暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一

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第三章 雑用、始めます

第七四話 チーム問題児

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 森に帰った俺達は、兎さん達とお別れを済ませ夜のうちにポットへ帰還することにした。

 ただ、お別れの際に一悶着があり、ボスであるはずのヴァルがすごく困った表情をしていた。
 特に兎さんの剣幕がすごく、『嘘だったらお転婆発揮しちゃうからねっ』と詰め寄っていたほどだ。

 ヴァルは終始『分かった分かった』と宥め、俺に早く出発するように促していた。
 逃げるように出発した俺達は、ヴァルの転移でポット北側の森まで転移と多少の上空移動で、あっという間に帰宅してしまった。

 本当なら早朝に着くように調節するつもりだったのだが、説教事由になりそうな一泊を回避できたのは僥倖だろう。
 これで間違いなく説教は回避できたはず。

「ルーク、ただいまっ」

『……おかえり』

「どうしたの? テンション低いじゃん。イムレから聞いていると思うけど、こちら【ヴァル】です」

『久しぶりだな』

『うむ』

「んっ?」

 どこか周囲の虎さんたちも元気がないように感じ、留守にしていた間に事件でもあったのか心配になる。

「どうしたの? なんかあった?」

『あった』

「敵はっ!?」

 すぐに対処せねばと、ルークに敵勢力について問い質す。

『お前』

「──えっ?」

 イムレや虎さんたち含む全員が俺を指差していた。

「いやいやいや。アリバイあるよっ!?」

『そういうことじゃねぇんだ。誰も食堂に近づけねぇし、とある人物の機嫌がすごく悪いんだ』

「そ、そんなっ」

『分かるだろ? わざわざ名前を言わずとも。というわけだ、行って来い。ヴァルはオレが仕事の説明とかをするから残れば良い』

「い、いやいやいやっ。ヴァルを紹介しなきゃいけないんだから連れて行くよっ!」

『ニアはもう寝た。せっかく紹介するなら明日でいいだろ。行って来い』

「許可取ったって言ったじゃんっ」

『許可は取った。でも、報連相を忘れた。以上』

「し、死んだ……」

 緩衝材を担ってくれるモフモフはいないだろうか。
 そう思って周囲に視線を巡らせるも、めちゃくちゃ懐いてくれている子虎ちゃんもプイッと顔を背けた。

『あぁ、そいつも怒っているからな。何も言わずに出かけたから大泣きして大変だったんだぞ』

「ご、ごめんね……」

「ナウっ」

 プイッと顔を背けた子虎ちゃんは、そのままママ虎のお腹の隙間に潜り込んでいった。

「こ、孤立無援……」

『早く行け』

「くそ……」

 過去一重く感じる足を引きずるようにして一歩一歩前に進み、般若が座す食堂の扉を開けた。

「た、ただいま戻りました……」

 魔導ランプを一つだけつけ、テーブルの上で手を組んだ般若様もといルイーサさん。
 口元は微笑んでいるのだが、その目はちっとも笑っていない。
 悲鳴をあげなかった自分を褒めたい。

「おかえりなさい、ディル」

 怖すぎる……。

「遅かったのね」

 帰りが?
 それとも報連相が?
 もしくは両方?

 扉の外や客室に繋がる廊下にいる野次馬たちが気にならないほど、思考が高速回転している。

「はい、すみません……」

 とりあえず無難に答えておく。
 が、いつものカンニングパートナーのイムレから悲報がもたらされた。

『主、ナディアが悪手だってー』

 はい、死んだ。

「ん? 何がかしら?」

 ほらね?

「ほ、報連相が遅れたことから始まり、許可があったとは言え深夜の帰宅になってしまい、すみませんでした」

「そうね。ママの精霊が慌てて知らせに来てくれたのよ。そのときのママの気持ち、分かるかしら?」

 精霊を振り切ったのも良くなかったようだ。
 イムレの分体がいるから良いかなって思ったんだけど。

「……ご心配をおかけしました」

「分かってくれればいいのよ」

「はい」

「もう二度としないわよね?」

「……はい」

 しそう……。
 でも口が裂けても言えぬ。

「じゃあ明日はママと一緒に出かけましょうね?」

「えっ?」

 明日もやることが……。

「えっ? ディルは悪い子なの? こんなに心配をかけてママの心を痛めつけたのに、デートをして癒してあげたいなって思わない悪い子なの?」

 言い方……。
 現在進行形で滅多刺しにされている気分だ。

「良い子です」

「そうよね。良かった。薬を使わずに済んだわ」

「薬?」

「えぇ。貴族の知り合いが教えてくれたんだけどね、入浴剤っていうものがあるの」

 ──誰だっ。教えたヤツっ!

「どうかしたの?」

「い、いえ何も?」

「そうよね。それで、デートなんだけど……」

「楽しみにしていますっ」

「そう。じゃあ早起きしないといけないから、もう寝ましょうね」

「はいっ。おやすみなさいっ」

「えぇ。おやすみなさい」

 一礼して自室に駆け込んだ俺は、ニヤつくモフモフたちに迎えられた。

『おかえり』

「……ただいま」

『結構圧がある人間だったな』

 初対面のヴァルにとっては、第一印象が最悪になってしまったのでは?

『アレはオレも初めて見た姿だ。普段はあんな感じじゃない』

『そうなのか。じゃあ大丈夫そうだな』

「何が?」

『こっちの話だ』

 ルークたちとすでに相談済みなのか、何やら専用回線で念話しているらしい。

『それよりも早く寝ないといけないんだろ。綺麗にしてやるから寝ろ』

「ありがとう」

 久しぶりの睡眠ということもあり、モフモフで溢れて窮屈になったベッドでも即寝からの熟睡だった。



 ◆



 翌朝、ノックの音で目覚めた。

「おにいちゃん、おきてる?」

 あぁ。モフモフしに来たのか。
 遠慮して毎日は来ないんだけど、モフモフしたいがために早寝早起きをしているのは知っている。

「起きてるよ」

 返事と同時に部屋に入れてあげる。
 しかし、ニアは部屋に一歩入ったところで一点を見つめたまま立ち止まった。

「ん?」

 ニアの視線を追った先にいたのは、丸まって眠る緑色の熊。
 それもベッドの半分を占める大きさ。

「あぁ、ヴァルを見てるのか」

「ゔぁる?」

「新しい従魔だよ。名前は【ヴァル】だよ」

「かわいい……」

 ニアですら可愛いと思うなら、テオなら間違いなく発狂するだろうな。

「さわってもいいのかな?」

「起きたら聞いてみようか」

「うん」

 ニアは返事をした後、ヴァルを横目に見ながらルークとイムレの元に向かい、いつも通りモフモフを堪能していた。

 そして俺はというと、子虎ちゃんの機嫌を取っている。
 起きているのは知っていたのだが、視線を合わせようと顔を向けると背けられていたのでどうしようかと思っていた。
 しかし、ルーク経由で仲直りしなさいとママ虎さんに注意を受け、粘り強く謝罪交渉を試みている。

「ナウ……」

 その結果、何かで埋め合わせをするということで謝罪を受け入れてもらえた。

「おーいっ。メシだぞっ」

 朝の日課である見回り等の時間を全て謝罪に回した結果、テオへの対策がないままテオにヴァルを会わせることに。

「まぁなるようになれ」

 その前に寝坊助のヴァルを起こさないといけないけど。
 頼むから殺気を放つことはやめてほしい。

「ヴァル、起きて」

『ん……』

「ご飯だよ」

『ん……』

 全然起きないな。

『おい、そんなんで起きるわけないだろ』

「じゃあどうやって起こすの」

『任せろ』

 ルークがデブ猫姿でヴァルの耳元まで進み、ボソッと一言『蜂蜜』と言った。

『──んあっ。蜂蜜っ!? どこだっ!?』

『食堂にある』

『じゃあ行くぞっ』

 ムクッと起き上がったヴァルはフワッと浮き上がり、俺に手を差し出した。

「おはよう」

『うむ』

 ニアや子虎ちゃんたちは突然浮いたヴァルに驚き、ジッとヴァルを見つめていた。
 当の本獣は気にもしておらず、早く進めと急かしている。

「ニア、行くよー」

「う、うん」

 ぞろぞろと部屋から大移動していく途中、ナディアさんやエイダンさんと井戸端会議をしているテオと遭遇した。

 テオはヴァルをお手本のような二度見で確認し、次に俺の顔を見た。

「も、もしかして……俺の?」

「残念。僕の」

「──何でだよっ!!!」

『どうしたんだ、コイツ?』

「彼は、熊のことを心底愛してるんだよ」

『はぁ?』

「熊が一番可愛くて、熊と従魔契約をするために日々努力をしている熊獣人のテオドール様」

『ふーん……』

 テオをジッと見たヴァルは何か思うところがあったのか、テオに声を掛けた。

『おい。熊に執着する理由は?』

「えっ? ぬいぐるみがきっかけですが、王都で遭った熊が可愛くて……」

『ふーん。動くなよ』

「えっ?」

『【緑鬼】』

 もしかして尋問官を……?

『巫女よ、視よ』

 新しい熊だ。
 それも巫女装束を纏った女の子。

「えっ?」

 初見の者はもれなくパニックになるほど高密度の魔力を放つヴァルの能力に、本館からはルイーサさんを始めとするエルフ三傑が現れる。
 だが、その場から一歩も進むことはなかった。

 テオ含め俺とニア以外の人間全てを拘束していたからだ。
 そこまでしてヴァルが何をしたいのかはわからなかったが、ルークが動いていないから大丈夫だろう。

『どうだ?』

 熊巫女に顔面をプニッとされたテオは、何が起きているのかわからないという顔を俺に向けている。
 が、俺もわからないから耐えてくれと手で合図をしておいた。

『本当でした。あとこちらが記録です』

『ご苦労。戻って良い』

『失礼します』

 可愛い声で報告した後ペコリとお辞儀をして戻っていく熊巫女さん。

 と、同時に拘束術を消したヴァル。

「て、テオ様、大丈夫?」

 高濃度の魔力にさらされたテオは、拘束術が消えた瞬間その場で膝をついた。

「大丈夫……だ」

『どんな熊か確かめたかったからな。それとコイツはお前を追って来ているらしいぞ』

「「えっ?」」

 思わずテオとハモってしまった。

「獲物として?」

『うーん。近づいたら話を聞けそうだが、獲物ではなさそうだぞ。寄り道をしているくらいだからな』

「そうなんだ……」

『うむ』

 気にはなるけど、確認できないなら気にしても無駄だ。
 それよりも、今は片付けないといけない問題がある。

 説明、どうしよう……。






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