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第一章 神託騎士への転生
閑話 モフモフ愛は種族を越える
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「のあぁぁぁぁぁーーーー!」
「どうしたの?」
ディエスたちがエルフ女性たちと別れ旅立った後、突然奇声を上げた者が……。
その女性は『レイラ』という女性で、ディエスに待っててと言っていた女性だ。爽やかな笑顔で別れをしたはずなのに、姿が見えなくなった直後に膝から崩れ落ちたのだ。
心配しても無理はない。
「どうしたの……? 本当に聞いてる? あんなのを見せられてほっとく人なんかいないんじゃないかな?」
「でも……あの人は、そういうの嫌いだと思うよ。自分もやらないけど、人にもさせないっていうか……」
レイラの質問に、一番最初に助けられた双子のうち、ドラドにぞっこんだった方の女性――ミラが答えた。
「どういう意味?」
「助けたんだから何かくれとも言えたのに、何も要求しなかった。自分がしたかったからした以外の答えは用意していなかったはず。だから反対に物に釣られてついてくる人は信じてないと思うし、受け入れないと思うよ。逆に騎士様に取引を持ち出された人がいたら、『あなたを信じていません』ってことだと思う。……家族になったら分からないけど」
「それは……オラクルナイトの精神だからじゃなくて? それに殿下を助けるんだから、エルフである私たちを助けてもおかしくないと思うわよ? 殿下を助けたついでだから、お礼はもらわないってことじゃ?」
「……オラクルナイトの詳細を知っている人いる?」
双子の片方で、カグヤやティエラと涙ながらに別れを惜しんでいた女性――エラが、他のエルフ女性にも確認をとった。
全員首を横に振り否定を示す。
「……わたしたち長命のエルフが知らないことを、他の種族が知っているとは思えない。この大陸では教会関係者くらいじゃないかな?」
「……だから?」
「騎士様も村長に聞いて知ったらしいから、最高位の神官という地位を利用しているだけで、他の人が言うとおり【落ち人】としての認識が強いと思う。――じゃあ【落ち人】の精神って何?」
「……」
全員が沈黙してしまった。
ディエスがオラクルナイトと言い、圧倒的な武力と神がかった物品を出すから、【落ち人】という根本的な立場が見えにくくなっていた。
でも見えにくくなっただけで、なくなったわけではない。
本来お金を稼ぐこともできないから奴隷階級にいるのに、対価を要求できる機会を得ながらも要求しなかった。
さらに、【落ち人】が持っていた場合に非常に面倒なことになる物を見せているのに、エルフ女性たちに宣誓させなかったのだ。
見た者はもれなく死ぬか宣誓しているのに。
「しかも聞いたところによると、ルシア様を助けるとは言ったけど、エルフはオラクルナイトの拉致に加担したから助けるつもりはないって言ってたらしいよ。監視の人が言ってた。つまり、わたしたちが生きているのは気まぐれだよ? 物に釣られたのが知られて、騎士様の情報を漏らした場合は【聖王国】の兵士と同じになるかもね」
「そうそう。わざと宣誓せず試している可能性もあるよ? 手札には上位血統の二人があるんだからさ。最強の手札だよ?」
「じゃあ殿下を……ルシア様を一緒に行かせたのは拙かったのでは!?」
双子に詰め寄ったのは、ディエスに協力を約束していた『アメリア』という女性だ。
「なんで? 騎士様が森から連れ出してくれたおかげで、エルフの村に平穏が訪れるんだよ? ルシア様の希望する、エルフに迷惑がかからない方法だよ?」
「うんうん。村の戦力じゃあルシア様を守れないし、守ろうともしてくれないし。他の国は誰も彼も見向きもしないよ? 現在進行形でルシア様を守り、願いを叶えられるのは騎士様しかいないよ?」
「それは……」
「だからグレースがついていったんじゃないの? それにルシア様やわたしたちの願いなのに、少しも危険を負わずに叶えようとすること自体おかしいことだよ?」
「そうだね。国を復興するんだよ? 興すより面倒だと思うよ。未開地を開拓して、『わたしの国です』って言った方が簡単だと思う。あの犯罪者の町も世界には必要とされているだろうし、【聖王国】との戦争も回避できないんだよ? こっちは払う物がないのに、戦争やってくださいって言うの? 命をかけて? それがみんなが考えるオラクルナイトの精神? 奴隷の精神の間違いじゃなくて?」
双子の怒濤の口撃に全員が閉口する。
双子がここまで熱く語るのには理由がある。
それは、大親友だと思っているモフモフたちの大切な家族だから。大親友は家族も同然。大親友の家族も同じく家族である。
家訓と言っても過言ではなかった。
というのも、彼女たちはエルフでは珍しい双子のせいで長い間友達ができずにいる。
彼女たちを出産したせいで母親が病弱になってしまったという理由から、悪魔の子や鬼の子と言われて虐められてきたのだ。
その母親も悪魔を産んだ女として虐げられていたが、母親の友人たちが悪意ある周りの人間たちを気にせず助けてくれていた。
立場が悪くなるのもかかわらず。
それ故、将来自分たちも心から信頼できる友達が欲しいと思い、誹謗中傷を浴びる毎日を堪えてきた。
我慢は実を結び、従魔術師の友達ができてモフモフの洗礼を浴びて毎日楽しい日々を送れるようになった……が、例のドラゴン事件のせいで友人を失ってしまったのだ。
大好きなモフモフの従魔たちも一緒に……。
エルフで従魔術を使える者は珍しく、友人もエルフの中では浮いた存在だった。だから仲良くなれたかもしれないが、従魔術仲間にはなれなかった。
自分たちもモフモフの友達を欲したが、従魔術を使えない者は首輪を使うしかない。しかし、首輪を使えば心を通わすことができない。
また地獄の日々を送るのかと思っていたところに、今回の出会いが訪れた。
悪魔の子と言われるだけあって、真っ先に人間に売り払われることに。
他にも同時に売られていたが、悪趣味な豚貴族が姉妹で欲しがったおかげで離れ離れにならずに済んだ。
助け出された後、体が動かず声も出せなかったが、視界に映るのは二足歩行の虎だった。
変わった鎧を着ている戦士と一緒に死体を片づけており、そのせいで天国に来たのだと誤解してしまった。
虎が言葉を話していることも誤解の一因ではあったが。
ただ、絶望の淵に立ったミラとエラの前にモフモフ至上最高の可愛さを誇る虎が現れた。
虎と話したい一心で生きる活力が芽生え、自分で絶望から這い上がったのだ。
絶望の出口には狼の女の子と、あの日失ったはずの親友の姿が。
ミラとエラの瞳からは涙が溢れ、新たな友達を作る機会を与えてくれた神と精霊に、そしてずっと支えてきてくれた親友たちに感謝した。
そして今度は絶対に失わないと心に誓ったのだ。
ゆえに、物に目が眩んだ者や無償の善意を甘受する者が原因で、ディエスや友人が傷つくことは何よりも許せないことだった。
ミラとエラの二人にとっては何の思い入れもない国よりも、双子の問題を放置していたくせに国民を大切にしていますと発言する王族よりも、自分たちの命の恩人や親友を優先することは当然のことである。
目的や思想の違いだが、的を射ているだけに反論しづらく、結果的に反省を促すことに繋がった。
この間、一言も発していない者がいる。
ディエスが村長の御曹司である妖精を見て言った精霊への進化を否定した女性で、名を『ソフィア』と言う。
彼女が心配していることは、ディエスが所持しているエルフ奴隷の取引が記された証拠の流出だ。
現在、西方大陸にあるエルフの国が、違法で取引されているエルフ奴隷の返還を求めている。
彼女は、長い間の調査により諸悪の根源を見つけて、証拠集めのために潜入調査をしていた。
しかし、行き過ぎる調査のせいで疑惑を持たれて売られることになってしまったのだ。
王女が引き渡された日に売られたため、村長たちの検査以外の被害はない。
他の子たちよりも元気があるせいで、ディエスが村長を脅していた内容も知ってしまった。
そう、ディエスが証拠を持っている事実とともに。
ディエスのおかげで、違法奴隷の取引が滞ることになるだろう。
でも、証拠が出されれば返還要求を却下される恐れがある。
さすがに『証拠をください』とは言えず、見送りを済ましてしまった。
昨夜はハイエルフのグレースに釘を刺され行動ができず、現在も双子のミラとエラに疑われている。
先ほどの『情報を漏らした場合は【聖王国】の兵士と同じになるかもね』という言葉は、本国が敵対しないように気をつけろということだろう。
ディエスの情報を報告する義務がある諜報員だが、報告することが正解なのかどうかすら判断がつかない状況であった。
ミラとエラの監視をくぐり抜けた先に待つ者はハイエルフ――それもグレースという【至宝】。
精霊魔術や魔法において右に出る者はおらず、一度でも奴隷として辱めを受けたと知れた場合、本国から軍隊が派遣されることは間違いないだろう。
つまり、軍隊の派遣は情報を報告したことの証左になってしまうのだ。
通常、辱めを受けた被害者は必要以上に広まることを恐れる。平然と受け入れられるのは訓練を受けた者くらいで、報告するような行動を取ることすら不自然だ。
正直な話、すでに詰んでいるとしか言えない状況だった。
そもそも彼女たちがディエスたちに同行せずに残った理由は、村に親族や友人がいるからあいさつを交わしてから追いかけたいと思ったからだ。
特にミラとエラは、自分に使ってもらった治療薬を母親に使いたいことをティエラたちに相談しており、同時に物に釣られて友情を壊したくないとも話していた。
だから、どうにか購入できないかと思って聞いたのだが――。
それに対する答えは、『お願いするから任せて! 無理でも一緒に方法を考えましょう!』というものだった。
嬉しくて号泣してしまったのは女同士――親友同士の秘密である。
レイラは婚約者がいるから破棄するため。
村長の検査に参加していたり、売られたとき助けてくれなかったりと、愛想を尽かしたからだ。
物に釣られたことは間違いないが、ドラドのように好奇心からのもので、今は反省している。
奴隷を拾った場合は解放しなければ自分の物にできるのに、ディエスは綺麗だと言っていたのに解放してくれたのだ。
恩を返したいと思っていても不思議ではない。
助け出されたときに騎士様が助けに来てくれたと思ってしまったのだ。
つまりは、一目惚れだ。
それが恋なのかどうかは分からない。
でも振られたときのダメージを考えたくないから、他の理由が欲しかった。つい、分かりやすい理由を見つけて飛びついてしまったのだ。
失敗する前でよかったと、ミラとエラに感謝した。
ソフィアは言わずもがな。
諜報員仲間と合流するためだ。
追いかけるかどうかは悩んでいる最中だが。
アメリアは真面目に王女を心配しているので追いかけたいとは思っているが、両親が厳しく傍観者気質なのだ。
良く言えば世渡り上手で、波風を立てずに暮らすことを旨としている。
王女という爆弾を抱えさせないだろう。
王女への忠誠心は群を抜いているが、アメリアが同行する確率はかなり低い。
そしてその場合、ソフィアに同行しない理由を与えてしまうことになり、自由行動を許してしまう。
エルフ女性たちの思惑が絡んだアギラ領への遠征は、水面下の戦いから始まった。
全ては宣誓を忘れたディエスのせいで。
「どうしたの?」
ディエスたちがエルフ女性たちと別れ旅立った後、突然奇声を上げた者が……。
その女性は『レイラ』という女性で、ディエスに待っててと言っていた女性だ。爽やかな笑顔で別れをしたはずなのに、姿が見えなくなった直後に膝から崩れ落ちたのだ。
心配しても無理はない。
「どうしたの……? 本当に聞いてる? あんなのを見せられてほっとく人なんかいないんじゃないかな?」
「でも……あの人は、そういうの嫌いだと思うよ。自分もやらないけど、人にもさせないっていうか……」
レイラの質問に、一番最初に助けられた双子のうち、ドラドにぞっこんだった方の女性――ミラが答えた。
「どういう意味?」
「助けたんだから何かくれとも言えたのに、何も要求しなかった。自分がしたかったからした以外の答えは用意していなかったはず。だから反対に物に釣られてついてくる人は信じてないと思うし、受け入れないと思うよ。逆に騎士様に取引を持ち出された人がいたら、『あなたを信じていません』ってことだと思う。……家族になったら分からないけど」
「それは……オラクルナイトの精神だからじゃなくて? それに殿下を助けるんだから、エルフである私たちを助けてもおかしくないと思うわよ? 殿下を助けたついでだから、お礼はもらわないってことじゃ?」
「……オラクルナイトの詳細を知っている人いる?」
双子の片方で、カグヤやティエラと涙ながらに別れを惜しんでいた女性――エラが、他のエルフ女性にも確認をとった。
全員首を横に振り否定を示す。
「……わたしたち長命のエルフが知らないことを、他の種族が知っているとは思えない。この大陸では教会関係者くらいじゃないかな?」
「……だから?」
「騎士様も村長に聞いて知ったらしいから、最高位の神官という地位を利用しているだけで、他の人が言うとおり【落ち人】としての認識が強いと思う。――じゃあ【落ち人】の精神って何?」
「……」
全員が沈黙してしまった。
ディエスがオラクルナイトと言い、圧倒的な武力と神がかった物品を出すから、【落ち人】という根本的な立場が見えにくくなっていた。
でも見えにくくなっただけで、なくなったわけではない。
本来お金を稼ぐこともできないから奴隷階級にいるのに、対価を要求できる機会を得ながらも要求しなかった。
さらに、【落ち人】が持っていた場合に非常に面倒なことになる物を見せているのに、エルフ女性たちに宣誓させなかったのだ。
見た者はもれなく死ぬか宣誓しているのに。
「しかも聞いたところによると、ルシア様を助けるとは言ったけど、エルフはオラクルナイトの拉致に加担したから助けるつもりはないって言ってたらしいよ。監視の人が言ってた。つまり、わたしたちが生きているのは気まぐれだよ? 物に釣られたのが知られて、騎士様の情報を漏らした場合は【聖王国】の兵士と同じになるかもね」
「そうそう。わざと宣誓せず試している可能性もあるよ? 手札には上位血統の二人があるんだからさ。最強の手札だよ?」
「じゃあ殿下を……ルシア様を一緒に行かせたのは拙かったのでは!?」
双子に詰め寄ったのは、ディエスに協力を約束していた『アメリア』という女性だ。
「なんで? 騎士様が森から連れ出してくれたおかげで、エルフの村に平穏が訪れるんだよ? ルシア様の希望する、エルフに迷惑がかからない方法だよ?」
「うんうん。村の戦力じゃあルシア様を守れないし、守ろうともしてくれないし。他の国は誰も彼も見向きもしないよ? 現在進行形でルシア様を守り、願いを叶えられるのは騎士様しかいないよ?」
「それは……」
「だからグレースがついていったんじゃないの? それにルシア様やわたしたちの願いなのに、少しも危険を負わずに叶えようとすること自体おかしいことだよ?」
「そうだね。国を復興するんだよ? 興すより面倒だと思うよ。未開地を開拓して、『わたしの国です』って言った方が簡単だと思う。あの犯罪者の町も世界には必要とされているだろうし、【聖王国】との戦争も回避できないんだよ? こっちは払う物がないのに、戦争やってくださいって言うの? 命をかけて? それがみんなが考えるオラクルナイトの精神? 奴隷の精神の間違いじゃなくて?」
双子の怒濤の口撃に全員が閉口する。
双子がここまで熱く語るのには理由がある。
それは、大親友だと思っているモフモフたちの大切な家族だから。大親友は家族も同然。大親友の家族も同じく家族である。
家訓と言っても過言ではなかった。
というのも、彼女たちはエルフでは珍しい双子のせいで長い間友達ができずにいる。
彼女たちを出産したせいで母親が病弱になってしまったという理由から、悪魔の子や鬼の子と言われて虐められてきたのだ。
その母親も悪魔を産んだ女として虐げられていたが、母親の友人たちが悪意ある周りの人間たちを気にせず助けてくれていた。
立場が悪くなるのもかかわらず。
それ故、将来自分たちも心から信頼できる友達が欲しいと思い、誹謗中傷を浴びる毎日を堪えてきた。
我慢は実を結び、従魔術師の友達ができてモフモフの洗礼を浴びて毎日楽しい日々を送れるようになった……が、例のドラゴン事件のせいで友人を失ってしまったのだ。
大好きなモフモフの従魔たちも一緒に……。
エルフで従魔術を使える者は珍しく、友人もエルフの中では浮いた存在だった。だから仲良くなれたかもしれないが、従魔術仲間にはなれなかった。
自分たちもモフモフの友達を欲したが、従魔術を使えない者は首輪を使うしかない。しかし、首輪を使えば心を通わすことができない。
また地獄の日々を送るのかと思っていたところに、今回の出会いが訪れた。
悪魔の子と言われるだけあって、真っ先に人間に売り払われることに。
他にも同時に売られていたが、悪趣味な豚貴族が姉妹で欲しがったおかげで離れ離れにならずに済んだ。
助け出された後、体が動かず声も出せなかったが、視界に映るのは二足歩行の虎だった。
変わった鎧を着ている戦士と一緒に死体を片づけており、そのせいで天国に来たのだと誤解してしまった。
虎が言葉を話していることも誤解の一因ではあったが。
ただ、絶望の淵に立ったミラとエラの前にモフモフ至上最高の可愛さを誇る虎が現れた。
虎と話したい一心で生きる活力が芽生え、自分で絶望から這い上がったのだ。
絶望の出口には狼の女の子と、あの日失ったはずの親友の姿が。
ミラとエラの瞳からは涙が溢れ、新たな友達を作る機会を与えてくれた神と精霊に、そしてずっと支えてきてくれた親友たちに感謝した。
そして今度は絶対に失わないと心に誓ったのだ。
ゆえに、物に目が眩んだ者や無償の善意を甘受する者が原因で、ディエスや友人が傷つくことは何よりも許せないことだった。
ミラとエラの二人にとっては何の思い入れもない国よりも、双子の問題を放置していたくせに国民を大切にしていますと発言する王族よりも、自分たちの命の恩人や親友を優先することは当然のことである。
目的や思想の違いだが、的を射ているだけに反論しづらく、結果的に反省を促すことに繋がった。
この間、一言も発していない者がいる。
ディエスが村長の御曹司である妖精を見て言った精霊への進化を否定した女性で、名を『ソフィア』と言う。
彼女が心配していることは、ディエスが所持しているエルフ奴隷の取引が記された証拠の流出だ。
現在、西方大陸にあるエルフの国が、違法で取引されているエルフ奴隷の返還を求めている。
彼女は、長い間の調査により諸悪の根源を見つけて、証拠集めのために潜入調査をしていた。
しかし、行き過ぎる調査のせいで疑惑を持たれて売られることになってしまったのだ。
王女が引き渡された日に売られたため、村長たちの検査以外の被害はない。
他の子たちよりも元気があるせいで、ディエスが村長を脅していた内容も知ってしまった。
そう、ディエスが証拠を持っている事実とともに。
ディエスのおかげで、違法奴隷の取引が滞ることになるだろう。
でも、証拠が出されれば返還要求を却下される恐れがある。
さすがに『証拠をください』とは言えず、見送りを済ましてしまった。
昨夜はハイエルフのグレースに釘を刺され行動ができず、現在も双子のミラとエラに疑われている。
先ほどの『情報を漏らした場合は【聖王国】の兵士と同じになるかもね』という言葉は、本国が敵対しないように気をつけろということだろう。
ディエスの情報を報告する義務がある諜報員だが、報告することが正解なのかどうかすら判断がつかない状況であった。
ミラとエラの監視をくぐり抜けた先に待つ者はハイエルフ――それもグレースという【至宝】。
精霊魔術や魔法において右に出る者はおらず、一度でも奴隷として辱めを受けたと知れた場合、本国から軍隊が派遣されることは間違いないだろう。
つまり、軍隊の派遣は情報を報告したことの証左になってしまうのだ。
通常、辱めを受けた被害者は必要以上に広まることを恐れる。平然と受け入れられるのは訓練を受けた者くらいで、報告するような行動を取ることすら不自然だ。
正直な話、すでに詰んでいるとしか言えない状況だった。
そもそも彼女たちがディエスたちに同行せずに残った理由は、村に親族や友人がいるからあいさつを交わしてから追いかけたいと思ったからだ。
特にミラとエラは、自分に使ってもらった治療薬を母親に使いたいことをティエラたちに相談しており、同時に物に釣られて友情を壊したくないとも話していた。
だから、どうにか購入できないかと思って聞いたのだが――。
それに対する答えは、『お願いするから任せて! 無理でも一緒に方法を考えましょう!』というものだった。
嬉しくて号泣してしまったのは女同士――親友同士の秘密である。
レイラは婚約者がいるから破棄するため。
村長の検査に参加していたり、売られたとき助けてくれなかったりと、愛想を尽かしたからだ。
物に釣られたことは間違いないが、ドラドのように好奇心からのもので、今は反省している。
奴隷を拾った場合は解放しなければ自分の物にできるのに、ディエスは綺麗だと言っていたのに解放してくれたのだ。
恩を返したいと思っていても不思議ではない。
助け出されたときに騎士様が助けに来てくれたと思ってしまったのだ。
つまりは、一目惚れだ。
それが恋なのかどうかは分からない。
でも振られたときのダメージを考えたくないから、他の理由が欲しかった。つい、分かりやすい理由を見つけて飛びついてしまったのだ。
失敗する前でよかったと、ミラとエラに感謝した。
ソフィアは言わずもがな。
諜報員仲間と合流するためだ。
追いかけるかどうかは悩んでいる最中だが。
アメリアは真面目に王女を心配しているので追いかけたいとは思っているが、両親が厳しく傍観者気質なのだ。
良く言えば世渡り上手で、波風を立てずに暮らすことを旨としている。
王女という爆弾を抱えさせないだろう。
王女への忠誠心は群を抜いているが、アメリアが同行する確率はかなり低い。
そしてその場合、ソフィアに同行しない理由を与えてしまうことになり、自由行動を許してしまう。
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