うさぎの楽器やさん

銀色月

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<森のオルガン>のお話

6 完成の日

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オリーブの木のお店が、閉店時間になったので、ニノくんは、楽器やさんの戸じまりをして、
リンとランとレンを連れて銀色トウヒの森に向かいました。

うさぎの楽器やさんが、いるところに、
子どもたちを送って帰るように、頼まれていたのです。


うさぎの楽器やさんは、今日も、銀色トウヒの森で、オルガンを作っていたはずですが…、
オルガンの木のところに、うさぎの楽器やさんの白い姿が見あたりません。


オルガンは、美しくそろった鍵盤が、
もう出来上がっています。
押せば、今にも音が鳴りそうです。

「どこに行っちゃったんだろう?」
ニノくんは、まわりを見渡しました。


あっ、そうしているうちに、
ランが、もう、オルガンの前にすわって、
今、まさに、鍵盤を押そうとしているところです!

「トー」

やわらかい、金属の音色。

ハーモニカとフルートが混ざったような、でも、大きな楽器特有の、豊かな響きを持った、オルガンの音が、なりました。


「できたよ。」

うさぎの楽器やさんが、オルガンの木の裏側から、あらわれました。
「もうちょっと、調整が必要だけどね。」


枯れて、空洞になっている幹に、長いフルートのような管が、背の順に並べられていて、
空気を送ると、その一本一本が、ふえのように、音を鳴らしているのです。

ランが、かんたんな曲をいくつか続けて弾きました。


「オルガンは、どうやって、音を吹いているんです?」
ニノくんは、オルガンを見つめたまま、うさぎの楽器やさんにききました。

「吹いてる、か。
たしかに、そうだね。

風、だよ。

裏にね、風をとりいれる窓を作ってあるんだ。」

銀色トウヒの下で、このオルガンの木が、枯れずに育っていたのは、
木漏れ日が明るかったのと、
この場所が、風のとおり道だったことが、大きな理由でした。

「風がない時には、これを踏んで、空気を送る。」
裏にまわって、ペダルのようなものを見せてくれました。


「誰が、踏むんですか?」
ニノくんが、きくと、うさぎの楽器やさんは、笑って言いました。

「そりゃあ、楽器やが、踏むのよ!」


 
「そうだ、ニノくん。」
オルガンを閉じて、帰りじたくをしているときに、うさぎの楽器やさんは、いいました。

「きみは、今日、ふえの持ち主になったよ。」

ニノくんは、この日が来ることを、
忘れていました。
楽器やさんの仕事が、このままずっと、
続くと思っていたのです。

楽しかったから。

ニノくんが、何も言えずにいると、
うさぎの楽器やさんが、言いました。

「長いあいだ、楽器やを手伝ってくれて、ありがとう。

そうだ、

このオルガンのお披露目コンサートをするから、
きみも、そこで、ふえの演奏をしたら、どうかな?」

若い演奏家を世に送りだすのも、楽器やの大事な仕事なのさ。と、うさぎの楽器やさんは、笑っていました。
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