暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一

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第二章 冒険、始めます

第五五話 ルーク流交渉術

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 日が暮れた後、知覚系技能各種に異常な数の反応があり、敵襲かと警戒していた。
 しかし敵意が感じられず、どうしようかと判断できずにいた。
 そうこうしているうちに包囲され、そこでようやく目的に気づいた。

「──やられたっ!」

 込められた魔力の割りに反応が小さいから迷っていたが、捜索用の命令を術式に組み込まれているなら、魔力が多めに込められていても不思議ではない。

「ルークっ。逃げるぞっ」

『……手遅れだ』

「えっ?」

 ルークに視線を向けると、ルークの首に抱きつくニアの姿が。
 そして気配を感じて正面に視線を向けたとき、そこには怖いくらい満面の笑顔を浮かべたルイーサさんがいた。

「みーつけたーーっ」

「家出少年っ、発見っ!」

「テオには言われたくない。……少し自分の土地を見回っただけですから」

「本当?」

 ルイーサさんの後ろからシスターが登場する。
 や、ヤバい……。

「シスターに聞けば分かりますよ。ねっ?」

 貸しを返せぇぇぇっ!

「……うむ。伝言を受け忘れていたようだ」

「そう……なの」

「はいっ。散歩がてら、見回りに行っただけですよ。ほらっ、魔石のために」

「そういえば採ってくるって言ってたわね」

「はい」

「母上、とりあえず帰りませんか? 待っていると思いますし」

「そうね」

 えっ? 誰が?

「ディルを探してくれた人よ」

「この魔法の使用者ですか?」

「そう。本人は気づかれないはずって言ってたけど、やっぱり気づかれちゃったか。もしかしたら落ち込むかもね」

 俺はすでに落ち込んでいる。
 おそらく折檻のレベルが上ったから。
 何故なら、シスターの話に納得していたはずなのに、手を繋ぐという拘束を受けているから。
 これは久しぶりだぞ。
 逃げるだろうと疑われている証左だろう。

「おにいちゃん、ほんとうにどこにもいかない……?」

「……行かないよ」

 ドン引きするくらい号泣している。
 ほんの数時間、何も言わずに出掛けただけなのに……。
 イムレを抱きしめ、ルークのたてがみを掴んで逃さないようにしている。

「お兄ちゃんは、駄目な大人と違って約束を守るからね」

「おや、じゃあ雑用依頼は予定通り発注してくれるのかい?」

 ──チッ。クソババァが……。

「どうしたの? ディル」

「指名依頼のことですよね? ぎ、ギルドは動きますかね?」

 結局のところ、ギルドと連携して功績ポイントを稼がないとランクアップできないのだ。
 実力がない子供をランクアップさせないのは問題にならないけど、実力がある子供がランクアップできず危険な仕事に手を出すことが問題としている。
 特にシスターのところの孤児院は、年齢制限があって遅くても成人になったら出なければいけない。

 でもランクアップできなければ宿屋に泊まり事もできず、結局スラムの住人になってしまう。
 しかし一度でもスラムの住人になってしまうと、孤児よりも信用が低くなってしまい、再就職などが難しくなる。

 それなら、町の外で野営する方がマシなのだが、ここは辺境領だ。夜は高位冒険者も避けるほど危険な土地で、低位冒険者が野営することは自殺行為である。

 ルイーサさんが再開発計画に期待していたのは、俺がオーナーなら色眼鏡で判断せず、友達を働かせてあげられると思ったからだろう。
 シスターも同じことを思ったはずだ。
 ランクアップさえできれば、安宿に泊まるくらいのお金は稼げるだろうと。

 正直、領主とギルドが担うはずの雇用を生む産業を、俺が代わりに興してあげたのだ。少しくらいは感謝して欲しい。

「動かないわけないわ」

「構想はあるのか?」

 話に混ざれる雰囲気だと判断したエイダンさんが、町の構想について尋ねてきた。

「ありますよ。まずは農園含む宿屋周辺の住居エリアを壁で囲います。再開発エリアも壁で囲います。ただし、住居エリアと再開発エリアが重なる位置は一ヶ所だけにします」

 イメージしているのは、テーマパークやアウトレットモール。
 住居エリアの四隅に円塔を設置し、南東の唯一接する場所に設置した鉄扉で行き来を可能にする。
 いびつな形のひょうたん型テーマパークであり、隣接する二つの豪邸でもある。広大な宿屋という認識の私有地だから、貧乏冒険者が野営できる公園も設置可能だ。
 町中でそんなことをしたら、まず間違いなく衛兵に連れて行かれるだろう。お金がないのに罰金を払うことになり、払えなければ借金奴隷だ。

 俺も極貧時代を過ごしたことがあり、奴隷のような生活もしてきたため、救済措置になる再開発を早めに行いたいと思っている。
 ギルドが救済措置で仮登録できると言っていたが、仕事がなければ全く意味がない。
 町の中に仕事がなく、町の外に出ることは禁止しているという。
 一体何の意味があるのか、本当に意味不明だ。

 まぁルイーサさんたちに俺の気持ちを言う必要はないので、計画についてのみ伝えた。

「──という感じです」

「すごいっ」

「でしょう? 全て魔導具を使い、ダンジョン都市の強みを活かせていけば冒険者への依頼も増えるのではないかなと思ってます。まぁそのためには信用がある組織が必要なんですけどね」

「それは大丈夫よ」

「不安しかないですけどね。個人的にはモフモフカフェを作りたいですね」

「「良いっ」」

 テオとニアが大興奮だ。

「もちろん、熊もいるよな?」

「まぁ熊も良いかもね。探しに行ってもいいし。でも土地が手に入ったら、絶対に目玉は精霊樹になるけどね」

「「──えっ!?」」

「あっ、二人は知りませんでしたね。湖で精霊樹の種を採掘したんです」

「「えぇぇぇぇえっ」」

「土地が手に入らず、植える場所がなければ燃やします」

「駄目よっ」

「じょ、冗談ですよ?」

「冗談でも言っては駄目だからね?」

「は、はい……」

 怖っ……。
 エルフの精霊信仰は、なめたらあかん……。

「これは早めに認めさせるべきね。ディルとルークへの謝罪も必要だし……これは風神坊やに手紙を出すべきかしら? ──テオ、いらっしゃい」

「はいっ! お姉様っ!」

「もう一度お父様にお手紙を出して。今度は私が届けてあげるから」

「はいっ!」

「それとお母様にも手紙を出してくれる?」

「──母上にもですか?」

「えぇ」

「…………」

 ルイーサさんの指示に珍しく抗っている。

「どうしたの?」

「……怒られそうで、その……」

 テオも母親が怖いのか。
 だから帰らないのか?

「あなたのことはお父様に聞いてと書いてくれればいいの。その代わり、サブマスが仕出かしたことについて書いて頂戴。国家の危機ですよって」

「母上に言ったところで……」

「あら、知らなかった? あの無能が調子に乗っていられるのも、処刑級の失言をしても無事でいられるのは、あの無能が王族の遠縁にあたるからよ。あれでも一応伯爵家の次男だか三男なのよ」

「「えっ……」」

 さすがに、これには驚かされた。
 思わずテオとハモってしまった。

『キタァァァッ! いつぞやの竜の物語と同じだなっ! 更地の希望を叶えてあげるべきではっ!? 王都なんか、どうだろう!?』

 いきなり叫んだから驚いた。
 でも、ルークは相当腹に据えかねていたんだな。

「ルーク、話し合ってから答えを出してあげられない?」

『無理だ。竜は報復したぞ?』

「…………」

 全員の視線が俺に突き刺さるけど、俺もルーク派なんだよね。

『だが、オレは契約者を傷つけられたわけじゃないから、多少は酌量してやろう』

「本当?」

『うむ。執行を猶予してやろう』

「ありがと──『ただしっ! 条件があるっ!』」

「えーと……私たちにできることかしら?」

『うむ』

「なにかしら?」

『オレの子分の宿舎が早く欲しい。交渉を待っていたらいつまで経っても宿舎ができないだろう。だから、壁をつくるなら早めにつくって安全地帯だけでも用意して欲しい』

「ルーク、土地が僕のものにならないと話は進まないよ。途中から口を出されたり、あれこれ駄目って言われるかもしれない。僕は三種の神器を渡しちゃったから、新しく買うならギルドの賠償金で買うしかないんだ」

『安心しろ。全て叶うから。土地も手に入り、横槍はない。好きに開発し、嫌がらせ作戦も上手くいく。ギルドからの賠償も手に入るぞ。何も心配はいらない。国の存亡に比べたら安いものだし、オレたちの行動を制限するということは、それ相応の対価が必要なのだと理解しているはずだ。理解が足りなければ、いつでも教えてやるぞ』

 俺とルークのコンビプレー炸裂。
 俺が要望を伝え、ルークが肯定する。
 条件を出された人は是が非でも叶えなければならず、約束を違えた場合は即報復。

 あとで美味しいものを食べさせてやろう。

「メッ」

 ルイーサさんは真っ先に気づき、俺を睨む。
 シスターも気づいているのだろうが、工事に取り掛かってほしいのはシスターも同じはずだから賛同しているはず。

「よしっ。俺が土木工事と外壁工事を手伝ってやる」

 まぁエイダンさんの精霊術を使えば、確かにあっという間に工事が終わるだろう。
 だが、その前に俺もやらなければいけないことがあるため、今夜のうちに徹夜覚悟で作業しよう。

「お願いします」

「おう」

 その作業の手伝いを早速孤児院にいる低ランク冒険者に出し、ついでに俺とニアにも出すことに。
 指名依頼用の依頼書を冒険者ギルドに持って来させてやると、ルイーサさんは張り切っていた。他にも工事の打ち合わせをしているうちに、宿屋へと帰宅するのだった。


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