暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一

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第二章 冒険、始めます

第五四話 12の昼

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 乱入が特技のシスターが、今回も狼公を助けるために途中乱入してきた。

「なんです? あなたは介入できないでしょ?」

「【青獅子】が参戦するなら、話は別だ」

「おや? 今回の報復理由は血の契約に対する侮辱だけど、本当にあなたが介入するのですか?」

「──貴様っ」

「それなら僕にも考えがあるけど? こっちはあなた対策を用意している。だから大人しくしててよ。前回はそちらを立てただろ? その結果がなんだ? 謝罪もなければ、謝意すら見せない。条件を呑むと言いながらも、結果はどうなった? ギルドには山程人がいるのに、たった一人の暴走も防げないのか? 書類をここに持ってきて登録させるとか、色々やりようはあったはず」

 領主は忙しいとかいう言葉は聞かない。
 領地防衛に関する契約なんだから、優先順位が低いはずない。
 軍人である子爵が領地防衛を軽視するなんて、まずありえない。そんな無能ならとっくに左遷されているはず。

「あなたに言ったところで意味はないけど、百歩譲って狼公が何も知らない伝達役なら仕方がない。でもギルドの情報を把握しておきながら放置していた。僕が食堂に入った瞬間、『手違いで迷惑を掛けた』の一言あってもおかしくないのに、僕が言い出すまで何も言わないという始末。それとも、ルークの代わりにあなたが前線に立つのか? だから余裕なんだな? 今回はキツいらしいけど、頑張れよ?」

「「「「「「う……ご……っ」」」」」」

「母上っ、魔法の無力化はっ!?」

「……ディル? 許してあげられない?」

 ルイーサさんは俺の魔法のカラクリに気づいているだろうから、ルイーサさんの「魔力を制御下に置くことでの無効化」が意味をなさないと理解しているのだろう。

「僕は何度も機会をあげました」

「そうね」

「何度も何度も許しましたよ」

「そうね」

 指を鳴らす必要はないが、危機感を煽るために鳴らす。
 直後、天井近くまで上昇する六人。

「ディルっ。部下たちが本当に済まないっ」

「何故本人たちは謝らないのです? 昨日も人の能力を疑って野次を飛ばし、結果を残しても無礼を詫びない。先程も、昨日説明されたばかりのことに疑いを持って、僕たちの話の邪魔をする。もしかして、僕のこと馬鹿にしてますか?」

「そんなことはないっ。私と同じで王都に毒されているんだっ。私は母上のおかげで早く毒が抜けたが、部下は少し時間がかかっているんだ」

「その間なら何をしてもいいと?」

「そうは言っていないっ」

「僕は二回までは我慢するって決めてるんです。彼らは三回目ですよね?」

「それは……」

「狼公も二回目まで我慢しましたよ? ギルドはまだ二回かな? 子爵はどうだろ?」

 やっぱり俺は、普通の生活はできそうにないな。
 暗殺時代も我慢し続け、そして足抜けした後も我慢の生活。
 俺に自由はないのか?
 結局貴族に振り回され続ける人生を送れと?

「──少々時間をもらってもいいでしょうか?」

 今まで静観していたレイフさんが、今にも死にそうな六人に目もくれず話しかけてきた。

「……何でしょう?」

「そこの六人は全員三回目なのでしょう?」

「そうですね」

「でしたら、彼ら六人の一回を私に買わせて欲しいのです」

「はっ?」

「命の値段ではあるけど、三回が積み重なったことで初めて発揮するなら、命の値段とは言い難いでしょう。けれども、君の感情であるから値切るつもりはない。言い値で買わせてもらうし、取引でも物品でも構いませんよ。是非とも生きているうちに取り引きを終えたいですね」

「──チッ」

 六人を床に降ろした。

「がっ……はっ……」

「ボスっ」

「ありがとうございます。それで欲しいものは?」

「六つ選べるのでしょう?」

「その通りですね」

「その前にあなたの利点は?」

 ──【神字:処理】
 ──〈副音声〉

「色々ありますが、狼公はご存知の通り辺境伯閣下の家臣です。その場にいて見て見ぬふりはできませんよ。騎士の方は貴族ですからね。回収は簡単ですし、宮廷魔法士長様に貸しを作っておくのも悪くない」

「必要ないでしょう?」

「ふふふっ。何かに使えるかもしれないでしょう? それから皆様の心証を良くしておけば、再開発計画に参入できるかもしれませんでしょう?」

「だから、それは頓挫しましたよ」

「いえいえ、そうはさせません」

「決めるのは僕です。それとも取り上げます?」

「そんなことしませんよ。ですが、すでに領主様が動いてしまっていますよ?」

「これから葬儀を行うのに、そんな暇あります?」

「……もう数人追加してもいいですか?」

「僕はまだ子供でしてね。そんなに欲しいものはないんですよ」

「…………」

 貴重な交渉枠がなくなったことで、ようやくレイフさんの滑らかな舌が停止した。

「今から防備を固めます? いいですよ? 城ごと火葬しますから」

「…………」

「それとも辺境伯夫人に泣きつきます? 間に合えばいいですね。それから、権力は武力に勝てますかね?」

「…………」

「まぁどうしようと任せますが、とりあえず欲しいものの一つを提示します。その答え次第で、信用するかを判断しましょう」

「何でしょう?」

「購入した土地の使用権を特例扱いにして、所有権にしてください」

「──それはっ」

「言い値、なのでしょう? 頑張ってくださいね」

 話を切り上げ、今日のところは帰ってもらった。
 約束の一つも守れないのに六つも無理だと言い、契約書は巻かなかった。

「ディル……」

「部屋に戻ってます」

 とは言ったが、俺とルークとイムレは新しく購入した土地の空き家に泊まることにした。
 しばらく誰とも話したくなかったのだ。

 しかし、無粋な者はどこにもいる。
 またも邪魔しにきた。

「なんです?」

「必死に探しているよ?」

「今だけですよ。元々いなかったわけですし」

「土地を所有するんだろ?」

「どうせ無理ですよ。暗殺ギルドに依頼を出すと思いますよ。──夫人が」

「だからここに来たのかい?」

「えぇ。気兼ねなく殺せるでしょう? 猶予期間中に暗殺依頼を出せば、それだけで信用がない証明になる。僕に損はない」

「レイフは真っ先に辺境伯家へ連絡を取ったよ」

「精霊でですか?」

「あんた……本当に……どこまで知ってるんだい?」

「あの姿が偽装だというのは知っていますし、膨大な魔力を持った魔法士ということも知ってます」

 あとはダークエルフっていうこともな。
 知ってるかどうか不明だから、シスターには言わないけど。

「はぁ……許す気はないのかい?」

「許しを求められていませんからね。必要がないと思っている相手に、『許してやろう』って言うのは滑稽でしょう?」

「今後はどうするんだい?」

「さぁ、どうしましょうね? あぁ、何度も邪魔したんだから伝言を伝えてもらえますか?」

「自分で言ったらどうだい?」

「じゃあ結構です」

 手を振って追い出し、帰ったところを確認してから別の場所へ移動した。


 ◆ ◆ ◆


「母上っ、こっちにはいませんでしたっ」

「もぅ、どこに行っちゃったの?」

「おにいちゃんがいない……。ルークとイムレちゃんも……」

「ルークの子分に探させるというのはどうだ?」

「エイダン、どうやって通訳するのよ」

「そ、そうだった」

「クソッ! こんなときに熊の従魔がいればっ!」

 全員が手をつくして捜索するも、結局日が暮れてもディルを見つけることができずにいた。
 そこにシスターが現れ、朗報をもたらした。

「あの子は自分の土地の空き家にいるよ。あたしが見つけたところから移動したとは思うけど、しらみ潰しに探していけば見つかるはずさ」

「どれだけ広いと思ってるのよ……」

 エルフは追跡が得意と言われているけど、決して万能というわけではない。
 ディルのように痕跡を残さずに移動されたり、時間が経った形跡を追うことはできない。それゆえ、ディルの捜索能力の高さを称賛していた。

「──私が探しましょうか?」

「ちょっとっ! 何で起きてるのよっ!?」

 昨夜まで死の淵を彷徨っていた患者が、簡素な寝間着姿で食堂にやってきた。
 病気と栄養失調でも全く減ることがなかった豊満な胸が簡素な服の下から主張し、男性陣は思わず目を背けた。

 ルイーサはすぐに外套を着せて、寝室に戻るように促す。

「私の命の恩人が行方不明なのでしょう? 起きたら御礼を言おうと思って話が終わるのを待っていたのに、精霊がいないって言ってるのよ。気になって眠れないわ」

「魔力が回復したばかりでしょう?」

「平気よ」

 そう言うと、闇属性の魔法でいくつもの動物を生み出していき、町に放っていく。

「久しぶりに見るけど、凄まじい数ね」

「こんなたくさん出せたのは久しぶりよ。きっとすぐ見つかるから、お湯をもらってもいいかしら? 私も女だから、臭いって思われるのは嫌よ?」

「そんなことを気にする年じゃないでしょ?」

「あら? じゃああなたは、その子に臭いって言われても平気?」

「……ナディア、お湯を用意してあげて」

「はい」

「ありがとう」

 そして湯浴みを終えてすぐ、家出少年を見つけたという反応があり、その場所に全員で向かうのだった。


 ◆ ◆ ◆



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