暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一

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第二章 冒険、始めます

第五二話 悩みの種

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 魔石は一度地面に置き、魔魚の解体を手伝うことに。
 鮮度の問題があったが、宮廷魔法士長のナディアさんによって解決する。
 ナディアさんは氷属性の魔法を使えたため、氷塊を出して木箱に敷き詰めてくれた。

 しかも魔法陣を複製しようにも、魔法の構築が早すぎて不可能という優秀さだ。
 本人曰く、地獄の折檻を乗り越えた果てに獲得した努力の結晶なんだとか。俺もそんな折檻が良かったと切実に思う。

「鮫はまるごと収納したんですか?」

「使わない内臓はイムレにあげた」

「ありがとうございます」

『イムレ、嬉しい』

「いつもの御礼だ」

 粗方片付いたところで、そろそろ帰宅の準備をする。
 まだ昼頃だけど、魔石や魔魚を放置して狩りや採取はできない。
 また今度ルイーサさんと一緒に来ることを決め、今回は早めに帰宅することに。

「おい、一個だけ変な魔石あるぞ」

 ん?

「本当だ。琥珀っぽいけど」

 ──〈鑑定〉
 ──【神字:天理】

 詳細な鑑定をしてみると、魔樹などの魔力を内包する樹木の種と、それを保護する膜だということが分かった。

『珍しいな。精霊樹の種だ』

「「「「──えっ!?」」」」

「ルーク、せいれいじゅってなぁに?」

 ニア以外は分かっているようで驚愕しているが、ニアはルークの背中の上からルークに質問している。

『うーん……簡単に言うと精霊の家だ』

「おうち?」

『うむ。ニアもいずれ精霊と契約するだろ? でも精霊は基本的に自然が好きなんだ。契約する場合は、召喚するか探しにいかないといけない。探す場所で一番簡単なのが、精霊樹周辺だ。エルフにとっても大切な樹木らしいけどな』

「すごいたねなんだね」

『うむ。ちょうど大きな土地があるから、真ん中に植えておけば良いんじゃないか? 取り上げに来た者がいたら、オレが追い払ってやる』

「──えっ?」

『なんだ、熊。文句でもあるのか? お前が狙っている熊も好きだと思うぞ。精霊樹の近くでしか咲かない花の蜜は、とってもうまいからな』

「いいね。蜂の魔物と従魔契約をして養蜂をやるのもありかも」

『だろう?』

『イムレも蜜食べる』

「熊さんのためなら、俺の別荘もあるから親父に言っておこうかな」

「──いやいやいやっ! ただでさえ土地の広さで目を付けられているんだぞ? この上精霊樹が植わったとしたら、子爵に持って行かれるぞ?!」

 そうなんだよね。
 今回買った土地は、都市を四分割している工業区の北半分ほどを購入していたが、そこにスラムが加わったことにより、五分の一弱くらいの土地を保有することになった。

 ルイーサさんたちに隠れて、俺と従魔たちは【双竜区】と呼んでいる。
 それほどの広さなのだ。

「確かにナディアさんの言うとおりですね。土地の使用権であって、土地の所有権ではないですからね。でも僕が採掘してきたものですから、誰にも渡しませんよ。──燃やします?」

「「「それは駄目だっ」」」

 さすが精霊契約組。
 真っ先に反対すると思ってたよ。

「でもぉ、植えることもできず所有も邪魔。さらに売る気も譲る気もない。一体どうすれば?」

『だから、ギルドのオレへの無礼を土地で勘弁してやればいいだろ?』

「処刑におまけしてってこと?」

『うむ。その竜の話が本当なら領地を燃やしても許されるってことだろ?』

 許されはしないと思うな。
 実際に軍隊が派遣されることになったわけだし。

『それが少しの土地を譲るだけで全員が幸せになるんだぞ?』

『イムレ、思いついた』

 魔魚の廃棄部位を食べ終えたイムレが、名案を思いついたと小さな手を挙げる。

「可愛い」

『何を思いついたんだ?』

『ここに植える。外だから怒られない』

『天才だなっ。水も森もあって、大きくなっても大丈夫だもんなっ』

『うん。イムレ、天才』

『ということだ。ここに植える』

「もっと駄目っ」

 ナディアさんのツッコミも理解できる。
 森の整備という名の間伐なら良いのだが、伐採による開拓は禁止されている。
 ルークを監禁していた国との条約によって。

 正確な条約は北側の森に関してだけだが、湖を擁する東側の森とくっついているせいで、明確な線引ができず同様に開拓禁止になっている。

『面倒くさいな。やっぱりオレが平らにするしかないか』

「今日はストッパーがいない……。主は止める気がないし……」

 ナディアさんには申し訳ないが、本当にその通りだ。
 ルイーサさんという抑止力がいない以上、我々を止める者は存在しない。

「だから、俺が親父に言うって言ってるだろ」

「確約じゃないじゃん」

「じゃあ土地を農園にするまで待ってくれよ。あの栄養がなさそうな地面に植えるわけにもいかないだろ? フカフカな地面にした後に植えるなら、そのときまで猶予をくれよ」

 全員が同じことを思ったはず。
 意外に賢いと。

「いいけど……盗むやつが現れたら、相手が誰だろうと殺すからね」

「……国でもか?」

「うん。もしかしてまだ王侯貴族は特別って思ってる?」

「そうじゃないってっ! 可能性の話しだってっ!」

「良かった。人のものを盗んでも良いと考える人と一緒には暮らせないからさ。それに、次はどちらにせよ一人で戦うことは禁止されているから、戦力不足はありえないよ」

『うむ。また置いてったら噛みついてやるからな。──本当の姿で』

「死ぬやつっ」

『頑張れ』

 とりあえずテオの意見を採用して帰宅した。

「…………本当に大丈夫か、それ」

「エルフの神秘なんだよ?」

「おにいちゃん、わたしもできる?」

「訓練を頑張ればね」

「がんばる」

「「「…………」」」

 大人組は否定したそうに口元をモゴモゴと動かしているが、やる気に満ちたニアを悲しませたくないようで沈黙していた。

「……なぁ。この荷車、異常に軽いんだけど。行きより軽いってある?」

「デッドマン号ね」

「はぁ?」

「その子の名前」

「名前なんか別にいいだろっ」

「そんなことないよ。インテリジェンス・アイテムかもしれないじゃん」

「──これがっ!?」

「まぁ違うけどね」

「おいっ」

『熊よ、オレは心配だぞ。簡単に騙されるなよ。お前も一緒に直してた荷車だぞ』

「そういえば……」

 本来だったら氷と魚が満載された木箱が荷台に山積みになっていれば、いくら力自慢の熊獣人でも一人で引くことは不可能だろう。
 だから【念動:浮遊】で浮かせつつ、車輪を【念動】で回しているのだ。

「──ちょっと待った!」

「なんですか?」

 予想通り入町時に門で止められた。
 両手に岩サイズの魔石を縦に積んで運んでいるから、これで止めなかったら逆におかしい。

「そ、それは……」

「個人的に採掘してきたものです。現在手が塞がってますので、テオ様から冒険者証を受け取ってください」

「これだ」

 テオは自分の冒険者証と一緒に、辺境伯家の貴族証を提出した。
 普段は使わないようにしているらしいが、すでに子爵に知られている上、面倒事を簡略化できるならということで今回は使用することに。

「──失礼しましたっ。辺境伯家の依頼でしたかっ」

「「…………」」

 俺もテオも返事はしない。
 言質を取られなければ、あとで何を言われても勘違いで済ますことができる。

「通っていいか?」

「どうぞっ」

「ご苦労」

「さすがです、テオ様」

「……やめろ。ムカつく」

 北門から宿屋まで近いと言ってもそこそこ人がおり、両手に持つ魔石が目を引いたせいで大名行列の如く注目の的になっていた。

「──やっぱりあなたたちだったのね」

「母上っ。どう考えても一人でしょう!?」

 気持ちは分かるけど、同じグループなんだよ。
 一人だけ逃れようなんて、そんな裏切りは許しませんよ。

「色々気になるけど、あなたたちにお客さんよ?」

「あれぇーー? 誰だろぉぉーー?」

「グルゥゥゥッ?」

「「「「…………」」」」

「ルーク、かわいい」

「荷物を置いたら食堂にいらっしゃい」

「はーい」

『グルゥゥゥ』

 迫力のある笑顔を向けられたため、ルークと一緒に跳躍して壁を乗り越えた。

「きゃあっ」

 ルークの背中の上にいたニアが驚いていたが、絶対に落ちないから気にしない。

「……あいつ、なんなの?」

 というテオの声が聞こえて来たが、返事をする余裕は俺たちにはなかった。


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