暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一

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第三章 雑用、始めます

第七六話 決闘

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 ヴァルのおかげで機嫌が回復したルイーサさんのバックハグから脱出した俺は、テオやエイダンさんと一緒に孤児院の増設予定地に訪れた。
 ここはまだ更地のままで、今は子どもたちの運動場に使われているらしい。

 エイダンさんはシスターに頼まれたから土地の確認に来て、俺はルイーサさんがいないところに来た。テオは単純に暇つぶしについてきただけ。
 そんなブレーキ役不在の即席メンバーで運動場に来たわけだが、来て早々孤児院の子どもに絡まれている。

「おいっ。お前、居候のくせに家族ごっこしているんだってな」

 同じくらいの年齢のガキ大将風の子どもに絡まれているんだけど、子分を引き連れた子どもを威圧するのもどうかと困っていた。
 それに俺は現在謹慎中だ。
 子ども相手にイキって謹慎を長引かせるのも損でしかない。
 ただ、一言だけ言わせて欲しい。

「自己紹介、ありがとう」

「はっ?」

 だって、そうでしょ?
 俺は所謂里親制度で養子縁組された子ども。
 親子だって公言しても問題ない。
 というか、貴族ならザラにいる。

 対して彼らは、孤児院という施設に所属して里親を待っている側だ。
 いくらシスターを母親だと呼んでいても、孤児院を実家だと言っていても、社会的な見方は里親ではない。

 この場合、自分で言った言葉に一番近いのは彼ら孤児院組で、間違いなく俺ではない。
 故に、自己紹介をしたかったけど、言語化能力が低い子なんだなという認識にさせてもらいました。

「セントが言った言葉は、セントのことじゃないか? だって」

 そこそこ賢い子もいるようで不要な解説をしてくれ、セントくんを焚き付けているようだ。
 取り巻きに偽装した底意地の悪い少年が諸悪の根源らしい。
 しかも俺にヘイトを向かせるようにしているところも腹立たしい。

「け、決闘だっ」

「いいけど? 何を賭ける? 命?」

「お、おいっ。さすがに怒られるぞ」

 決闘の話が出たところまではエイダンさんとどっちに賭けるかで言い合いをしていたテオだったが、命を賭けると言った瞬間般若様の恐怖を思い出したらしい。

「お金でもいいけど、彼らには払えなそうじゃない? 僕としては良心からの提案だったんだけどね」

「──ど、奴隷だっ」

 さすがに死ぬのは嫌か。
 あまり変わらないか気がするけど。

「いいよ。武器は?」

「これを使えっ」

 そう言って渡されたものは、たんぽ槍という先端に布がついた稽古用の槍である。
 対してセントくんは、木剣という稽古用の剣だ。

 本来なら、俺が断然有利。

 同年齢の子どもの武術スキルに差なんかほとんどなく、単純に間合が遠い長柄の武器で一方的にボコれる側が勝つ。
 つまり、長柄の武器を手渡された時点でハンデをやり、さらに断るのは愚行だと思わせるように誘導しているわけだ。

 だから、そこに裏があるとは誰も考えない。

 おそらく底意地くんが考えたのだろう。
 こちらの槍は罅が入っていてすぐに折れそうなのに対し、あちらの木剣には鉄芯が入っている。
 一度でも受ければ確実に折れるだろう。

「ハンデをくれたようだけど、僕が勝ったとき言い訳にされたくないからなぁ。僕も手を抜こうか?」

「はぁ!? しねぇしっ!」

「本当? じゃあ本気出しても大丈夫?」

「あったりめぇだろぉっ」

「わかったぁ」

 ──〈心眼〉
 ──〈身体強化〉
 ──〈槍術〉
 ──【神字:理体】
 ──【念動】

 隠密行動をするわけではないからこんなものかな。
 【念動】も槍の補強に回すだけなら、ルークやヴァル並みの感知能力がなければ気づかないだろうし。

「じゃあテオ様、審判よろしく」

「巻き込まれた……」

「審判を抱き込んで不正すんなよっ」

「あっ! それ、不敬。テオ様は辺境伯家のご子息様だから、言葉遣いには気をつけた方が良いよ?」

「えっ……」

「ほら、早く謝んなよ。いくら慈悲深いテオ様でも首チョンパする権限はあるんだよ? その場合僕は不戦勝で、君の代わりに誰かを奴隷にして持って行く権利はあるんだよ? 理解してる?」

 お前がそれを、それも今言う?

 というような視線を向けるテオとエイダンさん。
 どうかチクらないで欲しい。
 決闘の盤外戦術は常套手段でしょ?
 これも彼らの教育の一環だよ。

 詰められたら同じように答えよう。

「す、すみませんでしたぁっ!」

「決闘前だ。特別に許そう」

「ありがとうございますっ」

「良かったね、奴隷で済んで」

「クソっ」

 おいおい。そこは否定しないと。

「では、敗者は勝者の奴隷となるという条件に相違ないか?」

「なしっ」

「ないでーす」

 俺の言動が相当腹に据えるらしく、もはや返事だけでキレそうな表情をしている。

「では、双方構え。──始めっ」

「うおぉぉぉぉっ」

 テオの手が振り下ろされた瞬間、セントくんが突っ込んできた。

 そのセントくんの気迫を受け、周囲で観戦している子どもたちも歓声を上げる。

 運動場で決闘を行うに当たって周囲で遊んでいた子どもに場所を譲ってもらったのだが、そんな子どもたちは新しい娯楽を見つけたくらいに思って楽しく観戦しているらしい。
 子どもたちにとっての決闘はそれほど軽いものかもしれないが、ここは教会で彼らの後ろ盾は【調停者】だ。

 自分たちの発した言葉を反故にした場合のリスクを考えているのだろうか?
 まぁだからと言って負けてやる気はない。

「ほいっ」

 鉄芯が入った木剣は子どもにとってさぞ重かろう。
 短期決戦に持ち込み、武器破壊で勝敗を決したいと思うのは簡単に予想できる。
 それ故、下半身がお留守になりがちだ。

 次の一歩を出そうとした瞬間に合わせて膝に素早く一撃を入れる。
 すると、どうなるか。
 バランスを崩した姿勢を元に戻すことができずに転倒するのだ。

「はい、僕の勝ち」

 起き上がる前に喉元に槍の先端を向ければ試合終了となる。
 ──普通なら。

「ず、ズルをしたんだっ」

「ん? どうやって?」

「わからないようにするのがズルだろっ! 分かっていたら避けていたっ!」

 周囲の「そうだっ、そうだっ」コールがうざい。
 底意地くんのサクラが本当にうざい。

「仮にズルをしてたとしても、ゴブリン以下の動きしかできないのにどうやって避けんの?」

「なっ」

「まぁいいや。そこまで言うなら自他ともにしっかり負けを認められるように完全勝利して見せてあげるよ。ほら、構えなよ」

「クソっ。後悔するなよっ! お前の動きは見切ったからなっ!」

「ウケるぅ~」

 二回目は体力を消耗したのか、多少は慎重に動こうと思ったのか知らないけど、ジリジリと少しずつ近づいてきた。
 木剣を下げて持っているところから前者だと思われるけど、一応確認がてら挑発してみよう。

 顔面に一突き。
 後方に避けたと同時に切り上げたところを、脇腹に軽く速度重視で一撃。
 肘を下げることで防御しようとする動きに合わせ、肩に威力重視の一撃。
 ノックバックした瞬間を狙い、腹部に軽い一撃。
 膝を地面につけ嗚咽する頭を刈り取るように回し蹴りを一閃。

 ──ドッ。

 結構本気度高めの蹴りを足で受け止めた人が目の前にいた。
 そう、彼は乱入者である。

 つまり──。

「勝者、ディラン」

「余裕ぅぅぅ」

 その場で勝利の舞という煽りダンスを披露して観客を煽る。

「さて、奴隷契約よろしく」

「──やりすぎではないか?」

「おっ? 乱入者がどうした? あなたに発言権はないよ? 先に侮辱したのはそいつ。決闘を挑んだのもそいつ。条件をつけたのもそいつ。決着にあやをつけたのもそいつ。敗者に追い込んだのは乱入者のあなた。聖職者のくせに、教会併設の場所で決闘を汚すなんてね」

 直後、武力行使に出る神父もどき。

 ──【神字:処理】
 ──〈魔力掌握〉

 だが、ババアシスターと同様の対処で制圧可能だ。

「──かはっ!」

「あれれ~? どうしたの? 苦しいの? 何でかな? 心配だなぁ」

 カミラさんが患わっていた【魔脈瘴気瘤】の治療をしたおかげで、俺は〈魔力掌握〉の応用法を発明した。
 おかげでシスターのときよりも余裕がある。

「おい、来るぞっ」

 精霊に見張らせていたエイダンさんからの忠告により、俺は攻撃をやめてテオの近くに移動した。



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