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<うさぎの楽器やさん>のお話
番外編<帰り道>
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ピアノ・トリオ<キングダム>は、
銀色トウヒの木が群生する、銀色の森でのコンサートを終えて、
夜道を歩いています。
バイオリン弾きの黒ひょうは、
バイオリンが入ったケースを片手に持ち、
チェロ弾きのひょうは、
自分の背の半分くらいの大きなケースを、片方の肩に担いでいます。
ライオンのピアノ弾きは、
楽譜の入った、マチの薄いカバンを持っています。
ピアノは、先に、イタチの運送やさんが運んでいきましたから、自分で運ぶことは、ないのです。
「今日の森は、ノリが良かったな!
お客さんの耳ができてるって言うのか…」
「うん、反応がいいんだよね!
テンション上がった。」
ライオンが最後まで言いおわる前に、
黒ひょうが答えました。
<キングダム>のメンバーは、仲良しですが、ふだん、それぞれに演奏活動をしているので、
3頭そろって話すのは、意外にも、こんな時しか、ありません。
「みんな、音楽が好きなんだってさ。
森のオーケストラも、あるんだって。
あの、やまねこの男の子が言ってたよ。」
チェロ弾きのひょうが、いいました。
「やまねこの男の子」とは、今日のコンサートで、楽屋のお世話係をしていた、
ニノくんのことです。
つい、さっきまで、
帰りのしたくが整うまでの、短い間でしたが、
<キングダム>は、ニノくんと合奏して遊んでいました。
「あの子、変わったふえ、持っていたな。」
ライオンが、気になっていたことを思い出したように、いいました。
「あれ、さ、感じなかった?」
黒ひょうが、ライオンに言いました。
「だから、伴奏し始めたんだろ?」
「やっぱり、そう?
確信は、なかったけど、
おまえが言うなら、そうなんだろうな。」
ライオンは、黒ひょうの耳に、絶対の信頼を寄せていたので、納得しました。
「なに?」
かやの外で、あっけらかんときき返したのは、チェロ弾きのひょうです。
「あの子のふえのことだよ。
おれ、違和感を確かめたくて、伴奏し始めたんだ。
おまえたちなら、わかってくれるかな、と思ってさ。」
「わかるって、何が?」
ひょうが、どうやら、わかってなかったようなので、黒ひょうがいいました。
「オレたちの楽器も、そうだけど、さ、
演奏家の良さを存分に引き出してくれる楽器に出会うと、
それは、もう、宝ものだろ?
オレのバイオリンだって、そう。
それがあるからこそ、もっと演奏も良くなる。
…でもさ、引き出しすぎたら、厄介なことも、あるだろう?」
「たとえば、楽器が持っている、良くないものが、増幅されたりするって、ことさ。」
こんどは、黒ひょうが言いおわる前に、ライオンがつけたしました。
「あの、ふえが、そうだって言うの?」
ひょうがききました。
「まあ、普通じゃないってことは、確かだよね。
あんなの、今まで感じたこと、ない。」
黒ひょうは、確信をもって、いいました。
「あんまり、上手くなんないと、いいな。あの子。」
「…なったら、どうなるの?」
「手がつけられない、かもね。」
他人ごと、といったふうに、ライオンが答えました。
その時、ロバの車やさんが、<キングダム>に、声をかけました。
「お待ちしていましたよ。」
約束の場所に、幌のついた客車を引いて、迎えに来ていたのです。
「ああ、ありがとう。」
そう言って、<キングダム>は、ライオン、黒ひょう、そして、ひょうの順に、客車に乗りこみました。
「街についたら、一杯やりながら、うまいもん食おうぜ。」
「いいね!」
ライオンと黒ひょうは、もう、食事のことで、頭がいっぱいになっていました。
「そんな風には、聴こえなかったけどな…。
ぼくは、また、いつか、聴いてみたいと、思うよ。」
ひょうは、チェロの入ったケースを押さえながら、
客車に揺られて、やまねこの男の子のふえの音を、思い出していました。
おわり
次から、<森のオルガン>のお話になります♪
銀色トウヒの木が群生する、銀色の森でのコンサートを終えて、
夜道を歩いています。
バイオリン弾きの黒ひょうは、
バイオリンが入ったケースを片手に持ち、
チェロ弾きのひょうは、
自分の背の半分くらいの大きなケースを、片方の肩に担いでいます。
ライオンのピアノ弾きは、
楽譜の入った、マチの薄いカバンを持っています。
ピアノは、先に、イタチの運送やさんが運んでいきましたから、自分で運ぶことは、ないのです。
「今日の森は、ノリが良かったな!
お客さんの耳ができてるって言うのか…」
「うん、反応がいいんだよね!
テンション上がった。」
ライオンが最後まで言いおわる前に、
黒ひょうが答えました。
<キングダム>のメンバーは、仲良しですが、ふだん、それぞれに演奏活動をしているので、
3頭そろって話すのは、意外にも、こんな時しか、ありません。
「みんな、音楽が好きなんだってさ。
森のオーケストラも、あるんだって。
あの、やまねこの男の子が言ってたよ。」
チェロ弾きのひょうが、いいました。
「やまねこの男の子」とは、今日のコンサートで、楽屋のお世話係をしていた、
ニノくんのことです。
つい、さっきまで、
帰りのしたくが整うまでの、短い間でしたが、
<キングダム>は、ニノくんと合奏して遊んでいました。
「あの子、変わったふえ、持っていたな。」
ライオンが、気になっていたことを思い出したように、いいました。
「あれ、さ、感じなかった?」
黒ひょうが、ライオンに言いました。
「だから、伴奏し始めたんだろ?」
「やっぱり、そう?
確信は、なかったけど、
おまえが言うなら、そうなんだろうな。」
ライオンは、黒ひょうの耳に、絶対の信頼を寄せていたので、納得しました。
「なに?」
かやの外で、あっけらかんときき返したのは、チェロ弾きのひょうです。
「あの子のふえのことだよ。
おれ、違和感を確かめたくて、伴奏し始めたんだ。
おまえたちなら、わかってくれるかな、と思ってさ。」
「わかるって、何が?」
ひょうが、どうやら、わかってなかったようなので、黒ひょうがいいました。
「オレたちの楽器も、そうだけど、さ、
演奏家の良さを存分に引き出してくれる楽器に出会うと、
それは、もう、宝ものだろ?
オレのバイオリンだって、そう。
それがあるからこそ、もっと演奏も良くなる。
…でもさ、引き出しすぎたら、厄介なことも、あるだろう?」
「たとえば、楽器が持っている、良くないものが、増幅されたりするって、ことさ。」
こんどは、黒ひょうが言いおわる前に、ライオンがつけたしました。
「あの、ふえが、そうだって言うの?」
ひょうがききました。
「まあ、普通じゃないってことは、確かだよね。
あんなの、今まで感じたこと、ない。」
黒ひょうは、確信をもって、いいました。
「あんまり、上手くなんないと、いいな。あの子。」
「…なったら、どうなるの?」
「手がつけられない、かもね。」
他人ごと、といったふうに、ライオンが答えました。
その時、ロバの車やさんが、<キングダム>に、声をかけました。
「お待ちしていましたよ。」
約束の場所に、幌のついた客車を引いて、迎えに来ていたのです。
「ああ、ありがとう。」
そう言って、<キングダム>は、ライオン、黒ひょう、そして、ひょうの順に、客車に乗りこみました。
「街についたら、一杯やりながら、うまいもん食おうぜ。」
「いいね!」
ライオンと黒ひょうは、もう、食事のことで、頭がいっぱいになっていました。
「そんな風には、聴こえなかったけどな…。
ぼくは、また、いつか、聴いてみたいと、思うよ。」
ひょうは、チェロの入ったケースを押さえながら、
客車に揺られて、やまねこの男の子のふえの音を、思い出していました。
おわり
次から、<森のオルガン>のお話になります♪
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