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第一章 神託騎士への転生

第二十五話 神託騎士は告白する

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 テントに戻るとエルフたちが王女に近づき、どこに行っていたのかと詰め寄っていた。
 心配して捜したけど、料理をしている虎さんが大丈夫だと教えてくれ、少しだけ落ち着けたのだと。

 そのあとはドラドが可愛いという話になり、本当に殲滅したのかという話が持ち上がり、各馬車の中を覗いてしまい、全員もれなく嘔吐していた。
 乙女の見てはいけない姿を見てしまい、途中で目が合ってしまったときは、何故か悪いことをした気分になった。

「……馬車は危ないから近づかない方がいいですよ」

「……そうする」

 これ以上は見てはいけないと思い、パー・プーさんと村長を会わせてあげることに。
 ついでに、穴の周りに馬車に積んであった魔物除けでも撒いてあげよう。

「ごきげんよう。お仲間を連れてきましたよ」

「……誰だ?」

「コイツです。彼も少しの間だけ私の奴隷です。明日には解放するので仲良くしてください。今日はゆっくり休みたいですから勘弁してくださいね」

「……村長が?」

 この場にいることが信じられないようだ。

「強いのですか? めちゃくちゃ弱かったですよ?」

「そんなバカな!」

 オラクルナイトだから精霊は攻撃できないのかな? それとも魔法的影響を受けないからかな?

「土下座で命乞いをしていたような気がします。では、また明日!」

「――メシは!?」

「明日になったら解放されるのですから我慢して下さい。懺悔ですよ、懺悔!」

「――ふざけんなッ! 義務があるだろッ!」

 普通の奴隷ならあるらしいけど、犯罪奴隷にはないから大丈夫。無視して肉野菜炒めを食べに行こう。

「おいッ! 待てコラッ!」

 ――チッ! うるさいな!

 隣の子分を見習えよ。静かに機嫌を伺っているじゃないか。
 賢い彼には重要な役割を負ってもらうため、比較的緩い罰になるパー・プーさんと、極悪エルフに重い罰を与えて静かにさせよう。

 幌馬車からロープを持ってきて、パー・プーさんと村長のズボンを下げる。

「――おいッ! 何してんだ!? 気でも狂ったか!?」

 反対にエルフ女性たちは腐り始めているのか、わずかな期待を表情に浮かべ近づいてきた。

 ごまドレッシングを《コンテナ》から取り出し、露出した御曹司にかける。前世のドレッシングだから、想像を絶する旨みが含まれているはず。

「おーいッ! 聞いてるのか!?」

 この頃になると、ドラドも様子を見に来ていた。

 前半戦で真っ先に死んだデブの馬車にあった大きな羽根みたいな扇を取り出し、ごまドレッシングがかかった子息にチョッカイをかける。

「初めまして、プー家の御曹司。ピー・プーと仰るのですね? 我が商会で一番のサービスを施させていただきます!」

「――おいッ! やめろっ! おっ……おぉ……いーー!」

 無気力症候群を患っていた御曹司を完治手前まで治療し、続きは村長の後に行うことにする。

「次は村長の……妖精さんかな?」

「――プッ!!!」

 証拠に書いてあったが、廃墟街に売られる前に健康調査と称して村長や幹部に暴行を加えられるらしい。
 それゆえ、村長に対する恨みは【聖王国】の者よりも深いらしい。

「妖精さんは治療すると精霊になるのかな?」

「なりませんっ!」

 エルフの一人に怒られた。綺麗な顔をしているのに……怖い。

「すみません……」

「妖精は治療されたら魔物になるんじゃないですか? ゴブリンとか?」

「ゴブリンの方が立派じゃない?」

「気にしたことないわよーー!」

 女三人寄れば姦しいと言うけど、異世界でも同じなんだな。会話の内容は異世界らしいけど。

 王女は会話に入らず、この先が気になるようだ。ワクワクしているときのドラドみたいな表情でガン見している。

 村長の方が細く軽そうだったから、村長を持ち上げて上下逆さまにしてパー・プーさんの上に被せた。
 隣で子分が目ん玉を剥いて驚いているが、パー・プーさんがご飯を欲しいと言ったのだ。
 俺は希望通りにしてあげただけで何も悪くない。

 まぁ希望通りの物かどうかは分からないが、ごまドレッシングだから美味しいはず。

「そっちの人、人数が足りなくてすみませんね。――死体のならあるけど、嫌でしょう?」

 コクコクと激しく頷き、断固拒否している。

「でしたら、静かに大人しくしていてくれますよね?」

「もちろんです……」

 村長たちが逃げないようにロープでグルグル巻きにして固定する。
 殺さんばかりの視線を向けて来るが、彼らにできることは何もない。

「気分はどうですか? あなた方の被害を受けた方たちも同じ気持ちだったのですよ。あなた方は
妊娠しないだけマシでしょう。それに美味しい秘伝のタレを使いました。彼女たちが受けた被害よりも軽い罰に感謝してください」

「ん~~~~っ!」

「え? なんて?」

 村長の頭を掴んで可動範囲内で上げ下げする。

「こうやって遊ぶんですよ。やりたい方はどうぞ!」

 エルフの中で涙を堪えている人がいたから和まそうと思ったのだが、さすがに二の足を踏んでいるようだ。

「いいのか!? よしっ! ――こうか?」

 空気を読んだのか、ドラドが立候補した。両腕で掴んで激しく叩きつけるようにしている。

「ん~~~~っ!」

 パー・プーさんの声にならない声と、村長の嘔吐く音が静かな森に響き渡る。
 隣の子分は自分のことじゃないのに涙目だ。

「……飽きた。それより、ご飯ができたぞ!」

「じゃあ覚めないうちに食べに行こう!」

「ところで、あのタレは本当に美味いのか?」

「美味いよ。俺は鍋やしゃぶしゃぶで使うけど、野菜が嫌いな人でも誤魔化せるから食べやすくなると思うな!」

「今度使ってみよう!」

 料理長だけあって、料理への関心も大きいのだ。

「あの……ありがとうございます……」

「お気になさらず。ご飯を寄こせとうるさかったものですから黙らせただけですよ」

「それでも……嬉しかったので……」

「では、ありがたく受け取っておきますね」

 四方八方から視線が突き刺さってるけど、何かしたかな?

「それじゃあ座ってくれ! もう遅いから早く食べて休むぞ!」

 今夜も地味に焚き火台が活躍しているのが嬉しい。暖を採れるし、温かみがある明るさのおかげで食事もさらに美味しく感じる。

「美味い! さすがドラド!」

「もぐもぐ……そうか」

 照れている。可愛い……。
 エルフたちも癒されているようで顔をほころばせている。
 ただ、我が家の食いしん坊ガールズは相当お腹が空いていたようで、休むことなく肉を食んでいた。……でも、二人とも野菜の割合が少ないと思う。

 それから、エルフは菜食主義なのかな? と思っていたが、予想に反してバランス良く食べている。
 柔らかいパンに驚いていたが、美味しいと分かると奪い合うように食べていた。理由を聞くと甘いからお菓子みたいなんだとか。

 つまり、主食ではなくデザートだと思っているらしい。もちろん、すぐに訂正してあげた。おかわりがあるとも。

「そういえばずっと聞きたかったのですが……」

「どうぞ。答えられる範囲で答えますよ」

 エルフの一人、後半戦で保護した女性の一人で、名前を『グレース』と言うらしい。
 グラマラス体型で色気が体全体から漂っている女性で、おそらくお姉さんくらいの年齢だろう。
 緑色の瞳と金髪ロングに白い肌というエルフのお手本というような姿に加え、白い二本の角が生えている。上位血統の証なのだが、王族ではないようだ。

 何よりも、実年齢が全く分からない魔性の女性であるところが一番の特徴かな。転生してから人間の女性はエルフしか知らないけど。

 ――もちろん、それが魅力の一つです!

 何故か言い訳してしまうほどの凄みがある。しかも、他のエルフからもほぼ同時に。
 年齢問題は全世界共通なんだな。

「……何故わたくしたちを助けてくれたのですか? 特にルシア様のことについては謎です」

 王女も興味があったのか、食事の手を止めて話を聞く姿勢を取っている。

「うーん……最初は両親の教えもあったし、パー・プーさんたちがムカついたからといった単純な気持ちでした。うちの子たちも賛成してくれたので、危険がない範囲で逃がすことにしました」

「では、それ以降は? 話を聞くまで知らなくて恥ずかしいのですが、盗賊行為に拉致行為をされたのに見捨てず報復せずにいただけではなく、助けてくれたのは何故でしょう?」

 前職は女官かな? 役人や商人と話しているみたいだ。

「ふふふ……。タダより高いものはないですもんね。気にして当然です。しかし、そんなに大層な理由ではないんですよ。――一目惚れです。美人だったので助けたんですよ」

 俺以外の全員が噴き出した。お茶やヨダレなど。

 突然の告白と褒詞のおかげで予想通りの反応を得ることができた。

「ぐっ……ふふふ……」

 思わず笑ってしまったのは失敗だったけど。

「……いい性格してますね。乙女を辱めるなんて……」

 ギロリと睨まれてしまったが、美人に睨まれるのは悪くないな。

「いえいえ、わざとではないんですよ。ふふふ……。――失礼。私の言葉に嘘はございませんよ。オラクルナイトとしての言葉ですからね」

「――っ! ……多くの女性に言うのはどうかと思いますよ?」

 美人が赤面するところも良い。助けた御褒美をもらってしまった。

「美しい花がたくさんあるように美人さんは一人ではありませんので、なかなか選べないのですよ。優柔不断で申し訳ありません。それに、私を【落ち人】と言って馬鹿にしない方は絶滅危惧種らしいので、貴重な御縁を大切にしたいのです」

「――ありがとうございます」

 個人的には本当のことで他意はなかったのだが、心に傷を持っている彼女たちには隠されてないはずの言葉を見つけてしまったのだろう。

 ――あなたは汚れてなんかいない。

 未だ純潔を保つ王女殿下と比べても、選べないほど綺麗だと。

 彼女たちがどう思おうが俺は本音を言ったのだ。
 【聖王国】という仮想敵国の貴族に売り渡す者に中途半端な美人を使えないのだろう。ここにいる人たちは本当に絶世の美女である。
 自信を持って欲しい。

「やっぱり村に来たのはナンパのためだったんだな!」

「違うよ! たまたまだよ。殲滅作戦をしなかったら王女以外とは会えなかったんだからさ!」

「それもそうだな! いいことしたな! あとは装備を綺麗にして、おれたちの体を綺麗にするだけだな!」

「その前に彼女たちのテントを用意してあげないとね。すっかり忘れてた。アイツらのせいで!」

「コテージは?」

「あぁ……どうするかな……」

「……見せられないものがあるなら離れて野営しますよ?」

 気を利かせてくれたのだろうが、俺が考えたのは部屋の数が足りないことだ。
 ティエラたちが使っている部屋が両親の寝室で、俺たちが使っている部屋は子ども部屋。もう一つは一応の客間だ。主な活用法は物置である。
 現在、俺の前世の私物が積まれているはず。

 リビングで雑魚寝ならできるか。
 外で寝るよりはいいし、お風呂にも入れるから嫌な気持ちを洗い流してもらおうかな。

「気遣いありがとうございます。ですが、気にしなくて大丈夫ですよ。我が家に招待します」

「……家?」

「はい」

 テントなどを全て仕舞ったあと、クズ共から少し距離を取って、神スマホの画面にある《神殿》をタップする。

 一昨日ぶりの神コテージが目の前に現れた。
 そして、驚いて固まるエルフたちの回復を待つために多少の時間を要するのだった。

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