うさぎの楽器やさん

銀色月

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<やまねこのふえ>のお話

20 2つ目のふえ

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忘れられた森の崩壊は、
じわじわと広がり、
止められませんでした。


元々、稀な条件下に成り立っていた 忘れられた森は、
たった1日、ふえの音を聴いただけで、
バランスをくずし、
霧が晴れて、太陽の光が入り込む部分が増えていったのです。

強い日光に耐えられない植物たちが、
みるみる紫外線にやられていきました。


忘れられた森に残りたかった者たちも、
とうとう、まるはだかになった森から、
出て行かざるを得なくなり、
方々に散っていきました。




古の森の動物たちは、
ガケの下の珍しい光景を見に、集まっています。

これも、やまねこのしわざだと、どこからともなくウワサがたちます。

ガケの下の 忘れられた森の光景は、
青い湖のある森と、同じだったからです。


そもそもガケの下に森があるなんて、
いままで、だれも知らなかったんですけれど、ね!


うさぎの楽器やさんも、ガケの下を見に来ていました。

「これも、ニノくんがやったというのか。」
ガックリと気落ちしてしまいます。


うさぎの楽器やさんは、古の森で、すでに、2つ目のふえ作りにとりかかっており、
短い冬桜の枝の 下処理を終え、
削り始めているところでした。


やまねこのふえの音に 共鳴するふえを、
作るつもりでいるのです。


音は、振動の波が空気を伝わって聴こえます。

ニノくんのふえの音が、動物や植物に悪影響を与えているのなら、
その音の波を変化させてやれば、いいのではないかと考えたのです。

そう、同じ冬桜の、もうひとつのふえで、
ハーモニーをつくるように。


音楽には、音階がありますが、
音階の間にも音程は存在しています。

また、楽器の材質によっても、音質が変わってしまいますから、
全く同じ冬桜の枝ならば、周波数を合わせやすいのです。


うさぎの楽器やさんは、その耳で聴いたニノくんのふえの音と、共鳴させる自信がありました。

しかし、この惨状を見て、
考えが揺らぎます。


 そんなことで、いいのか?

ニノくんが、またしても罪もない森を全滅させてしまったのなら、
自分は、ふえを作り出したものとして、
責任がある。

 共鳴などで、ごまかしていて、
 いいのか?

そのとき、うさぎの楽器やさんの脳裏にひとつの言葉がよぎりました。


 …共振。

共鳴と共振は、理論的には同じともいえますが、
音に対して言うと、捉え方が大きく違います。

ともに鳴る共鳴に対して、
共振は、そのメカニズムを利用した音の反発で、
破壊にもなりえます。

音がガラスを割るようなことが、あるのです。


うさぎの楽器やさんは、共振をおこすふえを作るべきではないかと、思い始めたのです。

自分が作ってしまったふえを破壊するための…。


そんな考えをしていると、
だんだん、手足が冷たくなっていくのがわかりました。


ガケの下を見て、ひとしきり話をし終えた動物たちは、
少しずつ古の森の東の方にひきあげていきました。

すると、残った動物たちの中に、
ニノくんそっくりなやまねこがいるのを、
うさぎの楽器やさんは見たのです。


 見間違い⁈

 いや、あの時も、見た。

 そう。北の森の、
 りんごのお酒が美味しいレストランだ。

 カーキ色のコートに、
 革のリュックを背負っている、やまねこ!

「まっ、、まってっ!」
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