暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一

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第二章 冒険、始めます

第四九話 地雷原で踊る阿呆

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「私は反対ですっ!」

 場所は冒険者ギルドの四階、ギルドマスターの執務室。
 そこで今、ダンジョン都市の今後を左右する会議が開かれていた。

 参加者は部屋の主のギルドマスターと女性秘書が一人に、声を荒げていたサブマスター。
 それから幹部を担う諜報部門長、警備部門長、解体部門長、買取部門長、財務部門長、技術部門長、総務部門長の七人だ。

 会議は基本的に合議制で行われるが、ギルドマスターは二票分の権利を有しているため、決まらないということはない。
 ただし、ギルドマスターにはいくつかの強権が与えられており、そのうち一番重要なのが拒否権である。あまりやりすぎると総本部から査察が入るが、基本的にちゃぶ台返しができる。

 だからこそギルド内に派閥はあるが、会議自体は比較的にまともに進められる。
 今回の会議も事の重大さを全員が理解しているため、たった一人を除いて全員が賛成して決着するはずだった。どんな阿呆でも理解できることだから、今日は早く帰れると誰もが思ったはず。

 でも違った。
 目の前に特大級の阿呆がいたのだ。 

「まだ五歳の子供を冒険者にするなど鬼畜の所業ですっ」

「本人が希望している」

「一人を特別扱いしては規律が乱れるではないですかっ」

「他の希望者も許可すればいい」

「低ランク用の雑用依頼が足りませんっ」

「先方が提出した、低ランク用雑用系指名依頼という案を採用すれば良い」

「たかが冒険者の言いなりとは、恥ずかしくないんですか!?」

「そのたかが冒険者に助けてもらって、飯を食わせてもらっているのは恥ずかしくないのか?」

「……私はどこから手に入れたか不明な小切手を、我が物顔で使用したりはしませんっ」

 情報を流したらしき総務部長が全員から睨まれる。
 早く帰れると思ったのに、馬鹿を焚き付けた存在がいるのだ。
 味方であるはずの同じ派閥の者からも睨まれているが、それも仕方がない。

「ほう。冒険者については暗黙の了解で詮索や情報漏洩を禁じているし、公爵閣下も厳罰に処すと明言されている。ギルド職員なのに知らないものがいたとはな。すでに換金した小切手のことを持ち出したり、サブマスが不在だったときのことを持ち出したり、何が言いたいのかよくわからないな」

「最初から言っていますっ! 唯々諾々と条件を飲む必要がないとっ!」

「じゃあ君が代わりの戦力を用意してくれると言うのかね?」

「ふっ。耄碌しましたか? あの【青獅子】がいるのですよ? しかも低ランク帯という好条件。低コストで使えば良いんです。最悪契約を解除させて、ギルドのことを一番に考えてくれている冒険者と契約させればいいんです。契約者は子供でしょ? 私が期待している冒険者に、ちょうど従魔術師がいるんです」

 阿呆の言葉に一同沈黙。

 しかし阿呆はそれが自分の案に賛同し、素晴らしいアイデアに二の句が継げないのだと勘違いする。

「私に任せてくれれば、あの年増のババア──失礼しました。クソババアに踊らされることはなくなるのですよ?」

 沈黙を超え、呼吸を止めた者が多数。

「──ところで、小切手のことを君に話した素晴しい部下は誰かな? その人物のおかげで、君が反対意見を考えるきっかけになり、神がかった提案が閃いたのだろう。是非とも賞与を授けたい」

「それもそうですね」

 普段ならもう少し勘働きが良く、あまり大きくないサブマス派閥の貴重な部下を切り捨てるようなことはしない。
 だが、称賛されていると勘違いしている今は違う。
 完全に自分に酔っていて、信賞必罰という貴族らしい考えの元行動している。

 本人は「やめてくれっ」と叫びたいのを我慢し、必死にアイコンタクトを送っているのに、サブマスはまたも誤解して言ってしまう。

「総務部長、全て君のおかげだよ。ありがとうっ」

 ──さよなら、総務部長。

 全員が心の中で呟いた言葉だ。
 情報漏洩は、被害者への億単位の賠償と強制労働。
 基本的に払えないから、資産の差し押さえ及び借金奴隷。
 家族に継承して逃れるという手は使えないどころか、血縁関係があればそちらからも請求できる。

 これが平職員に対する処罰だ。
 幹部職員は、さらに犯罪者として扱われるため、犯罪奴隷として一生奴隷生活を送る羽目に。
 奴隷生活も借金奴隷なら、奴隷商人に引き渡されて売買されたり貸借されたり、ある程度の人権は保障されている。
 対して犯罪奴隷は、状態が良かったり希少な能力を持っていたりしない限り、基本的に鉱山や開拓などの苦役に就かされる。人権な全くない。

 まさに生地獄だ。

 なお、平職員なら被害者次第で情状酌量の余地がある。が、幹部はない。

 だからこその別れのあいさつなのだ。
 絶対に会うことはないから。

「さて、解散とするか。警備部門長、総務部長を拘束して取調べしてくれ」

「はっ」

「私たちも手伝いましょう」

 今までサブマス派だった者たちが、もれなく全員サブマスを切り捨てギルマス派閥に乗り換えた。
 阿呆だから操るのに向いているかと思っていたが、阿呆の程度が行き過ぎているせいで暴走する不良品だと気づいたのだ。さらに、部下も簡単に切り捨てるという所業に呆れてしまってもいた。

 それだけも見限ろうと思えるのに、ポットの守護神で地獄耳の持ち主を「クソババア」と言う阿呆さ……。
 正直な気持ち、巻き込まれたくなかった。
 ただただ、それだけ。

「おい、君たち。話を詰めるべきではないかな? それとも年のせいで眠くなってしまったかな?」

「ギルドの会議は合議制なんだ。君が反対する前から会議は終了していたが、君が少しでも理解してくれればいいと思って付き合っていただけだ。ギルドの方針は変わらず、ルイーサ殿の条件を全面的に呑み、契約を継続してもらう。これを領主様に報告に行く。以上、解散」

「──ちょっとっ! さきほど賛成していたではないですかっ!?」

「はぁぁぁあ……。いつ?」

「神がかった提案と言いましたっ」

「神がかった阿呆な提案な。まぁ納得できないなら再び採択を採る。ルイーサ殿の条件を呑む者は挙手っ」

 ギルドマスターが参加者を見回して挙手者を確認する。

「反対一票、不参加一票、賛成九票。以上、解散」

「──私は認めませんからねっ」

「勝手にしろ」

 サブマスの瞳には憎悪の炎が宿っていた。


 ◆


 後日、ニアがギルドに登録しに来た。
 総務部長がいれば手を回して登録を阻止できたのだが、総務部長は拘束されたまま地下室に閉じ込められていた。
 その日のうちに関係者も全員拘束されたせいで手を回すことができず、サブマス自ら阻止するため、毎日受付付近で待ち伏せしていた。
 幸いなことに【青獅子】という目印があるから、見落とすことはなかった。

「君、年齢が低すぎるから登録はできないよ」

「え?」

「それに貧しい子の救済措置として低年齢でも登録できるようにしているけど、君は貧しくないでしょ? 他の子供の仕事を奪うなんて許されると思っているのかな?」

「えっと……」

「分かったら、帰りなさい。君たちみたいな我儘な子供に付き合っている暇はないんだよ」

「おにいちゃん……」

 ふん。
 周囲の冒険者たちの中には私が仕込んだ者もいるんだ。
 少し煽ってやれば簡単に他の馬鹿どもも巻き込める。

 ──さぁ、やれ。

「へぇーー。これがギルドと領主が出した答えか」

 ん? 目付きの悪い子供が話し出したぞ?

「あぁぁーー。君が【青獅子】の契約者か。従魔が強いからってあまり調子に乗らない方がいいよ? 君と従魔の契約を解除させることもできるんだからね?」

『──あ゛っ』

 問答無用の濃密な殺気がサブマスを中心にギルド内に広がり、殺気だけでギルド内を制圧した。
 一番近くで殺気を浴びたサブマスは、すぐさま気絶した。
 一秒も耐えることはできず、地面に倒れ込む前に気絶したため顔面を強打することに。

 辛うじて耐えることができたのは、四階にいたギルマスのみ。
 それでも二足歩行は不可能で、這いつくばってなんとか吹き抜けから下を覗く。

 ギルマスの目には、驚いて固まってはいるが立った状態でいる数人の人間と、床に倒れ伏している職員と冒険者たち。それから今なお殺気を放っている【青獅子】の姿。

「──一体、何が……?」


 ◆ ◆ ◆


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