うさぎの楽器やさん

銀色月

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<やまねこのふえ>のお話

10 桜の正体

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「オレは、見たことないけれど、
 どこだったか、悪い木があったんだって、言ってたのは、ばあちゃんかな~…、

 なあ、長老!
 悪い木って、どこにあったんだ?」

北の森のカラスが、大きな声で、前長老にききました。


「悪い木は、もうないよ。
 雷が落ちたんだもの、燃えてね、
 天罰だよ。」

「もう、長老~!」


今度は、うさぎの楽器やさんが、笑いをこらえています。

すると、長老とカラスのやりとりをきいていたきつねの子どもが、
「月の丘だよ。」と、いいました。

「おかあさんがね、行っちゃだめだって。
 昔、悪い木があったところだから、
 遊ばないでって。」


きつねの子どもは、カラスとうさぎの視線を集めたので、
うれしくなって、もっと言いたくなりました。

「遊んでる子も、いるんだよ。
 でも、大じいじの代の本当の話だから、
 ボクは忘れちゃいけないって、
 じいじもお父さんも言うんだ。」


「いったい、どんな悪いことを?」
うさぎの楽器やさんは、カラスを見ました。

「おれが生まれる、ずっと前だからな、
 さわるとよくないことがあるとか、
 切ると災いがあるとか、
 たしか、そんなことだったんじゃないかなぁ。」

カラスが、そう言ったので、
あれ?このカラス、
思っていたより、若者なのだ!と、
うさぎの楽器やさんは、おどろきました。


「ははぁ、ちょっと違うんだなぁ。

 あの桜はなぁ、
 悪意を持っているんだよ。

 誰かを、おとしいれようとか、
 不幸を願うとかなぁ。

 いろんな動物たちが、惑わされて、な。
 もう、しょうがねぇやつだ。」

まるで、今もそこにあるかのような口ぶりで、前長老がいいました。

「生まれながらにして、そういう性質をもっているものは、いるもんさ。」


でも、悪い木と呼んでいながら、
長老として、どこか、その存在を認めているようにもきこえました。


何か、理由があって、
仕方なくそうなったわけじゃない。
誰かのせいでもない。
生まれながらにして、そういう性質を持つものは、
わりといるものだ。

ただ、社会の中では、
その性質にちゃんと折り合いをつけているのだ。

ほんとうの自分と戦いながら。

すべての生き物が、等しく善良であることを求めるのは、高慢かもな。

うさぎの楽器やさんは、妙に納得していました。


なんとかする方法を探す、手がかりくらいには、なるはずだ。

「ところで、
 その、雷で燃えてしまったはずの桜の枝が、どうして白キツネに渡ったのですか?」

うさぎの楽器やさんが聞くと、

「ああ、まだ、あるよ。
 立派な枝が、少し燃えずに残ったんで、
 とってあるんだ。
 
 いつだったか、欲しいっていったのがいて、分けてやったけどな。」

また、前長老の話は、飛びましたが、
方向はいい。

「ええっ⁈
 なんでまた、そんな不吉な悪い木を、
 いまだに、とってあるなんて…」

気がしれない。と、うさぎの楽器やさんは、思いましたが、

悪い木を、クセの強い、森の住人のひとりと認めていたのだとすれば、
生きていた証にと、残したかもしれません。


「ほしいんなら、やるよ。」

「ええっ!」
 そんなもんなの?

うさぎの楽器やさんは、カラスと、顔を見合わせてから、こう言いました。

「と、とりあえず、
 見せてもらえますか?」
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