うさぎの楽器やさん

銀色月

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<うさぎの楽器やさん>のお話

1 小さなお店

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オリーブの木のお店は、今日から、
「3周年記念セール」を開催しています。

お店が開くまえから、入り口に、
お客さんが、ずらりとならんで待っていて、
開いたと同時に、ぞくぞくと、
お目当てのお店に入っていきました。

オリーブの木のお店は、森でいちばん立派なオリーブの木にあるショッピングモールです。

3つに分かれた枝を、うまくつないでつくられたお店は、
おそろいのステンドグラスの看板をかかげて、おしゃれな雰囲気にしつらえてあります。

1階はレストランで、
2階は雑貨やさん、
3階はアイスやさんです。

それから、ついこの間、
2階に、もうひとつ部屋がつくられて、
新しいお店がオープンしました。

それが、うさぎの楽器やさんです。


うさぎの楽器やさんは、楽器の手入れをしたり、新しい楽器をつくったりします。

この森の動物たちは、音楽が大好き。
森には、どうぶつたちのオーケストラもあります。

オーケストラの団員も、そうではないものも、
またひとつ、便利なお店ができたことを、よろこんでいるのです。

さて、3周年記念セールですが…

レストランは、セール中の限定メニュー、
白チーズのハンバーグを出していて、

雑貨やさんは、なんと、雑貨がぜんぶ半額!
アクセサリーも、食器も半額!

アイスやさんは、色とりどりにならべられたアイスの中から、
もう1つおまけにサービスしています。

うさぎの楽器やさんも、3周年記念セールのあいだ、
楽器を安く売ることにしました。

「さあ、いらっしゃい。
よくみて、きいて。どれも一点もの。
めぐりあったら、運命さ。」
 
うさぎの楽器やさんは、調子よく、
歌うようにいいました。

 
楽器を選ぶときは、だれもが真剣です。 

楽器は、値段が高いし、同じものはいくつも必要ありませんから、
自分にぴったりの、気に入ったものを選びたいのです。

それを、少しでも安く、お得に買えるなら、幸運です。

そんなわけで、うさぎの楽器やさんにも、
欲しかった楽器を、安く買うために、
たくさんのお客さんが来ています。

そう言っても、小さなお店ですから、
一度に全員入れません。
順番に入ってもらっていますよ!


気になる楽器を見つけたら、
ポロポロンとためしに弾いてみたり、
プーワーと吹いてみたり、
ドンドォンとたたいてみたりして、
音を出すと、
自分が思っていたとおりだったり、
思っていたのと違ったりするのがわかります。

思っていたとおりの音が出せたら、
決まりです。

違ったときは、他のものを試してみると、
案外、そっちの方が良かったりもします。

お客さんは、心に決めた楽器を買って、
大事そうに持って帰ります。

うさぎの楽器やさんは、そんな様子をみて、うれしくなるのです。

まるで、自分が作り出した楽器が、
すてきなパートナーを見つけたように思うのです。

 
夕方になって、やっと、お客さんが少なくなりました。
 
お店にあった楽器は、セール1日めで、
ほとんど売れてしまいました。

セールは、早いもの勝ちです。

後から行っても、だれかに先に買われてしまっていたら、
お目当のものには、もう2度とめぐりあえません。

だから、本当に欲しいものがあったら、
値段が高くても、見つけたその時に買ってしまうのが一番いいのですがね!

ほら、たった今も、
きつねの女の子が、お店に入ってきて、あっ、という顔をした後、がっかりして出ていったところです。

うさぎの楽器やさんは、お店が閉まったら、
すぐに、新しい楽器をつくり始めようと考えていました。

「このままでは、なんにも楽器のない楽器やさんになってしまうよ。」

しかし、バイオリンなどは、
作るのに、時間がかかります。

「そうだな、小さな打楽器を、
いくつか作ろう。」
と、空っぽになった棚を見ながら、
機嫌良くひとりごとを言いました。

お店にいたお客さんが、ひとり、またひとり出ていき、

さいごのひとりと入れちがいに、
やまねこの男の子が、入ってきました。
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