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第二章 冒険、始めます
第四八話 術後ケア
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治療は終えたが、ルイーサさんは心配だからと診療所に残り、俺とルークとナディアさんの三人は食堂に向かった。
目が覚めたときに余人がいると良くないだろうと思ったのもあるが、単純に空腹で死にそうになっているということが最大の理由である。
技能で耐えることはできるが、我慢する必要がないときまで技能を使う必要はない。
「士長っ! どうでしたっ!?」
相変わらず失礼なやつだな。
回復が得意な女性のことが好きなのか?
だから、無能のように見えることが許せないのか?
「治ったに決まってるだろ」
「「──えっ!?」」
「ブルーノさん、ご飯ください」
「ナァァンッ」
「助かった」
「いえ。僕たちも餓死せずに助かってますから」
「ンナッ」
本来の鳴き方じゃないから、レパートリーが少ないな。
猫の子分は少なかったからね。
「ウサちゃんも少なくなって来ましたね」
「ンナッ」
「湖行くときに肉も獲りに行く?」
「ンナッ」
ナディアさんの部下が来たってことは数日中には王都に向かうことになるだろうから、怪鳥料理は送別会用に取っておくことでルークと話がついている。
「ん? 湖に行くのか?」
「いくぅっ」
「師匠、たくさん魚獲ってきます」
俺とルークが食堂内に入ったときには食べ終わっていたニアとテオが、湖の話をしていることを聞きつけて自分たちも行くことを主張する。
もちろん、晩酌を楽しんでいるエイダンさんも同行する。
エイダンさんの場合は、魔石の方が気になっているらしい。
「俺も気になるな。……だが、患者もいるしな」
「そこに暇をしている人たちがいますよ」
「あぁ……、確かに」
暇人扱いされている人たちは叱責を受けている最中だから、自分たちのスケジュールが埋まっていくことに気づくことはないだろうけど、宿に宿泊できる理由を作ってあげたことに感謝して欲しい。
テオのように積極性が欠けているくせに、他人のことを馬鹿にするような態度を取り続けた場合、この宿に宿泊する権利がないと判断されるのだ。
テオも最初は俺の友達要員からスタートしたが、今は薪割りをしたりニアの面倒を見たりと、とても貴族とは思えないほど働いている。
代わりに空いた時間に、ブルーノさんから武術の手解きを受けたり、ルイーサさんに魔法の手解きを受けたりと、色々勉強しているらしい。
ルークには魔獣に好かれるためのコツを学んでいるらしいけど、ルークにはルイーサさん特製のおやつがあれば大丈夫と言われていた。
可哀想に。
見るからに料理が苦手なのにね。
「じゃあ明日、ニアの冒険者登録をしてから行きましょう」
「はやくねるっ」
「道具はどうする?」
「中庭の倉庫にある」
エルフと獣人という種族だからか、自然の中に行くということは心が躍るようなことらしい。
寡黙なブルーノさんも楽しそうにしていた。
明日の朝早くから行動することを決め、俺とルークはルイーサさんの元にもう一度行くことにした。
「どうですか?」
『飯、食わないのか?』
光属性魔法の《照明》で室内を照らして何か読んでいるルイーサさんに声をかける。
集中しているところに声をかけるのは申し訳ないと思うけど。
「──ディル。ルークも」
地獄耳を持つほど感知能力が高いのに、特に気配を消したわけでもない俺に気づかないほど集中していたみたいだ。
しかもどこか困っている様子が窺える。
「……あのね、魔力の回復が遅いみたいでね、この子の契約精霊が契約を切って負担を減らそうとしてるみたいなの。でもそれは絶対嫌だって前から言っていたから、何かできないかと思って」
「──あっ! もしかして欠損を再生したから、魔力を吸収する器官が鍛錬前に戻ってしまったのかもしれないです」
「えっ?」
「たぶん……大人の女性だと思うのですが、精霊と契約できるほどの魔力量を保有していて容量も大きかったんだと思いますが、吸収器官が弱体化したせいで魔力の使用量に供給量が追いつかず、循環に回す量が足りていないんだと思います」
つまり、精霊の契約破棄という提案は的を射ていたということだ。
「じゃあ契約破棄した方がいいってこと?」
「まぁ……。でも嫌なのでしょう? あとから患者に責めてられても後味が悪いので別の方法で回復しましょう」
「この子はそんなことをする子じゃないと思うけど……」
でもエルフにとって精霊は自分の身体の一部と考える人も多いと聞くし、それに俺も寝ている間に従魔契約をされたら、普段怒らなくても詰め寄るぐらいはするだろう。
「大丈夫ですよ。僕が普段使っている回復法なので。ただ、精霊が近くにいると影響を与える可能性があるので、送還するか遠ざけておいてください」
「食堂くらいでいい?」
「はい」
『オレは?』
「少し離れておいた方がいいかも」
『わかった』
──【神字:理体】
──〈魔力掌握〉
──【念動】
人質捜索のときと同様に周囲の魔素を【念動】を使って無理矢理集め、魔素濃度を上げていく。
酸素カプセルのように、患者の周囲を濃い魔力で包む。
大気中の魔素を使った魔力は誰にとっても純粋な魔力になるから吸収されやすく、万人に必ず適合する。
俺の場合は、魔力操作で丹田の位置にある魔力吸収体から吸収し、心臓を通して全身に循環させる方法を取るが、患者は器官自体が弱体していることもあり、健常者のように一晩で回復とはいかないだろう。
──【神字:処理】
──《無属性魔法:探知》
──〈生命感知〉
だから、俺が代わりに【念動】を使って魔力を循環させる。
例えるならば、酸素吸入器のようなものだ。
せっかく治した魔脈を傷つけないように慎重に魔力を通し、体全体に循環させていき魔力を蓄積させる。
同時に精霊への魔力供給も患者からではなく、俺の【念動】を使って供給することで、精霊契約を維持したまま患者の魔力使用量を抑制した。
なんか昔に見たテレビの「電◯イライラ棒」を思い出すな。
枠に当てたらチャレンジ終了というところが似ていて、集中力をかなり使う。
早く起きてくれないかな……。
自分で魔力を吸収して欲しい。
「──んっ……」
おっ。神に通じたのか、魔力循環に対する反応が出てきた。
手応えから魔脈も広がってきたことが窺え、少しだけ魔力の供給量を増やす。
「んーーーーっ」
「ディ、ディル……? 大丈夫かしら?」
「あと少しです」
頭を起こして逆ブリッジのようになりそうだったけど、さすがにそこまでされるとルイーサさんの目には異常事態に映ってしまうだろう。
ゆえに、人間の神秘を使って疑いを払拭しようと思う。
それは【念動】による四肢拘束とデコ押しだ。
これで起き上がることはできまい。
「──ふぅ。終わりました。魔脈もある程度回復したと思いますよ」
「ありがとうっ」
「気にしないでください。食事を摂ることと、明日の早朝に湖に行くことを伝えに来ただけですから」
『ご飯、食べろよ』
「えぇ。ありがとう」
「では、おやすみなさい」
『おやすみ』
「おやすみなさい」
その後、食堂でイムレを回収して寝室へ向かうのだった。
目が覚めたときに余人がいると良くないだろうと思ったのもあるが、単純に空腹で死にそうになっているということが最大の理由である。
技能で耐えることはできるが、我慢する必要がないときまで技能を使う必要はない。
「士長っ! どうでしたっ!?」
相変わらず失礼なやつだな。
回復が得意な女性のことが好きなのか?
だから、無能のように見えることが許せないのか?
「治ったに決まってるだろ」
「「──えっ!?」」
「ブルーノさん、ご飯ください」
「ナァァンッ」
「助かった」
「いえ。僕たちも餓死せずに助かってますから」
「ンナッ」
本来の鳴き方じゃないから、レパートリーが少ないな。
猫の子分は少なかったからね。
「ウサちゃんも少なくなって来ましたね」
「ンナッ」
「湖行くときに肉も獲りに行く?」
「ンナッ」
ナディアさんの部下が来たってことは数日中には王都に向かうことになるだろうから、怪鳥料理は送別会用に取っておくことでルークと話がついている。
「ん? 湖に行くのか?」
「いくぅっ」
「師匠、たくさん魚獲ってきます」
俺とルークが食堂内に入ったときには食べ終わっていたニアとテオが、湖の話をしていることを聞きつけて自分たちも行くことを主張する。
もちろん、晩酌を楽しんでいるエイダンさんも同行する。
エイダンさんの場合は、魔石の方が気になっているらしい。
「俺も気になるな。……だが、患者もいるしな」
「そこに暇をしている人たちがいますよ」
「あぁ……、確かに」
暇人扱いされている人たちは叱責を受けている最中だから、自分たちのスケジュールが埋まっていくことに気づくことはないだろうけど、宿に宿泊できる理由を作ってあげたことに感謝して欲しい。
テオのように積極性が欠けているくせに、他人のことを馬鹿にするような態度を取り続けた場合、この宿に宿泊する権利がないと判断されるのだ。
テオも最初は俺の友達要員からスタートしたが、今は薪割りをしたりニアの面倒を見たりと、とても貴族とは思えないほど働いている。
代わりに空いた時間に、ブルーノさんから武術の手解きを受けたり、ルイーサさんに魔法の手解きを受けたりと、色々勉強しているらしい。
ルークには魔獣に好かれるためのコツを学んでいるらしいけど、ルークにはルイーサさん特製のおやつがあれば大丈夫と言われていた。
可哀想に。
見るからに料理が苦手なのにね。
「じゃあ明日、ニアの冒険者登録をしてから行きましょう」
「はやくねるっ」
「道具はどうする?」
「中庭の倉庫にある」
エルフと獣人という種族だからか、自然の中に行くということは心が躍るようなことらしい。
寡黙なブルーノさんも楽しそうにしていた。
明日の朝早くから行動することを決め、俺とルークはルイーサさんの元にもう一度行くことにした。
「どうですか?」
『飯、食わないのか?』
光属性魔法の《照明》で室内を照らして何か読んでいるルイーサさんに声をかける。
集中しているところに声をかけるのは申し訳ないと思うけど。
「──ディル。ルークも」
地獄耳を持つほど感知能力が高いのに、特に気配を消したわけでもない俺に気づかないほど集中していたみたいだ。
しかもどこか困っている様子が窺える。
「……あのね、魔力の回復が遅いみたいでね、この子の契約精霊が契約を切って負担を減らそうとしてるみたいなの。でもそれは絶対嫌だって前から言っていたから、何かできないかと思って」
「──あっ! もしかして欠損を再生したから、魔力を吸収する器官が鍛錬前に戻ってしまったのかもしれないです」
「えっ?」
「たぶん……大人の女性だと思うのですが、精霊と契約できるほどの魔力量を保有していて容量も大きかったんだと思いますが、吸収器官が弱体化したせいで魔力の使用量に供給量が追いつかず、循環に回す量が足りていないんだと思います」
つまり、精霊の契約破棄という提案は的を射ていたということだ。
「じゃあ契約破棄した方がいいってこと?」
「まぁ……。でも嫌なのでしょう? あとから患者に責めてられても後味が悪いので別の方法で回復しましょう」
「この子はそんなことをする子じゃないと思うけど……」
でもエルフにとって精霊は自分の身体の一部と考える人も多いと聞くし、それに俺も寝ている間に従魔契約をされたら、普段怒らなくても詰め寄るぐらいはするだろう。
「大丈夫ですよ。僕が普段使っている回復法なので。ただ、精霊が近くにいると影響を与える可能性があるので、送還するか遠ざけておいてください」
「食堂くらいでいい?」
「はい」
『オレは?』
「少し離れておいた方がいいかも」
『わかった』
──【神字:理体】
──〈魔力掌握〉
──【念動】
人質捜索のときと同様に周囲の魔素を【念動】を使って無理矢理集め、魔素濃度を上げていく。
酸素カプセルのように、患者の周囲を濃い魔力で包む。
大気中の魔素を使った魔力は誰にとっても純粋な魔力になるから吸収されやすく、万人に必ず適合する。
俺の場合は、魔力操作で丹田の位置にある魔力吸収体から吸収し、心臓を通して全身に循環させる方法を取るが、患者は器官自体が弱体していることもあり、健常者のように一晩で回復とはいかないだろう。
──【神字:処理】
──《無属性魔法:探知》
──〈生命感知〉
だから、俺が代わりに【念動】を使って魔力を循環させる。
例えるならば、酸素吸入器のようなものだ。
せっかく治した魔脈を傷つけないように慎重に魔力を通し、体全体に循環させていき魔力を蓄積させる。
同時に精霊への魔力供給も患者からではなく、俺の【念動】を使って供給することで、精霊契約を維持したまま患者の魔力使用量を抑制した。
なんか昔に見たテレビの「電◯イライラ棒」を思い出すな。
枠に当てたらチャレンジ終了というところが似ていて、集中力をかなり使う。
早く起きてくれないかな……。
自分で魔力を吸収して欲しい。
「──んっ……」
おっ。神に通じたのか、魔力循環に対する反応が出てきた。
手応えから魔脈も広がってきたことが窺え、少しだけ魔力の供給量を増やす。
「んーーーーっ」
「ディ、ディル……? 大丈夫かしら?」
「あと少しです」
頭を起こして逆ブリッジのようになりそうだったけど、さすがにそこまでされるとルイーサさんの目には異常事態に映ってしまうだろう。
ゆえに、人間の神秘を使って疑いを払拭しようと思う。
それは【念動】による四肢拘束とデコ押しだ。
これで起き上がることはできまい。
「──ふぅ。終わりました。魔脈もある程度回復したと思いますよ」
「ありがとうっ」
「気にしないでください。食事を摂ることと、明日の早朝に湖に行くことを伝えに来ただけですから」
『ご飯、食べろよ』
「えぇ。ありがとう」
「では、おやすみなさい」
『おやすみ』
「おやすみなさい」
その後、食堂でイムレを回収して寝室へ向かうのだった。
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