うさぎの楽器やさん

銀色月

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<やまねこのふえ>のお話

21 さらなる迷い

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うさぎの楽器やさんは、
走って追いかけて、
うさぎ足のバネで思いきりジャンプして
手を伸ばして、
カーキ色のコートの端をつかみました。


はずみで転がったので、
いてて…と見上げると、

それはもう、ニノくんとそっくりな、
いや、
ニノくんが何事もなく順調に育っていたら、こうであっただろうという、
大人のやまねこが、見下ろしていました。


「あっあなたは、もしや、」


そう。ここまで読んでくださっているみなさんは、だいたい見当がつきますよね!

この、魅力的な雄のやまねこは、
ニノくんのお父さんです。



それにしても、
なんとステキなやまねこでしょう。

定住せず、方々に旅をして暮らしているこのやまねこは、
どこでも生きていける知恵と力を持っていることが見て分かります。


「はぁ~、大人の魅力。」

うさぎの楽器やさんは、まだ話もしていない相手を見て、うなりました。


うさぎの楽器やさんとニノくんのお父さんは、川の近くに移動して、
ゆっくり話をすることになりました。

川の近くに、ニノくんのお父さんが今日の陣をとっていたからです。


向こう岸に石づたいに歩いて渡れそうな、小さな川ですが、
ところどころ深水があり、
美味しそうな魚も泳いでいます。


うさぎの楽器やさんは、そんなに好んで魚を食べませんが、
今日はたきぎを囲んで、ニノくんのお父さんにごちそうになっています。

たきぎを囲むと、特別な気もちになりますよね!
食事のおいしさも、格別なのです。

ニノくんのお父さんの名前はレノさんといいました。

手際よく、使い込んだ小さな鍋やナイフを使って、
かんたんな料理をこしらえる姿は、アウトドアの達人。

うさぎの楽器やさんも憧れます。
手伝ったら、余計な手間をかけることになりそうです。


仕込み終わって、鍋を火にかけたタイミングで、
うさぎの楽器やさんは、話しかけました。


「ニノくんには、会いましたか?」

レノさんは、火の向こう側で、
あまり表情を動かさずにいいました。

「会いませんよ。彼が生まれた後、一度も。」

「でも、息子だと、わかったんですね。」

「そりゃあ、まあ、そっくりですし。」

ここで初めて、口角が上がった表情を見て、
うさぎの楽器やさんは、ドキッとしました。

同時に、
こりゃあ大変と、
覚悟を決めました。

ホーロウ先生や、きつねの長老を相手にしてきたのですから、自信はありますがね!


「北の森でも、お見かけしました。
 ニノくんを追いかけていらっしゃるんですか?」

うさぎの楽器やさんは、的確に欲しい答えを引き出そうと、
言葉を選びました。


「…生み出した責任は、ありますから。
 どうにかするつもりです。」

そのとき、うさぎの楽器やさんは、感じとったのです。
自分も父親ですから、
もし、リン、ラン、レンが、同じ状況だとしたら、
きっと、こう考えると。

 さし違えても…。
 
 まさか!
「待ってください!」

うさぎの楽器やさんは、あわてて、続けました。

「私が、銀色の森で、ニノくんにふえを与えてしまった。
 私にも、責任があるんです。
 私にも、なんとかする権利は、ありますよね?」


レノさんは、初めて聞いた事実に、
一瞬、言葉を失いましたが、

うさぎの楽器やさんをまじまじと見つめ、
静かにこう言いました。

「そういうことなら、そうなりますね。」


ここで、火にかけておいた魚の鍋が、
ふきこぼれそうになったので、
レノさんとうさぎの楽器やさんの話は、
いったん途切れました。


鍋のふたを開けると、グツグツと煮込まれた魚とトマトとハーブのいい匂いが広がりました。
お皿に分けてもらって、
うさぎの楽器やさんは、スープを口に運びます。

「ああ、うまい。」
たきぎならではの、香ばしさが、たまりません。


何も言わずスープをすすっているレノさんを、向こうに見ながら、

うさぎの楽器やさんは、新たな人物の登場に、
さて、2つ目のふえをどうすべきかと、
迷っていました。
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