暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一

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第二章 冒険、始めます

幕間十一 レベルマックス?

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 ルイーサさんの説教が終わった後、血液が素材になる赤竜の解体が最優先で行われることになった。
 騒ぎを聞きつけたシスターやカミラさんも巻き込んで採血の準備をしているのだが、少しだけ悪戯心が働いてしまった。

 蘇れ、赤き屍竜よ。

 ──〈魔力感知〉
 ──〈魔力掌握〉
 ──〈多重魔法〉
 ──【念動】
 ──《風属性魔法:旋風》

「グオォォォッ」

「「──えっ!?」」

「生きてたのか!?」

 ルイーサさんとカミラさんが突然起き上がった赤竜に驚き、シスターが生存を疑い始めた。
 当然、乗って帰ってきたメンバーは俺が動かしていることを知っているから、多少驚きはしたけど戦闘態勢を取ることはなかった。

 俺は竜種が絶対にしない動きを【念動】で再現し、観客たちに世にも珍しい赤竜舞踊ドラゴンダンスを見せてあげる。

 アイドルのコネコネダンスから始まり、ランニングマンからのサイケダンス。

「フォォォォッ」

 声は俺の声を拡張している。

『はははははっ! 死ぬっ!』

『おもしろーいっ』

 ちなみに、エイダンさんが作ってくれた作業場を壊さないように、少し浮かせて踊らせている。
 ちゃんと配慮ができる子なんです。

「──ディルぅぅぅ?」

「な、なんでしょう!?」

「ママねぇ、とっても驚いたわ」

「滅多にできないドラゴンショーですからね。驚きと感動をみんなに届けられて嬉しいです」

「まぁっ! じゃあママも御礼をしなきゃね」

「いえいえっ。いつもの御礼ですから、お気になさらず」

「そうはいかないわ。疲れた体を癒やしてあげるから、一緒にお風呂に入りましょう?」

「ルークが回復してくれているので、全く疲れていませんよ」

「でもママは疲れちゃったわ。驚いた拍子に腰を傷めちゃったから、体を洗って欲しいわ」

「──ルークっ」

『任せろ』

 即座にルイーサさんに向かって青炎が飛ぶ。

「……ルークは良い子だと思ったのに」

『良い子だから、すぐに治療したんだぞっ』

 ルークは子虎特攻隊を呼んでいたようで、怒りを収めるように指示して突っ込ませていた。

「「「「ナァァァァッ」」」」

 可愛さの塊である子虎たちを前に動きを止めるルイーサさん。
 そこに追い打ちをかけるようにママ虎が近づき、大きな顔をルイーサさんに擦り付けた。
 子虎はともかく親虎たちはルーク以外に体を触らせていなかったため、人間で初めてモフったのがルイーサさんになるというわけだ。
 これには堪らず、ルイーサさんも頬を緩めてモフりだした。

「…………もぅ、ずるいわ。はぁーー癒やされる……」

『よくやった』

「感謝します」

 その後、カミラさんやシスターから多少嫌味を言われたが、恙無く赤竜の解体は終了した。

 ついでに、半分解体が終わっている森大蛇フォレストバイパーの解体も終わらせた。巨大な胴体から皮を剥がして骨から肉を切り出すだけだが、大きさのせいでそこそこ時間を使った。
 そのせいで亜竜四体の解体は後日に回されることに。
 血液は不要だから、イムレとダーウィンスレイヴで血抜きだけ済ませておく。

「あの大量の蜥蜴はどうするの?」

「雑用系指名依頼にしようかと。あれだけあれば多少失敗しても問題ないですから、貢献ポイントを稼ぎながら解体を覚えて行くのもありかなと思います。二足歩行の蜥蜴が主体だったので、ゴブリンとかの解体の参考にもなりそうですし」

「依頼料金は安いからどうとでもなるけど、報酬はどうするの?」

「自分が解体した蜥蜴の皮と肉でいいんじゃないんですか。もちろん全部じゃなくて、三体~五体につき一体とかにすれば、誰も手を抜かないと思いますし。中には協力した方がいいと思ってパーティーができるかもしれませんね」

「すごいじゃないっ! 良いことを考えたわねっ! 偉いわぁっ!」

 そうでしょう、そうでしょう。
 だから、折檻はやめてくれますよね?

「ニアを早く昇格させるためです。ダンジョンに行かなければ、変身の魔導具は入手できませんからね」

 とにかく神秘的な雰囲気を醸し出す美少女から、普通の美少女くらいまで変身させられれば多少は誤魔化しが聞くと思う。
 もちろん同時に実力をつける必要があるけど、それは魔力操作の精度が上がれば全て解決するだろう。

「そうね」

「ちなみ、蜥蜴は何に使うんですか?」

「主に防具に使われるわね」

「なるほど。竜素材で作った防具のカモフラージュにはいいかもですね」

「それは良いわね。エイダンとも話し会わなきゃね」

「はい」

 逃走していた魔物の中には蜘蛛系の魔物もいたから、上部な糸を使った布鎧もありかなって思うんだよね。迷う。


 ◆


 翌日、蜥蜴の解体依頼を出すために冒険者ギルドに向かっている。
 コンテナに入れたままの素材や、入り切らずにコンテナに繋がれた魔物たちは一旦上空に上げておいた。上空は魔力濃度が圧倒的に濃いからコンテナの維持も負担にならないし、素材の劣化も遅らせることができるらしい。
 空間系魔法を使用できない現状で、最善の保存法であるだろう。

「なんで荷車で来たんだ?」

 相変わらず荷車を引いているテオが、不満の込められた質問をする。

「エイダンさんの希望だよ」

「えっ?」

「この前の鉱石は色鋼の材料になる色鉱石ってやつでな、精霊樹の種のおかげもあって結構質が良いものだったんだ。その採掘を受けた冒険者たちが帰ってきたって聞いたから、受け取りに来たんだよ」

「そうなんすねぇ。でも採掘できなかったと思うな、俺は」

「僕も」

「……まぁそれだけじゃなくて、買い物に使うんだろ?」

「そうですね」

「なんだよっ。お前の用もあるんじゃん」

「もしかして重いの?」

 荷車にはルイーサさんを始め女性陣が乗っている。
 人数がいるから重くないわけないが、それを口にしていいかどうかはよく考える必要があるだろう。

「……そんなわけねぇだろ」

「辛くなったら言ってね。エルフの神秘で助けてあげるから」

「助けて」

 早かったなぁ。
 いつものメンバーにシスターとカミラさんが含まれているのに、歩いているのはテオとブルーノさんと俺だけだ。
 他は全員荷車に乗っている。
 重くないわけないのだ。

「エルフの神秘ーー」

「うおっ! 軽っ!」

 疲労はルークが青炎で取り除いたおかげで、ギルドでの用事が済んだ後も変わらず元気に荷車を引いていた。

「やってきました、聖地巡礼ツアーっ!」

「「「…………」」」

「貴族区は遠いし面倒なのでまたにして、今日は商業区の聖地を巡りましょう。ついでに買い物も」

 元々はシスターの提案である、初日の依頼報酬にするための解体ナイフを購入しようとデッドマン号を用意した。
 貧しくてまともなナイフを用意できず、素材を大きく損傷してしまうらしい。その結果、もらえる報酬が下がってしまい貧困から脱出できないらしい。

 貸与から始めて、三体達成した時点で贈呈する。
 その後、蜥蜴報酬カウントを始め、五体につき一体で蜥蜴を贈呈する予定だ。
 もちろん、蜥蜴にも上限数があるから早い者勝ちである。

 大量の解体ナイフも用意できるか微妙で、ギルドでの一括購入も空振りに終わった。
 だから、商業区で量産品を買って回る予定である。
 ついでに巨剣を突き刺した跡を見て回ろうと思ったのだ。

「……何の聖地?」

「天変地異が起きたんだって」

「あぁ……あれ……。歓楽街の被害が凄まじかったらしいな」

「歓楽街って何するところなの?」

「……子どもの俺に分かるわけねぇだろ」

「だよねぇ」

 そしてやってきました、待望の歓楽街。

 ナイフの仕入はエイダンさんが目利きから交渉まで担当してくれ、あっという間に終了した。
 ここ最近大活躍のエイダンさんは、ちゃっかり仮の外壁の中に自分の家も入れ、毎日推しの猫と過ごしているらしい。

「わぁ……なんということでしょう~」

「えっ? まだ水浸し?」

「──クッサっ」

 エイダンさん、ストレートすぎ。
 どこかが詰まっているらしく、水が逆流しているところもあるらしい。

「この場所ほど水が合う場所はないでしょう」

「何で?」

「わかんない?」

「まったく」

「歓楽街は水商売が主要でしょう? それに有名な【水精天女】もいるじゃん」

「誰だ、それ?」

「あれ? ご存知ない? 超絶美人なお姉さんらしいよ」

 暗殺者時代から有名な人だったからなぁ。
 まさかこの町に住んでいるとは思わなかった。

「何でお前が知ってんの?」

「この町に住む以上は常識だよ?」

 おおまかに言えば、狼公と同じようなものだからね。

「ふーん」

「性格は悪いらしいから気をつけてね」

「歓楽街に来ないし」

「向こうも人間なんだから動くでしょ」

「あっ! そうかっ!」

「わかっているだろうけど、護衛の男衆もいるから気をつけてね」

「あぁぁぁぁ……。お前の近くにいることにするっ」

「やめろ」

 本当は現場に行きたかったけど通行止めになっていたから諦め、シェイドール商会に向かう。
 そこはすでに観光名所になっており、人混みでごった返していていた。

「わぁぁぁっ! 巨人の大剣が突き刺さっているみたい」

「「「…………」」」

「邪魔じゃないのかな?」

「いや、邪魔だろっ!」

 テオの言葉が全員の総意だったようで、全員もれなく頷いていた。

「一体誰がこんな酷いことを……」

「「「…………」」」

 全員から向けられる視線が痛い。

「僕は無属性魔法しか使えませんから、きっと違いますね」

「あれ? 闇属性の魔法使ってなかったか?」

「テオ様。気のせい」

「そうかなぁ?」

「ちょっと、丸め込まれないの。みんな見ていたんだから、使っていたのは間違いないわ」

 カミラさんがテオを叱咤する。

「でもこれはきっと土属性魔法です」

「……何故かしら。ちょっとムカってしちゃった」

「そうでしょう? ディルはたまにママのこともムカってさせるのよ。その後こっそり笑ってるのも知ってるのよ?」

「誤解ですっ」

 ここにいたら余計詰められそうだと判断し、運転手のテオに帰宅を伝える。

「ささっ。帰りましょうか」

「帰ったら一緒にお風呂に入りましょう?」

「いいわね。ママも一緒に入ろうかしら」

 やめてぇぇぇぇっ。



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