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第二章 冒険、始めます
幕間八 地雷原の踊り子、二人目
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子爵領の領都ポットは、国内外問わず多くの者から日々狙われている成功を約束された羨望の土地である。
過去一度も攻略されたことがない、未だに進化を続けるダンジョンが二つ。それらのダンジョンは多くの富を生み出し、ダンジョン管理という名目を生み、子爵であるにも関わらず軍を持つことができる。
さらに言えば、子爵でありながら一部の伯爵を超える権力も振るうことができる。
しかし、子爵領の領主が別の家門に変わったことは一度もない。
理由はいくつかあるが、一番の理由は単純に戦力を揃えることができないからだろう。
子爵領でありながら軍を持つことができる理由があり、それが統治の難易度を上げていた。
ダンジョンは毎年決まった時期に氾濫を起こす。
どこのダンジョンでも発生することだから、対処事態はそこまで難しいものではない。
だが、それは他のダンジョンの場合である。
ポットのダンジョンは二つあり、毎回同時に氾濫を起こす。
一つだけでも街全体の冒険者を動員して、不足分の戦力を他所から喚んでくる必要がある。
単純に計算しても二倍の数を相手にする必要があるポットは、氾濫が発生した時点で詰むことになる。
ついでに言うと、ダンジョンの位置的に魔物たちに挟撃されることになるため、指揮個体がいた場合は冒険者だけでは対応できなくなるのだ。
そのために軍を持ち、冒険者と合同で鎮圧作戦を行っている。
白銀級から護衛依頼が受注可能になるため、黒鉄級から白銀級の間に集団戦の講義を受けることが必須となっていた。全ては氾濫のときに軍の指揮下に編入させるためである。
通常の氾濫ならば、軍と冒険者の連合軍で鎮圧可能だ。
毎年の行事のようなもので、先人達が積み重ねてきた戦術があるから、欲に目が眩んだ権力者たちは全員もれなく手を伸ばした。
実力がない者は早い段階で蹴落とされたが、権力と財力に物を言わせて王手をかけた者がいた。
しかし、その人物は領主にならなかった。
結論を言えば死んだからだ。
代々子爵領を守ってきたアルデバラン家を追い出し、質が落ちた冒険者しかいなかったところに、通常の氾濫を超える大氾濫が発生した。
発生頻度は百年に一度ほどであるため、楽観視する者が多かった。すでに領主気分だった貴族も同様に通常の氾濫だと思って疑うことはせず、大した対策をすることもなくその日を迎えることに。
元々の子爵家は準備をしていたこともあり、追放される前に逃走するための布告を出していた。
領主家を信じて従った者は全員助かったが、それ以外の人間は一部を除いて全滅し、町は壊滅状態のまま町の外に魔物が溢れ出すことになった。
東部の公爵家は動いたが、事件を聞きつけた隣国に対応するため辺境伯家は国境から動けない。
公爵家は、東部以外から魔物が出ないように各個撃破していくことで手一杯だった。ゆえに根本的な問題解決には至らず、長期戦を余儀なくされる。
その東部の窮地を救った者が、【双竜の誓い】という男女二人組の冒険者パーティーだった。
たった二人で次々に魔物を討伐していき、統率個体も苦戦しつつも一人一体ずつ討伐し、見事に大氾濫を鎮圧したのだ。
二人は戦闘後も休むことなく救助や治療を行い、多くの民を助けていた。
当時の公爵は二人の行動に深く感謝し、全ての希望を叶えることを決める。
反対に、王家に対して二度と同じことが起こらないように陳情書を送った。
以降、表立って乗っ取ろうとする者たちはいない。
ただし、それは国内に限ったことだけだ。
国外からは未だに狙われており、現在進行系で乗っ取り計画を実行している者がいた。
それは隣国【ヴリュトーラン帝国】の皇家御用商人であり、同時に皇帝直属の諜報工作部隊である【シェイドール商会】ポット支店の副支店長だ。
彼女の母親役は諜報工作部隊の上司だが、父親役は傀儡状態の王都支店の支店長である。
諜報工作部隊は皇帝の夜伽の相手もできるようにと、全員女性で構成されている。
積極的男尊女卑をモットーに行動し、常に傀儡状態の男性の陰に隠れて活動し、問題が発生すれば男性を生贄に被害者を装って危機を回避していた。
カモを探すことは簡単。
誰しも必ず持っているコンプレックスを狙って攻め、心の隙間に入って虜にしてしまえば、精神系魔法の魔導具と薬でイチコロだ。
そして今回も同じ手を使って目的の人物を傀儡にできた。
ダンジョン都市の最重要人物であり、超級の危険人物の息子。
エルフのくせに精霊と契約していない落ちこぼれで、姉兄に比べて全てが中途半端なポンコツくんである。
彼のおかげで侵略作戦も予定通りに運び、ポンコツ亭主の両親に錬金術工場のプレゼンをするところまで来た。
しかし、結果はどうだ。
数年をかけて準備してきた計画が全て水泡に帰し、暗殺ギルドを破壊した人物から警告されている。
「──フリード。今更計画の変更はできないわよ?」
「うむ」
警告してきた人物については当たりをつけていた。
他二件と比べて被害が少なかったことから、十中八九【双竜の誓い】の関係者だろう。
つまり、フリードという手札がある限りは警告以上に発展することはないはず。ならば、ここで引く必要はないだろう。
「資材を横取りするなり、とにかく妨害しましょう。その間に本国に応援を要請するわ」
「うむ」
自分の首がかかっている副支店長は、あらゆる手を使ってでも再開発計画の主導権を握ろうと作戦を立てた。
たとえそれが亭主役のフリードの死に繋がっても……。
「絶対に生き残ってやるわ」
過去一度も攻略されたことがない、未だに進化を続けるダンジョンが二つ。それらのダンジョンは多くの富を生み出し、ダンジョン管理という名目を生み、子爵であるにも関わらず軍を持つことができる。
さらに言えば、子爵でありながら一部の伯爵を超える権力も振るうことができる。
しかし、子爵領の領主が別の家門に変わったことは一度もない。
理由はいくつかあるが、一番の理由は単純に戦力を揃えることができないからだろう。
子爵領でありながら軍を持つことができる理由があり、それが統治の難易度を上げていた。
ダンジョンは毎年決まった時期に氾濫を起こす。
どこのダンジョンでも発生することだから、対処事態はそこまで難しいものではない。
だが、それは他のダンジョンの場合である。
ポットのダンジョンは二つあり、毎回同時に氾濫を起こす。
一つだけでも街全体の冒険者を動員して、不足分の戦力を他所から喚んでくる必要がある。
単純に計算しても二倍の数を相手にする必要があるポットは、氾濫が発生した時点で詰むことになる。
ついでに言うと、ダンジョンの位置的に魔物たちに挟撃されることになるため、指揮個体がいた場合は冒険者だけでは対応できなくなるのだ。
そのために軍を持ち、冒険者と合同で鎮圧作戦を行っている。
白銀級から護衛依頼が受注可能になるため、黒鉄級から白銀級の間に集団戦の講義を受けることが必須となっていた。全ては氾濫のときに軍の指揮下に編入させるためである。
通常の氾濫ならば、軍と冒険者の連合軍で鎮圧可能だ。
毎年の行事のようなもので、先人達が積み重ねてきた戦術があるから、欲に目が眩んだ権力者たちは全員もれなく手を伸ばした。
実力がない者は早い段階で蹴落とされたが、権力と財力に物を言わせて王手をかけた者がいた。
しかし、その人物は領主にならなかった。
結論を言えば死んだからだ。
代々子爵領を守ってきたアルデバラン家を追い出し、質が落ちた冒険者しかいなかったところに、通常の氾濫を超える大氾濫が発生した。
発生頻度は百年に一度ほどであるため、楽観視する者が多かった。すでに領主気分だった貴族も同様に通常の氾濫だと思って疑うことはせず、大した対策をすることもなくその日を迎えることに。
元々の子爵家は準備をしていたこともあり、追放される前に逃走するための布告を出していた。
領主家を信じて従った者は全員助かったが、それ以外の人間は一部を除いて全滅し、町は壊滅状態のまま町の外に魔物が溢れ出すことになった。
東部の公爵家は動いたが、事件を聞きつけた隣国に対応するため辺境伯家は国境から動けない。
公爵家は、東部以外から魔物が出ないように各個撃破していくことで手一杯だった。ゆえに根本的な問題解決には至らず、長期戦を余儀なくされる。
その東部の窮地を救った者が、【双竜の誓い】という男女二人組の冒険者パーティーだった。
たった二人で次々に魔物を討伐していき、統率個体も苦戦しつつも一人一体ずつ討伐し、見事に大氾濫を鎮圧したのだ。
二人は戦闘後も休むことなく救助や治療を行い、多くの民を助けていた。
当時の公爵は二人の行動に深く感謝し、全ての希望を叶えることを決める。
反対に、王家に対して二度と同じことが起こらないように陳情書を送った。
以降、表立って乗っ取ろうとする者たちはいない。
ただし、それは国内に限ったことだけだ。
国外からは未だに狙われており、現在進行系で乗っ取り計画を実行している者がいた。
それは隣国【ヴリュトーラン帝国】の皇家御用商人であり、同時に皇帝直属の諜報工作部隊である【シェイドール商会】ポット支店の副支店長だ。
彼女の母親役は諜報工作部隊の上司だが、父親役は傀儡状態の王都支店の支店長である。
諜報工作部隊は皇帝の夜伽の相手もできるようにと、全員女性で構成されている。
積極的男尊女卑をモットーに行動し、常に傀儡状態の男性の陰に隠れて活動し、問題が発生すれば男性を生贄に被害者を装って危機を回避していた。
カモを探すことは簡単。
誰しも必ず持っているコンプレックスを狙って攻め、心の隙間に入って虜にしてしまえば、精神系魔法の魔導具と薬でイチコロだ。
そして今回も同じ手を使って目的の人物を傀儡にできた。
ダンジョン都市の最重要人物であり、超級の危険人物の息子。
エルフのくせに精霊と契約していない落ちこぼれで、姉兄に比べて全てが中途半端なポンコツくんである。
彼のおかげで侵略作戦も予定通りに運び、ポンコツ亭主の両親に錬金術工場のプレゼンをするところまで来た。
しかし、結果はどうだ。
数年をかけて準備してきた計画が全て水泡に帰し、暗殺ギルドを破壊した人物から警告されている。
「──フリード。今更計画の変更はできないわよ?」
「うむ」
警告してきた人物については当たりをつけていた。
他二件と比べて被害が少なかったことから、十中八九【双竜の誓い】の関係者だろう。
つまり、フリードという手札がある限りは警告以上に発展することはないはず。ならば、ここで引く必要はないだろう。
「資材を横取りするなり、とにかく妨害しましょう。その間に本国に応援を要請するわ」
「うむ」
自分の首がかかっている副支店長は、あらゆる手を使ってでも再開発計画の主導権を握ろうと作戦を立てた。
たとえそれが亭主役のフリードの死に繋がっても……。
「絶対に生き残ってやるわ」
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