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第一章 神託騎士への転生

第十三話 虎が虎子に驚きを贈る

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 短期間とはいえ引っ越してきた新参者だ。ツリーハウスの住人にあいさつに行くべきだろう。
 引っ越しそばはないけど、何か必要なものがあれば聞いてみようと思う。半生ドライマンゴーは袋の問題でパスだ。まだ代わりの袋を買えてないから詰め替えもできない。

「みんなー、お隣さんにあいさつに行くよー!」

「テントはいいのか?」

「先に住んでいいか聞かないと二度手間になるでしょ?」

「それもそうか! 早く行こう! テントは久しぶりなんだ!」

 テント泊って何故か知らないけどワクワクするんだよね。屋内でテント泊するだけでも十分ワクワクできるしね。

 スキップしそうなほどはしゃぐドラドを追いかけて、ツリーハウスに繋がる階段を登る。
 イメージと違うと思いながらも、階段でよかったと心底思う。はしごとか不便でしかないだろうよ。

 ――コンッコンッコンッ。

 ノックを三度する。
 返事はないが、マップ上に表示されている白い光点が玄関に向かって移動している。

 扉が開き、隙間から少しだけ顔を出した。その人物こそ、例の買い出しの女性だった。

「あいさつさせていただくのは初めてですね。広場を間借りさせていただく『ディエス』と申します。どうぞよろしくお願いします」

「……出て行け」

「――え?」

「村から出て行け」

 女性は言うことだけ言って扉を閉めようと扉を引く。
 しかしそうは問屋が卸さない。扉と玄関の間に足を突っ込み阻止する。

「何をする!」

「村を出て行かなければいけない理由を伺っていませんので」

 申し訳ないが、あなたの心に無理矢理侵入させていただく。本来は悪手なんだろうが、俺はその方法しか知らない。
 親に捨てられて施設をたらい回しになって人間不信に陥った俺を、現世を諦めていた俺をすくい上げてくれた両親の方法しか知らないのだ。
 子どもより精神的に強い大人の女性なら大丈夫と信じたい。

「理由などない!」

「本当に? 余所者だからというありきたりな理由すらないのですか?」

「……」

「優しい人なんですね。心配してくださっているんでしょ?」

「知らない」

「あなたは我が主神が絶滅したと言っていた心優しい人のようだ」

「知らない!」

「【落ち人】に優しくできる人は絶滅の危機らしいです。是非とも保護させてください」

「知らないったら知らない!」

 何が知らないのかという突っ込みはしない。精神的に参っているときは自分でもよく分からないことを言ってしまうものだ。
 しかし我が家の自由人――いや、自由虎さんが話に首を突っ込んできた。

「ん? この村に寄るって言い出した理由はナンパだったのか? 確かに美人さんだけど無理矢理はダメだと思うぞ!」

「いや……わかってるけど。それにナンパじゃないし」

「ナンパにしか見えないぞ! なぁ?」

 いつの間にか俺と女性の間に移動してきたドラドが女性に同意を求めた。
 いきなり二足歩行の虎が話したことに驚いたのか、女性は固まってしまった。しかもドラドはそこそこ大きいからな。無理もない。

「もう帰れ! 帰れ! 帰れぇぇぇぇーー!」

「分かりました。今日は帰ります。何かありましたら、すぐそこのテントにいらしてください。こちらの虎さんが美味しいご飯を作ってくれますから」

「任せろ! 待ってるからなーー!」

 ぐいっとドラドを押しのけたときに一瞬表情が動いた気がしたが、すぐに表情を戻して急いで扉を閉めようと動き出す。
 おそらくドラドのモフモフに感動したのだろう。……多分だけど。

「帰れぇぇぇぇーー!!!」

 かなり強く扉が閉められ、俺たちは閉め出されてしまった。

「うむ……、誰か拉致るか。本人が話さないなら周りに聞くしかない」

「でも勝手に聞いてもいいのかしら?」

「本当はよくないんだけど、どうせ他人の言うことだから話の流れだけ聞いて、他は聞き流せばいいんだよ」

「そうじゃなくて、女の子の秘密を暴くのは良くないって言ってるのよ」

「分かってるよ。でも養母さんたちがやってた手順を踏んでるんだけど、上手く行かないもんだね」

「主様たちがそんな適当な方法を……?」

 適当……。でも養母さんが主導でやっていたから、あながち間違いでもない。
 思わずドラドに期待してしまったのは言うまでもないだろう。転生を疑うほど激似なドラドならやってくれるはずだ。

 アニマルセラピーにもなるかもしれないな。

「さて、テントを張ろうと思う」

「何個だ?」

「二個かな? 男女で」

「何でいつも分けるのよ!」

「カグヤも一緒がいい!」

「あれ? そうなの? じゃあ特大を一つにしておこうかな。それで魔法で地面を少し持ち上がられないかな?」

「できるぞ! テントの場所だけでいいんだよな?」

「そう! 早速お願いします!」

「任せろ!」

 気休めでもいいから無視や蛇対策はやっておかなければ。ついでも浸水対策でもある。

 ――《コンテナ》

 グランピングで使うような特大テントを《コンテナ》から取り出し、組み立てていく。
 さすがに巨大なベッドはないから、ベッドではなく布団と毛布を敷き詰めたりテーブルを置いたりと内装を整えていく。
 最初に終わらせれば、次からはこの状態のまま《コンテナ》にしまい、引っ張り出せばそのままの状態で出てくると思う。小さいテントは大丈夫だったから、多分いけるはずだ。

「テントできたな! じゃあ行ってくる!」

「うん――ってどこに!?」

 トテトテとツリーハウスの階段を登っているドラドを急いで追いかける。

「おーい! テントできたからな! これからメシ作るから待ってるぞ!」

 ……遅かった。

「聞いてるか?」

「ドラド、無理矢理はダメって言ってたじゃん!」

「無理矢理じゃないぞ! 報告してるだけだからな! おれがやりたいからやってるだけだぞ!」

「そうだけども、俺も行くところがあるから少しだけ大人しくしてて」

「どこに行くんだ?」

「仕事に熱心な者を労いに行ってくるんだよ」

「なるほど! じゃあ美味しいご飯を作って待ってるからな!」

 きっと俺と女性二人に対して言ったのだろうな。採光のためにわずかに開いた窓に顔面をねじ込ませながら言っていたから間違いない。
 前世の我が家で同じ事していたら、ドラドは完全に制圧対象になっていたことだろう。

 たとえ赤い服を着ていなくとも。

 ドラドを引っ張ってテントに戻り、キャノピーをテントの入口に張る。
 目隠しを増やすことが目的だが、一応偽装として一人掛けの椅子を二脚とテーブルを置いておこう。我が家は基本的に座布団派だけど、訪問者ように置いておけばテント内に入れずに済む。
 招待客はテント内で、訪問客はテント外と区別をしておけば良い。

 決して差別ではない。区別は必要不可欠なものだから悪しからず。

 キャノピーの外側にバーベキューコンロや、作業台用にアルミテーブルを設置する。
 ついでに賑やかしのための焚き火台を設置してみたところ、ドラドから「それで?」という視線を向けられていることに気づく。

「どうしたの?」

「これでどうやって調理するんだ? 地面から離れすぎているし、上に乗せる場所もないぞ。まさかそのまま放り込んだりしないよな?」

「これは起こした火で暖を取ったり、火を見て過ごすためのものだよ。……基本的に」

「……無駄なものに貴重な薪を使うことは許されない。撤去しろ!」

「ちょっと待った! 基本的にって言ったろ? 別の道具を使えばコンロにもなるから! それに【液体魔力】を使った道具を使えば、焚き火を使用しなくても大丈夫なんだ!」

「じゃあ何で使わないんだ?」

「……乗り物の燃料だから」

「じゃあ使ってはダメだ」

「でも作れるんだよ? ……ただ材料がないだけで」

「世の中ではそれを作れないと言うんだぞ! とにかく無駄遣いは禁止だ! 調理にも使えるなら使えるようにしてくれ!」

 我が家の主計長殿は養母さんみたいに雑な管理ではないらしい。個人的には「いいな!」って言ってくれると思ったんだけどな。

「ディエス、まだー?」

「もう終わる!」

 ティエラに頼み事をしておいて待たせてしまったようだ。急いで焚き火台の上にグリルスタンドを置いてテントへ向かう。

「ドラド、後はよろしく! 大人しくしててね!」

「任せろ!」

 ……不安だ。

「ティエラ、お待たせ! さぁやってみてくれ!」

「もうやったけど……無理だったわよ?」

「やっぱり補助魔法も影響の外ってことかな?」

「そうなんじゃないかしら? 神様が魔法的な影響を受けないと言ったなら、質量がある石礫のような攻撃以外は全て影響を受けないと思うわ。たとえ回復や補助など、有利に働く魔法だったとしても」

「……最悪だ。回復薬で治療できる時点で攻撃魔法を受けずに済むというメリットよりも、ティエラの補助魔法の恩恵が受けられないというデメリットの方が軍配が上がるな。……なんか抜け道はないものか」

「あるわよ。でも今は無理」

「えっ? 何で?」

「魔物の素材を纏って、それに認識阻害を施せばいいのよ。高級馬車の魔物対策に似たような方法があるのよ。でも今持っている素材は、未処理のワイバーンだけでしょ? ドラドが許してくれないと思うわよ?」

 そうだった!

 我が家の主計長殿は一般家庭の母親的存在だ。つまり、今後の生活を平和に送るためには絶対に逆らってはいけない存在である。

 それにしても魔物素材で作ったギリースーツを使えばいいとは……。盲点だった。
 必要になることも多いだろうからワイバーンで作ってもいいかもな。……もちろん、許可が下りればだけど。

「じゃあ今回はなしで行くか」

「いってらっしゃい」

「カグヤをお願いね!」

「うん! 任せて!」

 カグヤはテントにはしゃぎすぎてお昼寝をしている。できれば俺も一緒にお昼寝をしたい。
 だが、虎子を得るためのミッションをこなさなければ。

 もう後戻りはできないのだ。

 養父さん、養母さん。異世界で初めての自己満人助け、開始します。
 第一弾は、美人を絶望から引っ張り上げようと思います。最後まで責任を持って取り組むので、どうか力を貸してください。
 ついでに、サイコパス神の力も貸してください。

 いざ、行かん!

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