暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一

文字の大きさ
上 下
76 / 97
第二章 冒険、始めます

第六七話 名探偵ディラン

しおりを挟む
 ルイーサさんたちとの関係を捨ててまで使用した根拠が全く使い物にならず、敗北を喫したギルマスを無視して子爵夫人に向き直る。

「さて、お待たせしました。僕に何か用ですか?」

「二点。歓楽街の事件と道路の亀裂について知っていることは?」

「ありませんよ。道具、使いましょうか?」

「その必要はないわ。それよりも何があったか気にならないの?」

 俺は知っているから気にならない。
 でも隣で笑顔を浮かべているルイーサさんは気になるようで、俺に聞くように促してきた。

「道路の亀裂は孤児院の近くのものでしょう? 僕がこの町に来る前からあるものを、僕が知っているはずがないでしょう。何故直さないのかは興味はありますけどね。それから歓楽街の方は、子供ですからそこまで気になりません。大人や貴族の子供が遊びに行くところでしょう? 何をする場所かもよくわからないんです……」

「「「…………」」」

 主に隣からだけど、色々なところから圧力がある視線を向けられている。
 それに対する俺のカウンターは……。

「何をする場所かを教えてもらえますか?」

「……お酒を飲む場所よ」

「この食堂でもお酒を取り扱っています。歓楽街は食堂街ということでしょうか?」

 ──〈無表情〉

 笑うな、俺。
 テオやエイダンさんみたいに笑っては駄目だ。

「……綺麗なお姉さんとお酒が飲めるところなのよ?」

「貴族の子供は法律を破ってもいいんですね。お酒は十二歳以上ですけど、以前いた場所では十歳の誕生日祝で歓楽街行きの許可をもらっていた子供がいたんです。何故かパフパフとか、ポヨポヨっていう謎の言葉を発していたんですけどね。まるで僕の従魔みたいですね」

 と言ってイムレを抱き上げる。

 直後、左隣のテーブルから爆笑が聞こえてきた。
 シスターとカミラさんが呆れ顔でテオとエイダンさんを見ているけど、構わず爆笑する二人。

「歓楽街が不思議な場所ということは理解しました。その不思議な場所で事件が起きたんですよね? 起きるべくして起きたのでは? という印象ですが……」

 これ以上からかっていると、隣の女性から罰を受けそうだったので、ちょうどいいところで切り上げることにした。

「それでも深夜に空から青く発光する剣のようなものが降ってきて、それが大量の水に変わったという異常事態が起きたのよ? 気にならない?」

「すごいなとは思いますが、僕とは関係ありませんね。僕の適性は無属性だけなので」

「──えっ?」

「道具使います? いいですよ。『僕の適性は無属性だけ』。ほら、白に傾いたでしょう? 誤解は解けましたね」

「他の二ヶ所も知らない? 先程のギルマスとの話を聞いていると、ここ最近で一番関係がありそうなんだけど?」

「どこです?」

「シェイドール商会の倉庫街と、冒険者ギルドのサブマスの屋敷ね。サブマスも行方不明だしね」

「僕以外にも関係している人はいますよ?」

「……誰かしら?」

「特別ですよ?」

「……えぇ、ありがとう」

「冒険者ギルドのギルマスと、狼公です」

「「──なっ!」」

 先程の話を持ち出すなら、絶対に外せない二人だろ。
 歓楽街については俺が一番関わりがないだろうし。

「ギルマスは、元々サブマスを処罰するように行動しているって聞いていましたし、冒険者ギルドの受付嬢が情報を渡すほどの関係性でしょう? ギルマスは大人なんだから歓楽街も行きますでしょう? 僕よりよっぽど容疑者に可能性が高いと思いますが、子爵夫人は何故その可能性を排除したのでしょう? 仲が良いからでしょうか? つまりは僕はまた濡れ衣をかけられているということでしょうか? 衛兵の次は領主家自らですか……悲しいです……」

 ルークが前足を膝の上に置いて慰めてくれている。

『可哀想にな。オレの契約者を傷つけるなんて……』

 この言葉に真っ先に反応したのは、ルイーサさんとシスターの二人。
 現在執行猶予中の子爵家は、ルークの気分次第ですぐさま真っ平らにされてしまうのだ。もちろん、王都も一緒に。

「ルーク、扉の外に子虎ちゃんたちが来ているわよ? 何か用事があるんじゃないかしら?」

『んっ? そうか。すぐに戻ってくるからな』

「えぇ、待ってるわ」

 ルークを見送った後、ルイーサさんが体ごと俺の方に向けてきた。

「ディル、本当に悲しい? 怖い夢見るなら、一緒に寝てあげようか?」

 意訳、夜間の外出禁止よ?

「──みんなのおかげで頑張れますっ」

「よかった」

「つ、次は狼公でしたね。シェイドール商会の倉庫街に知人が囚われていたでしょう? サブマスのせいで防衛契約が白紙に戻され、命の灯火が消えかけるきっかけにもなったでしょう? 恨みしかないと思いませんか?」

「それはっ」

「諜報部隊なんだから、知人がどこに囚われていたかくらいとっくに調べがついているでしょう?」
 
 これで調べていなかったら、彼は辺境伯によってクビになるだろう。

「あっ! もう一組いましたっ!」

「そちらも教えてくれる? もちろん、特別っていうことも分かっているわ」

「仕方がないですね。その人物は、御子息とラルフっていう使用人ですよ」

「「──えっ?」」

 ルイーサさんもぐりんっと首が勢いよく俺に向けていた。

「ディル、どういうこと?」

「まずは前提の話をしますけど、シェイドール商会は隣国の諜報部隊です。まぁ狼公ほどの諜報部隊や、ギルドほどの大組織の諜報部門なら知っていると思いますが」

「「「…………」」」

「シェイドール商会は自国に近く、ダンジョンという資源の宝庫であるこの町を橋頭堡のような基地にしたかったみたいです。僕が提案した再開発計画の前に、シェイドール商会も再開発計画を同じ規模で行おうとしていたそうです。その場に住んでいた人を追い出したり、奴隷同然の労働をさせたりと、僕とは方向性が違いますが。それでも僕とは違って、彼らは許可が降りていたみたいですよ」

 人材は自国から工作兵や技術者を喚んで、その他の商会員は自国の兵士を使うという建前で、大量の兵士を越境させていくという作戦だったらしい。
 拾ってきた様々な資料を元に、【神字:推理】で情報を収集しておいたのだ。

 泥の採取依頼のときにどこかで聞いたことがあると思っていたけど、【双竜の楽園亭】の仕入先だったり、盗賊ギルドの依頼者だったり、倉庫街の持ち主だったり。

 そしてトドメに、採取中に思い出した暗殺者時代の記憶。

 俺が暗殺者時代だったとき、王弟の欲しいものをシェイドール商会に買われたから奪って来いという命令を受けた。
 任務は成功したのだが、逃走に失敗して北回りで帰る羽目になったのだ。そのときの帰りに出会ったのが、我らが癒やしのルークである。

 そこそこ昔のことだったから、すっかり忘れていた。
 強奪のときにシェイドール商会のことを調べていたから、彼女たちのことは知っている。

 そう、彼女たちなのだ。

 シェイドール商会の商会長や支店長は全員男なのだが、それは薬と精神系魔法で催眠状態になっている傀儡であって、本当の諜報員はその奥方である。
 この町に派遣されている者も支店長の奥さんだけであり、支店長は常套手段である傀儡にされている。

 そのことに早く気付けたから、報復は嫌がらせのオブジェだけにして、処罰についてはルイーサさんたちに任せることにした。

 話を戻すと、再開発計画の許可を出した人物が子爵家のご子息で、ラルフという人物が実際に動いていたらしい。
 そして冒険者ギルドの窓口がサブマスで、会合場所は歓楽街。
 店の名前は【女郎蜘蛛の館】。

「──ねぇ? 全て繋がっていますでしょう? もちろん、本職の諜報員の情報量には勝てないとは思いますけどね」

「「「…………」」」

「あれ? 睨んでます? ……怖いなぁ」

 隣のテーブルからジト目が向けられている気がする。

「あっ! スラムから人がいなくなったせいで新興組織の情報が入らなくて、どこぞの貴族令嬢が誘拐未遂に遭い、どこぞの貴族令息が拉致された上に暴行までされたんでしたっけ。でも領主家主導の事業で、冒険者ギルドも協賛している大規模な計画による被害だから、奴隷狩りに遭った被害者たちは泣き寝入りですかね?」

「「「…………」」」

「隣のテーブルの被害者は泣き寝入り確定ですね。そのうち一人は狼公の命の恩人なのに……、義理堅い土地柄と聞いていたのですが本当に残念です」

 何も返してくれないなら協力することに意味を見い出せないし、俺も好きにさせてもらおう。

「それで、お話は終わりですか? では、他に用がないなら僕は失礼させていただきたいのですが?」

 ルークたちと違って朝ご飯を食べていないからね。
 少しだけでも何か食べたいんだよ。

「よしっ。誰もいないみたいだな。出番だぞ、ダニエルっ」


しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~

暇人太一
ファンタジー
 仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。  ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。  結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。  そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?  この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

破滅する悪役五人兄弟の末っ子に転生した俺、無能と見下されるがゲームの知識で最強となり、悪役一家と幸せエンディングを目指します。

大田明
ファンタジー
『サークラルファンタズム』というゲームの、ダンカン・エルグレイヴというキャラクターに転生した主人公。 ダンカンは悪役で性格が悪く、さらに無能という人気が無いキャラクター。 主人公はそんなダンカンに転生するも、家族愛に溢れる兄弟たちのことが大好きであった。 マグヌス、アングス、ニール、イナ。破滅する運命にある兄弟たち。 しかし主人公はゲームの知識があるため、そんな彼らを救うことができると確信していた。 主人公は兄弟たちにゲーム中に辿り着けなかった最高の幸せを与えるため、奮闘することを決意する。 これは無能と呼ばれた悪役が最強となり、兄弟を幸せに導く物語だ。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

生活魔法しか使えない少年、浄化(クリーン)を極めて無双します(仮)(習作3)

田中寿郎
ファンタジー
壁しか見えない街(城郭都市)の中は嫌いだ。孤児院でイジメに遭い、無実の罪を着せられた幼い少年は、街を抜け出し、一人森の中で生きる事を選んだ。武器は生活魔法の浄化(クリーン)と乾燥(ドライ)。浄化と乾燥だけでも極めれば結構役に立ちますよ? コメントはたまに気まぐれに返す事がありますが、全レスは致しません。悪しからずご了承願います。 (あと、敬語が使えない呪いに掛かっているので言葉遣いに粗いところがあってもご容赦をw) 台本風(セリフの前に名前が入る)です、これに関しては助言は無用です、そういうスタイルだと思ってあきらめてください。 読みにくい、面白くないという方は、フォローを外してそっ閉じをお願いします。 (カクヨムにも投稿しております)

女神のお気に入り少女、異世界で奮闘する。(仮)

土岡太郎
ファンタジー
 自分の先祖の立派な生き方に憧れていた高校生の少女が、ある日子供助けて死んでしまう。 死んだ先で出会った別の世界の女神はなぜか彼女を気に入っていて、自分の世界で立派な女性として活躍ができるようにしてくれるという。ただし、女神は努力してこそ認められるという考え方なので最初から無双できるほどの能力を与えてくれなかった。少女は憧れの先祖のような立派な人になれるように異世界で愉快で頼れる仲間達と頑張る物語。 でも女神のお気に入りなので無双します。 *10/17  第一話から修正と改訂を初めています。よければ、読み直してみてください。 *R-15としていますが、読む人によってはそう感じるかもしないと思いそうしています。  あと少しパロディもあります。  小説家になろう様、カクヨム様、ノベルアップ+様でも投稿しています。 YouTubeで、ゆっくりを使った音読を始めました。 良ければ、視聴してみてください。 【ゆっくり音読自作小説】女神のお気に入り少女、異世界で奮闘する。(仮) https://youtu.be/cWCv2HSzbgU それに伴って、プロローグから修正をはじめました。 ツイッター始めました。 https://twitter.com/tero_oo

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

処理中です...