勇者の息子は従魔と神託騎士になる~FPSとMMORPG能力で自由気ままに人助けをします~

暇人太一

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第一章 神託騎士への転生

第十二話 取引成立と虎穴に入る

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 ――ん? なんて言った?

 勇者と賢者がオラクルナイトに選ばれたと言ったか? それは両親のことを言っているんだろうか?
 でも刷り込まれた知識が正しければ、ここしばらく創造神のオラクルナイトはいなかったはず。他の神様のオラクルナイトの可能性もなくはないけど……。

 そもそも物資の取引のための話し合いをするためだったはずだが、いつの間にかオラクルナイトの説明会になっている。
 個人的にも役立つ説明会ではあるが、一度に大量の情報が来ても処理できないから困る。

 とりあえず整理してみよう。

 長命種でも高齢の者や、直接関係する教会関係者しか知らない役職というのは良い情報ではあるけど、結果的に悪い状況になってしまったとも思う。
 一般的に知られていない身分で底辺の人物の身分を証明しても、正直なところ焼け石に水だと思うのだが? むしろ悪化すると思う。

 次に、人間なら誰でも助ける人間の味方だと思われている点だ。
 俺も神造とは言え人間だから、助ける人は選ばせてもらうよ。誰も彼も助けてはいけないと両親にも言われてきたからな。
 もしかしたらこの世界での実体験だったんじゃないかなと、今なら思える。

 手の届く範囲で、大切な人を不幸にしない程度に人助けをしようと思う。もちろん、敵対者や差別主義者はお帰り願う所存です。

 最後に、勇者と賢者がオラクルナイトに選ばれた情報だ。
 仮にどの神様のオラクルナイトだったとしても、使徒に匹敵する人物を罠にはめて処刑するとなると神罰対象になっているはず。
 神罰が下れば、いくらオラクルナイトを知らなくても記憶に残ると思うのだが?

 交渉役のエルフが混乱から立ち直るのを待っていると、待ちきれなくなった村長が話を進めていく。

「まぁ結局は選ばれただけで勇者様たちが拒否されて、オラクルナイトになることはなかったのだがな。教会に所属しては救いたい者も救えなくなると言って、冒険者として活動することを宣言していた。本当にご立派な方々だった」

 なるほど! やっぱりオラクルナイトにはならなかったのか!

 常々、「神は死んだ! 宗教などご都合主義者の同好会だ!」という暴言を発しながら、クリスマスなどの記念日を過ごしていたからな。
 クリスマスの説明会も行われたからな。

 たしか「日々の努力を労い、褒美を大切な家族や友人からもらう日である。赤い服を着た不審者が、不法侵入して不審物を置いていく日ではない! そもそも日本の家のほとんどは煙突などないわ! 屋根からの侵入口があるとすれば、その家に必要なプレゼントは間違いなく、雨漏りの修理見積もりだろうよ!」と言ったものだった。

 養母さんが「敷地内で全身赤い服を着た髭面の不審人物を見つけたら、数人で囲い込み制圧してしまいましょう!」と言い、賛成した養父さんが訓練を担当していた。

 おかげさまで喧嘩に強くなりました。といっても、基本的に避けるだけだったけど。

 閑話休題。

 意外にも両親の詳しい情報を聞けたけど、このまま処刑された前後の話が聞けないかなと淡い期待をしていたのだが……。

「まぁ私が話せることはこのくらいだろうか。長い間森にいたので聞いた話しか分からないのです。申し訳ない」

「いえ、貴重な話をしていただき感謝しています。それで、その偉大な先輩たちの詳しい話を聞くためにはどこに行けばいいかご存知でしょうか?」

「……うーむ、魔王討伐に参加された冒険者たちの多くが存命ですので、彼らに聞けばもっと詳しい話が聞けるかもしれませんね。ここから一番近いのは、ここから南西にある【武皇国ネメアー】の北部を治める北方辺境侯の領都でしょうか」

「なるほど……。情報感謝します。――あっ! こちらの物資と馬車二台は好きにしていただいて結構ですよ」

「ありがとうございます」

「いえいえ、いいんですよ」

「旅の疲れもあるでしょうから、村の中でゆっくりしていってくだされ!」

 ……断ったら失礼だと思うが、なんか嫌な予感がするんだよな。
 でも、あの世紀末みたいな町に買い出しに来ていた女性のことが気になる。

 確かに超絶美人だったということもあるけど、昔の自分と同じ顔をしていたからだ。
 心底疲れ果てて絶望している表情だった。諦めたくないけど、諦めることが一番楽だと思っている自分が無力で悔しくて悔しくてたまらないっていう表情である。――気にならないわけがない。

 虎穴には入らずんば虎子を得ず……か。

「御言葉に甘えさせてもらいます。なるべく早めに出発させていただきますゆえ、どうぞよろしくお願いいたします」

「いえいえ、大したおもてなしもできませんで申し訳ない」

『おい、この村に寄るのか? なんか怪しい感じがするぞ?』

 少し離れた位置に停めてある箱馬車の護衛についているドラドから通信が入った。
 残念なことに通信はできるけど、いわゆる念話みたいなことはできないから下手なことを言えない。
 だから当たり障りのないことを言おうと思う。

『少しだけお世話になるから馬車を動かしてくれない?』

『わかった!』

 突然独り言を言い出した俺に、不思議なものを見るような視線を向けるエルフたち。
 でも俺の話していた内容通りに馬車が動き出すと、視線に変化が生じていた。
 奇異なものを見る視線に驚愕が混じっていたのだ。魔力に敏感というエルフたちが感知できない技術で、【落ち人】の俺が遠くの者と連絡を取れば驚かないはずはないだろう。

 これから虎穴に入らなければいけないのだ。多少の示威行動で問題が起きないならば儲けものである。

「……さ、さぁこちらへ。この者が案内いたしますので」

 交渉役のエルフが引き続き案内役を務めるようだ。こちらとしても面倒がなくて助かる。

「よろしくお願いします。それから彼はゆっくり寝かせてあげた方が良いと思いますよ」

 と、足元に寝転がっているガリガリエルフくんを指差す。

 「問題を起こさないように拘束しとけよ」という意訳が伝わってくれるといいんだけど。

「――過労で体調を崩したみたいですから、ちょうど良い休暇になるでしょう」

「それはよかった」

「お気遣い感謝します。それではこちらへ」

「いえいえ。こちらこそお世話になります」

 ドラドが操る馬車の横を進み、開け放たれた村の門を潜る。

 門を抜けた先は、異世界の代表的な観光名所であるはずのエルフの村だ。きっと「幻想的な場所だ!」という感想がこぼれることだろう。
 木々が太陽の光を反射して、ツリーハウスが並び建って吊り橋で繋がっているんだろう。

 期待が警戒を上回りドキドキワクワクしていたのだが、森の中に作られたエルフの村は全く幻想的ではなかった。

 ツリーハウスは数件だけで、吊り橋で繋がる距離ではない。
 しかも砦を思わせる造りで、堅い守りを実現するための外壁もある。
 その割には外壁を始めとした設備は比較的新しいものであり、いくつかは突貫工事で造られたように見える。

 なんかちぐはぐしているんだよな。

「なぁドラド」

「なんだ?」

「念話ってできないのか?」

「誰と誰が?」

「俺とドラドたちが」

「無理」

「何で?」

「ディエスは魔力がないだろ? 念話は魔力に思念を載せて飛ばしたり受け取ったりするんだ。だから魔力がない者にはできない。おれたち従魔の間ならできるけどな」

「……マジか。仲間ハズレにしないでよ?」

「するわけないだろ」

 ドラドがやれやれと首を振る。呆れているドラドも可愛い。ついつい和んでしまう。

「あの……どのような場所がいいとかありますか?」

「あぁ……、テントを出したいので広いところで、火を起こせる場所があればお願いしたいですね」

「それですと……あちらのツリーハウスの近くになってしまいますが、よろしいですか?」

 何が? この村のことを知らないからよろしいも何もないんだけど。

「お世話になるのは私たちですので、ツリーハウスの住人が迷惑にならないと仰っていただければ是非お願いしたいですね」

 はい、定型文です。

 個人的に最適解だと思っている。最初からツリーハウスの近くに案内しようとしていた時点で、よろしいも何もないだろうよ。
 どうせ断ったら説得するつもりだったんだろ? それなら最初から思惑通りに動いてやろう。
 その方が狙いも分かりやすいだろうしね。

「それなら先に馬車を引き渡してしまいますね」

「ありがとうございます」

「いえいえ。ティエラ、カグヤ。降りてきて!」

「はーい」「……」

 少し疲れた感じで返事をするティエラと、エルフの反応が気になって無口になるカグヤが馬車から降りてきた。
 直後、案内役のエルフと馬車を引き受ける担当のエルフが驚愕の表情を浮かべていた。

「私の従魔が何か?」

「――い、いえ! 少し驚いてしまいまして。申し訳ありません!」

「オラクルナイトの従者だということをお忘れなく。そして大切な家族だということを忘れないでくださいね」

「も、もちろんです!」

 急いでカグヤの頭を撫でる。意味なく怖がられたことが悲しくて元気がないのだろう。

 こんなに可愛いのに……。

 敵対した者が襲われるなんてアラクネに始まったことではない。俺だって敵対者に容赦はしないよ?
 要は敵対しなければ怖くないということだ。
 無意味にビビるということは、敵対する予定があるという何よりの証左になるのでは?

「あ、あの……わたしもモフモフして欲しいんだけど……」

「――え? いいの?」

「うん。ずっと嫌われてるのかと思ってた……」

「だって、ドラドが嫌がるから……てっきりティエラも嫌なのかなって思ったんだけど」

「ドラドはツンデレって主様たちが言っていたわ」

 右手でカグヤを、左手でティエラをモフモフしながらチラリとドラドを見る。
 あまり突っ込まれたくないようで、視線を合わせないようにしていた。

 そういえば、毎晩枕を持って俺の部屋に来てるな。あれはツンデレなりのアピールだったのか。

 でも、胃袋を握られているから追及するのはやめておこう。
 異世界に来て不安に思わない要素の一つに、ドラドの絶品料理があるからというのは間違いない。解体すらできない時点で、しばらくの間菜食生活を送ることになっていたはずだ。

 まぁこれからも寝起きモフモフだけで我慢しておこう。それとブラッシングかな。

「引き渡しが完了しました。それで、馬もよろしかったのですか?」

「はい。調教済みの馬ですから、強心臓のお馬さんですよ。大切にしてあげてください」

 移動手段の心配をしてくれているのだろうけど、ドラドとの約束があるから、逆に馬がいると邪魔なのだ。

「ありがとうございます。それではこちらです」

 と案内されて、ツリーハウス近くの広場に案内された。近くに井戸もあるという説明を受けて案内役は立ち去って行った。

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