うさぎの楽器やさん

銀色月

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<森のオルガン>のお話

11 旅立ち

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異変は、自分も感じていた。

自分が、あんな気持ちになるなんて、信じられなかったが、今までに、みじんも感じたことはないとは言えない。
心のどこかに、自尊心はあって、それが、どういうわけか、ニノくんの演奏をきいているうちに増幅された。

異変は、動物それぞれに、違う種類のものだったようだ。

たぬきの女の子は、気分が悪くなったと言っていたし、やまあらしのおじいさんは、興奮して怒っていた。
他の動物たちも、席を立つほどではなかっただけで、何か、感じていたと思う。

「今さら、ニノくんとあのふえを引きはなすなんて、できないよなぁ。」

ニノくんと、ふえの出会いを知っているだけに、他のふえに持ち替えることを勧めるなんて、うさぎの楽器やさんには、できません。


「だとしたら、楽器やは、何ができる?」




「あなたの、作り出した楽器は、みんな、生き生きとしてるわ。」
と、いつのまにか側に来ていた、うさぎの奥さんがいいました。

「オルガンの木の、うれしそうだったこと。弾いてて、わかった。
きっと、あのふえも、うれしかったのよ。」

うれしかったから、ちょっと、力を出しすぎたのかもしれない…
としても、ねぇ。
「こうなってしまうと、みんな、怖がって、もう、ニノくんのふえを聴きたがらないだろうし、なぁ。」
うさぎの楽器やさんは、ためいきまじりに言いました。

聴いたら異変を感じるとは、一体、どうしたことか?
桜の枝について、知る必要がある。

あの桜の枝が、どんな生き方をしてきて、どうして、ふえになりたがったのか?
ニノくんを捉えて、どうしたいのか?
ちゃんと知る、責任がある。

「これが、あのふえを作り出した、楽器やの仕事だ。」


ところで、きみは、ふえの音を聴いて、どうだったの?
と、うさぎの楽器やさんが、奥さんに聞いたところ、奥さんは、何もかもおもしろくなっちゃって、笑っていたと言いました。


そのとき、リン、ラン、レンが、さわいで、やってきました。

「お父さん、ニノくんが、森を出て行っちゃった!」
「ふえの正体を探すんだって。」
「かっこいい!ぼくも、行きたい!ねえ、行きたい!」


「!」
うさぎの楽器やさんは、すぐに、家を飛び出しましたが、ニノくんには、追いつけませんでした。


「それは、楽器やの仕事だ、ニノくん。」
 



その後、うさぎの楽器やさんも、ふえの正体を探しに行くのですが、

それは、リンとランとレンがもう少し大きくなってからのことです。


旅立ったニノくんのお話は、また、次のお話で。


<森のオルガン>のお話は、
これで、おしまいです。


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