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第二章 冒険、始めます

第六二話 首狩り武者ディゾウ、参上

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 大蛇の胴体部分を利用した鞭を獲得し、練習がてら一度振ってみることに。

 ──【念動】

「よいしょおっ」

 大蛇部分に触れないように注意をはらい、大蛇を横薙ぎ一線。
 多少の抵抗を受けつつも、逃走してきた魔物のせいで倒れかけていた樹木を完全に倒せた。
 続けて鞭を繰り出して場所を広げて行き、倒れた樹木を作ったばかりの戦場の外に配置していき、ボスウサフォートを作ったときと同じように蔦で覆っていく。
 同時に空堀も掘り、戦場以外に流れにくくしておく。
 一撃必殺できなかった場合でも、戦場の外に出なければ順次確殺していけるだろう。

 出入り口は二ヶ所。
 魔物が進軍してくる場所と、ボスウサフォートへ続く俺が立っている場所のみ。

 つまり、俺はこれからコロシアムでバトルロイヤルを行うということだ。

 アレもいいかもしれない。
 狼公の屋敷でやったみたいに【念動】で魔力糸を作って、「鳥◯ゴ」とかね。
 まぁ逃げられそうだったらやってもいいかもしれないな。

 ちなみに大蛇の血液は、血魔剣ダーウィンスレイヴで抜いている。イムレは忙しそうだったから、少し時間はかかるけど道具に頼ることにした。

「ん?」

 おそらく最後の逃走魔物が来たのだが、魔力の波動が俺に向けられている。
 今までも向けられていたけど、今回に限っては敵意ではなかった。だから気になり意識を向けてみた。

『ド……ケ……』

 え? 俺でも臭いを感じるほどに香が充満しているのに、正気を保っているの?
 ルークの結界の外なのに?
 すごっ。

「分体君、ルークに伝えて。虎の親子を保護するからよろしくって」

 途中で背中から落ちた虎の赤ちゃんと、引き返した親子ともども【念動】で引き寄せ、ボスウサフォートに放り込んだ。

「他はいないみたいだな」

 一瞬魔物の気配が消え、辺り一帯が静寂が訪れた。
 しかし次の瞬間、大地が激しく揺れているような錯覚を受けるような大群の足音が聞こえてきた。

「やっと来たか」

 ルークがいるし、ナディアさんの精霊術があるから気づいていると思うけど、一応警告しておこう。

「来ましたからねっ」

「分かってるっ」

 返事を受けた後、戦場に入ってバイパーウィップを横薙ぎ一線。
 尖兵である蜥蜴軍団を吹き飛ばす。
 蜥蜴軍団は二色で構成されており、〈鑑定〉してみると二等級上の岩蜥蜴ロックリザードが部隊長らしい。
 そして率いられている魔物は四等級上の藪蜥蜴ブッシュリザードで、これがめちゃくちゃ多い。

 今回はもしかして蜥蜴系の魔物によるスタンピードを利用したテロなのかもしれない。
 その場合、周辺には香を撒いた人間がいるはずだ。
 先程の〈生命感知〉で何人か人間を感知したけど、単純に気づいていないか逃げ遅れたのかと思っていた。

 一応〈追跡〉を発動して行動を監視しておこう。
 ルークにも情報を共有しておき、奇襲対策を講じてもらう。

「蜥蜴か……。オークとかオーガなら素材の価値も高かったかもなぁ。蜥蜴って需要あるの?」

 と思いながらも、鞭を縦横無尽に振り回して討伐していく。
 戦場は広めに作っているから、鞭を振り回しても樹木の壁に当たることはない。
 理性を失くしているから基本的に前進しかしないけど、ワンパターンだと本能で回避される可能性があるから、時折上段からの振り下ろしで叩き潰してもいる。

 それでも尚生きている個体に関しては、個別に【念動】を使って首を負っていく。
 確殺後は、俺側の入口から外に出して進路妨害用のバリケードの一部にする。
 魔物側の入口周辺が散らかっていると、まとまった数が入ってきてくれないのだ。せっかく巨大重量武器があるのに、それが最大限活かせる状況を作れなければ意味がない。

「まだまだいるねぇ……」

 でも、この規模なら上位種がいても不思議ではないのに、今まで一体も見ていない。
 逆にいないが方奇跡ってレベルなのに。

「まだ後ろってこと?」

 ──《無属性魔法:探知》
 ──〈索敵〉

 方向を限定して、代わりに距離を伸ばした探知魔法を蜥蜴軍団の後方に向かって放つ。

「……おぉっ。いるじゃん」

 全く動いていないし、人間が一人一緒にいるけどね。
 このスタンピードはその人物の能力か何かで起こされた疑似スタンピードで、香は魔物を目的地まで真っ直ぐに進ませるための手段ってことだろう。
 この場合その人物の能力が問題になるけど、【神字】ならともかく【神法】だと面倒だな。

 【神字】の効果は自分にしか作用しないから、技能や魔法を強化することはあっても、俺が気をつけてさえいればなんとかなる。
 それに対して【神法】は、魔法の上位互換。
 別物とも言えるほどの能力で、内容が精神支配系だとしたら少し面倒かな。
 もしかしたら竜種を数体支配下に置いている可能性もある。
 不幸中の幸いなのは、精神支配された竜種は大きな蜥蜴と同じってことだ。
 知性を持つ魔獣から知性を奪ってどうすると甚だ疑問だが、精神支配系の【神法】を持っていたらやりそうなことではある。

 というか、注意が必要な神法師は基本的に自由行動はないはずで、一人でいるなんて論外だろう。
 その点を考慮すれば、【神字】の効果で〈従魔契約〉を強化している可能性の方が高いかもしれない。
 一応留意しておこう。

 後方に目を向ければ蜥蜴しか見えないほどのバリケードでき、前方に目を向ければ途切れることのない蜥蜴の行進が続いている。

 局所的に蜥蜴がいなくなるぞ。
 いいのか?

 少し面倒になってきたので、バイパーウィップの先端を使った攻撃から、鞭の長さを最大限に使った攻撃に切り替える。
 今までは戦場に入場するまで待って攻撃し、次の蜥蜴が入場するまで生存個体を各個撃破していた。最も威力が出る先端部分の攻撃も良いが、いつまで経っても上位種が来ないのだ。
 それなら来なければいけない状況を作って上げよう。

 ──《無属性魔法:障壁》
 ──《無属性魔法:浮遊》
 ──〈立体機動〉
 ──〈空歩〉

 バイパーウィップを浮かせて跳び上がり、コロシアムに続く道に沿って鞭を振り下ろす。
 鞭の全体を使って圧し潰す攻撃は、一種の範囲攻撃魔法のようだ。振動も半端なく、蜥蜴軍団が通ってきた道にはみ出していた樹木巻き込んでいた。

 バイパーウィップを再度振り上げたときに体を起こした個体は即座に首を折り、それ以外は二度三度圧し潰して確殺する。
 もちろん片付けは迅速に行い、次の団体がまとまってくるのを待つ。

「この鞭、丈夫だなぁ。ちょっと皮に傷がついてるけど」

 バイパーウィップがなかったら、本当に魔力糸で細切れにするしかなかった。
 通過と同時に体が真っ二つになる罠を張り、【念動】で逃さないように押し出そうと思っていた。まるでミンサーを使うかのごとく。

 需要があるかは不明だが、細切れよりは価値があるだろう状態で素材を確保できたことは素直に嬉しい。
 完全なタダ働きではないからだ。

 それから蜥蜴も最悪、解体仕事を雑用依頼にしてもいい。
 失敗しても大丈夫な依頼で報酬がもらえ、解体の技術も身につく。
 報酬は肉や皮にすれば、報酬に悩むこともなければ真剣に取り組むだろう。
 それに雑用扱いの依頼は、救済措置用の依頼であるためギルドに依頼する料金がほぼ無料だ。

 テロリストよ、不憫な境遇の子どもたちに仕事を作ってくれて、どうもありがとう。
 御礼に苦しまずに逝かせてあげよう。

「うーん……効率が悪いな」

 ──【念動:障壁】
 ──【念動】

 湖で鮫の捕獲に使った土属性混合型の《障壁》を戦場の入口と道の両脇に設置し、まばらに前進してくる蜥蜴たちを【念動】で引き寄せ、端から順に蜥蜴を詰めて行く。
 ある程度まとまったところで、即座に鞭を振るう。
 そして生存確認をした後、すぐに片付ける。

 これを五回ほど繰り返したところ、蜥蜴の気配も姿も完全に消えた。
 代わりに空から二体、陸上を二体の合計で四体の上位種が向かってきている。

「デカッ」

 陸上の上位種の方は相当な大きさらしく、遠目からでもその大きさが際立っていた。

 ──〈遠視〉

「ステゴサウルスみたい……」

 陸上組はステゴ風の亜竜らしい。
 一概に決めつけることはできないが、亜竜は一等級下の魔獣で聖鉄級アダマン冒険者の対応が必要らしい。

 巨体であるだけで十分な脅威を与えるだろう魔獣が、戦闘本能のみで行動したら脅威度が上がりそうだ。
 痛みで怯ませることもなければ、恐怖による後退もないのだから。

「じゃあさっきの虎さんはかなりの高位魔獣ってことか?」

 背中に乗っていた赤ちゃんが可愛くてつい保護してしまったけど、俺の選択は間違っていなかったかも。
 戦闘になっていれば、蜥蜴たちとの戦闘の前に疲弊していただろう。

 技能を使用しなくてもステゴの姿がはっきり見えるようになったとき、飛行組の姿も確認できるようになった。

「あぁーー、定番の……」

 ワイバーンです。
 それも二体。
 残念なことに誰も乗っていません。
 乗っていれば調教された魔獣であり、売却できる可能性もあった。

「とりあえず──頭が高いっ」

 ──【念動】

 ワイバーンを引きずり落とす。
 アレンジを加え、首を曲げた状態で墜落させて首を折りにかかる。
 一体はそれで討伐し、もう一体はダメ押しで【念動:波動】を繰り出す。

 ワイバーン二体は高額素材であるので、ボスウサフォートの近くに送り込んでイムレの分体に言伝を頼む。

 飛行しているという強みに加え、風系統の魔力を纏って魔法が直撃しにくいという防御力も兼ね備えているワイバーンだが、ワイバーン自体ではなく、ワイバーン周辺の魔力に対する魔力干渉への防御は考えていなかったのだろう。
 それとも理性を奪われているからできなかったのか、本当のことは不明だけど、今回は簡単に討伐できて良かったと思う。

 次は質量攻撃の代名詞、巨大陸竜の突進攻撃の阻止だ。

 とりあえず、鞭を横に一振り──。

「──マジかっ」

 初めて打ち負けた。
 というよりステゴを多少傾けさせた程度で、その後すぐに押し戻されたのだ。

 ──【念動:障壁】
 ──【念動:魔弾】
 ──〈高速移動〉
 ──〈転歩〉
 ──【念動:浮遊】
 ──《無属性魔法:障壁》
 ──〈悪路走破〉
 ──〈立体機動〉
 ──〈空歩〉
 ──【念動:波動】
 ──【念動:魔刃】

 それぞれ風属性と土属性の魔力を込めた強化版で、俺の本気だ。

 まずは《障壁》で足を止め、《魔弾》でつんのめさせて懐に潜り込む。一体ずつ確実に《浮遊》で空に持ち上げ、俺も後を追って空に飛び上がる。
 続いて《波動》で顎をかち上げてひっくり返し、比較的柔らかい喉をさらけ出させる。
 このまま落下させるというのも良いが、背中のトゲトゲが折れたらもったいない気がするから、喉側から脳天に向かって魔力槍を突き刺す。
 最後にひっくり返った体をもう一度ひっくり返し、お腹側から着地させる。
 背中を守ると同時に魔力槍の石突が地面に衝突し、魔力槍を確実に押し込んでくれる。

「よしっ、二丁上がりっ」

 完全にスタンピードを鎮圧したと思ったとき、本当の真打ちが登場した。

「おいおいっ! どういうことだっ!?」

 やっと来てくれたか。
 仮想テロリストという判断を下していた蜥蜴軍団のボスで、後方に鎮座していた人間だ。

「頭が高い──無理か……」

 さすがに竜種ともなると簡単には落下してくれないようで、少し降下したところで持ち直された。

 そう、竜種である。

 悪い方に予想が当たってしまった。
 ここはルークに登場してもらおうかと思っていたのだが、怪しい気配がボスウサフォートに複数向かっていたため、断念せざるを得ない。
 できるだけ生かして捕らえるようにだけ伝えて、俺は目の前の赤竜レッドドラゴンに集中しよう。

「どうするかな……」

 とりあえず、定石通り人間を攻撃してみよう。

「喰らえっ! バイパーウィップっ!」

 ステゴ戦では役に立たなかった鞭だが、空中にいる赤竜を苛つかせるには十分だったらしい。
 回避が徐々に雑になり、頭に乗っている人間が今にも落ちそうである。

「ブレイズッ、ブレスだっ」

「させんよっ」

 ──〈魔力掌握〉
 ──【念動】

「──はっ!?」

 俺の最大の強みは、魔力を支配下に置いて、魔法を含む魔力攻撃の完全な無効化だ。
 技能の習熟度と【念動】によって発動するため、制御権を取り戻すためには、最大まで引き上げられた技能と【念動】を超える【神法】が必要になる。

 これは魔獣にも適応され、過去にルークと戦闘して生存できたことが何よりの証明になっていると思う。

 ブレスのおかげで体内への魔力干渉の糸口を得た。
 外側から干渉ができないなら内側から干渉する。当然の帰結だろう。

「──グガァァァッ……」

 体内の魔力を逆流させたり堰き止めたり、最近までカミラさんが罹患していた病気と同じことを【念動】で再現する。
 これはエルフや竜種など、魔力量が多くて魔力と親和性が高い種族の方が重症化するらしい。

 全生物共通で魔力が必須だが、長命であればあるほど魔力が必要不可欠であるため、常に体の隅々まで循環している必要があるらしい。
 そこで俺は脳に行く魔脈を塞ぎ、魔力を制御する機能を奪った。

 結果、苦しんだ赤竜は墜落する。
 この時点で敵が【神法】を使ってる可能性は、ほぼなくなったと言っていいだろう。

「喰らえっ! 飛天御鞭流〈蛇翔閃〉!」

 赤竜の落下に合せて跳び上がり、下段から顎に向かって鞭を振り上げる。衝撃で人間がどこかに飛んでいきそうだけど、重要参考人を逃がすわけにはいかない。
 すぐさま【念動】で赤竜の頭部に押さえつけ、逃亡を阻止する。

「からのーー、おかわり〈蛇翔閃〉」

 背中側から落ちかけている竜の下に移動し、再び頭部を狙って振り上げる。
 その頃には地上目前だったので、最後に首に向かって渾身の一撃を繰り出して仕上げにしようと思う。

「トドメの〈蛇槌閃〉」

 ──【念動:装甲】
 ──【念動:波動】

 《障壁》と同様に土属性を込めた装甲を鞭に纏わせて強度を上げ、同時に《波動》を放つ。

 轟音とともに大地を揺るがし、スタンピードは今度こそ本当に収束した。



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