エルフに転生したけど、魔法じゃなくておもちゃで無双する

暇人太一

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第一章 転生と計画

第二十一話 クロエ、感激する

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 御令嬢が呆然とアポロを見つめていると、後ろからベガが飛んできた。

「マスター! ……手遅れデシタカ……」

「だってーーー! お腹空いたんだもーん!」

 トテトテと歩いて俺の膝の上に移動して座るアポロは、そのまま肩越しに俺を見上げる。何というあざと可愛い仕草をするのだろうか。許してしまうじゃないか。

「か……可愛いです……!」

 俺がアポロをモフモフしていると、御令嬢が衝撃から復活したようで感想を口にした。本当にモフモフが大好きなんだろう。全くアポロから視線を逸らさず、アポロの一挙手一投足を見逃さないようにしていた。

「可愛いって……。照れるなー! お姉さんも可愛いよ。ぼくとお揃いの耳だしね!」

「可愛いなんてあまり言われたことなくて……恥ずかしいです……!」

 アポロの言葉に顔を赤くし、耳を垂らして軽く俯いてしまった。その言葉を聞いて俺は思ったことがある。それはこの世界の人と美的センスが違うのかということだ。どこからどう見ても美少女であるこが可愛くないなら、不細工が美少女に見えるのかということだ。しかし聞きにくい質問だけに、聞くことを躊躇ってしまう。

「お姉さん! お姉さんが可愛くないって……何で?」

 アポロは俺とは違い普通に質問していた。こういうときアポロの物怖じしない性格はありがたい。

「……髪の色と瞳の色が……魔物みたいだからです」

 とても言いづらいことだったのか、膝の上で拳を握って震えながら話してくれた。でも顔が完全に見えなくなるまで伏せてしまい、どこか怯えているようにも見えた。

 アポロはトテトテと歩き始め、今度はベンチで座っている御令嬢の膝の上に移動した。御令嬢はアポロが膝に来た驚きで顔を上げ、アポロは御令嬢の顔を下から見上げていた。

「魔物? 魔物の瞳の色は紫や金色だけど体毛は違うよ。そもそも体毛は基本的に遺伝だし、得意属性を調べる物差しみたいなものだよ。絶対じゃないし、魔法系のスキルを持つ可能性が高いのはお姉さんみたいに濃い紫から黒の体毛を持つ者だよ。魔物の上位種が金色の瞳を持つのは、魔力が高い証拠で人間にも同じ事が言えるんだよ。だから王族は金色の瞳に拘るでしょ? お姉さんが誰かに何かを言われたとしても、相手が無知なだけだよ。ぼくも見た目でキメラって言われたこと何回もあるけど、最近は可愛いって言ってもらえて嬉しいんだー!」

 アポロは尻尾を器用に動かして、固く握られた拳や頬をフリフリとモフモフの尻尾で撫でていた。アポロなりに一生懸命励まし慰めた結果、アポロの気持ちが通じたのか涙ぐみながらも笑顔を浮かべていた。

「それにぼくの友達に紫の体毛を持つモフモフがいるんだけどね。純粋な雷の属性色が紫だから雷魔法が得意なんだって。雷は特殊属性だから、普通なら雷の魔法属性を持っているか【賢者】スキルがないと無理なんだよ。少し弱い雷っぽい魔法なら複合魔法でできなくもないけど、お姉さんは雷使えるかもしれないよ。本当はその友達に会わせてあげたいんだけど、今は遠くにいるからまた今度ね。モフモフでモコモコでフワフワでとっても大きいの! すごく可愛いんだから!!!」

「モフモフ……モコモコ……フワフワ……」

 アポロの友達が御令嬢の琴線に触れたらしく、モフモフ情報のところだけ復唱していた。それも何度も繰り返し。

「お姉さん! 雷はいいの?」

 アポロも思いの外モフモフに食いついたことが不思議だったようで、希少中の希少スキルである雷魔法のことは気にならないのかを聞く。

「……実技が苦手だがら……」

「え? まだ若いでしょ?」

「十歳です」

「……もらったばっかりじゃん……。何をもらったか聞いてもいい?」

「……【魔導師】スキルです」

 俺とアポロはそれぞれ違う意味でだろうが、「あぁ~」と納得を意味する声を出していた。アポロはスキルについての納得だろう。髪色で魔法系のスキルを持っていると予想できたのだから。そして俺は自称神子にはめられたことについて納得していた。

 元々世界樹より高そうなプライドを持っているエルフの中で、自称神子である般若さんの娘のプライドは天にも届くほどである。そこに自分と同じスキルを持つ同年代の美少女が現れたら、面白くないと思って罠にはめてもおかしくない。

 同じスキルを持つ同年代。生まれた瞬間から持っているかいないかの違いだけで、神子の存在価値が微妙なものになる可能性がある。それが般若さんの娘には面白くないのだろう。

 ちなみに俺が考察している横では、アポロによるスキル講義が行われていた。簡単に説明すると、統合スキルは本来バラバラのスキルが合わさった上位職だから、スキルがあるからすぐに魔法が使えるわけではなく、一つ一つをある程度修めていないと制御ができないどころか機能しないというものだった。つまり、スキルなしで魔法を発動している状態らしい。

 魔法を使えるようになるためには一人前を示すレベル二は必要で、正常に【魔導師】スキルを使いたいなら基本属性と高位属性と回復系魔法を、それぞれレベル三以上にすることが必須らしい。【魔導師】スキルが正常に働いていると思える目安は、無詠唱発動ができているかどうからしい。

 アポロはベガを助手にして黒板を背に授業を行っていた。黒板とチョークはアポロが地球の教室に憧れて作ったもので、普段はスケジュールボードやメッセージボードとして使用している。今回初めて本来の使用法で活躍できており、アポロも楽しそうにしている。

 俺はその間に料理を作ってしまうことにした。今夜はビーフシチューである。ヴァーミリオン商会と取引をしてから小麦粉を手に入れ、パンや麺など食卓も充実してきたが、まだ米の入手には至っていない。アポロにも米の良さを分かってもらいたいのだが、なかなか叶わずにいる。

 それはさておき、御令嬢をどうするか悩む。もう既に日が沈んでいる。さすがに一度連れて行かねばなるまい。

「ところでお嬢様、どうします?」

「食べます!」

 まさかの即答に驚いたが、俺が聞きたいことと答えが違う。

「……いえ、そうではなくて。あの……心配しているかと……」

「あっ!」

「それとアポロとベガのことは秘密にしているので、お嬢様しか知らないのです。今回のことでもう既に分かっているかもしれませんが、自称神子にアポロたちのことがバレてしまうと取り上げられてしまうので隠しているのです。つまりヴァーミリオン商会の方たちにも秘密にしているので、一度出たら戻って来れませんよ。次はお父様がついてくる可能性がありますしね」

 信用していないわけじゃないが、ヴァーミリオン商会の後ろにいる国が信用できるとは言いがたい。実際、御令嬢の髪の毛に対する差別意識が根付いているような国だ。無知から生じた差別なのに、問題自体を放置する国に信用などおけない。よって、国経由でエルフに知られると面倒なのだ。まだここに一年間はいなければならないのだから。

 もちろん誤解されないように、俺の考えを伝えると納得してくれた。そしてアポロはお礼にとハグを受け入れた。

「モフモフです!」

 アポロは御令嬢の大きな胸に顔を埋めており、苦しくなったのか「ぷはぁ~!」と言って顔を上げている。それを間近で直視した御令嬢は感激して頬ずりを始めるほど可愛がっていた。

「わたしのことはクロエって呼んでね。わたしはアポロって呼んでもいい?」

 御令嬢は最高の癒やし効果を持つアポロを抱きしめたことで、口調からも堅さが取れたようだ。

「うん! いいよ! もう親友だもんね!」

「……親友。うん!」

 少し涙をにじませ笑顔を作ると、ベガにも同じことを願いに行くが、ベガには『先生』をつけて名前を呼んでいる。理由を聞くと、まだ未発達の魔道具を作る職人になりたいようで、【魔導師】スキルでも応用が利き、さらに必須スキルや訓練で身につくスキルを教えてもらったそうだ。

 でも同じように親友だと思っているようで、抱きしめてツルツルボディを楽しんでいた。それから俺は命の恩人でお礼をしたいから祝福の儀が終わったら、一緒に大陸を渡って家に招待したいと言われた。それに対する言葉は決まっている。だが、一生懸命話している女の子に無理だとは言えず、思わず頷いてしまったのだ。……どうするかな。

「じゃあ宴会場に戻ったら、エルフが出してきた肉類には手をつけないように注意してくださいね。あともう聞いたかもしれませんが、トラップハウスには近づかないようにしてください。強盗用に凶悪にしてありますので。あとは基本的にお父様の近くにいてください」

 俺が注意点を言っている間の御令嬢はというと、コクコクと頷くだけだ。何故なら、少しでもシチューを食べていこうと必死になって口に入れているからだ。どうやらスキル講義の途中からアポロともどもシチューが気になり、アポロの料理談義が始まり食べたくなってしまったようだ。そこに俺の「どうします?」という質問が来て、即座に返事をしてしまったらしい。あのあと恥ずかしそうにモジモジしながら教えてくれた。

「……では、行きましょうか」

「もう……。アポロ……ベガ先生、ありがとう。また会おうね!」

「またねー! 大きいモフモフ連れて会いに行くからねー!」

「機会がありまシタラ」

 俺は一応予備の槍と長剣を持って、涙を流す御令嬢を先導して村を目指した。


 ◇◇◇


「村長、失礼ですが私の娘を知りませんか?」

 夕日が沈みかけているのに戻ってくる様子がない娘を心配したイフェスティオ・ヴァーミリオンは、最後に自称神子と一緒にいたことを思い出し、その父親に尋ねてみることにした。

「知りませんが、なぜ私に?」

「村長の娘さんがよくしてくれたようで、一緒にいるところを目撃したのですよ」

「なるほど。では娘に聞いてみましょう」

「お願いします」

 祝福の儀を来年に控えたことで自称神子に対する期待が村民の中でも上昇してきて、それによって今も隊商の歓迎会という名目の下行われている宴で一番人を集めていた。そこに父親が近づきクロエ・ヴァーミリオンのことを聞くも、すげなく「知らない」と返事をするだけだった。

 さすがに証拠もなく食い下がるわけにもいかず、お礼を言ってその場をあとにすることにしたが、直後知らないと言ったはずの自称神子から、「ハーフが連れ去ったんじゃない?」という言葉が発せられた。

 これにより事態が急変する。

 大事な客人の娘を連れ去るなど鬼畜の所業だと至る所で声高にののしり始め、ヴァーミリオン商会の中でもティグルと付き合いが浅い者までも武装し始めるのだった。


 ◇◇◇

  
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