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第一章 転生と計画
第十五話 テロリスト、墓穴を掘る
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ティグルたちが鳥の唐揚げを味わっている頃、村では歓迎と旅立ちを兼ねた宴が開かれていた。
「村長、つかぬことをお聞きしますが、ティグルという子はこの宴には参加されないのでしょうか?」
「あぁ、彼はこういったものが嫌いでして。失礼だから参加しろといっても言うことを聞かないのですよ。やはり親がいないと子どもは真面に育たないようですな」
村長のその言葉に護衛隊長が怒り何かを言おうとするも、周囲の商会員が必死になって止めていた。ここで責めてしまえば、ティグルの立場がもっと悪くなるからだ。
「嫌いならば仕方がありませんね。私も会合などは苦手でできれば参加したくないのですよ。ですが、嫌いという理由で不参加が許されるのは子どもまででしょう。だから今回もここの後は王都に行かないといけないんですよ」
暗に子どもの間くらい許してやれよと言っているのだが、通じているかは不明だ。そして今回も王都に行く理由を知っている村長は、平身低頭で「よろしくお願いします」と言っていた。この姿を見た村人たちは首を傾げるしかできなかった。さらにこの姿を見て一番衝撃を受けていたのは、娘であり神子筆頭候補であるリース・クローバーだろう。
神子筆頭候補の親で村の長でもある自分の父親が、獣人の商人に頭を下げているなんて到底受け入れられなかったのだ。しかもティグルが何の躊躇いもなく頭を下げるものだから、頭を下げる=ティグルというイメージがリース・クローバーの中に出来上がっていた。そこに自分の父親の行動である。このとき既に、父親がティグルにしか見えなくなっていた。
「ちょっとハーフは今すぐ出て行きなさいよ! 神子の私と同じ場所にいてもいいと思っているの!?」
突然のリース・クローバーの発言に全員が「?」を頭上に浮かべるだけだったが、父親だけは真っ先に動き始めた。
「何を言っている! ここにハーフはいないし、そんなことを言ってはダメだ!」
「ハーフならここにいるじゃない!」
そう言って自分の父親を指差すリース・クローバーに、村長自身も首を傾げてしまった。
「……何を言っているんだ?」
「アイツと同じですぐに頭を下げる。みっともないことをしないで! 私の父親なのよ!? 神子の父親が神子以外に頭を下げる必要なんかないじゃない!」
ーー何言ってんだ? コイツ。
この瞬間、宴会場にいた獣人族全員の心が一致していたことだろう。
「……えっと……とりあえずお開きにしましょうか。娘さんと話をする時間も必要だと思いますし。ただやはり子どもを育てるってお互い大変ですね。子どもの育ち方を彼に教えてもらいたかったですね!」
村長もさすがにこの嫌みには気がついた様子で、屈辱の表情を浮かべていた。だが、それもこれも娘が意味不明なことを口走ったせいである。
それに最も問題なのは、ハーフ排斥を禁止すると公言している第一王子派の村でのあからさまな差別発言だ。今回のことで、第一王子の発言がパフォーマンスであったのではないかと疑惑を持たれてしまう可能性もある。しかも王都に行く予定もあると聞いている上に自国に帰った場合、このことを国に報告してしまうだろう。内容は「今代の神子はハーフ差別者である」だ。
内容が本当かどうかは問題ではない。その話が表に出ただけで既に致命的なのだ。将来第一王子と婚約し王族となることを夢見て行動してきたし、村人全員も将来的にいい思いができるから村長に従っている。でもこの事実を知った第一王子は、他人の目を気にするあまり絶対に婚約することはないだろう。それでも神子は欲しいから一生飼い殺しである。
「どうする……どうする……。一体どうすれば……」
そもそもリース・クローバーはまだ神子と確定したわけではない。それなのに、神子を自称した上でのハーフ差別である。村長は未だ意味不明なことを呟いている娘に構う余裕すらなく、一人対策を考えていた。
そしてそこに問題解決のための方法を提案する者が現れた。それはこの村唯一の商人であるカクタス・フラウアだ。
「村長、付き合いの長い商人なのですから有益な取引で手を打ってもらうのはいかがでしょうか?」
「……たとえば?」
「事の発端はハーフなのですから、ハーフが取引契約を結んだ商品の無償提供はいかがでしょう? 当然自分の撒いた種なのですから、商品はハーフ自身に用意させればいいのです」
カクタス・フラウアは事の発端をリース・クローバーからティグルに移した。同時に村長の責任ではないことにし、自分の忠誠心をアピールした。さらに言えば、最近あまり活動できなかった排斥運動も行え、村の金庫番であるという自尊心を傷つけられた仕返しの意味の込められていた。
「だが、我々がそれを提案しては余計に疑惑が濃厚になるのでは?」
「だからこそ、取引する本人に提案させるのです。宴で深いな思いをさせてしまったお詫びに今後もお願いしますと言ってね。それで全てが丸く収まるのなら、ハーフも村に貢献できたと言って喜ぶことでしょう。誰もが損をしない完璧な解決法ですよ。いかがでしょう?」
「うむ……。決まりだな。では早速家に行ってもらえるか?」
「お任せを!」
ハーフ嫌いのカクタス・フラウアが家に行く理由は、今日の売上金の回収と恥をかかせ自尊心を傷つけられたことによる折檻と、ついでの説得であった。結局のところティグルの家に行く口実が欲しかっただけだ。ただし、カクタス・フラウアの思っている家は村はずれにある本宅のことである。
今現在そこには住んでおらず、トラップハウスとなっている。トラップのことは村長とパキラ・ウィードに伝えている上、村のほとんどの者がティグルが村に住んでいないことを知っている。だからこそ家に行けということは森の中に行けということで、夜の森に行くことを即座に請け負ったカクタス・フラウアは、騒動を見守っていた周囲の者たちから一目置かれることとなった。
しかし、パキラ・ウィードだけは気づいていた。ハーフのことなど家畜以下だと思い込んでいるカクタス・フラウアが、ティグルの住まいのことを知っているとは思えなかったからだ。つまり、百パーセント罠にかかる。でもそれをわざわざ教えてあげるようなことはしない。もともと犬猿の仲であるし、今回の失敗で村長からの信頼を失って欲しいとも思っていた。
結局のところ、今回一番おいしい思いができるのはパキラ・ウィードであり、彼もまたこの展開を喜び自称神子に感謝していたのだった。
◇
「おい! いるか!!」
村のはずれにあるティグルの家のドアを激しくノックする男がいた。カクタス・フラウアだ。売上金の回収と折檻が主な目的だが、村での地位を確たるものにするために村長のための計画についても強要しに来たのだ。しかし、ノックをしても一向に出て来る気配がない。しびれを切らしたカクタス・フラウアはドアを蹴破り中に入る。真っ暗な室内に一歩足を踏み入れた瞬間、右足に強烈な痛みが走った。
「うぅ~~ごぉぉ…………ッ!」
急いで右足を動かそうとしても何故か動かない。仕方がないから顔を近づけると、長い釘に返しがいくつかついたものが地面から突き出ていた。これは魔境の森に自生している植物を加工したものだ。加工と言っても先端から丁寧に水分を抜いていくだけだが、完璧に加工したものは鉄に匹敵する強度を得る。ティグルは主に釘代わりに使用して家や小屋の修繕に使用していた。
今回はその植物を間隔を開けて地面に固定していき、侵入者に対する最初の歓迎とした。当然返しのせいで抜けない上にナイフで切ることもできない。よって、カクタス・フラウアは覚悟を決めた。ゆっくり引き抜けないのならと、力尽くで引き抜くことにしたのだ。
結果、かなりの痛みを伴いながらも成功した。が、その直後、再び同じ痛みに襲われることになる。ティグルは一つだけ仕掛けたわけではなく、真っ黒に染めた棘植物を間隔を開けて複数仕掛けていたのだ。勢いよく足を引き抜いた反動で次の仕掛けに突き刺さってもおかしくない。さらに今回はつんのめって転んだせいで、手のひらや体の至る所を突き刺した。その痛みは想像を絶する痛みだったようで、声をあげることもなく気絶してしまった。
幸いなことに傷口が塞がれているせいで出血は少なく死ぬことはなかったが、突然襲われた猛烈な痛みによって覚醒してしまう。
「クソッ! あのガキがぁぁぁぁぁ! 殺す! 絶対に殺してやるッ!」
カクタス・フラウアは現在両手と前腕、そして右足の甲を棘植物によって固定されていた。自由なのは左足と胴体だけなのだが、元々商人であるカクタス・フラウアでは左足だけでは上手く抜け出すことができなかったのだ。
「おいおい、俺の金づるを殺されるのは困るなー。っていうか、ここで何してんの? ハーフの家に行ったはずじゃなかったのか? 強盗でもしに来たか?」
「パッ……パキラ! ちょうどいいところに来たな! 早く助けろ! 金は山分けでいい!」
「お前は馬鹿か? 殺されたら損をするのは俺だ。それにどの立場で言ってんの? 山分け? するわけないじゃん。だって全部俺のものだもん。その権利を持っているのは俺だけなーの! それに商売する度に奪っていったら、どうせ取り上げられるって学習して作らなくなるだろ? 気分を害した行商も来なくなったら俺が困るじゃん。いいか? ほんの少しの希望を持たせるのが肝なんだよ。排除なんかいつでもできるんだからよ。……それでどうする?」
「……どうするとは?」
地面に貼り付けになったカクタス・フラウアの背中に向かって一方的に話し掛けていたパキラ・ウィードだったが、軽薄な声が一転して低くドスが利いている声に変わり質問を投げ掛けた。
「そんなの決まっているだろ? 俺の下につけば助けてやるよ」
「……つかなかったら?」
「おいおい、大丈夫か? そんな簡単なことも分からないなら下につかれても困るぞ?」
今、カクタス・フラウアの生殺与奪権は完全にパキラ・ウィードが握っていた。もちろんカクタス・フラウアも分かっている。
「いいだろう。ついてやる!」
「残念だ。俺はいらねぇ」
「まっ……待て……ーー」
カクタス・フラウアの懇願も虚しく背中から心臓を刺され、あっさりとこの世を去ったのだった。その後パキラ・ウィードは、村の公共トイレに死体を投げ入れて証拠隠滅をするのだった。もちろん、持ち金を全て奪ってから。
そしてこの一部始終を見ていた人物がいた。それはヴァーミリオン商会会長のイフェスティオ・ヴァーミリオンだった。
「なかなか気になる展開だね~」
小さく呟くとその場を立ち去り、一瞬で夜の闇に消えていくのだった。
「村長、つかぬことをお聞きしますが、ティグルという子はこの宴には参加されないのでしょうか?」
「あぁ、彼はこういったものが嫌いでして。失礼だから参加しろといっても言うことを聞かないのですよ。やはり親がいないと子どもは真面に育たないようですな」
村長のその言葉に護衛隊長が怒り何かを言おうとするも、周囲の商会員が必死になって止めていた。ここで責めてしまえば、ティグルの立場がもっと悪くなるからだ。
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神子筆頭候補の親で村の長でもある自分の父親が、獣人の商人に頭を下げているなんて到底受け入れられなかったのだ。しかもティグルが何の躊躇いもなく頭を下げるものだから、頭を下げる=ティグルというイメージがリース・クローバーの中に出来上がっていた。そこに自分の父親の行動である。このとき既に、父親がティグルにしか見えなくなっていた。
「ちょっとハーフは今すぐ出て行きなさいよ! 神子の私と同じ場所にいてもいいと思っているの!?」
突然のリース・クローバーの発言に全員が「?」を頭上に浮かべるだけだったが、父親だけは真っ先に動き始めた。
「何を言っている! ここにハーフはいないし、そんなことを言ってはダメだ!」
「ハーフならここにいるじゃない!」
そう言って自分の父親を指差すリース・クローバーに、村長自身も首を傾げてしまった。
「……何を言っているんだ?」
「アイツと同じですぐに頭を下げる。みっともないことをしないで! 私の父親なのよ!? 神子の父親が神子以外に頭を下げる必要なんかないじゃない!」
ーー何言ってんだ? コイツ。
この瞬間、宴会場にいた獣人族全員の心が一致していたことだろう。
「……えっと……とりあえずお開きにしましょうか。娘さんと話をする時間も必要だと思いますし。ただやはり子どもを育てるってお互い大変ですね。子どもの育ち方を彼に教えてもらいたかったですね!」
村長もさすがにこの嫌みには気がついた様子で、屈辱の表情を浮かべていた。だが、それもこれも娘が意味不明なことを口走ったせいである。
それに最も問題なのは、ハーフ排斥を禁止すると公言している第一王子派の村でのあからさまな差別発言だ。今回のことで、第一王子の発言がパフォーマンスであったのではないかと疑惑を持たれてしまう可能性もある。しかも王都に行く予定もあると聞いている上に自国に帰った場合、このことを国に報告してしまうだろう。内容は「今代の神子はハーフ差別者である」だ。
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そもそもリース・クローバーはまだ神子と確定したわけではない。それなのに、神子を自称した上でのハーフ差別である。村長は未だ意味不明なことを呟いている娘に構う余裕すらなく、一人対策を考えていた。
そしてそこに問題解決のための方法を提案する者が現れた。それはこの村唯一の商人であるカクタス・フラウアだ。
「村長、付き合いの長い商人なのですから有益な取引で手を打ってもらうのはいかがでしょうか?」
「……たとえば?」
「事の発端はハーフなのですから、ハーフが取引契約を結んだ商品の無償提供はいかがでしょう? 当然自分の撒いた種なのですから、商品はハーフ自身に用意させればいいのです」
カクタス・フラウアは事の発端をリース・クローバーからティグルに移した。同時に村長の責任ではないことにし、自分の忠誠心をアピールした。さらに言えば、最近あまり活動できなかった排斥運動も行え、村の金庫番であるという自尊心を傷つけられた仕返しの意味の込められていた。
「だが、我々がそれを提案しては余計に疑惑が濃厚になるのでは?」
「だからこそ、取引する本人に提案させるのです。宴で深いな思いをさせてしまったお詫びに今後もお願いしますと言ってね。それで全てが丸く収まるのなら、ハーフも村に貢献できたと言って喜ぶことでしょう。誰もが損をしない完璧な解決法ですよ。いかがでしょう?」
「うむ……。決まりだな。では早速家に行ってもらえるか?」
「お任せを!」
ハーフ嫌いのカクタス・フラウアが家に行く理由は、今日の売上金の回収と恥をかかせ自尊心を傷つけられたことによる折檻と、ついでの説得であった。結局のところティグルの家に行く口実が欲しかっただけだ。ただし、カクタス・フラウアの思っている家は村はずれにある本宅のことである。
今現在そこには住んでおらず、トラップハウスとなっている。トラップのことは村長とパキラ・ウィードに伝えている上、村のほとんどの者がティグルが村に住んでいないことを知っている。だからこそ家に行けということは森の中に行けということで、夜の森に行くことを即座に請け負ったカクタス・フラウアは、騒動を見守っていた周囲の者たちから一目置かれることとなった。
しかし、パキラ・ウィードだけは気づいていた。ハーフのことなど家畜以下だと思い込んでいるカクタス・フラウアが、ティグルの住まいのことを知っているとは思えなかったからだ。つまり、百パーセント罠にかかる。でもそれをわざわざ教えてあげるようなことはしない。もともと犬猿の仲であるし、今回の失敗で村長からの信頼を失って欲しいとも思っていた。
結局のところ、今回一番おいしい思いができるのはパキラ・ウィードであり、彼もまたこの展開を喜び自称神子に感謝していたのだった。
◇
「おい! いるか!!」
村のはずれにあるティグルの家のドアを激しくノックする男がいた。カクタス・フラウアだ。売上金の回収と折檻が主な目的だが、村での地位を確たるものにするために村長のための計画についても強要しに来たのだ。しかし、ノックをしても一向に出て来る気配がない。しびれを切らしたカクタス・フラウアはドアを蹴破り中に入る。真っ暗な室内に一歩足を踏み入れた瞬間、右足に強烈な痛みが走った。
「うぅ~~ごぉぉ…………ッ!」
急いで右足を動かそうとしても何故か動かない。仕方がないから顔を近づけると、長い釘に返しがいくつかついたものが地面から突き出ていた。これは魔境の森に自生している植物を加工したものだ。加工と言っても先端から丁寧に水分を抜いていくだけだが、完璧に加工したものは鉄に匹敵する強度を得る。ティグルは主に釘代わりに使用して家や小屋の修繕に使用していた。
今回はその植物を間隔を開けて地面に固定していき、侵入者に対する最初の歓迎とした。当然返しのせいで抜けない上にナイフで切ることもできない。よって、カクタス・フラウアは覚悟を決めた。ゆっくり引き抜けないのならと、力尽くで引き抜くことにしたのだ。
結果、かなりの痛みを伴いながらも成功した。が、その直後、再び同じ痛みに襲われることになる。ティグルは一つだけ仕掛けたわけではなく、真っ黒に染めた棘植物を間隔を開けて複数仕掛けていたのだ。勢いよく足を引き抜いた反動で次の仕掛けに突き刺さってもおかしくない。さらに今回はつんのめって転んだせいで、手のひらや体の至る所を突き刺した。その痛みは想像を絶する痛みだったようで、声をあげることもなく気絶してしまった。
幸いなことに傷口が塞がれているせいで出血は少なく死ぬことはなかったが、突然襲われた猛烈な痛みによって覚醒してしまう。
「クソッ! あのガキがぁぁぁぁぁ! 殺す! 絶対に殺してやるッ!」
カクタス・フラウアは現在両手と前腕、そして右足の甲を棘植物によって固定されていた。自由なのは左足と胴体だけなのだが、元々商人であるカクタス・フラウアでは左足だけでは上手く抜け出すことができなかったのだ。
「おいおい、俺の金づるを殺されるのは困るなー。っていうか、ここで何してんの? ハーフの家に行ったはずじゃなかったのか? 強盗でもしに来たか?」
「パッ……パキラ! ちょうどいいところに来たな! 早く助けろ! 金は山分けでいい!」
「お前は馬鹿か? 殺されたら損をするのは俺だ。それにどの立場で言ってんの? 山分け? するわけないじゃん。だって全部俺のものだもん。その権利を持っているのは俺だけなーの! それに商売する度に奪っていったら、どうせ取り上げられるって学習して作らなくなるだろ? 気分を害した行商も来なくなったら俺が困るじゃん。いいか? ほんの少しの希望を持たせるのが肝なんだよ。排除なんかいつでもできるんだからよ。……それでどうする?」
「……どうするとは?」
地面に貼り付けになったカクタス・フラウアの背中に向かって一方的に話し掛けていたパキラ・ウィードだったが、軽薄な声が一転して低くドスが利いている声に変わり質問を投げ掛けた。
「そんなの決まっているだろ? 俺の下につけば助けてやるよ」
「……つかなかったら?」
「おいおい、大丈夫か? そんな簡単なことも分からないなら下につかれても困るぞ?」
今、カクタス・フラウアの生殺与奪権は完全にパキラ・ウィードが握っていた。もちろんカクタス・フラウアも分かっている。
「いいだろう。ついてやる!」
「残念だ。俺はいらねぇ」
「まっ……待て……ーー」
カクタス・フラウアの懇願も虚しく背中から心臓を刺され、あっさりとこの世を去ったのだった。その後パキラ・ウィードは、村の公共トイレに死体を投げ入れて証拠隠滅をするのだった。もちろん、持ち金を全て奪ってから。
そしてこの一部始終を見ていた人物がいた。それはヴァーミリオン商会会長のイフェスティオ・ヴァーミリオンだった。
「なかなか気になる展開だね~」
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