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第二章 冒険、始めます

第五一話 天に代わってお仕置き予定

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 やってきました、スープ湖。
 領都ポットの東側にある湖ということで、安直な名前を付けられたそうだ。

 南北しか門がないから北門を通っていく。
 本来ならギルドはついでにはならない位置なのだが、門の通過を楽にするためには必要だったのだ。
 だから再び北門へと戻る形になったわけで、その際に狼公の部下を捕まえてギルドであったことを教えておいた。徐々に表情を青くさせる部下には申し訳ないが、ルークに機嫌が直らない以上、ルークを戦力に加えることはできない。

 ブルーノさんも賛同を示したことで、契約は再考という形になった。
 部下はギルドに行って裏取りを取った後、狼公の元に向かうそうだ。頑張ってくれたまえ。

『……』

 ムスッとしたルークも可愛いけど、どこか近寄りがたくてニアも落ち込んでいる。

「ブルーノさん。ここって何が獲れるんですか?」

「うーん……魚」

「ど、どんな?」

「うーん……あまり獲りに来ないな。冬は氷が張るし、獲りに来る人もいるけどな。この時期はアイツがいるからな」

「アイツって?」

湖鮫レイクシャークだ」

「蛇っていないですよね?」

「見たことないな」

「じゃあ大丈夫だと思います」

 蛇は本当に嫌いなんだ。
 反撃するより、真っ先に逃げると思う。

「じゃあ魔石を採ってきます。湖鮫を見つけたら、どうしましょう? 欲しいですか?」

「「欲しいっ」」

 ブルーノさんとエイダンさんが食い気味で返事をする。
 二人も討伐しようと思えば簡単に討伐できるはずだが、わざわざ探してまで討伐するのは面倒らしい。
 捜索する手間を度外視にしても三等級の下という、白銀級冒険者以上の実力が必要な魔獣で、魔法も使うし捜索する手間もあるというハズレ魔獣らしい。
 ただ、味に関して言えば等級以上の肉質でアタリ魔獣らしい。
 それに加え、皮や牙なども優秀な素材になるらしい。

「じゃあ僕が打ち上げますので、手分けして仕留めてください。ニアは弱そうな魔魚を打ち上げるから、ナディアさんにフォローしてもらいながら訓練するんだよ」

「うん」

 あまり多くない親子の時間を楽しんで欲しい。

「ブルーノさん。湖鮫を多く見つけるので、ルークとイムレのおやつに干し肉を作ってもらえませんか?」

「最高のつまみだなっ。売ったら一瞬で消えるぞっ」

 エイダンさんも楽しみなほど美味しいらしい。
 その興奮具合を見たルークが、ようやく興味を出したようで近づいてくる。

「肉は魚っぽいんですか?」

「生の時はそういう部位もある」

「臭みはあります?」

「全くない」

「じゃあ刺身で行けるかも?」

 醤油はないけど。

「刺身?」

「生で食べることです」

「「「えっ」」」

 ブルーノさんとナディアさんに、エイダンさんまでもありえないという表情で驚く。

「まぁ淡水魚は怖いんで、やめておきますか」

『美味いのか?』

「うん。海辺の町では食べているところもあるらしいよ。ルークの浄化があれば食べれるかも。僕はそういう耐性もあるし」

『試してみるのもありかもな』

『イムレ、平気』

「そうだね。イムレは大丈夫そうだね」

『オレも食べるからなっ。抜け駆けはさせんぞっ?』

 ルークの機嫌が直ったと、みんなが気づいた。
 特にニアはルークの首元に抱きついて、冒険者登録をさせてくれた御礼を言っている。

「では、行ってまいります」

「気をつけてな」

 ブルーノさんが声をかけてくれたのだが、その後ろが気になって仕方がない。
 何故かナディアさんとニアが目に手を当てているのだ。
 もしかして……。

「服は脱ぎませんよ?」

「「──えっ!?」」

「おい、溺れるぞ?」

 テオも脱ぐと思っていたらしい。
 確かに着衣泳は危険だけど、森の中の水中で全裸っていうのもかなり危険だと思うけど。

 ──〈心眼〉
 ──〈気配遮断〉
 ──〈隠形〉
 ──〈身体強化〉

 いつもの暗殺形態に、魔法形態を加える。

 ──〈魔力感知〉
 ──〈魔力掌握〉
 ──〈多重魔法〉

 そこに【神字】を加えれば準備完了だ。

 ──【神字:処理】
 ──【神字:地理】
 ──【念動】

「まぁ見てて」

 ──《無属性魔法:浮遊》
 ──《無属性魔法:障壁》

 スープ湖に向かって跳び、空中で少しの間静止する。
 次にルークを都市内に入れたように《障壁》で周囲を囲い、シャークケージのようにして湖の中に沈んでいく。
 これで濡れることもないし、視界を塞ぐことはない。

 ──《無属性魔法:探知》
 ──〈生命感知〉

 何体か大きな生物を感知したが、近づいてくる様子がないので先に魔石を見に行くことに。
 移動は専ら【念動】で、泳ぐ必要も歩く必要もない。

 ──〈鑑定〉

「あった」

 ──《無属性魔法:探知》

 今度は収束した探知魔法を使い、できるだけ大きく採掘できるように大きさを確認する。
 周囲の水草も希少な薬草らしく、どうせ周囲を掘るなら採取してルイーサさんのお土産にすることに。

 根っこごと掘り、《障壁》を水上に向かって射出した。
 今回はイムレの眷属を合意の上連れてきたから、ルーク経由で伝達できているはず。

 悲しいことに分体は話せないのだ。
 小さくて弱いし、反応も鈍い。
 ゆえに、今まで忍び込まれていても全く気づかなかった。

「すごいっ。宝石箱やぁーーっ」

 ──《土属性魔法:掘削》

 慎重に周囲を削っていき、魔石を露出させていく。
 排土は怪盗のときのように固めて隅に寄せる。

「──来たかっ」

 他にも数ヶ所薬草射出や魔石採掘をしていると何か気に障ったのか、大して腹を満たせない俺に向かって湖鮫が噛みついてきた。

 ──【念動:波動】

 噛み付く寸前に尖った上顎に掌打を打ち込み、勢いを殺して怯ませる。

 ──【念動:障壁】

 通常の《障壁》とは違い、【念動】により土属性の魔力で補強した頑丈な《障壁》で囲って、薬草同様水上に打ち上げた。
 その後、岸に向かって放出するように《障壁》を解除する。

 魔魚についてはもっと簡単で、鮫用の《障壁》でまとめて捕獲して射出するだけ。
 普通の魚に関しては、釣りを楽しむ人のために手を出さないようにしている。すでに湖内の環境が大きく変わったから、普通の魚が行きていけるかは正直微妙だけどね。

「最後に魔石を牽引して水中に上がろうかな」

 ちなみに、排土の塊は岸の近くにまとめて固めてある。
 それも土属性魔法を使って。

 俺が魔石を採って帰ったところを見た者は子供ができたのだからと、一攫千金を狙って後に続くだろう。
 俺と同じことができなければ基本的に岸から着水し、潜水するしかないわけだ。そのときに岸付近の底がギリギリ足が届く深さだったら、他も大したことないと思うはず。
 しかし他は大きく掘り返したから、以前よりも深くなっている。一度岸から離れて沈み込んでしまえば、なかなか上がってくるのは難しいと思う。

 子供にリスクを取らせて、自分は甘い蜜を吸おうとする者には天に代わってお仕置きをしてあげないと。
 欲張らない。
 慎重な行動をする。
 子供だと侮らない。
 以上を守れば、きっと無事に帰ってこれるはず。

「──ただいま」

「「「「「…………」」」」」

『早かったな』

『おかえり』

「大量だった。もうないかもしれないけど、小石くらいなら採れるはずだから取り尽くしてはないよ」

「……マジで採ってきたのか」

 テオは本当に採ってくると思っていなかったらしい。

「言ったじゃん。簡単だって」

「それはどうするんだ?」

「外壁に使います」

「……全部か?」

「残れば魔導具か何かに使ってもいいかもしれませんね」

「全部で軽く億はいくぞ?」

 エイダンさんは小石で拾ってくると思っていたらしく、岩単位の大きさで持って帰ってくるとは思っていなかったそうだ。
 それも十数個という異常な数。
 個人的には億じゃきかない金額になると思うけど、売る気はない。

「どうやって持って帰るんだ?」

 テオは自分が引いて帰るはずの荷車と魔石の間で視線を右往左往させ、少し顔を青くさせていた。
 俺も荷車に魔石を載せたら、デッドマン号が死んでしまうということは理解している。それにすでに魔魚だけで満載状態だ。これ以上は物理的に無理だ。

「安心して。エルフの神秘があるから」

「はぁ!?」

「俺の空間収納は鮫でいっぱいだぞ?」

「大丈夫です。見ててください」

 ──【念動】

 数えたところ十六個あった魔石を八個ずつに分け、縦に積み重ねて【念動】で固定する。
 その後、両手の手のひらを上に向けて魔石を着地させる。
 頑張ってますアピールをするために気合を入れることも忘れない。

「ふんがぁっ」

「「「「「………………」」」」」

「どうです? エルフの神秘です」

「……お前、エルフじゃねぇじゃん」

「テオ様、そのような正論は不要ですよ」

『はははっ』

『主、すごーい』

 従魔組には受けていたから満足だ。



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