暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一

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第三章 雑用、始めます

第七二話 類は友を呼ぶ

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『ん? 何事だ?』

『どうやら現在の伝言役を見限ったようです』

『ふーん。まぁあいつが判断したことだ。問題なかろう』

 森の魔物が移動したことに異変を感じたヴァルは、古株の一体で戦闘面の補佐やボス代行を担う虎熊に事情を聞く。
 虎熊は、情報面の補佐を担う【告死鬼鳥】からの報告をヴァルに伝えた。それに対し、二体に全幅の信頼を寄せるヴァルは問題なしとした。

 というか、今はもっと大きい問題が発生したため、替えがきくようなことは問題とは言えなかったのだ。

『あの喧嘩を何とかしろ』

 ボスであるヴァルの目の前で現在進行形で繰り広げられている喧嘩、それも大規模に発展しそうな大喧嘩こそが、ヴァルにとって最大の問題だった。

 そもそもの原因は、ヴァルがしばらくの間留守をするという宣言をした際、同行希望者が殺到したこと。
 久しぶりに目覚めたボスとやりたいことや話したいことが山程あるというのに、食後すぐに出立すると残酷な通告されたからだ。

『奴等の気持ちが痛いほど理解できますゆえ、あまり気が乗らないのですが……』

『お前もか。帰ってきたら聞いてやるから。さっさと言ってこい。怖がられたら希望が絶たれるかもしれないぞ』

『約束ですぞ?』

『分かった、分かった』

 ヴァルの言質を取ったことで喧嘩組に対する手札を獲得した虎熊は、力付くで全員を制圧し、先程手に入れた手札を公開した。
 おかげで喧嘩は止み、ディルの帰還時には可愛いモフモフの姿を見せることに成功していた。


 ◆ ◆ ◆


「あれ? なんか雰囲気が……?」

『どうしたの?』

「なんかあったかなって」

『何もなかったのよ?』

 そういってハグサービスをしてくれる兎さん。
 めちゃくちゃ可愛い。

『おいっ。ズルはやめろよっ』

『……なんのこと?』

「──グルルルッ」

「お、お腹空いてるのかな? たくさん買ってきたからどうぞ」

『わ、わーいっ』

 唸り声を上げている白い狼から逃げるようにしてスープ鍋に飛びつく兎さん。
 あの子はいったい何をしたんだ?

『じゃあお前らは大人しく食事をしていろ。我らは少し出かけてくる』

『『『……分かりました』』』

『よしっ。行くぞっ』

「はい……」

 やっぱり行くのか。
 一応ヴァルが本気だと仮定して準備をしておいて良かった。

「じゃあちょっと着替えるね」

『ん? 何のために?』

「嫌がらせのために」

『ふーん』

 ということ前職時代にも活躍した衣装に着替えた。
 この衣装は王国西側にある宗教国家の特殊部隊にのみ着用を許された戦闘服だ。
 当然だが、本物でもなければ前職時代に使用していたものでもない。前職時代に自作していた経験を活かして、町で購入した古着や生地でそれらしく見せているだけだ。

 まぁ戦闘服自体はただの祭服と変わらず、特徴と言えば序列を表す刺繍が入っている程度。
 さすがに刺繍する時間はないので、それっぽい刺繍がある古着の一部を切り取って貼り付けることで誤魔化している。

 これらは生き残りがいた場合に犯人を誤認させるためと、一瞬でも虚をつければ良いという程度だから、個人的には十分な準備だと思う。

「お待たせー」

『うむ。手を握れ』

「では失礼します」

 や、柔らかい。
 相変わらずプニプニしていて触り心地抜群だ。

『着いたぞ』

「──えっ?」

 てっきりまた手を引くのかと思っていたのに、ヴァルのお手々をプニプニしていた間に森の東端に着いてしまった。
 何故場所がはっきりと分かるかというと、目の前に帝国旗を掲げた辺境砦が存在していたからだ。

「転移もできるの?」

『当然だな。子分ができて我にできないことはない』

 マジかぁ。
 でもそれならヴァルは子分たちを寂しがらせずに済むんじゃないか?
 定期的に帰ってあげられるはずだし。
 良いことだ。

『それでクズはどこにいるんだ?』

「目の前の建物の中」

『ふーん。それならすぐに終わりそうだな』

「ちょっと待って。まとめて処分しても良いけど、次のクズが来るまでの時間を稼いで蜂蜜に集中できる作戦があるんだけど……どうかな?」

『その蜂蜜を作るのに土地は大丈夫なのか? 開拓から始めるなら時間的猶予はないんじゃないか?』

「土地はもうあるけど、工事とか耕作地の整備とかがあるんだ」

『土地は広いのか?』

「ん? うん」

『そうか、そうか。……うむ。作戦は任せた』

「ありがとう」

 というわけで、帝国に報復する機会を使ってシェイドール商会を廃業に追い込もうということになった。
 商会自体は帝国諜報員の隠れ蓑だから完全に廃業をさせることはできないと思うが、シェイドール商会という活動母体を首切りせざるを得ない状態にはできるだろう。

『じゃあ我は影にいるからな』

 と言って俺の影にヴァルが入って行った。
 巨体で珍しい特徴の熊さんをどう隠すかと悩んでいるときの行動だったから、嬉しさよりも「早く言ってよ」と思ってしまったのは仕方がないだろう。

「じゃあ俺も行くかな」

 ──〈心眼〉
 ──〈気配遮断〉
 ──〈隠形〉
 ──〈痛覚遮断〉
 ──〈身体強化〉

 まずは暗殺モードを準備。
 次に上空移動モードを展開する。

 ──【神字:処理】
 ──〈魔力感知〉
 ──〈魔力操作〉
 ──〈立体機動〉
 ──〈悪路走破〉
 ──《無属性魔法:障壁》

 近距離だから〈高速移動〉は省略する。
 目標は上空から一番近い建物である尖塔だ。
 屋根に取り付いた後、開口部から侵入し一気に制圧。

 遺体から所属などを表記している認識票や、金銭などを回収した後昼寝をしているように壁に寄りかかるように固定する。
 他三つの尖塔でも同じことをし、上から順に制圧していく。

 ──【神字:理体】
 ──【神字:処理】
 ──【念動】
 ──〈生命感知〉
 ──〈索敵〉

 移動モードを解除した後、探知系に切り替えて一部屋ずつ丁寧に確認し、確実に制圧していった。
 もちろん、戦利品も忘れずに回収している。
 今回は超優秀な回収係がいるから、俺達が通った後は壁と床しか残っていないスケルトン物件状態になっていた。
 中には床や壁の一部に陥没が見られる部屋もあったが、それらはそこにへそくりを隠していたから。

 諸君、無駄な努力ご苦労さん。

 陥没箇所を発見した俺の素直な感想だ。
 まぁそれ以前に死者にお金は不要であるが。

「──敵襲ーーーっ!!!」

「おっ。やっとか」

 上層階を制圧した後、ようやく非常事態を知らせる鐘が鳴り響き、各所を伝令が走り回るようになった。

 その無防備な伝令を一人ずつ拉致して確殺し、各階層にあるダストシュートに捨てていく。
 尖塔にはなかったけど、砦自体には全階層を上下に走る便利な縦穴があった。死体処理に使わない手はなく、全裸に向いた後に投入していた。

 気分は集団墓地。
 本国への輸送はできないけど、仲間と一緒にいられるようにと配慮した結果だ。
 感謝して欲しい。

「司令官は普通高いところにいると思ってたんだけど……」

 どうやら地下に大浴場があるらしく、司令官は非常事態だというのに呑気に風呂を楽しんでいるらしい。

「はじめまして、司令官殿」

「な、何奴っ!?」

「あなたを神の御下に導くために遣わされましたしがない神官です、はい」

「はっ? ──であえっ! 侵入者だぞっ!」

「誰も来ませんよ?」

「なにっ!?」

「あなたで最後ですからね。皆集団墓地におります。ちょうど、隣の隣にいるはずです」

「そ、そんな馬鹿なっ」

「残念ながら、私がここにいることが全てを証明しているかと」

「…………ど、どうするつもりだ」

「それはですね──『代われ』」

 予定にはなかったけど、ヴァルのあまりの迫力に思わず黙る。

『貴様は我が幼き子分を苦しめた。それも残酷な方法で』

「わ、わ、わ、たし、は……承認んんっだっけ」

 気持ちは分かる。
 死期を悟り、覆すためになんとか言葉を発した司令官。
 お前は男だよ。
 だけど、世の中手遅れなことは多々ある。
 残念ながら覆ることはない。
 あとはどれだけ苦しまずに逝かせてくれるかだ。
 頑張れ。
 応援の気持ちはないけど伝えとく。
 届いているかは分からないけど。

『知るか。貴様も子分と同じく長期間苦しむような罰を与えることにする』

 はい、終了。
 一番最悪な罰が決定しました。
 きっと彼は一生死ぬことはできないだろう。
 ヴァルのような長命種が長期間って言うってことは、最低でも千年単位でしょ。
 ただ問題は千年間何をさせられるかということだ。

 気になるーーっ!

『──【緑鬼】』

 ほう。アレがヴァルの固有魔法か。
 ルークで言うところの【青炎】だね。
 果たして効果は?

『呪術師よ、呪え』

 はい?

 ヴァルの影からザ・呪術師というローブに長杖を装備した姿の者が現れ、司令官の頭部に杖を振り下ろした。
 杖には大きな宝珠が付いており、それがメイスの役割を担っているようで物理的攻撃力も望める仕様らしいことが窺える。

 でも呪うんだよね?
 即死級の一撃だったと思うけど?

「うっ……うっ……」

「生きてた……」

 思わず口から出てしまったけど、呪術師もどこかホッとしたように見えるのは気の所為だろうか。

 あと、呪術師よ。
 君、可愛いねっ。

 司令官が死んだと思った瞬間、呪術師も「やっちまった」と思ったらしく慌ててヴァルの反応を確認していたのだが、そのときに振り返ったおかげでローブの中身が見えた。

 中身は小さな角が生えた熊。

 体格は俺と変わらないくらいだから、熊としては小柄な方ではある。

『……結果が良ければ良い』

 そうだよね。
 ヴァルが創り出したものだもんね。
 ヴァルが焦るのも当然か。

『結界師よ、隔離せよ』

 次は結界師。
 うん、見た目のあまり変化はない。
 唯一の違いは長杖の代わりに杭をたくさん持っているところ。

 磔にするのかな?

 と思っていたら、本当に磔にしていた。
 ただし、十字架に固定されているわけではない。
 四肢に杭を穿ち終えた瞬間、あらかじめ仕込まれていた術式が発動して熊にバックハグされた形で固定されていた。

 その熊が抱っこしたまま移動すると、巨大な門が出現した。
 門を潜った先には隔離空間である真っ黒な空間が広がっており、そこへと入っていく。
 この空間は俺達側からは自由に観察ができ、俺達が観察するときだけ隔離空間に光が差すらしい。

 絶望なら絶望のままの方がまだ耐えられる。
 でも合間に希望を見せられると、わずかな苦痛でも絶望級の苦痛に変化しやすいものだ。

 ちなみに、呪いの内容は波がある激痛らしい。
 痛みに質が変化するタイミングもあり、代償に体が麻痺したり強制発情期になったりと、あらゆる不調が体を襲うらしい。
 もちろん周期があり、麻痺していた箇所が治ったり痛みがなくなったりと、適度に希望を与えるらしい。

 ……うん。ヴァルを怒らせるのはやめよう。

 そしてルークへの対応も見直そう。
 なんか同類のような気がする。






 ◆ ◆ ◆


 長くなりましたので分けます。
 次話は報復後編になります。

 あと自転車操業のように書いては投稿をしています。
 基本的に三の倍数の時間で投稿をしているので、お待ちいただけると幸いです。

 待ちきれなくてお気に入りを解除しようかなと検討している方がおりましたら、他の作品で時間を潰していただけると幸いです。
 待たせている身ではありますが、一応他の作品も大賞にエントリーしているので宜しければ……。

 では、失礼しました。


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