暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一

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第二章 冒険、始めます

第六六話 地雷原の踊り子オーディション

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 宿屋に帰る前に今日起きた数々の異常事態を利用して、再開発エリアの基礎工事をやってしまうことに。

 領都ポットの北側にある工業区と東側にある居住区の間には、領都で一番大きい四つの道路のうちの一つが通っている。
 しかしちょうど中央辺り、孤児院がある場所より少し南側で断裂していた。亀裂が横に入っていて、大きな道路なのに馬車が入れない状態が続いている。
 その結果、その先に進む人がいなくなりスラムが形成されたらしい。

 俺が買った土地に、当然道路は含まれていない。
 でも長い間放置されていても誰も気にしていなかったわけで、さらに言えば今後もっと使われなくなる道路である。
 何故なら、その亀裂よりも北側は全て俺とルイーサさんたちの土地になるからだ。
 市壁に用があるかもしれないけど、他の場所から登って市壁の上を移動すればいい話で、断裂した影響で迂回を強いられて来た人たち同様に、市壁に用がある人たちは迂回してもらいたい。

 そしてその道路をどうするかと言うと、排水路にさせてもらう。
 精霊樹を植えるということは水源が必要になる。
 水源自体は魔導具で人工のものを用意すればいいが、どうせなら農業用水にも使いたい。
 その排水用の排水路に使用し、宿屋の区画と再開発の区画の境界線兼水堀としても使用する予定だ。

 最終的には再開発エリアと市壁の間に浄化槽を設け、スライム浄化をした後、市壁の下を通って市外に出そうと思う。
 市壁の外側には貯水槽を造り、スープ湖へと向かう人工河川を作る。スープ湖は元々南側へと続く河があるため、船着き場にしてもいいかもしれない。

 市外の工事に許可は不要だから、誰にも邪魔されることなく好き勝手にできる。
 その代わりに保障などはなく、全て自己責任だけど。

 それと後から苦情を入れられたくはないから、市壁の下は魔法金属を使った網で設置し、魔物や人の侵入を防ぐ対策をする。
 網はまだできてないから市壁の下に穴を開ける工事はまた今度にして、道路の地盤沈下工事と市壁外の巨大土竜出現工事だけは済ましてしまおうと思う。
 もちろん、まだ湖には繋がない。
 逆流されても困るからね。

 ──〈魔力感知〉
 ──〈魔力掌握〉
 ──〈多重魔法〉
 ──《土属性魔法:掘削》

 巨大土竜の出現工事は、湖の近くに縦穴を作り、その後町に向かって真っ直ぐ掘り進める。
 市壁の周辺で何度も地面から顔を出した設定で、いくつもの穴を作っておいて、最後に土が崩れて河川と大きな穴ができたように偽装する。

 道路の地盤沈下工事はもっと簡単で、断裂している場所から市壁に向かって真っ直ぐに亀裂風の穴を開けるだけ。
 元々地下に下水道があるので、道路の中央部分が下水道に落ちた体であれば良い。

 ──【念動:魔刃】

 土属性を混ぜた《魔刃》を等間隔に道路に突き刺していくことで、道路の地盤沈下工事を終えた。

「やっと帰って寝れる。二日連続で徹夜は嫌だ……」

 コンテナは素材同様に上空に上げ、赤竜などもまとめて入れてある大きな《障壁》に入れておいた。
 整理はまた後日。

「おやすみ」

『おやすみ』

 爆睡中のルークのお腹を枕にして、イムレを抱いて眠りについた。


 ◆


「ディルーー、起きてる?」

 ルイーサさんの声が聞こえる気がするけど、まだ眠いから無視して寝よう。

「ディルーー? ママといっしょに寝たいの?」

「──今起きましたっ!」

「よかった。準備して食堂にいらっしゃい」

「はーい」

「ん?」

「はい……」

 ルイーサさんと入れ違えに今度はテオが部屋に来る。
 珍しいこともあるもんだ。

「どうしたの?」

「客が来てる。多分昨日のことに関する事情聴取だ」

「でしょうね。何に対することか分からないけど」

「内容はよくわからないからどうでもいいが、【正邪の天秤】を持ってきているから教えに来たんだよ」

「えーと……嘘発見器だっけ?」

「そうだ。魔力の揺れで嘘を見つけるらしいから、魔力を普段通り保つことができれば大丈夫らしい。だが、完全には止めるなよ。操作しているってバレるからな」

「ありがとう。頑張ってみる」

 テオに御礼を言ってから、獅子モードのルークを連れて食堂に向かう。

「おはようございます」

「おはよう。こちらへいらっしゃい」

「はい。みんなお揃いで、朝からどうしました?」

 冒険者ギルドのギルマスと秘書、それから解体部門長と警備部門長に諜報部門長と、冒険者ギルドの幹部が一つのテーブルにまとまって座っている。もちろん護衛の冒険者付きで。
 隣のテーブルには狼公とレイフさんに、牛獣人と兎獣人の夫婦が座っている。おそらく領主夫妻だろう。こちらも護衛の騎士が建物の内外に配置されている。

 対して、ルイーサさんが座っているテーブルにはいつも通りのメンバーが座っていた。
 ルイーサさん、ブルーノさん夫婦に、ナディアさんとニア親子。
 隣のテーブルにはエイダンさんとシスターに、まともな服を着たカミラさんが座っている。
 俺がルイーサさんたちのテーブルに向かうと、テオはエイダンさんたちがいる方のテーブルに向かった。

「この人たちが聞きたいことがあるそうよ」

「話せることならいいのですが……」

「時系列的に私たちから話させてもらいたい」

「構いませんよ」

 冒険者ギルドのギルマスが領主夫婦に申し出て許可を得たため、冒険者ギルドからの事情聴取が優先されることに。

「最初に、これは【正邪の天秤】という嘘を見抜く道具だ。これを使った聴取になり、嘘をついた場合は拘束させてもらう」

「できるのでしたら、どうぞご自由に」

「…………」

「それから領都に多くの人がいる中、僕に狙い撃ちをしたという根拠をそちらがまず提示してください。その道具を使って。未成年の子供に理不尽を強いるんだから、大人が手本を見せてくださるのでしょう?」

 ──【神字:審理】

「……いいだろう。私たちは昨日の北の森の異常事態を調査するために森に入って調査した。が、巨大な魔物が通った後は見つけられたが肝心の魔物の姿はなかった。すると、君たちが依頼を受けて問題のあった場所の依頼を受けたと、依頼者であるシェイドール商会の支店長がギルドに来てくれたのだ。受付嬢の一人と一緒にな」

「それでここに来たと?」

「そうだ」

「うん。天秤が揺れていないから嘘ではないということですか?」

「──違うぞ。白い方に傾かなきゃ使用してないってことだ」

 テオのおかげで騙されずに済んだけど、ギルド側はこれで三回目に到達したぞ?

「三・回・目っ」

「はっ? 何を言っているんだ?」

「狼公に聞けばわかりますよ。それから、先程の説明は嘘だったとしても問題だらけってことに気づいた方がいいですよ?」

「嘘ではない」

「それなら道具を使ってもう一度どうぞ」

 結果的に、今度はしっかりと使って本当という証明を提示した。
 では何故使わなかったかというと、受付嬢と一緒に来たという部分が省略されていたから、そこの部分が後付の嘘だったのだろう。
 つまり、商会の支店長が調査内容も依頼受注者も知っているということに疑問を持っているのに、そこには目を瞑って俺たちにのみ追及の焦点を当てているということだ。

 俺の【神字:審理】ではグレー判定だったから、最初から何かを隠しているとは思っていた。

「なるほど。今までは防衛戦力の確保のために下手に出ていたけど、契約を切られた以上は下手に出る必要はないし、新しい戦力を他から調達できれば用なしということですか。公爵閣下が納得するような、市街地戦に向く冒険者だといいのですが、ね」

「…………」


 でもここに来て嘘をつくという、ルイーサさんと完全に敵対する行動を取るとは思わなかった。それとも息子が証言者だから、何をしても許されると思っているのだろうか?
 暗殺者時代の噂では、ダンジョン都市のギルマスは優秀な人物と聞いていたんだけどな。

「質問を受ける前に先程の問題についてどう考えているのか、僕に教えていただけませんか?」

「問題などない」

「……本当に?」

「ないッ」

「妙に強気ですね。もしかして防衛戦力に当てでもあります?」

「「──っ!」」

 ギルマスと秘書の驚いた顔が笑える。
 その戦力はもうないよ?

 赤王が領地防衛と聞いて用意した戦力が亜竜四体だったが、野戦だった場合は素晴しい戦力だっただろう。
 しかし領都ポットにおける領地防衛とは、ダンジョンの氾濫による市街地戦がメインだ。都市内部に亜竜を入れた場合、氾濫以上の被害をもたらすことになるだろう。

 人々や町に被害を出しても良い防衛戦は簡単で、そこそこの戦力と継戦能力があれば誰でもできる。
 ルイーサさんたちが英雄と言われているのは、誰にもできないことを成し遂げたからで、先々代公爵閣下が東部全域に被害が拡大していた大氾濫の報酬として土地を与えたのだ。
 もちろん税金もないし、土地の中では一国の王と同じ権限を与えている。
 知らなかったり忘れていたりする者が多いが、たとえ貴族でも宿屋がある敷地で無礼を働くことは許されていない。命があるのは全てルイーサさんたちの恩情によるものだと、もっと早く気づくべきだ。

 俺も最初は知らなかったけど、パーティー名を聞いた瞬間には気づいたよ。
 裏表関係なく、戦闘職の世界では有名人だからね。
 赤王は最初から格が違ったんだよ。

「じゃあ強気のギルドに、僕も強気で問題を提示させていただきますね。僕たちが森に入ったとき、近くに多くの冒険者がいました。彼らにも事情を聞かなくてはいけませんね。人物の特定は済んでいますか? 次に依頼者はどうして僕たちが依頼を受けたって知っているんでしょうか? 指名依頼でもなければ、依頼主に会うタイプの依頼でもない。ただの素材採取です。つまり、情報を漏洩させた人物がいるってことですよね? その受付嬢とか? 賠償金、ごちそうさまです」

「…………」

「それに冒険者ギルドが何の情報も持って帰れなかったのに、どうして一商人が森の中で問題が起きた場所の詳細な位置を知っていたのでしょうか? おかしくありませんか? ギルドは未確定な情報を商人に流して不安を煽る組織なのですか? 違うとしたら、その商人はどうやって情報を集めたのでしょう? 精霊術を使ったとしても、冒険者並みの実力と冷静さを併せ持っているということですね」

「……さすが、ルイーサ殿のご子息です」

「あら、ありがとう。でも、あの子は精霊契約してないの」

「…………」

「あれーー? ドヤ顔はどこに行きました?」

「…………」

 クソガキッと心中で言っていそうな表情だ。

「それで、何が聞きたいんでしたっけ?」

「森の異変について知っていることを話してもらおう」

「いいですけど、異変について教えてもらっていいですか? どのような状態で、どうような被害があったかを」

「……不自然な開拓が行われていた」

「それによる被害は?」

「…………北の森の開拓は禁止事項だ」

「言葉がわかりませんか? 被害は、出ましたか? 誰か死んだのですか?」

「…………被害はない」

「じゃあ問題はないですね」

「先程も言ったように、開拓は禁止事項だ」

「はいはい。テオ様、これどうやって使うの?」

 冒険者ギルドは信用できないから、テオに使い方を聞く。

「こうやって天秤の棒の天辺に手を当てて『俺は熊が大好きだ』って言えば、ほら白い方に天秤が傾いただろ。魔力を流す必要はない。手を離せば元に戻る」

「ありがとう」

「おぅっ。早く終わらせて仕事しようぜっ!」

 テオは俺たちのダンジョン探索に協力して変身の魔導具を手に入れないと、彼の愛する熊の従魔が得られないからね。
 このままだと熊のぬいぐるみを購入しそうなほど、熊への愛情が強い。

「そうだね。『僕は開拓をしていない』。──白みたいです。話は終わりでいいですね? 次の方を待たせているので」

「そんなっ!」

 自信があったみたいだけど、残念でした。
 魔力の制御力は【念動】を使う上で必要不可欠な技能で、制御力がそのまま威力や精度に反映される。
 むしろ、小道具を持ってきてくれてありがとう。


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