22 / 23
第一章 転生と計画
第二十一話 クロエ、感激する
しおりを挟む
御令嬢が呆然とアポロを見つめていると、後ろからベガが飛んできた。
「マスター! ……手遅れデシタカ……」
「だってーーー! お腹空いたんだもーん!」
トテトテと歩いて俺の膝の上に移動して座るアポロは、そのまま肩越しに俺を見上げる。何というあざと可愛い仕草をするのだろうか。許してしまうじゃないか。
「か……可愛いです……!」
俺がアポロをモフモフしていると、御令嬢が衝撃から復活したようで感想を口にした。本当にモフモフが大好きなんだろう。全くアポロから視線を逸らさず、アポロの一挙手一投足を見逃さないようにしていた。
「可愛いって……。照れるなー! お姉さんも可愛いよ。ぼくとお揃いの耳だしね!」
「可愛いなんてあまり言われたことなくて……恥ずかしいです……!」
アポロの言葉に顔を赤くし、耳を垂らして軽く俯いてしまった。その言葉を聞いて俺は思ったことがある。それはこの世界の人と美的センスが違うのかということだ。どこからどう見ても美少女であるこが可愛くないなら、不細工が美少女に見えるのかということだ。しかし聞きにくい質問だけに、聞くことを躊躇ってしまう。
「お姉さん! お姉さんが可愛くないって……何で?」
アポロは俺とは違い普通に質問していた。こういうときアポロの物怖じしない性格はありがたい。
「……髪の色と瞳の色が……魔物みたいだからです」
とても言いづらいことだったのか、膝の上で拳を握って震えながら話してくれた。でも顔が完全に見えなくなるまで伏せてしまい、どこか怯えているようにも見えた。
アポロはトテトテと歩き始め、今度はベンチで座っている御令嬢の膝の上に移動した。御令嬢はアポロが膝に来た驚きで顔を上げ、アポロは御令嬢の顔を下から見上げていた。
「魔物? 魔物の瞳の色は紫や金色だけど体毛は違うよ。そもそも体毛は基本的に遺伝だし、得意属性を調べる物差しみたいなものだよ。絶対じゃないし、魔法系のスキルを持つ可能性が高いのはお姉さんみたいに濃い紫から黒の体毛を持つ者だよ。魔物の上位種が金色の瞳を持つのは、魔力が高い証拠で人間にも同じ事が言えるんだよ。だから王族は金色の瞳に拘るでしょ? お姉さんが誰かに何かを言われたとしても、相手が無知なだけだよ。ぼくも見た目でキメラって言われたこと何回もあるけど、最近は可愛いって言ってもらえて嬉しいんだー!」
アポロは尻尾を器用に動かして、固く握られた拳や頬をフリフリとモフモフの尻尾で撫でていた。アポロなりに一生懸命励まし慰めた結果、アポロの気持ちが通じたのか涙ぐみながらも笑顔を浮かべていた。
「それにぼくの友達に紫の体毛を持つモフモフがいるんだけどね。純粋な雷の属性色が紫だから雷魔法が得意なんだって。雷は特殊属性だから、普通なら雷の魔法属性を持っているか【賢者】スキルがないと無理なんだよ。少し弱い雷っぽい魔法なら複合魔法でできなくもないけど、お姉さんは雷使えるかもしれないよ。本当はその友達に会わせてあげたいんだけど、今は遠くにいるからまた今度ね。モフモフでモコモコでフワフワでとっても大きいの! すごく可愛いんだから!!!」
「モフモフ……モコモコ……フワフワ……」
アポロの友達が御令嬢の琴線に触れたらしく、モフモフ情報のところだけ復唱していた。それも何度も繰り返し。
「お姉さん! 雷はいいの?」
アポロも思いの外モフモフに食いついたことが不思議だったようで、希少中の希少スキルである雷魔法のことは気にならないのかを聞く。
「……実技が苦手だがら……」
「え? まだ若いでしょ?」
「十歳です」
「……もらったばっかりじゃん……。何をもらったか聞いてもいい?」
「……【魔導師】スキルです」
俺とアポロはそれぞれ違う意味でだろうが、「あぁ~」と納得を意味する声を出していた。アポロはスキルについての納得だろう。髪色で魔法系のスキルを持っていると予想できたのだから。そして俺は自称神子にはめられたことについて納得していた。
元々世界樹より高そうなプライドを持っているエルフの中で、自称神子である般若さんの娘のプライドは天にも届くほどである。そこに自分と同じスキルを持つ同年代の美少女が現れたら、面白くないと思って罠にはめてもおかしくない。
同じスキルを持つ同年代。生まれた瞬間から持っているかいないかの違いだけで、神子の存在価値が微妙なものになる可能性がある。それが般若さんの娘には面白くないのだろう。
ちなみに俺が考察している横では、アポロによるスキル講義が行われていた。簡単に説明すると、統合スキルは本来バラバラのスキルが合わさった上位職だから、スキルがあるからすぐに魔法が使えるわけではなく、一つ一つをある程度修めていないと制御ができないどころか機能しないというものだった。つまり、スキルなしで魔法を発動している状態らしい。
魔法を使えるようになるためには一人前を示すレベル二は必要で、正常に【魔導師】スキルを使いたいなら基本属性と高位属性と回復系魔法を、それぞれレベル三以上にすることが必須らしい。【魔導師】スキルが正常に働いていると思える目安は、無詠唱発動ができているかどうからしい。
アポロはベガを助手にして黒板を背に授業を行っていた。黒板とチョークはアポロが地球の教室に憧れて作ったもので、普段はスケジュールボードやメッセージボードとして使用している。今回初めて本来の使用法で活躍できており、アポロも楽しそうにしている。
俺はその間に料理を作ってしまうことにした。今夜はビーフシチューである。ヴァーミリオン商会と取引をしてから小麦粉を手に入れ、パンや麺など食卓も充実してきたが、まだ米の入手には至っていない。アポロにも米の良さを分かってもらいたいのだが、なかなか叶わずにいる。
それはさておき、御令嬢をどうするか悩む。もう既に日が沈んでいる。さすがに一度連れて行かねばなるまい。
「ところでお嬢様、どうします?」
「食べます!」
まさかの即答に驚いたが、俺が聞きたいことと答えが違う。
「……いえ、そうではなくて。あの……心配しているかと……」
「あっ!」
「それとアポロとベガのことは秘密にしているので、お嬢様しか知らないのです。今回のことでもう既に分かっているかもしれませんが、自称神子にアポロたちのことがバレてしまうと取り上げられてしまうので隠しているのです。つまりヴァーミリオン商会の方たちにも秘密にしているので、一度出たら戻って来れませんよ。次はお父様がついてくる可能性がありますしね」
信用していないわけじゃないが、ヴァーミリオン商会の後ろにいる国が信用できるとは言いがたい。実際、御令嬢の髪の毛に対する差別意識が根付いているような国だ。無知から生じた差別なのに、問題自体を放置する国に信用などおけない。よって、国経由でエルフに知られると面倒なのだ。まだここに一年間はいなければならないのだから。
もちろん誤解されないように、俺の考えを伝えると納得してくれた。そしてアポロはお礼にとハグを受け入れた。
「モフモフです!」
アポロは御令嬢の大きな胸に顔を埋めており、苦しくなったのか「ぷはぁ~!」と言って顔を上げている。それを間近で直視した御令嬢は感激して頬ずりを始めるほど可愛がっていた。
「わたしのことはクロエって呼んでね。わたしはアポロって呼んでもいい?」
御令嬢は最高の癒やし効果を持つアポロを抱きしめたことで、口調からも堅さが取れたようだ。
「うん! いいよ! もう親友だもんね!」
「……親友。うん!」
少し涙をにじませ笑顔を作ると、ベガにも同じことを願いに行くが、ベガには『先生』をつけて名前を呼んでいる。理由を聞くと、まだ未発達の魔道具を作る職人になりたいようで、【魔導師】スキルでも応用が利き、さらに必須スキルや訓練で身につくスキルを教えてもらったそうだ。
でも同じように親友だと思っているようで、抱きしめてツルツルボディを楽しんでいた。それから俺は命の恩人でお礼をしたいから祝福の儀が終わったら、一緒に大陸を渡って家に招待したいと言われた。それに対する言葉は決まっている。だが、一生懸命話している女の子に無理だとは言えず、思わず頷いてしまったのだ。……どうするかな。
「じゃあ宴会場に戻ったら、エルフが出してきた肉類には手をつけないように注意してくださいね。あともう聞いたかもしれませんが、トラップハウスには近づかないようにしてください。強盗用に凶悪にしてありますので。あとは基本的にお父様の近くにいてください」
俺が注意点を言っている間の御令嬢はというと、コクコクと頷くだけだ。何故なら、少しでもシチューを食べていこうと必死になって口に入れているからだ。どうやらスキル講義の途中からアポロともどもシチューが気になり、アポロの料理談義が始まり食べたくなってしまったようだ。そこに俺の「どうします?」という質問が来て、即座に返事をしてしまったらしい。あのあと恥ずかしそうにモジモジしながら教えてくれた。
「……では、行きましょうか」
「もう……。アポロ……ベガ先生、ありがとう。また会おうね!」
「またねー! 大きいモフモフ連れて会いに行くからねー!」
「機会がありまシタラ」
俺は一応予備の槍と長剣を持って、涙を流す御令嬢を先導して村を目指した。
◇◇◇
「村長、失礼ですが私の娘を知りませんか?」
夕日が沈みかけているのに戻ってくる様子がない娘を心配したイフェスティオ・ヴァーミリオンは、最後に自称神子と一緒にいたことを思い出し、その父親に尋ねてみることにした。
「知りませんが、なぜ私に?」
「村長の娘さんがよくしてくれたようで、一緒にいるところを目撃したのですよ」
「なるほど。では娘に聞いてみましょう」
「お願いします」
祝福の儀を来年に控えたことで自称神子に対する期待が村民の中でも上昇してきて、それによって今も隊商の歓迎会という名目の下行われている宴で一番人を集めていた。そこに父親が近づきクロエ・ヴァーミリオンのことを聞くも、すげなく「知らない」と返事をするだけだった。
さすがに証拠もなく食い下がるわけにもいかず、お礼を言ってその場をあとにすることにしたが、直後知らないと言ったはずの自称神子から、「ハーフが連れ去ったんじゃない?」という言葉が発せられた。
これにより事態が急変する。
大事な客人の娘を連れ去るなど鬼畜の所業だと至る所で声高にののしり始め、ヴァーミリオン商会の中でもティグルと付き合いが浅い者までも武装し始めるのだった。
◇◇◇
「マスター! ……手遅れデシタカ……」
「だってーーー! お腹空いたんだもーん!」
トテトテと歩いて俺の膝の上に移動して座るアポロは、そのまま肩越しに俺を見上げる。何というあざと可愛い仕草をするのだろうか。許してしまうじゃないか。
「か……可愛いです……!」
俺がアポロをモフモフしていると、御令嬢が衝撃から復活したようで感想を口にした。本当にモフモフが大好きなんだろう。全くアポロから視線を逸らさず、アポロの一挙手一投足を見逃さないようにしていた。
「可愛いって……。照れるなー! お姉さんも可愛いよ。ぼくとお揃いの耳だしね!」
「可愛いなんてあまり言われたことなくて……恥ずかしいです……!」
アポロの言葉に顔を赤くし、耳を垂らして軽く俯いてしまった。その言葉を聞いて俺は思ったことがある。それはこの世界の人と美的センスが違うのかということだ。どこからどう見ても美少女であるこが可愛くないなら、不細工が美少女に見えるのかということだ。しかし聞きにくい質問だけに、聞くことを躊躇ってしまう。
「お姉さん! お姉さんが可愛くないって……何で?」
アポロは俺とは違い普通に質問していた。こういうときアポロの物怖じしない性格はありがたい。
「……髪の色と瞳の色が……魔物みたいだからです」
とても言いづらいことだったのか、膝の上で拳を握って震えながら話してくれた。でも顔が完全に見えなくなるまで伏せてしまい、どこか怯えているようにも見えた。
アポロはトテトテと歩き始め、今度はベンチで座っている御令嬢の膝の上に移動した。御令嬢はアポロが膝に来た驚きで顔を上げ、アポロは御令嬢の顔を下から見上げていた。
「魔物? 魔物の瞳の色は紫や金色だけど体毛は違うよ。そもそも体毛は基本的に遺伝だし、得意属性を調べる物差しみたいなものだよ。絶対じゃないし、魔法系のスキルを持つ可能性が高いのはお姉さんみたいに濃い紫から黒の体毛を持つ者だよ。魔物の上位種が金色の瞳を持つのは、魔力が高い証拠で人間にも同じ事が言えるんだよ。だから王族は金色の瞳に拘るでしょ? お姉さんが誰かに何かを言われたとしても、相手が無知なだけだよ。ぼくも見た目でキメラって言われたこと何回もあるけど、最近は可愛いって言ってもらえて嬉しいんだー!」
アポロは尻尾を器用に動かして、固く握られた拳や頬をフリフリとモフモフの尻尾で撫でていた。アポロなりに一生懸命励まし慰めた結果、アポロの気持ちが通じたのか涙ぐみながらも笑顔を浮かべていた。
「それにぼくの友達に紫の体毛を持つモフモフがいるんだけどね。純粋な雷の属性色が紫だから雷魔法が得意なんだって。雷は特殊属性だから、普通なら雷の魔法属性を持っているか【賢者】スキルがないと無理なんだよ。少し弱い雷っぽい魔法なら複合魔法でできなくもないけど、お姉さんは雷使えるかもしれないよ。本当はその友達に会わせてあげたいんだけど、今は遠くにいるからまた今度ね。モフモフでモコモコでフワフワでとっても大きいの! すごく可愛いんだから!!!」
「モフモフ……モコモコ……フワフワ……」
アポロの友達が御令嬢の琴線に触れたらしく、モフモフ情報のところだけ復唱していた。それも何度も繰り返し。
「お姉さん! 雷はいいの?」
アポロも思いの外モフモフに食いついたことが不思議だったようで、希少中の希少スキルである雷魔法のことは気にならないのかを聞く。
「……実技が苦手だがら……」
「え? まだ若いでしょ?」
「十歳です」
「……もらったばっかりじゃん……。何をもらったか聞いてもいい?」
「……【魔導師】スキルです」
俺とアポロはそれぞれ違う意味でだろうが、「あぁ~」と納得を意味する声を出していた。アポロはスキルについての納得だろう。髪色で魔法系のスキルを持っていると予想できたのだから。そして俺は自称神子にはめられたことについて納得していた。
元々世界樹より高そうなプライドを持っているエルフの中で、自称神子である般若さんの娘のプライドは天にも届くほどである。そこに自分と同じスキルを持つ同年代の美少女が現れたら、面白くないと思って罠にはめてもおかしくない。
同じスキルを持つ同年代。生まれた瞬間から持っているかいないかの違いだけで、神子の存在価値が微妙なものになる可能性がある。それが般若さんの娘には面白くないのだろう。
ちなみに俺が考察している横では、アポロによるスキル講義が行われていた。簡単に説明すると、統合スキルは本来バラバラのスキルが合わさった上位職だから、スキルがあるからすぐに魔法が使えるわけではなく、一つ一つをある程度修めていないと制御ができないどころか機能しないというものだった。つまり、スキルなしで魔法を発動している状態らしい。
魔法を使えるようになるためには一人前を示すレベル二は必要で、正常に【魔導師】スキルを使いたいなら基本属性と高位属性と回復系魔法を、それぞれレベル三以上にすることが必須らしい。【魔導師】スキルが正常に働いていると思える目安は、無詠唱発動ができているかどうからしい。
アポロはベガを助手にして黒板を背に授業を行っていた。黒板とチョークはアポロが地球の教室に憧れて作ったもので、普段はスケジュールボードやメッセージボードとして使用している。今回初めて本来の使用法で活躍できており、アポロも楽しそうにしている。
俺はその間に料理を作ってしまうことにした。今夜はビーフシチューである。ヴァーミリオン商会と取引をしてから小麦粉を手に入れ、パンや麺など食卓も充実してきたが、まだ米の入手には至っていない。アポロにも米の良さを分かってもらいたいのだが、なかなか叶わずにいる。
それはさておき、御令嬢をどうするか悩む。もう既に日が沈んでいる。さすがに一度連れて行かねばなるまい。
「ところでお嬢様、どうします?」
「食べます!」
まさかの即答に驚いたが、俺が聞きたいことと答えが違う。
「……いえ、そうではなくて。あの……心配しているかと……」
「あっ!」
「それとアポロとベガのことは秘密にしているので、お嬢様しか知らないのです。今回のことでもう既に分かっているかもしれませんが、自称神子にアポロたちのことがバレてしまうと取り上げられてしまうので隠しているのです。つまりヴァーミリオン商会の方たちにも秘密にしているので、一度出たら戻って来れませんよ。次はお父様がついてくる可能性がありますしね」
信用していないわけじゃないが、ヴァーミリオン商会の後ろにいる国が信用できるとは言いがたい。実際、御令嬢の髪の毛に対する差別意識が根付いているような国だ。無知から生じた差別なのに、問題自体を放置する国に信用などおけない。よって、国経由でエルフに知られると面倒なのだ。まだここに一年間はいなければならないのだから。
もちろん誤解されないように、俺の考えを伝えると納得してくれた。そしてアポロはお礼にとハグを受け入れた。
「モフモフです!」
アポロは御令嬢の大きな胸に顔を埋めており、苦しくなったのか「ぷはぁ~!」と言って顔を上げている。それを間近で直視した御令嬢は感激して頬ずりを始めるほど可愛がっていた。
「わたしのことはクロエって呼んでね。わたしはアポロって呼んでもいい?」
御令嬢は最高の癒やし効果を持つアポロを抱きしめたことで、口調からも堅さが取れたようだ。
「うん! いいよ! もう親友だもんね!」
「……親友。うん!」
少し涙をにじませ笑顔を作ると、ベガにも同じことを願いに行くが、ベガには『先生』をつけて名前を呼んでいる。理由を聞くと、まだ未発達の魔道具を作る職人になりたいようで、【魔導師】スキルでも応用が利き、さらに必須スキルや訓練で身につくスキルを教えてもらったそうだ。
でも同じように親友だと思っているようで、抱きしめてツルツルボディを楽しんでいた。それから俺は命の恩人でお礼をしたいから祝福の儀が終わったら、一緒に大陸を渡って家に招待したいと言われた。それに対する言葉は決まっている。だが、一生懸命話している女の子に無理だとは言えず、思わず頷いてしまったのだ。……どうするかな。
「じゃあ宴会場に戻ったら、エルフが出してきた肉類には手をつけないように注意してくださいね。あともう聞いたかもしれませんが、トラップハウスには近づかないようにしてください。強盗用に凶悪にしてありますので。あとは基本的にお父様の近くにいてください」
俺が注意点を言っている間の御令嬢はというと、コクコクと頷くだけだ。何故なら、少しでもシチューを食べていこうと必死になって口に入れているからだ。どうやらスキル講義の途中からアポロともどもシチューが気になり、アポロの料理談義が始まり食べたくなってしまったようだ。そこに俺の「どうします?」という質問が来て、即座に返事をしてしまったらしい。あのあと恥ずかしそうにモジモジしながら教えてくれた。
「……では、行きましょうか」
「もう……。アポロ……ベガ先生、ありがとう。また会おうね!」
「またねー! 大きいモフモフ連れて会いに行くからねー!」
「機会がありまシタラ」
俺は一応予備の槍と長剣を持って、涙を流す御令嬢を先導して村を目指した。
◇◇◇
「村長、失礼ですが私の娘を知りませんか?」
夕日が沈みかけているのに戻ってくる様子がない娘を心配したイフェスティオ・ヴァーミリオンは、最後に自称神子と一緒にいたことを思い出し、その父親に尋ねてみることにした。
「知りませんが、なぜ私に?」
「村長の娘さんがよくしてくれたようで、一緒にいるところを目撃したのですよ」
「なるほど。では娘に聞いてみましょう」
「お願いします」
祝福の儀を来年に控えたことで自称神子に対する期待が村民の中でも上昇してきて、それによって今も隊商の歓迎会という名目の下行われている宴で一番人を集めていた。そこに父親が近づきクロエ・ヴァーミリオンのことを聞くも、すげなく「知らない」と返事をするだけだった。
さすがに証拠もなく食い下がるわけにもいかず、お礼を言ってその場をあとにすることにしたが、直後知らないと言ったはずの自称神子から、「ハーフが連れ去ったんじゃない?」という言葉が発せられた。
これにより事態が急変する。
大事な客人の娘を連れ去るなど鬼畜の所業だと至る所で声高にののしり始め、ヴァーミリオン商会の中でもティグルと付き合いが浅い者までも武装し始めるのだった。
◇◇◇
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説

暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~
暇人太一
ファンタジー
仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。
ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。
結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。
そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

おもちゃで遊ぶだけでスキル習得~世界最強の商人目指します~
暇人太一
ファンタジー
大学生の星野陽一は高校生三人組に事故を起こされ重傷を負うも、その事故直後に異世界転移する。気づけばそこはテンプレ通りの白い空間で、説明された内容もありきたりな魔王軍討伐のための勇者召喚だった。
白い空間に一人残された陽一に別の女神様が近づき、モフモフを捜して完全復活させることを使命とし、勇者たちより十年早く転生させると言う。
勇者たちとは違い魔王軍は無視して好きにして良いという好待遇に、陽一は了承して異世界に転生することを決める。
転生後に授けられた職業は【トイストア】という万能チート職業だった。しかし世界の常識では『欠陥職業』と蔑まされて呼ばれる職業だったのだ。
それでも陽一が生み出すおもちゃは魔王の心をも鷲掴みにし、多くのモフモフに囲まれながら最強の商人になっていく。
魔術とスキルで無双し、モフモフと一緒におもちゃで遊んだり売ったりする話である。
小説家になろう様でも投稿始めました。


召喚勇者、人間やめて魂になりました
暇人太一
ファンタジー
甘酸っぱい青春に憧れ高校の入学式に向かう途中の月本朝陽は、突如足元に浮かび上がる魔法陣に吸い込まれてしまった。目が覚めた朝陽に待っていた現実は、肉体との決別だった。しかし同時に魂の状態で独立することに……。
四人の勇者のうちの一人として召喚された朝陽の、魂としての新たな生活の幕が上がる。
この作品は「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

神に異世界へ転生させられたので……自由に生きていく
霜月 祈叶 (霜月藍)
ファンタジー
小説漫画アニメではお馴染みの神の失敗で死んだ。
だから異世界で自由に生きていこうと決めた鈴村茉莉。
どう足掻いても異世界のせいかテンプレ発生。ゴブリン、オーク……盗賊。
でも目立ちたくない。目指せフリーダムライフ!

異世界は流されるままに
椎井瑛弥
ファンタジー
貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。
日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。
しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。
これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる