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第二章 冒険、始めます
幕間九 地雷原の踊り子ツアー
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インドラン王国の東部地方は国内随一の豊かさを誇り、国内外から羨望や嫉妬の的になっている。
当然あらゆる者たちから狙われることも多々ある。
しかし、大氾濫から東部地方を救った二人の英雄の存在や、これまた国内随一の戦力を持っていることもあって、未だに東部地方を脅かす存在は現れていない。
東部の雄と言えば、必ず名前が挙がる人物が二人いる。
一人目は、東部の王であるサイラス・レ・ルドラン公爵だ。
王国併合前は地方君主であったため、本来なら爵位名になるはずの領地の名前が名字になっていた。
東部公爵である彼にのみ許されているわけではなく、国内の有力な地方君主も同様に爵位名を名字にしている。
その一人が、二人目の雄であるアーサー・レ・アグニール辺境伯だ。
彼は辺境伯という役職についているだけで、本来の爵位は侯爵である。
地方君主の一人であるが、東部地方をより強固な一枚岩にするために自ら公爵に従った股肱の臣でもあった。
二人は東部の東と西から入ってくる敵を、裏表関係なくすべからく排除してきた。
大切なものを守るという意志を統一した両雄は、同い年の幼馴染であり好敵手であり親友であった。
そして同じ師の下で学んだ師兄弟でもある。
当時はまだ幼く、少し中二病のようにこじらせていた時期だったため、お互いに名付けた「風神」「雷神」という名で名乗りを行っていた。
今ではお互いに別の二つ名が付けられ、過去の恥ずかしい名乗りは厳重に封印を施した。
その黒歴史を掘り出した者が現れ、手紙という残るもので二人に突きつけた。
「…………あの馬鹿っ。よりにもよって、何故あそこに滞在しているんだっ?!」
「アーサー、どうしたの?」
「い、いや……何でもない……」
「その手紙はテオからのものだったのでしょう? 私にも読ませていただけないかしら?」
「生存報告を書いてあるだけだから、心配することは何もない。ダニエルからも通信魔導具で報告が来ているから、大した問題はないぞ」
「でしたら、なおさら読みたいですわ。レイフからおかしな手紙が届いたのですもの。返事をするのにも情報が不足していますの」
「あぁ、土地の話だろう。問題なく片付いたぞ。大丈夫だっ。──おっと、そろそろ書類仕事の時間だっ」
「アーサーっ」
愛妻家の彼は、普通なら嫌いな書類仕事をサボれることもあって夫婦の時間を優先している。
それなのに、手紙を読んだ今日に限っては全く逆の行動をとった。どんなに鈍くても異常だと思うだろう。
「──誰かいるかしら?」
「──ここに」
「私、どうしても気になるの。手紙の内容を知る方法はないかしら?」
「閣下は部屋を出てすぐに手紙を焼却しましたので、テオドール様本人に直接聞くこと以外には方法はないかと愚考いたします」
「ではそうしましょう。すぐに子爵領の領都ポットに向かう支度をしてちょうだい」
「かしこまりました」
「ふふふ、楽しみね。久しぶりの旅行だわ」
手紙に書かれていた「雷神坊やは元気?」という一文は辺境伯から冷静さを奪い、そして近い未来に息子テオドールからも冷静さを奪うことになるだろう。
これこそエルフの神秘だ。
そして幼馴染も同様に、エルフの神秘が記された手紙が送りつけられていた。
「まだ覚えていたのか……。いい加減忘れて欲しい……」
就寝中に無理やり起こされ、精霊によって届けられた手紙をすぐに読むと見たくもない言葉の羅列があり、文章の端々から師匠の憤怒が伝わってきた。
東部は獣人が多く、獣人は基本的に一夫一妻である。
法律で禁止しているわけではないが、多妻を嫌う女性が圧倒的多数であるし、子供ができやすい獣人は側室を持つ必要がない。
結果、貴族でも妻は一人だ。
一夫一妻ゆえに恋愛結婚が推奨されている東部は、基本的に初恋の女性と添い遂げることが多い。
公爵も初恋の女性と結ばれることができたのだが、全ては師匠であるルイーサのアシストやアドバイスのおかげであった。師匠ということで既に頭が上がらないのに、加えて足を向けて寝られなくなるほどの恩を感じている。
困った時のドラ◯もんのように、夫婦喧嘩をしてしまったときはすぐさまルイえもんにアドバイスを求めていた。
実母含む女性陣は妻側に立ってしまうので、まともな相談をすることはできない。ゆえに、現在進行系でディルよりも恩義が積み重なっている人物である。
「どうしたの?」
「師匠から手紙が届いた」
「まぁっ! ルイーサ様から!?」
「あぁ。大変お怒りらしいが……何故か子どもの自慢が書かれている。四人目を出産されたのか?」
「えっ? 新年のあいさつに行った時は何も変化はなかったでしょう?」
「そうなんだよなぁ……」
「他にはなんて書いてあるの? というか、読ませてくれないかしら?」
「いや、それは……」
「なぁに? 私は除け者……?」
「そんなこと言ってないだろう?」
公爵は急いで「風神坊やは元気?」という部分に穴を開け、文字自体を消滅させた。
「見せて」
「どうぞ」
「……穴が開いているのは何故?」
「爪で引っ掛けたかも」
「…………」
「…………」
お互いが視線を交わし見つめ合うことしばし、ルイーサによって鍛えられた公爵に根負けした夫人は手紙に目を落とした。
「土地を取り上げ、家族を侮辱したと書かれているわね。……どういうこと?」
「わからん。明朝アーサーに問い合わせるとしよう」
「なるべく早い方がいいものね」
公爵家は大氾濫を鎮圧した【双竜の誓い】に対し、深い感謝とともに王家に対する以上の敬意を払っている。
当時の公爵は二人のことを師と崇め、後世にも感謝と敬意を忘れるなと言葉を残していた。
現当主のサイラスは、公爵家の悲願であった初めての弟子だ。
獣人という魔法が苦手な種族にも関わらず、神法師と疑われているほどの魔法士である。
夫人は、ルイーサの熱狂的信者だ。
ルイーサの悪口を一言でも口走った者は全て、二度と社交界に出ることができなくなった。
武の公爵に対し、暗の夫人。
実家の北部侯爵の力も使い、夫人は日夜暗闘を行う日々。
全ては新年のあいさつに気持ちよく向かうため。
褒められようとは思っていない。
むしろ、怒られそうという理由から隠している。
だが、ルイーサはきっと知っている。
やんちゃ坊主の仲間のお転婆娘だと思っていることだろう。
「早くルイーサ様に会いたいわ」
「そうだな。次は勝ちたいなぁ」
「ルイーサ様に勝てなきゃブルーノ様に挑めないのよね?」
「そうなんだよなぁ……。はぁ……。寿命が足りない気がする」
「ルイーサ様に勝とうと思ったら神法師を連れて来るしかないんじゃない?」
「たぶんな。それか例の【青獅子】か」
「それ、本当なの?」
「みたいだな」
「はぁ……。面倒なことになりそうね」
「まぁな。とりあえず寝るか」
「えぇ。おやすみ」
「おやすみ」
気になることは多いが、明朝になれば少しは分かるだろうと大切な睡眠を優先した。
◆
翌朝、すぐに辺境伯家に手紙について問い合わせるも、辺境伯が出ることはなかった。
理由は、魔物討伐に出ているとのこと。
きっと書類仕事のストレス発散なのだろうが、間が悪いことだ。
「仕方ない。少し待つか」
そこから数日が経つも通信魔導具に反応はなかった。
しかし、別のところから情報を得ることができた。
面会の予定を組んでいるところに、宮廷魔法士たちがアポ無しで訪ねて面会を要請しているらしい。
何でも師匠の子供からの伝言があるそうで、緊急で面会を要請しているそうだ。
「子供かぁ……。長女が宮廷魔法士長だったな。──通せ」
「はっ」
謁見の間に通した五人の宮廷魔法士たちを見ると、強行軍で移動してきたことが窺えるほどみすぼらしい姿をしていた。
「面を上げよ」
「公爵閣下──「前置きはいい」」
緊急と言う割には長々と挨拶を行おうとする魔法士たちに違和感を覚え、既に謁見に応じたことを後悔し始めていた。
「緊急ならば早く伝言を伝えよ。アポを取ってきている者を待たせてまで伝える伝言にどのような価値があるか、理解しながら話すことだな」
「公爵閣下の御配慮に感謝します。我々は休暇中の宮廷魔法士長を迎えに子爵領ポットに向かいました。宮廷魔法士長は貴族ですので、安全のため宿屋にいた少年を鑑定しました。しかし彼は私どもに殺気を向けたのです。それだけではなく、血の契約とかいう迷信を持ち出して冒険者ギルドのサブマスを処刑しろとまで……。たしか、王族の遠縁ですよね? 信じられません」
「それで?」
「私たちも鑑定したから死刑って言われたのですが、宮廷魔法士長のおかげで助かりました。それにしても、たかが鑑定ぐらいで死刑ってやりすぎです」
「──そうか。それだけか?」
「そうです」
「そうか。せっかく来たのだから、ゆっくりしていってくれたまえ。子爵領のことも少し聞きたいしな。どうだろう?」
「お気遣い感謝します」
五人の宮廷魔法士を謁見の間から追い出した後、家宰を呼んで事情聴取を行うように命令を下す。
同時に、教会に行って神殿契約の準備を行わせる。
「閣下、どうするのです?」
「殺す。──と言いたいが、宮廷魔法士長の部下であるから生きているのも事実であろうから、東部で知り得たことを漏らせないようにし、東部から永久追放処分とする。実家ともども、二度と東部の領境をまたがせない」
「御意」
「よし、次の者を呼べ」
私の真意が伝わると良いなと、公爵は微笑みを浮かべる。
多少の補正を施す必要があるが、ポットの実情を知ることができる。真意を知ることの対価だったのだろうが、同時にルイーサの情報を伝えるメッセンジャーにもなっていた。
公爵家とルイーサの関係性に詳しく、それでいて手紙の内容について知っている必要もある。
「くくくっ。面白い」
「閣下?」
「何でもない。通せ」
「はっ。次の者っ」
宮廷魔法士を使った踏み絵に気づいた公爵と、こっそり見ていた公爵夫人は、ともに新年のあいさつが楽しみになるのだった。
当然あらゆる者たちから狙われることも多々ある。
しかし、大氾濫から東部地方を救った二人の英雄の存在や、これまた国内随一の戦力を持っていることもあって、未だに東部地方を脅かす存在は現れていない。
東部の雄と言えば、必ず名前が挙がる人物が二人いる。
一人目は、東部の王であるサイラス・レ・ルドラン公爵だ。
王国併合前は地方君主であったため、本来なら爵位名になるはずの領地の名前が名字になっていた。
東部公爵である彼にのみ許されているわけではなく、国内の有力な地方君主も同様に爵位名を名字にしている。
その一人が、二人目の雄であるアーサー・レ・アグニール辺境伯だ。
彼は辺境伯という役職についているだけで、本来の爵位は侯爵である。
地方君主の一人であるが、東部地方をより強固な一枚岩にするために自ら公爵に従った股肱の臣でもあった。
二人は東部の東と西から入ってくる敵を、裏表関係なくすべからく排除してきた。
大切なものを守るという意志を統一した両雄は、同い年の幼馴染であり好敵手であり親友であった。
そして同じ師の下で学んだ師兄弟でもある。
当時はまだ幼く、少し中二病のようにこじらせていた時期だったため、お互いに名付けた「風神」「雷神」という名で名乗りを行っていた。
今ではお互いに別の二つ名が付けられ、過去の恥ずかしい名乗りは厳重に封印を施した。
その黒歴史を掘り出した者が現れ、手紙という残るもので二人に突きつけた。
「…………あの馬鹿っ。よりにもよって、何故あそこに滞在しているんだっ?!」
「アーサー、どうしたの?」
「い、いや……何でもない……」
「その手紙はテオからのものだったのでしょう? 私にも読ませていただけないかしら?」
「生存報告を書いてあるだけだから、心配することは何もない。ダニエルからも通信魔導具で報告が来ているから、大した問題はないぞ」
「でしたら、なおさら読みたいですわ。レイフからおかしな手紙が届いたのですもの。返事をするのにも情報が不足していますの」
「あぁ、土地の話だろう。問題なく片付いたぞ。大丈夫だっ。──おっと、そろそろ書類仕事の時間だっ」
「アーサーっ」
愛妻家の彼は、普通なら嫌いな書類仕事をサボれることもあって夫婦の時間を優先している。
それなのに、手紙を読んだ今日に限っては全く逆の行動をとった。どんなに鈍くても異常だと思うだろう。
「──誰かいるかしら?」
「──ここに」
「私、どうしても気になるの。手紙の内容を知る方法はないかしら?」
「閣下は部屋を出てすぐに手紙を焼却しましたので、テオドール様本人に直接聞くこと以外には方法はないかと愚考いたします」
「ではそうしましょう。すぐに子爵領の領都ポットに向かう支度をしてちょうだい」
「かしこまりました」
「ふふふ、楽しみね。久しぶりの旅行だわ」
手紙に書かれていた「雷神坊やは元気?」という一文は辺境伯から冷静さを奪い、そして近い未来に息子テオドールからも冷静さを奪うことになるだろう。
これこそエルフの神秘だ。
そして幼馴染も同様に、エルフの神秘が記された手紙が送りつけられていた。
「まだ覚えていたのか……。いい加減忘れて欲しい……」
就寝中に無理やり起こされ、精霊によって届けられた手紙をすぐに読むと見たくもない言葉の羅列があり、文章の端々から師匠の憤怒が伝わってきた。
東部は獣人が多く、獣人は基本的に一夫一妻である。
法律で禁止しているわけではないが、多妻を嫌う女性が圧倒的多数であるし、子供ができやすい獣人は側室を持つ必要がない。
結果、貴族でも妻は一人だ。
一夫一妻ゆえに恋愛結婚が推奨されている東部は、基本的に初恋の女性と添い遂げることが多い。
公爵も初恋の女性と結ばれることができたのだが、全ては師匠であるルイーサのアシストやアドバイスのおかげであった。師匠ということで既に頭が上がらないのに、加えて足を向けて寝られなくなるほどの恩を感じている。
困った時のドラ◯もんのように、夫婦喧嘩をしてしまったときはすぐさまルイえもんにアドバイスを求めていた。
実母含む女性陣は妻側に立ってしまうので、まともな相談をすることはできない。ゆえに、現在進行系でディルよりも恩義が積み重なっている人物である。
「どうしたの?」
「師匠から手紙が届いた」
「まぁっ! ルイーサ様から!?」
「あぁ。大変お怒りらしいが……何故か子どもの自慢が書かれている。四人目を出産されたのか?」
「えっ? 新年のあいさつに行った時は何も変化はなかったでしょう?」
「そうなんだよなぁ……」
「他にはなんて書いてあるの? というか、読ませてくれないかしら?」
「いや、それは……」
「なぁに? 私は除け者……?」
「そんなこと言ってないだろう?」
公爵は急いで「風神坊やは元気?」という部分に穴を開け、文字自体を消滅させた。
「見せて」
「どうぞ」
「……穴が開いているのは何故?」
「爪で引っ掛けたかも」
「…………」
「…………」
お互いが視線を交わし見つめ合うことしばし、ルイーサによって鍛えられた公爵に根負けした夫人は手紙に目を落とした。
「土地を取り上げ、家族を侮辱したと書かれているわね。……どういうこと?」
「わからん。明朝アーサーに問い合わせるとしよう」
「なるべく早い方がいいものね」
公爵家は大氾濫を鎮圧した【双竜の誓い】に対し、深い感謝とともに王家に対する以上の敬意を払っている。
当時の公爵は二人のことを師と崇め、後世にも感謝と敬意を忘れるなと言葉を残していた。
現当主のサイラスは、公爵家の悲願であった初めての弟子だ。
獣人という魔法が苦手な種族にも関わらず、神法師と疑われているほどの魔法士である。
夫人は、ルイーサの熱狂的信者だ。
ルイーサの悪口を一言でも口走った者は全て、二度と社交界に出ることができなくなった。
武の公爵に対し、暗の夫人。
実家の北部侯爵の力も使い、夫人は日夜暗闘を行う日々。
全ては新年のあいさつに気持ちよく向かうため。
褒められようとは思っていない。
むしろ、怒られそうという理由から隠している。
だが、ルイーサはきっと知っている。
やんちゃ坊主の仲間のお転婆娘だと思っていることだろう。
「早くルイーサ様に会いたいわ」
「そうだな。次は勝ちたいなぁ」
「ルイーサ様に勝てなきゃブルーノ様に挑めないのよね?」
「そうなんだよなぁ……。はぁ……。寿命が足りない気がする」
「ルイーサ様に勝とうと思ったら神法師を連れて来るしかないんじゃない?」
「たぶんな。それか例の【青獅子】か」
「それ、本当なの?」
「みたいだな」
「はぁ……。面倒なことになりそうね」
「まぁな。とりあえず寝るか」
「えぇ。おやすみ」
「おやすみ」
気になることは多いが、明朝になれば少しは分かるだろうと大切な睡眠を優先した。
◆
翌朝、すぐに辺境伯家に手紙について問い合わせるも、辺境伯が出ることはなかった。
理由は、魔物討伐に出ているとのこと。
きっと書類仕事のストレス発散なのだろうが、間が悪いことだ。
「仕方ない。少し待つか」
そこから数日が経つも通信魔導具に反応はなかった。
しかし、別のところから情報を得ることができた。
面会の予定を組んでいるところに、宮廷魔法士たちがアポ無しで訪ねて面会を要請しているらしい。
何でも師匠の子供からの伝言があるそうで、緊急で面会を要請しているそうだ。
「子供かぁ……。長女が宮廷魔法士長だったな。──通せ」
「はっ」
謁見の間に通した五人の宮廷魔法士たちを見ると、強行軍で移動してきたことが窺えるほどみすぼらしい姿をしていた。
「面を上げよ」
「公爵閣下──「前置きはいい」」
緊急と言う割には長々と挨拶を行おうとする魔法士たちに違和感を覚え、既に謁見に応じたことを後悔し始めていた。
「緊急ならば早く伝言を伝えよ。アポを取ってきている者を待たせてまで伝える伝言にどのような価値があるか、理解しながら話すことだな」
「公爵閣下の御配慮に感謝します。我々は休暇中の宮廷魔法士長を迎えに子爵領ポットに向かいました。宮廷魔法士長は貴族ですので、安全のため宿屋にいた少年を鑑定しました。しかし彼は私どもに殺気を向けたのです。それだけではなく、血の契約とかいう迷信を持ち出して冒険者ギルドのサブマスを処刑しろとまで……。たしか、王族の遠縁ですよね? 信じられません」
「それで?」
「私たちも鑑定したから死刑って言われたのですが、宮廷魔法士長のおかげで助かりました。それにしても、たかが鑑定ぐらいで死刑ってやりすぎです」
「──そうか。それだけか?」
「そうです」
「そうか。せっかく来たのだから、ゆっくりしていってくれたまえ。子爵領のことも少し聞きたいしな。どうだろう?」
「お気遣い感謝します」
五人の宮廷魔法士を謁見の間から追い出した後、家宰を呼んで事情聴取を行うように命令を下す。
同時に、教会に行って神殿契約の準備を行わせる。
「閣下、どうするのです?」
「殺す。──と言いたいが、宮廷魔法士長の部下であるから生きているのも事実であろうから、東部で知り得たことを漏らせないようにし、東部から永久追放処分とする。実家ともども、二度と東部の領境をまたがせない」
「御意」
「よし、次の者を呼べ」
私の真意が伝わると良いなと、公爵は微笑みを浮かべる。
多少の補正を施す必要があるが、ポットの実情を知ることができる。真意を知ることの対価だったのだろうが、同時にルイーサの情報を伝えるメッセンジャーにもなっていた。
公爵家とルイーサの関係性に詳しく、それでいて手紙の内容について知っている必要もある。
「くくくっ。面白い」
「閣下?」
「何でもない。通せ」
「はっ。次の者っ」
宮廷魔法士を使った踏み絵に気づいた公爵と、こっそり見ていた公爵夫人は、ともに新年のあいさつが楽しみになるのだった。
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