うさぎの楽器やさん

銀色月

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<やまねこのふえ>のお話

15 ふえの音

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うさぎの楽器やさんは、飛べなくなったカラスの前に、
身をていして、飛び出しました。

そして、やまねこに向かって叱りつけるように、さけびました。


「ニノくんっ‼︎」


飛びかかろうとしたやまねこの動きは、
とまりました。

間近でみた、その、すさんだ表情は、
うさぎの楽器やさんを見ても、反応を見せず、
なつかしいニノくんのそれとは、全く違います。


やせて、毛ヅヤも悪く、
あの、くっきりしていた、しま模様さえ、
よくわかりません。

でも、
ギラリ、うさぎの楽器やさんとにらみ合う、その目は、

やはり、ニノくんなのです。

 

ああ…。

うさぎの楽器やさんは、泣きそうになりました。


カア、カア、カア、と、カラスたちの声が近づいてきます。

やまねこは、2~3歩、後ずさりすると、
きびすを返し、走りさっていきました。



青い湖のある森のカラスは、右翼を負傷し、
飛べない状態なので、
しばらくは、安全なところに身を隠すことになりました。

飛べないということは、
鳥にとって、命にかかわる甚大なことなのです。

「大丈夫、切れただけだ。
 折れたわけじゃない。
 傷がふさがって、飛べるようになったら、戻る。」

それまで、頼んだぞ。と、
青い湖のある森のカラスは、北の森のカラスにいいました。

北の森のカラスが、後任のリーダーとなったのです。



カラスたちが、新しいリーダーの元に、決起している時、

うさぎの楽器さんは、ぼんやりと思っていたことを、確信に変えつつありました。

長老から受け取った冬桜の枝で、
もうひとつ、ふえをつくらなければならないということです。

吹けば、ニノくんが答えてくれるのではないかと思っていた自分は、
なんとお気楽だったのかと、ちょっと反省しました。


「それにしても、
 どんなふえをつくるか?」

ふえは、長さや太さ、厚み、
あなの場所、そしてもちろん材質、
ひいては塗る樹液によっても、音色や、音域がかわります。

作ってからでは、変えることはできませんが、これから作るのであれば、自由自在です。

ただし、この枝は、半分におれてしまったので、
短く、高い音域のふえになりますよ!

それでも、ピッチや、音色をどうするかは、
うさぎの楽器やさんの、腕のみせどころなのです。



うさぎの楽器やさんは、ショルダーバッグから、布につつんだ枝を出しました。

そっと、布を開いて、枝をながめます。

「どうなりたい?」


枝にきいてみます。
これまでも、そうやって楽器を作ってきたのです。


枝は、答えません。

そういう場合は、たいてい、うさぎの楽器やさんの思わくと、枝の意見が、相違していて、
答えが、きこえないのです。

「はあ~、わからん。」



その時、満月の夜空に、ひとすじ、ふえの音が響きました。


もの悲しく、冷たく、
美しいメロディー。


つい、きき入ってしまったのは、
うさぎの楽器やさんだけでなく、カラスたちも同じでした。



 ニノくんの音だ。


あの、最後のお披露目コンサートのときの、
すこし大人びたところのある少年らしい演奏と比べて、
なんと、自然で、
魅惑的な音だろう。

息をするように、うたっている。
吸った息にさえ、うたが聴こえる。


どこで、どうやって、成長したのだろう?

いや、この音からは、考えられない、
容姿のすさみ方は、どういうことか?



ああ、もっと、他の曲も、ききたい。

アップテンポの曲は、どうかな?

 

我にかえったのが早かったのは、
カラスたちの方でした。
「いくぞ。」
20羽ほど集まっていたカラスたちが、
次々に飛び立ちました。


北の森のカラスは、一度うさぎの楽器やさんのところへ来て、
「青い湖の森のカラスのこともあって、
 決めたんだ。
 われわれは、今夜、総攻撃をかける。」
と告げると、

うさぎの楽器やさんが何かいうのを待つこともなく、飛び立っていきました。
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