暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一

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第二章 冒険、始めます

第五七話 スープ湖の魅力

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 五人の騎士たちは身分を使って門を開けさせると言って、即座に旅立って行った。

 そういうとこやぞ?

 貴族なら我儘が通るって思っている言動を許せないと言っているのに、禊ぎを受けに行く開始から我儘を発揮するとは……。

 さすがにナディアさんも頭が痛くなったらしく、頭を抱えて蹲っていた。が、すぐにどうでも良くなったようで、魔光貝の解体準備をしている俺たちに合流した。

「行きますよ」

「う、うむ……」

 エイダンさんが引いている。
 つまみという言葉に釣られて食べると言った手前引くに引けなくなったけど、少し後悔するほどには不気味に思っているらしい。
 俺は貝類が好きで前世はよく食べたけど、さすがに今世は初めてだ。美味しいと良いけど、最悪螺鈿細工に使える貝殻があれば良い。

「うえっ」

 さざえの大きい版みたいな見た目だから、嫌がる人は少なくないだろう。
 個人的にはさざえは大好物の一つで、見た目に対してもなんとも思っていない。ただ、テオのように感じる人もいるだろうから、視線は向けるが追及しない。

「美味しそうですね」

「「はっ?」」

 テオとエイダンさんがハモる。
 ニアは興味深そうに見ているけど、ルークたちはまだ許されていないらしく、未だたてがみを握り続けている。
 そのルークからの力強い視線に負け、貝の身の方はまな板の上に置いておき、貝殻の処理を行うことにした。

 まずはたわしで貝殻を洗浄してく。
 ルークによる浄化は、貝殻の性質変化を防ぐためにも後回しにする。

「身は後で味見してみましょう。まずは貝殻の確認から」

 ──〈魔力掌握〉
 ──【念動】

 ボスウサブレードを作ったときのように魔力を込めるのだが、あのときとは違って付与は必要ない。
 単純に魔力を込めることで螺鈿細工に用いる内側部分を、細工に利用できる状態で採取できるらしい。リソースはいつも通り【神字:理】だ。

 下処理の情報ついでに、見たことがない理由について考察しつつ調べてみた。
 単純に俺の無知によるものだったら方針を変更して別のものを主力商品にすればいいけど、製造の権利を王家が持っているとかだと面倒なことになる。
 作ったは良いけど、無認可だから処罰するという口実を使って全てを取り上げられることもあるのだ。

 しかも一番鬱陶しいのが、王家が許可を持っていると言いながら声を上げるのは王家じゃなくて、甘い蜜を吸いたい貴族っていうね。
 だからこそ、平民が何かを販売する時は重箱の隅をつつくくらいの警戒心を持つ必要がある。

 今回は幸いなことに加工の難しさゆえ、素材自体が出回っていないらしい。
 それに加え、湖鮫が複数泳いでいるような大きな湖の底に生息しているため、頻繁に市場に出回らないというのも理由の一つになっているらしい。

「お、おいっ。大丈夫かっ!? 魔力が……」

 テオも白銀級の冒険者だけあって魔力の感知能力は低くなく、俺が周囲の魔力濃度を意図的に上げていることに気づいて慌てている。

「大丈夫だって」

『ほら、ニア。貝殻が綺麗になるぞ』

「ほんとだ」

 ボスウサの角よりも厚みがなく繊細であるため、一度に大量に魔力を注がないように気をつけながら、貝殻の隅々まで魔力を注いでいく。

「最後の仕上げをしますよ。見逃さないようにしてください」

 魔力濃度の上昇に気づいたルイーサさんたちも中庭に来て、全員一緒に初めての魔光貝加工に立ち会うことに。

 月明かりと宿から漏れる光以外に光源はなく、俺の両手に抱えられた魔光貝から放たれている光が周囲を柔らかく照らしている。
 隅々まで魔力が注がれた魔光貝に最後の一押しとして、魔光貝の抵抗を上回る魔力を注ぐ。

「「うおっ」」

 一瞬割れたのかと思えるような光の罅が魔光貝に入り思わずテオとハモってしまったが、ボスウサブレードのときのように魔光貝の不純で不要な部分が除去されているだけだったらしい。
 
「完成です」

「「「おぉーーっ」」」

「きれい」

『うむ、うむ』

 ニアの顔に笑顔が戻って来たことを確認したルークもご機嫌だ。

「これはどう使うの?」

 ルイーサさんたちは食堂に客を待たせているはずなのに、好奇心を優先させるようだ。

「そのまま照明器具としても使えますが、小さな破片にして小物などの装飾にしてもいいですね」

 あと、今回は無属性の魔力を注いで作ったから、魔光貝の色は真珠色をしている。
 しかし、込める魔力によっては色が変化するらしい。
 螺鈿でモザイクアートをするのも良いかもしれない。

「また詳しく教えてくれる?」

「もちろんです」

「じゃあ、ママはお客さんの相手をしてくるわね」

「はい」

 ルイーサさんとカミラさんを見送り、再び魔光貝の身に話を戻した。
 ご機嫌になったルークに浄化してもらい、薄切りに切っていく。ブルーノさんが躊躇っていたから、技能〈料理〉を持っている俺が代わる。

「まずは生で」

「──おいっ」

「うん。コリコリして塩だけでも十分美味い」

『イムレ、食べる』

「どうぞ」

『美味しい』

 耐性がある俺と、消化できないものがないイムレは楽しんで食べている。
 ルークはどうするか悩んでいるらしい。
 状態異常への心配はないけど、特に惹かれないらしい。

『……一枚だけな』

「どうぞ」

『……可でもなく、不可でもない』

「じゃあ次に行こう」

 ルークの住処で採取してきた唐揚げ用のにんにくとバターをフライパンに入れ、そこに魔光貝の切り身を投下する。本当は醤油が欲しいけど、今回は我慢して塩で味を整える。

「「うおぉぉぉーーっ」」

 テオとエイダンさんが興奮している。
 にんにくの匂いは食欲を注ぐし、少しはお酒のつまみっぽくなったと思う。

「「『味見っ、味見っ!』」」

 ルークも加わり、味見コールが巻き起こる。

「一切れずつだからね」

「うんまっ」

 さっきまで気持ち悪がっていたテオも絶賛している。
 エイダンさんはいつの間にか握られていたエールと一緒に食べ、こっそりおかわりをしようとしていた。
 まだ食べていないルークに手をはたき落とされていたけど。

「ディル、これはまだ湖に?」

 調理された魔光貝は好感触だったらしく、ブルーノさんが魔光貝の追加を希望する。

「たくさんありますよ。一応螺鈿細工の材料ですからね」

「そうだったな」

 材料の安定供給ができないと、そもそも商品にはできないしね。
 貝の身を食べるという行為は、本来の目的のおまけに過ぎないわけだし。

「それと、こんなものもありました」

 再び上空倉庫から物を落とす。
 手元に引き寄せた後、エイダンさんに見せた。

「ん? おかわり……じゃないな」

「鉱石みたいです。ナディアさんの剣の素材に良いかと」

「ディル……」

「それより空の上には他に何があるんだよ」

 テオは鉱石よりも上空倉庫が気になるらしい。

「さすがにもうない。どちらも人に見られたくなかったから、空の上に隠していただけだよ」

「よくできるな」

「誰でもできるよ。簡単、簡単」

 シスターに睨まれているけど、知らんぷりして鉱石の話を聞く。

「それでどうですかね?」

「……たしか、二人とも石板級冒険者だったな。じゃあ採取依頼も受けれるだろう。俺がこの鉱石の依頼を出しておくから、何度も受けてポイント稼ぎにすると良い。二人がランク上げをしている間、俺は剣を打つことにしよう」

『よしっ。ニア、頑張るぞっ!』

「うんっ」

 二つ目のマッチポンプ依頼ができたから、これは早めにランクが上がるかもしれないぞ。
 一つ目もエイダンさん発注の外壁工事の雑用依頼だ。
 どちらも支払いは俺だけど、狼公にお金を返してもらうかギルドの賠償金をもらわなければ、悪党預金がすぐに尽きてしまうだろう。

「俺は?」

「んっ? テオは……」

「仲間はずれはやめろよ」

「でも、テオを連れて行くと寄生って言われそうなんだよね」

「無視しとけ」

「僕は気にしないよ。だけど、三回目は殺しちゃうかも」

「…………」

「冗談だよ、冗談」

「笑えねぇ……」

「テオは遊んでてもいいけど、付与武器の素材を探さなくていいの?」

「あっ」

 ナディアさんも忘れていたらしく、これからニアを含む三人で魔物図鑑閲覧会を開くことにしたらしい。
 その結果次第でナディアさんとテオで臨時パーティーを組み、採取がてら森に同行するらしい。
 まぁナディアさんは冒険者ではないけど、貴族という共通点があるから問題ないとテオが自信満々に言っていた。

「じゃあ俺は客に依頼書をもらってくるかな」

 エイダンさんの言葉にシスターとブルーノさんも追随し、テオたち図鑑組も離れの食堂に向かった。
 残された俺たちはというと……。

『言っておくが、見張られているからな』

「分かってるよ。そもそもあの宿屋前の攻防も、今来ている客たちに向けての示威行為でしょ」

 たまたま近すぎたせいで俺にも被害が及んだだけだ。
 折檻の一環と思えば我慢もできる。

『だろうな。付き合いの長いブルーノたちが平気そうにしていたからな』

「逃げるわけじゃないって思わせられればいいなら、ルークたちは残って説明しておいてよ」

『なんて?』

「見回りのときに不審な場所があったって」

『あぁ……あそこか。いいぞ、行って来い』

「本当に説明してよ?」

『安心しろ。今はおやつがないから、取引はできない。裏切ることはないぞ』

 それはおやつがあれば裏切るってことじゃ……。

『早く行って来い』

「うん……」

 一抹の不安を抱え、夜の大掃除に向かうのだった。



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