暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一

文字の大きさ
上 下
78 / 97
第二章 冒険、始めます

幕間七  地雷原の踊り子、一人目

しおりを挟む
 ディルが領都ポットに来てから続く諸問題について、一応の決着がついた。
 それによっていくつかの新たな問題が発生した組織がある。

 一つは冒険者ギルドだ。

 子爵領は、爵位だけ見れば決して高いわけではない。
 しかし、ポットは【インドラン王国】有数のダンジョン都市であり、領主は東部辺境伯の筆頭家臣であるため、冒険者ギルドとしても軽視できない発言力を持っている。

 その領主が、ここ数日間に起きた問題について冒険者ギルド総本部に報告し、監査員の派遣を要請するという裁定を下した。
 ポットから総本部までの連絡は、専用の通信魔導具を使用すれば即座に連絡できる。が、監査員の派遣は時間がかかるだろう。
 単純に距離があるし、適した人物の選定にも時間がかかるはずだ。

 裁定が決まった以上、監査員の到着までに諸問題を片付けて、自浄能力があることを証明する必要がある。

「諸君、監査員が到着するまでに諸問題を解決することが重要であるが、通常業務が疎かになってはならない。特に、情報の管理には注意を払ってもらいたい」

「「「はいっ」」」

 全員が自分たちのクビがかかっていることを実感しているおかげで、過去最高に士気が高まっていた。
 そんな彼らが真っ先に行ったことは、サブマス側の人間の捕縛と資産の差し押さえだ。もちろん、ディルの情報を流した総務部長と受付嬢も含まれている。

 本来なら冒険者ギルドへの罰金を引いた残額を被害者に対する賠償金とするのだが、今回は全額被害者であるディルに支払うことになった。
 露骨な点数稼ぎだが、サブマスが行った血の契約への侮辱を考慮すれば、当然とも言える対応だろう。

 そして次に行ったのは、事情聴取関連の事後処理だ。

 正直なところ、ディルの解答には納得していない。
 絶対に事件に関わっているだろうと思っているが、領主の裁定が下った以上は納得するしかない。

「──ギルマスっ! 大変ですっ!」

 うず高く積まれた書類を処理しているギルマスと秘書の下に、受付嬢が緊急事態の知らせを持って駆け込んできた。

「…………なんだ? これ以上の仕事は勘弁して欲しいのだが?」

「それがそうもいかないようです」

「何があったんだ?」

「エイダン殿の依頼が出されていたのは覚えていますか?」

「…………」

「……鉱石の採取依頼です。二組のパーティーが合同で受けたのですが、一人以外全員帰ってきません」

「別に珍しくないだろう。冒険者は自己責任が基本だ。可哀想だが、実力が足りなかったのだろう」

 自分の実力を見極め、その範囲内で依頼を受けることが長生きのコツだ。
 それでも絶対に生きて帰れるわけでばないのが、冒険者という仕事である。冒険者登録をしたということは、そのことを理解して納得したということだ。

「いえ、今回は珍しい案件です。依頼の適性階級は赤銅級だったのですが、受注者は全員黒鉄級です。帰って来ないなんてことはほぼないかと……」

「依頼内容の詳細は?」

「湖の底から鉱石を拾ってくることです」

「ん? 魔石か?」

「違うみたいです」

「ん? でも内容は以前計画したことと似たようなものだろう? 赤胴級が受ける依頼ではないな。エイダン殿は何故そのような無茶な依頼を? それに発行した者も不思議に思わなかったのか?」

「──あぁ……。その依頼を発行したのは私です」

「「えっ?」」

 依頼票を発行した者は、まさかの秘書だった。
 湖底の魔石採掘計画に関わっていた秘書が、湖底の鉱石採掘の難しさを知らないはずがない。
 普通なら受注可能な冒険者の階級の下限を設けたり、依頼料を高く設定したりと簡単に受けられないようにする必要がある。

「階級の設定がおかしいだろ」

「階級を高くすれば依頼料を上げる必要がありますよね? エイダン殿は単発ではなく複数回に渡って継続して依頼を受けてもらいたいから、少額でも受ける冒険者だけ受ければいいと仰ってました。結果塩漬け依頼になっても構わないということでしたので、発行させていただきました」

「だが、結果的に被害が出てしまったぞ」

「それこそ自己責任です。依頼を受けた冒険者たちは、魔石を大量に持ち帰った例の少年を見て、『子供でもできたことなら自分たちでも余裕』とでも思ったのでしょう。大きな間違いとも知らずに、ね」

「「…………」」

「エイダン殿の依頼は、少年発案の雑用系指名依頼扱いにしてしまうのが良いかと。どうせ他の人には無理ですよ」

 秘書は荒れていた。
 自分で採取や採掘ができる実力を持っているエイダンが、わざわざ出した採取依頼である。
 エイダンの周囲の人間に赤銅級の人物がいて、噂になるほど巨大な魔石を持って帰ってきた実力も持っている。それだけで、その人物に採取してきてもらうことが前提の依頼であることは火を見るよりも明らかだ。

 危険について警告していなかった担当受付嬢の無能さや、分かりきったことに時間を費やすギルマスたちにも腹が立っていた。
 新婚である彼女は一刻も早く帰りたいのに、このままでは確実に居残り残業からの徹夜出勤だろうと確信していたからだ。独身であるギルマスたちには理解できないだろうから、彼女は愚痴をこぼすことなく書類の処理をしていた。

「依頼失敗の処理と違約金の処理を終わらせて、少年に雑用系指名依頼があると知らせてあげて。多分数日中にギルドに来ると思うから」

「は、はいっ」

 一礼して退出していく受付嬢を見送った直後、秘書はギルマスに声を掛けた。

「さぁ、もうひと踏ん張りですよ」

「…………あぁ」

 その日、結局朝までギルマスの執務室の明かりが消されることはなかった。


 ◆ ◆ ◆


 遅くなりました。
 少し短いですが、切りが良いので。


しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~

暇人太一
ファンタジー
 仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。  ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。  結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。  そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?  この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

破滅する悪役五人兄弟の末っ子に転生した俺、無能と見下されるがゲームの知識で最強となり、悪役一家と幸せエンディングを目指します。

大田明
ファンタジー
『サークラルファンタズム』というゲームの、ダンカン・エルグレイヴというキャラクターに転生した主人公。 ダンカンは悪役で性格が悪く、さらに無能という人気が無いキャラクター。 主人公はそんなダンカンに転生するも、家族愛に溢れる兄弟たちのことが大好きであった。 マグヌス、アングス、ニール、イナ。破滅する運命にある兄弟たち。 しかし主人公はゲームの知識があるため、そんな彼らを救うことができると確信していた。 主人公は兄弟たちにゲーム中に辿り着けなかった最高の幸せを与えるため、奮闘することを決意する。 これは無能と呼ばれた悪役が最強となり、兄弟を幸せに導く物語だ。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

生活魔法しか使えない少年、浄化(クリーン)を極めて無双します(仮)(習作3)

田中寿郎
ファンタジー
壁しか見えない街(城郭都市)の中は嫌いだ。孤児院でイジメに遭い、無実の罪を着せられた幼い少年は、街を抜け出し、一人森の中で生きる事を選んだ。武器は生活魔法の浄化(クリーン)と乾燥(ドライ)。浄化と乾燥だけでも極めれば結構役に立ちますよ? コメントはたまに気まぐれに返す事がありますが、全レスは致しません。悪しからずご了承願います。 (あと、敬語が使えない呪いに掛かっているので言葉遣いに粗いところがあってもご容赦をw) 台本風(セリフの前に名前が入る)です、これに関しては助言は無用です、そういうスタイルだと思ってあきらめてください。 読みにくい、面白くないという方は、フォローを外してそっ閉じをお願いします。 (カクヨムにも投稿しております)

女神のお気に入り少女、異世界で奮闘する。(仮)

土岡太郎
ファンタジー
 自分の先祖の立派な生き方に憧れていた高校生の少女が、ある日子供助けて死んでしまう。 死んだ先で出会った別の世界の女神はなぜか彼女を気に入っていて、自分の世界で立派な女性として活躍ができるようにしてくれるという。ただし、女神は努力してこそ認められるという考え方なので最初から無双できるほどの能力を与えてくれなかった。少女は憧れの先祖のような立派な人になれるように異世界で愉快で頼れる仲間達と頑張る物語。 でも女神のお気に入りなので無双します。 *10/17  第一話から修正と改訂を初めています。よければ、読み直してみてください。 *R-15としていますが、読む人によってはそう感じるかもしないと思いそうしています。  あと少しパロディもあります。  小説家になろう様、カクヨム様、ノベルアップ+様でも投稿しています。 YouTubeで、ゆっくりを使った音読を始めました。 良ければ、視聴してみてください。 【ゆっくり音読自作小説】女神のお気に入り少女、異世界で奮闘する。(仮) https://youtu.be/cWCv2HSzbgU それに伴って、プロローグから修正をはじめました。 ツイッター始めました。 https://twitter.com/tero_oo

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

処理中です...