暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一

文字の大きさ
上 下
54 / 97
第二章 冒険、始めます

第四五話 従魔の嗜好品

しおりを挟む
「テレーズ、非常に残念だが……お前との婚約はなかったことにして欲しい」

「そんな……アルフ様。突然、婚約破棄だなんて……!」


 侯爵令息であるアルフ・デモンは私の婚約者だ。伯爵家である我がリジェント家とは仲が良かったはずなのに。どうしていきなりこんなことに……。

「済まないな、テレーズ。婚約破棄は決定事項なんだ。分かって欲しい……」


 アルフは申し訳なさそうにしているけれど、その意志は固いようだった。

「そ、そんな……う、うぐ……」

「テレーズ……済まない」


 私は涙をこぼしてしまった。アルフはそんな私を見て寄り添う決断をしたのか、一瞬、前に踏み出したけれど、それ以上は進まなかった。どうして寄り添ってくれないんだろう……私はこんなに悲しんでいるのに。


「理由は……理由はなんなのですか!?」

「それは……」


 アルフは少し考え込んでいた。どうしてここで考える必要があるんだろうか? 婚約破棄が決定しているなら、理由なんてすぐに出て来ないとおかしいのに……。

「お前との身分が違うからだよ。私は侯爵令息でお前は伯爵令嬢でしかない。身分が低い者とは……結婚する意味がないと踏んだからだ」

「そ、そんな……そんな理由で……!」


 今さらそんなことを言われても困るのは確かだった。身分が違う結婚になることは、婚約の前から分かっているんだから。それならば、その時に言ってくれた方が良かった。私はこうしてアルフと共に過ごして行くことを考えていたのに。

 その為の花嫁修業だって行っていた。決して楽な修行ではない。時にはくじけそうになったところを、彼の隣に立てる嬉しさで賄っていたことだってあるのに。私は権力なんてどうでも良かった。ただ、アルフと一緒になりたいと昔から考えていたのだ。

 それが現実になった時は……本当に嬉しかった。なのに……!


「お父様やお母様たちにも迷惑を掛けることになります……慰謝料は支払ってくださいね。アルフ様……」

「婚約破棄は認めてくれるということか?」

「認めたくはありませんが……仕方ありません。アルフ様がそう言うのでしたら」

「そうか、済まないな。しかし、残念ながら慰謝料も支払うわけにはいかないんだ。済まないがこれも分かってくれ」

「えっ!?」

 あまりのことに私は思わず立ち上がってしまう。慰謝料すら支払えないってどういうこと!?」

「婚約破棄と慰謝料の未払いを許してほしい。テレーズ……一生、私を恨んでくれても構わない。本当に済まない」

「アルフ様……これは一体……」

「……」


 アルフ様がそれ以上語ることはなかった。私はその日の内に屋敷から追い出されてしまった。でもあり得ない……あの方が……アルフ様がこんな理不尽な婚約破棄をするなんて。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~

暇人太一
ファンタジー
 仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。  ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。  結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。  そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?  この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

破滅する悪役五人兄弟の末っ子に転生した俺、無能と見下されるがゲームの知識で最強となり、悪役一家と幸せエンディングを目指します。

大田明
ファンタジー
『サークラルファンタズム』というゲームの、ダンカン・エルグレイヴというキャラクターに転生した主人公。 ダンカンは悪役で性格が悪く、さらに無能という人気が無いキャラクター。 主人公はそんなダンカンに転生するも、家族愛に溢れる兄弟たちのことが大好きであった。 マグヌス、アングス、ニール、イナ。破滅する運命にある兄弟たち。 しかし主人公はゲームの知識があるため、そんな彼らを救うことができると確信していた。 主人公は兄弟たちにゲーム中に辿り着けなかった最高の幸せを与えるため、奮闘することを決意する。 これは無能と呼ばれた悪役が最強となり、兄弟を幸せに導く物語だ。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

生活魔法しか使えない少年、浄化(クリーン)を極めて無双します(仮)(習作3)

田中寿郎
ファンタジー
壁しか見えない街(城郭都市)の中は嫌いだ。孤児院でイジメに遭い、無実の罪を着せられた幼い少年は、街を抜け出し、一人森の中で生きる事を選んだ。武器は生活魔法の浄化(クリーン)と乾燥(ドライ)。浄化と乾燥だけでも極めれば結構役に立ちますよ? コメントはたまに気まぐれに返す事がありますが、全レスは致しません。悪しからずご了承願います。 (あと、敬語が使えない呪いに掛かっているので言葉遣いに粗いところがあってもご容赦をw) 台本風(セリフの前に名前が入る)です、これに関しては助言は無用です、そういうスタイルだと思ってあきらめてください。 読みにくい、面白くないという方は、フォローを外してそっ閉じをお願いします。 (カクヨムにも投稿しております)

女神のお気に入り少女、異世界で奮闘する。(仮)

土岡太郎
ファンタジー
 自分の先祖の立派な生き方に憧れていた高校生の少女が、ある日子供助けて死んでしまう。 死んだ先で出会った別の世界の女神はなぜか彼女を気に入っていて、自分の世界で立派な女性として活躍ができるようにしてくれるという。ただし、女神は努力してこそ認められるという考え方なので最初から無双できるほどの能力を与えてくれなかった。少女は憧れの先祖のような立派な人になれるように異世界で愉快で頼れる仲間達と頑張る物語。 でも女神のお気に入りなので無双します。 *10/17  第一話から修正と改訂を初めています。よければ、読み直してみてください。 *R-15としていますが、読む人によってはそう感じるかもしないと思いそうしています。  あと少しパロディもあります。  小説家になろう様、カクヨム様、ノベルアップ+様でも投稿しています。 YouTubeで、ゆっくりを使った音読を始めました。 良ければ、視聴してみてください。 【ゆっくり音読自作小説】女神のお気に入り少女、異世界で奮闘する。(仮) https://youtu.be/cWCv2HSzbgU それに伴って、プロローグから修正をはじめました。 ツイッター始めました。 https://twitter.com/tero_oo

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

処理中です...