73 / 97
第二章 冒険、始めます
第六四話 蘇る赤い機体
しおりを挟む
死体の処理はイムレに頼み、装備品とかを剥ぎ取っていく。
赤王は貴族専属だけあってお金持ちだし、装備も良いものを持っていた。
紋章付きの短剣があって面倒だなっと思ったけど、どこかで使える気がしたからもらっておこう。
「おい、ディル」
「何か文句でも?」
「そうじゃねぇ。冒険者カードと頭髪もらっておけよ。もしかしたら預金口座の中身とか、ギルドに預けてあるものももらえるかもしれないぞ」
「えっ? でも嘘発見器でバレそうじゃん」
「あぁーー、あれ。母上に聞いたんだけど、あれは神器じゃないから抜け道はあるらしい。国の諜報部隊はあれをすり抜ける技術を持たないと合格できないらしいぞ。コツは俺が知ってるから、あとで練習してみようぜっ!」
意外だな。
どちらかというと反対側の立場に立ちそうなのに。
「んっ? あぁ。話しても殺すのかと思って驚いただけで、反対はしないぞ。親父たちも俺たちの知らないところで同じことをして、俺たちを守ってきたんだろうなって思ってただけだ。辺境伯領の敵は狂っているのが多いから、俺も覚悟を持つ必要があるなって」
「「…………」」
これには俺とナディアさんが驚いた。
『熊よ、成長したな』
「……前から思ってたんだけど、何で俺は熊って呼ばれるんだ?」
『熊だからだろ』
「名前で呼んでくれよっ」
『お前は居候だからな』
「えぇぇぇっ! そこが基準なのかっ!?」
『そうだぞ。ドワーフのことも、ドワーフって呼んでるだろ』
なるほど。
家族かどうかが基準なのか。
少し可哀想だから、手助けをしてやろう。
「ルーク、いつも食事している人たちは準家族って扱いにしてあげたらどうかな? 子分たちも受け入れてくれている人たちなんだからさ。ルークも信用できると思ったから、熊さんを紹介してあげようと思ったんでしょ?」
『うーん……まぁいいだろう。その代わり、裏切ったら地獄を見せるからな?』
「そんなことはしないっ」
『そうか。いいだろう。テオを信じてやる』
「やったっ」
死体の処理は済み、巨大羊と大蛇の頭部の処理も終えてある。
イムレの分体も回収を終え、あとは虎の親子問題を解決すれば移動できる。
『この虎は【銀嶺虎】と言ってな、幻獣に分類される知能も高くて強い魔獣だな。まだ若いが、実力は属性竜を凌ぐ。逃走理由は四体の子供の安全を第一に考えたものだそうだ。で、どうする?』
「どうするって? 自由にしてくれていいけど」
『本当か?』
「うん」
『よしっ。じゃあ連れて行く。オレの子分になったからなっ』
「契約しなくてもいいでしょ?」
『それはあとで考えれば良い』
「ど、どうやって町の中に入るんだっ!?」
「まぁまぁ。そこはエルフの神秘だよ」
「お前はエルフじゃないだろっ」
「いいからいいから。デッドマン号を引いてくれたまえ」
デッドマン号の空きスペースに蛇の素材を載せてあるらしく、気持ち悪くて近づくことができない。
そのデッドマン号の別の隙間に遺品を詰め込んで、ボスウサフォートを出発する。
「それより、ここから出るための橋は?」
「デッドマン号は外に出しておくから、丸太を渡って真っすぐ進んで」
「お、おう」
全員が出た後にボスウサフォート内に残された血抜き後の巨大羊と、フォート近くに置いていた二体のワイバーンを持って戦場に移動した。
空中を駆けて先回りをしたこともあるけど、それにしては誰も来ない。
バリケードまで近づいて初めて来ない理由に気づく。
「そ、それは無視してこっちに来てくれます?」
「「…………」」
テオが進まないと全員進めないんだからさ。
『おい、早く進め。誰か来たら拙いんだろ』
「おぉ……」
ルークと一緒に移動を促し、戦場に全員を招き入れる。
そして視界に飛び込む、巨大な赤竜の死体。
「「「『おぉぉぉぉぉーーーっ!』」」」
「「グルルルッ」」
『すごーーいっ』
全員もれなく驚いている。
思わずドヤってしまう自分がいる。
「これから僕たちは竜騎士になります」
「……何いってんの?」
「あの蜥蜴の山も一緒に、この赤竜に運んでもらいます」
「……死んでるんじゃ……ないのか?」
「死んでます」
「じゃあ……無理じゃん」
「そこはエルフの神秘だよ」
「誰だよ、コイツにそんなおかしな言葉を教えたのは。余計なことをしやがって」
「ルイーサさんだけど?」
「──なんて素晴しい言葉だろうかっ!」
お手本のような手の平返しだな。
失言によるお叱りが相当怖かったのだろう。
──【念動:障壁】
──【念動】
コンテナを作って蜥蜴や、逃走してきた魔物を入れていく。
一つ一つ大まかに種類を分けて収納していく。
「俺の目がおかしいのかな? 蜥蜴が空を飛んでる……」
空中にできたほのかに光る箱に向かって【念動】で放り込んでいるから、蜥蜴が空を飛んでいると思っても不思議ではないだろう。
ついでに倒木もすべてもらっていく。
戦場を作った際に蔦で固定していた倒木も、蔦から外してコンテナに収納する。
建材に使用できるかもしれないし、中には魔樹もあったからナディアさんやテオの武器素材になるだろう。
他には巨大羊を入れたコンテナと、デッドマン号を入れて固定したコンテナに、ワイバーンを入れたコンテナも製作した。
ちなみに、ニアとナディアさんは子虎と戯れている。
テオも戯れていたのだが、蜥蜴が空を飛んでいる光景にツッコミを入れずにはいられなかったらしい。
──【念動:装甲】
──【念動:魔刃】
形を変化させた《装甲》と《魔刃》で固定具と鎖を作り、コンテナ同士を一塊にする。
同時に巨体のステゴくん二体の体をコンテナに連結して、さらに赤竜に連結していく。吊り下げた場合、上から赤竜、ステゴ、コンテナ塊になる。
あと本当は置いていく予定だったバイパーウィップは、ナディアさんの一声によってお持ち帰りが確定したので、ステゴとコンテナの間に挟みこんでおいた。
全部を一個体にした方が、【念動】による負荷が減って精度が上がるのだ。
これで準備は完了。
帰還するとしよう。
「帰りますよーー」
「お、おう」
「帰ってからもモフモフできるんだから、今は我慢してください」
「うむ……」
「ふわふわで、かわいかった」
俺も触りたかった……。
「さぁ乗ってください」
「……どこに?」
「赤竜の背中に」
「「「…………」」」
もうっ。自分で上がれないなんて、子供じゃないんだから。
子供扱いで許されるのはニアと、虎の赤ちゃんだけだよ。
──【念動】
全員を持ち上げて背中に乗せる。
もちろん、ルークや虎親子たちも一緒に。
──【念動:装甲】
赤竜の折れた首をコルセットで固定して、飛行中の安全を確保する。
上下左右に振られる角とか、危険物以外の何物でもない。
「皆さま、赤竜航空〇二九便、ポット行をご利用くださいましてありがとうございます。機長は、私ディルが担当させていただきます。まもなく出発いたしますので、落下しないようにしっかりとつかまってくださいますようにお願い申し上げます」
「お、お、お、おい……どうした?」
──【念動】
「テイクオフッ」
「「「うわぁぁぁぁっ」」」
翼を羽ばたかせ、竜騎士になりきれるように演出する。
一気に上空まで飛び上がり、雲に隠れて飛行する。
「くものじめんだ」
ニアはルークにしがみついているおかげ少し余裕があるらしく、眼下に広がる雲海を眺めていた。
それとニアの感想は海を知らない人の感想だなと思うと同時に、いつか海を見えてあげようと思った。俺も今世では見たことがないから楽しみだ。
「さむっ」
驚いていた状態が落ち着くと、途端に気温を感じ始めたらしく、テオが両腕を擦りながら震えだした。
「ルークに温めてもらって。熊を探しに行くときも寒いから、装備を用意するか慣れておくかしないと大変だよ」
「ルークっ」
『仕方ないな』
ルークはたてがみを炎に変えると、それを広げて乗客を包みこんだ。
「「あったかーーいっ」」
テオとニアが同じ感想を言い、ルークの体にもたれかかっていた。
「ナディアさん、雲の下の様子はどうです?」
「危ないところだったな。今、調査隊が派遣された」
「危ない、危ない。冤罪どころか赤竜も持っていかれるところでしたね」
「赤竜は出どころを問いただされるだろう。ほぼ無傷の赤竜なんて珍しいから、難癖をつけて取り上げることもないとは言えんな。冒険者ギルドがやらないにしても、他のギルドが黙っているはずもないだろう」
「あっ! 他のギルドで思い出しました。魔樹もありますし、赤竜もありますから、付与武器の素材は揃いましたね」
「「──はっ!? いやいやいやっ! さすがに、それは……」」
おぉ。反応がそっくり。
「赤竜は売るつもりがありませんので、そんなに気にしなくても大丈夫ですよ。まぁ考えておいてください。そろそろ到着するのでね」
「あぁ……」
「ところで、どうやって降りるんだ?」
「空挺降下だよ」
「はっ? なんて?」
「端的に言えば、飛び降りる」
「「「…………無理」」」
「安心してください。目を閉じているうちに到着しますから」
「おにいちゃん、こわくない?」
「ルークの背中に乗っているだけだよ。ルークも一番最初は同じ方法で町に入ったんだよ」
「いやっ! 俺たちは【青獅子】と同じじゃないけど!?」
「まぁまぁ。さぁ降りますよ。怖かったら目を閉じていてください」
「「「……落ちませんように」」」
いや、それは無理。
「降下五秒前。四、三、二、一。降下、降下、降下っ」
「「「うわぁぁぁぁっ」」」
「お静かに願います」
「「「無理っ」」」
虎さんたちはルークの事前説明のおかげで、落ち着いた状態で落下を受け入れていた。
そして俺たちは無事に宿屋の中庭に着陸した。
「当機のご利用誠にありがとうございました。またのご利用お待ちしております」
「「「…………もういや」」」
◆
現在、俺たちは食堂で事情聴取を受けている。
年長者ということでナディアさんに丸投げをし、俺たちは俯いて反省している雰囲気を体全体で醸し出していた。
「ねぇ? どうして精霊術で知らせなかったの?」
「余裕がなく……」
「あなたは宮廷魔法士長でしょう?」
「そうですが……今回は濡れ衣を着せることが目的だったようで、余人を立ち入れさせるわけにはいかず……」
「ん? 母親は余人なの?」
地雷踏んだか?
「違いますっ! 母上ほどの有名人が、異変があった後に動き出せばあらぬ疑いをかけられるやもしれないということです。その結果余人の介入を許すことになっては意味がないということです」
大変そうだ……。
絶対に役割を代わりたくない。
「それで、あなたが鎮圧したのよね?」
視線を感じる。
分かってて聞いてくるなんて……。
ナディアさん、手柄は譲るから頼みますよ?
「いえ……。恥ずかしながら、私は陣地防衛に尽力しておりまして。これといった戦闘はしておりません」
「じゃあ誰が無茶をしたの?」
やめてぇぇぇぇっ!
「ディルです」
あかぁぁぁぁんっ!
「ディル、お話しましょうか?」
「はい……」
この後夕飯までの数時間、ずっと説教を聞き続けた。
解放された理由は、デブ猫モードのルークが子虎を連れてきてくれたから。
猫軍団の機嫌取りにより、俺はようやく説教地獄から解放されるのだった。
ルーク、ありがとう。
赤王は貴族専属だけあってお金持ちだし、装備も良いものを持っていた。
紋章付きの短剣があって面倒だなっと思ったけど、どこかで使える気がしたからもらっておこう。
「おい、ディル」
「何か文句でも?」
「そうじゃねぇ。冒険者カードと頭髪もらっておけよ。もしかしたら預金口座の中身とか、ギルドに預けてあるものももらえるかもしれないぞ」
「えっ? でも嘘発見器でバレそうじゃん」
「あぁーー、あれ。母上に聞いたんだけど、あれは神器じゃないから抜け道はあるらしい。国の諜報部隊はあれをすり抜ける技術を持たないと合格できないらしいぞ。コツは俺が知ってるから、あとで練習してみようぜっ!」
意外だな。
どちらかというと反対側の立場に立ちそうなのに。
「んっ? あぁ。話しても殺すのかと思って驚いただけで、反対はしないぞ。親父たちも俺たちの知らないところで同じことをして、俺たちを守ってきたんだろうなって思ってただけだ。辺境伯領の敵は狂っているのが多いから、俺も覚悟を持つ必要があるなって」
「「…………」」
これには俺とナディアさんが驚いた。
『熊よ、成長したな』
「……前から思ってたんだけど、何で俺は熊って呼ばれるんだ?」
『熊だからだろ』
「名前で呼んでくれよっ」
『お前は居候だからな』
「えぇぇぇっ! そこが基準なのかっ!?」
『そうだぞ。ドワーフのことも、ドワーフって呼んでるだろ』
なるほど。
家族かどうかが基準なのか。
少し可哀想だから、手助けをしてやろう。
「ルーク、いつも食事している人たちは準家族って扱いにしてあげたらどうかな? 子分たちも受け入れてくれている人たちなんだからさ。ルークも信用できると思ったから、熊さんを紹介してあげようと思ったんでしょ?」
『うーん……まぁいいだろう。その代わり、裏切ったら地獄を見せるからな?』
「そんなことはしないっ」
『そうか。いいだろう。テオを信じてやる』
「やったっ」
死体の処理は済み、巨大羊と大蛇の頭部の処理も終えてある。
イムレの分体も回収を終え、あとは虎の親子問題を解決すれば移動できる。
『この虎は【銀嶺虎】と言ってな、幻獣に分類される知能も高くて強い魔獣だな。まだ若いが、実力は属性竜を凌ぐ。逃走理由は四体の子供の安全を第一に考えたものだそうだ。で、どうする?』
「どうするって? 自由にしてくれていいけど」
『本当か?』
「うん」
『よしっ。じゃあ連れて行く。オレの子分になったからなっ』
「契約しなくてもいいでしょ?」
『それはあとで考えれば良い』
「ど、どうやって町の中に入るんだっ!?」
「まぁまぁ。そこはエルフの神秘だよ」
「お前はエルフじゃないだろっ」
「いいからいいから。デッドマン号を引いてくれたまえ」
デッドマン号の空きスペースに蛇の素材を載せてあるらしく、気持ち悪くて近づくことができない。
そのデッドマン号の別の隙間に遺品を詰め込んで、ボスウサフォートを出発する。
「それより、ここから出るための橋は?」
「デッドマン号は外に出しておくから、丸太を渡って真っすぐ進んで」
「お、おう」
全員が出た後にボスウサフォート内に残された血抜き後の巨大羊と、フォート近くに置いていた二体のワイバーンを持って戦場に移動した。
空中を駆けて先回りをしたこともあるけど、それにしては誰も来ない。
バリケードまで近づいて初めて来ない理由に気づく。
「そ、それは無視してこっちに来てくれます?」
「「…………」」
テオが進まないと全員進めないんだからさ。
『おい、早く進め。誰か来たら拙いんだろ』
「おぉ……」
ルークと一緒に移動を促し、戦場に全員を招き入れる。
そして視界に飛び込む、巨大な赤竜の死体。
「「「『おぉぉぉぉぉーーーっ!』」」」
「「グルルルッ」」
『すごーーいっ』
全員もれなく驚いている。
思わずドヤってしまう自分がいる。
「これから僕たちは竜騎士になります」
「……何いってんの?」
「あの蜥蜴の山も一緒に、この赤竜に運んでもらいます」
「……死んでるんじゃ……ないのか?」
「死んでます」
「じゃあ……無理じゃん」
「そこはエルフの神秘だよ」
「誰だよ、コイツにそんなおかしな言葉を教えたのは。余計なことをしやがって」
「ルイーサさんだけど?」
「──なんて素晴しい言葉だろうかっ!」
お手本のような手の平返しだな。
失言によるお叱りが相当怖かったのだろう。
──【念動:障壁】
──【念動】
コンテナを作って蜥蜴や、逃走してきた魔物を入れていく。
一つ一つ大まかに種類を分けて収納していく。
「俺の目がおかしいのかな? 蜥蜴が空を飛んでる……」
空中にできたほのかに光る箱に向かって【念動】で放り込んでいるから、蜥蜴が空を飛んでいると思っても不思議ではないだろう。
ついでに倒木もすべてもらっていく。
戦場を作った際に蔦で固定していた倒木も、蔦から外してコンテナに収納する。
建材に使用できるかもしれないし、中には魔樹もあったからナディアさんやテオの武器素材になるだろう。
他には巨大羊を入れたコンテナと、デッドマン号を入れて固定したコンテナに、ワイバーンを入れたコンテナも製作した。
ちなみに、ニアとナディアさんは子虎と戯れている。
テオも戯れていたのだが、蜥蜴が空を飛んでいる光景にツッコミを入れずにはいられなかったらしい。
──【念動:装甲】
──【念動:魔刃】
形を変化させた《装甲》と《魔刃》で固定具と鎖を作り、コンテナ同士を一塊にする。
同時に巨体のステゴくん二体の体をコンテナに連結して、さらに赤竜に連結していく。吊り下げた場合、上から赤竜、ステゴ、コンテナ塊になる。
あと本当は置いていく予定だったバイパーウィップは、ナディアさんの一声によってお持ち帰りが確定したので、ステゴとコンテナの間に挟みこんでおいた。
全部を一個体にした方が、【念動】による負荷が減って精度が上がるのだ。
これで準備は完了。
帰還するとしよう。
「帰りますよーー」
「お、おう」
「帰ってからもモフモフできるんだから、今は我慢してください」
「うむ……」
「ふわふわで、かわいかった」
俺も触りたかった……。
「さぁ乗ってください」
「……どこに?」
「赤竜の背中に」
「「「…………」」」
もうっ。自分で上がれないなんて、子供じゃないんだから。
子供扱いで許されるのはニアと、虎の赤ちゃんだけだよ。
──【念動】
全員を持ち上げて背中に乗せる。
もちろん、ルークや虎親子たちも一緒に。
──【念動:装甲】
赤竜の折れた首をコルセットで固定して、飛行中の安全を確保する。
上下左右に振られる角とか、危険物以外の何物でもない。
「皆さま、赤竜航空〇二九便、ポット行をご利用くださいましてありがとうございます。機長は、私ディルが担当させていただきます。まもなく出発いたしますので、落下しないようにしっかりとつかまってくださいますようにお願い申し上げます」
「お、お、お、おい……どうした?」
──【念動】
「テイクオフッ」
「「「うわぁぁぁぁっ」」」
翼を羽ばたかせ、竜騎士になりきれるように演出する。
一気に上空まで飛び上がり、雲に隠れて飛行する。
「くものじめんだ」
ニアはルークにしがみついているおかげ少し余裕があるらしく、眼下に広がる雲海を眺めていた。
それとニアの感想は海を知らない人の感想だなと思うと同時に、いつか海を見えてあげようと思った。俺も今世では見たことがないから楽しみだ。
「さむっ」
驚いていた状態が落ち着くと、途端に気温を感じ始めたらしく、テオが両腕を擦りながら震えだした。
「ルークに温めてもらって。熊を探しに行くときも寒いから、装備を用意するか慣れておくかしないと大変だよ」
「ルークっ」
『仕方ないな』
ルークはたてがみを炎に変えると、それを広げて乗客を包みこんだ。
「「あったかーーいっ」」
テオとニアが同じ感想を言い、ルークの体にもたれかかっていた。
「ナディアさん、雲の下の様子はどうです?」
「危ないところだったな。今、調査隊が派遣された」
「危ない、危ない。冤罪どころか赤竜も持っていかれるところでしたね」
「赤竜は出どころを問いただされるだろう。ほぼ無傷の赤竜なんて珍しいから、難癖をつけて取り上げることもないとは言えんな。冒険者ギルドがやらないにしても、他のギルドが黙っているはずもないだろう」
「あっ! 他のギルドで思い出しました。魔樹もありますし、赤竜もありますから、付与武器の素材は揃いましたね」
「「──はっ!? いやいやいやっ! さすがに、それは……」」
おぉ。反応がそっくり。
「赤竜は売るつもりがありませんので、そんなに気にしなくても大丈夫ですよ。まぁ考えておいてください。そろそろ到着するのでね」
「あぁ……」
「ところで、どうやって降りるんだ?」
「空挺降下だよ」
「はっ? なんて?」
「端的に言えば、飛び降りる」
「「「…………無理」」」
「安心してください。目を閉じているうちに到着しますから」
「おにいちゃん、こわくない?」
「ルークの背中に乗っているだけだよ。ルークも一番最初は同じ方法で町に入ったんだよ」
「いやっ! 俺たちは【青獅子】と同じじゃないけど!?」
「まぁまぁ。さぁ降りますよ。怖かったら目を閉じていてください」
「「「……落ちませんように」」」
いや、それは無理。
「降下五秒前。四、三、二、一。降下、降下、降下っ」
「「「うわぁぁぁぁっ」」」
「お静かに願います」
「「「無理っ」」」
虎さんたちはルークの事前説明のおかげで、落ち着いた状態で落下を受け入れていた。
そして俺たちは無事に宿屋の中庭に着陸した。
「当機のご利用誠にありがとうございました。またのご利用お待ちしております」
「「「…………もういや」」」
◆
現在、俺たちは食堂で事情聴取を受けている。
年長者ということでナディアさんに丸投げをし、俺たちは俯いて反省している雰囲気を体全体で醸し出していた。
「ねぇ? どうして精霊術で知らせなかったの?」
「余裕がなく……」
「あなたは宮廷魔法士長でしょう?」
「そうですが……今回は濡れ衣を着せることが目的だったようで、余人を立ち入れさせるわけにはいかず……」
「ん? 母親は余人なの?」
地雷踏んだか?
「違いますっ! 母上ほどの有名人が、異変があった後に動き出せばあらぬ疑いをかけられるやもしれないということです。その結果余人の介入を許すことになっては意味がないということです」
大変そうだ……。
絶対に役割を代わりたくない。
「それで、あなたが鎮圧したのよね?」
視線を感じる。
分かってて聞いてくるなんて……。
ナディアさん、手柄は譲るから頼みますよ?
「いえ……。恥ずかしながら、私は陣地防衛に尽力しておりまして。これといった戦闘はしておりません」
「じゃあ誰が無茶をしたの?」
やめてぇぇぇぇっ!
「ディルです」
あかぁぁぁぁんっ!
「ディル、お話しましょうか?」
「はい……」
この後夕飯までの数時間、ずっと説教を聞き続けた。
解放された理由は、デブ猫モードのルークが子虎を連れてきてくれたから。
猫軍団の機嫌取りにより、俺はようやく説教地獄から解放されるのだった。
ルーク、ありがとう。
32
お気に入りに追加
327
あなたにおすすめの小説

暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~
暇人太一
ファンタジー
仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。
ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。
結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。
そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

破滅する悪役五人兄弟の末っ子に転生した俺、無能と見下されるがゲームの知識で最強となり、悪役一家と幸せエンディングを目指します。
大田明
ファンタジー
『サークラルファンタズム』というゲームの、ダンカン・エルグレイヴというキャラクターに転生した主人公。
ダンカンは悪役で性格が悪く、さらに無能という人気が無いキャラクター。
主人公はそんなダンカンに転生するも、家族愛に溢れる兄弟たちのことが大好きであった。
マグヌス、アングス、ニール、イナ。破滅する運命にある兄弟たち。
しかし主人公はゲームの知識があるため、そんな彼らを救うことができると確信していた。
主人公は兄弟たちにゲーム中に辿り着けなかった最高の幸せを与えるため、奮闘することを決意する。
これは無能と呼ばれた悪役が最強となり、兄弟を幸せに導く物語だ。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

異世界は流されるままに
椎井瑛弥
ファンタジー
貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。
日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。
しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。
これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

生活魔法しか使えない少年、浄化(クリーン)を極めて無双します(仮)(習作3)
田中寿郎
ファンタジー
壁しか見えない街(城郭都市)の中は嫌いだ。孤児院でイジメに遭い、無実の罪を着せられた幼い少年は、街を抜け出し、一人森の中で生きる事を選んだ。武器は生活魔法の浄化(クリーン)と乾燥(ドライ)。浄化と乾燥だけでも極めれば結構役に立ちますよ?
コメントはたまに気まぐれに返す事がありますが、全レスは致しません。悪しからずご了承願います。
(あと、敬語が使えない呪いに掛かっているので言葉遣いに粗いところがあってもご容赦をw)
台本風(セリフの前に名前が入る)です、これに関しては助言は無用です、そういうスタイルだと思ってあきらめてください。
読みにくい、面白くないという方は、フォローを外してそっ閉じをお願いします。
(カクヨムにも投稿しております)

女神のお気に入り少女、異世界で奮闘する。(仮)
土岡太郎
ファンタジー
自分の先祖の立派な生き方に憧れていた高校生の少女が、ある日子供助けて死んでしまう。
死んだ先で出会った別の世界の女神はなぜか彼女を気に入っていて、自分の世界で立派な女性として活躍ができるようにしてくれるという。ただし、女神は努力してこそ認められるという考え方なので最初から無双できるほどの能力を与えてくれなかった。少女は憧れの先祖のような立派な人になれるように異世界で愉快で頼れる仲間達と頑張る物語。 でも女神のお気に入りなので無双します。
*10/17 第一話から修正と改訂を初めています。よければ、読み直してみてください。
*R-15としていますが、読む人によってはそう感じるかもしないと思いそうしています。
あと少しパロディもあります。
小説家になろう様、カクヨム様、ノベルアップ+様でも投稿しています。
YouTubeで、ゆっくりを使った音読を始めました。
良ければ、視聴してみてください。
【ゆっくり音読自作小説】女神のお気に入り少女、異世界で奮闘する。(仮)
https://youtu.be/cWCv2HSzbgU
それに伴って、プロローグから修正をはじめました。
ツイッター始めました。 https://twitter.com/tero_oo

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

称号は神を土下座させた男。
春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」
「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」
「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」
これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。
主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。
※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。
※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。
※無断転載は厳に禁じます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる