器やさんの話は、
いったん途切れました。
鍋のふたを開けると、グツグツと煮込まれた魚とトマトとハーブのいい匂いが広がりました。
お皿に分けてもらって、
うさぎの楽器やさんは、スープを口に運びます。
「ああ、うまい。」
たきぎならではの、香ばしさが、たまりません。
何も言わずスープをすすっているレノさんを、向こうに見ながら、
うさぎの楽器やさんは、新たな人物の登場に、
さて、2つ目のふえをどうすべきかと、
迷っていました。
走って追いかけて、
うさぎ足のバネで思いきりジャンプして
手を伸ばして、
カーキ色のコートの端をつかみました。
はずみで転がったので、
いてて…と見上げると、
それはもう、ニノくんとそっくりな、
いや、
ニノくんが何事もなく順調に育っていたら、こうであっただろうという、
大人のやまねこが、見下ろしていました。
「あっあなたは、もしや、」
そう。ここまで読んでくださっているみなさんは、だいたい見当がつきますよね!
この、魅力的な雄のやまねこは、
ニノくんのお父さんです。
それにしても、
なんとステキなやまねこでしょう。
定住せず、方々に旅をして暮らしているこのやまねこは、
どこでも生きていける知恵と力を持っていることが見て分かります。
「はぁ~、大人の魅力。」
うさぎの楽器やさんは、まだ話もしていない相手を見て、うなりました。
うさぎの楽器やさんとニノくんのお父さんは、川の近くに移動して、
ゆっくり話をすることになりました。
川の近くに、ニノくんのお父さんが今日の陣をとっていたからです。
向こう岸に石づたいに歩いて渡れそうな、小さな川ですが、
ところどころ深水があり、
美味しそうな魚も泳いでいます。
うさぎの楽器やさんは、そんなに好んで魚を食べませんが、
今日はたきぎを囲んで、ニノくんのお父さんにごちそうになっています。
たきぎを囲むと、特別な気もちになりますよね!
食事のおいしさも、格別なのです。
ニノくんのお父さんの名前はレノさんといいました。
手際よく、使い込んだ小さな鍋やナイフを使って、
かんたんな料理をこしらえる姿は、アウトドアの達人。
うさぎの楽器やさんも憧れます。
手伝ったら、余計な手間をかけることになりそうです。
仕込み終わって、鍋を火にかけたタイミングで、
うさぎの楽器やさんは、話しかけました。
「ニノくんには、会いましたか?」
レノさんは、火の向こう側で、
あまり表情を動かさずにいいました。
「会いませんよ。彼が生まれた後、一度も。」
「でも、息子だと、わかったんですね。」
「そりゃあ、まあ、そっくりですし。」
ここで初めて、口角が上がった表情を見て、
うさぎの楽器やさんは、ドキッとしました。
同時に、
こりゃあ大変と、
覚悟を決めました。
ホーロウ先生や、きつねの長老を相手にしてきたのですから、自信はありますがね!
「北の森でも、お見かけしました。
ニノくんを追いかけていらっしゃるんですか?」
うさぎの楽器やさんは、的確に欲しい答えを引き出そうと、
言葉を選びました。
「…生み出した責任は、ありますから。
どうにかするつもりです。」
そのとき、うさぎの楽器やさんは、感じとったのです。
自分も父親ですから、
もし、リン、ラン、レンが、同じ状況だとしたら、
きっと、こう考えると。
さし違えても…。
まさか!
「待ってください!」
うさぎの楽器やさんは、あわてて、続けました。
「私が、銀色の森で、ニノくんにふえを与えてしまった。
私にも、責任があるんです。
私にも、なんとかする権利は、ありますよね?」
レノさんは、初めて聞いた事実に、
一瞬、言葉を失いましたが、
うさぎの楽器やさんをまじまじと見つめ、
静かにこう言いました。
「そういうことなら、そうなりますね。」
ここで、火にかけておいた魚の鍋が、
ふきこぼれそうになったので、
レノさんとうさぎの楽器やさんの話は、
いったん途切れました。
鍋のふたを開けると、グツグツと煮込まれた魚とトマトとハーブのいい匂いが広がりました。
お皿に分けてもらって、
うさぎの楽器やさんは、スープを口に運びます。
「ああ、うまい。」
たきぎならではの、香ばしさが、たまりません。
何も言わずスープをすすっているレノさんを、向こうに見ながら、
うさぎの楽器やさんは、新たな人物の登場に、
さて、2つ目のふえをどうすべきかと、
迷っていました。
0
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる